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■夏の日の想い出・アルバムの続き(25)

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小林と洋介が想像した“最も危険な時刻” 1/22 0:00 まであと30分ちょっと。
 
店長がこんなことを訊いた。
「そういえば“ロマノフの小枝”のほうのいわれを調べてたら、ロシア革命の時にアナスタシア皇女と思わしき人からドイツ語の書き付けと一緒にもらったものということだったんですね」
 
「そうなんですよ。あの手紙が無かったら父が革命のどさくさで盗んだんじゃないかと疑われるところでした」
 
「その時ふと思ったんですがロシアのお姫様なのにドイツ語ができたんですね。やはり日本人が英語を学ぶように、ロシアの人たちはドイツ語を勉強していたんですかね」
 
「いやそういう位置付けで学ぶのはむしろフランス語でしょうね」
「あ、そうなんですか!」
「むしろアナスタシアはお母さんのドイツ人侍従たちと話すのに自然とドイツ語を覚えたのだと思います。ドイツ文字を使っていたのはお母さんの手紙の代筆とかしていたのかも」
 
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「お母さんはドイツ人ですか?」
「むしろイギリス人なんですけどね」
と洋介は言う。
「イギリス?」
 
「お母さんはヴィクトリア女王の孫娘なんですよ。だからアナスタシアはヴィクトリア女王の曾孫(ひまご)で、イギリス王位の継承権も持っていました」
「へ〜〜〜!」
 
「ヴィクトリア女王の第2王女にアリスという人が居まして、この人がドイツのヘッセン大公・ルードヴィヒ4世と結婚したんです」
「ほほお」
 
「その第4公女のアリックス(1872-1918) がロシアのニコライ2世と結婚しました。この人がユーリー・ミハイロヴィッチの絵『小枝(Веточка)』に描かれた人ですね。このフルートはこの絵の中で彼女が手にしていたので『ロマノフの小枝(веточка Романова)』と呼ばれるようになったのですが」
 
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「なるほど」
「アリックスは、お母さんのアリスが若死にしたため、12歳の時までイギリスで暮らしていて、お祖母さんのヴィクトリア女王に育てられたんですよ」
「そうだったんですか!」
 

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「だから本人はドイツ人というよりイギリス人という意識があったと思います。プロテスタントだったし」
「イギリスだとそうでしょうね」
 
(実際にはアリックスはイギリス国教会の信徒ではなくルター派の信者。正教への改宗にはかなり心理的な抵抗があったらしい)
 
「一応ニコライ2世と結婚するときに形の上ではロシア正教に改宗しましたけどね」
「ああ」
「でもそれが怪僧ラスプーチンにハマっていった原因のひとつかもね」
「ありそう」
 
「イギリス人の彼女に複雑なドイツ文字(いわゆる“亀の子文字”)(*72) を書くのは大変だったろうしドイツ語の手紙はほとんどアナスタシアが代筆してたりして」
「あり得ますね!」
 

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(*72) ドイツ語は以前はドイツ文字(Fraktur, 俗称:亀の子文字)と呼ばれる複雑で画数の多い文字で綴られていた。
 

(wikipediaから引用)
 
これを通常のアルファベットに変えてしまったのはヒットラーである。いわゆるヒットラーの三大遺産のひとつ。
 
・文字改革
・アウトバーン
・フォルクスワーゲン
 
アウトバーンはそこに家があろうと畑があろうと「総統のご命令である」といって構わず突っ切り、ひたすらまっすぐの道路を作った。こんなのは確かに独裁者にしかできない。しかしそれが戦後ドイツの経済発展を支えた。
 

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洋介氏が“ロマノフの小枝”“火の鳥”にまつわるエピソードや小話をいろいろ話してくれるうちに時間は過ぎていく。
 
23:50
 
23:55
23:56
23:57
 
と時計は進む。
 
23:58 ふたりの警備員が顔を見合わせて立ち上がった。ダイレクトに2本のフルートを見る格好になる。
 
不寝番をしている5人も畳の上から立ち上がり靴を履いてフルートケースの前に集まる。7人の人間がケースを囲む形になった。
 
23:59
 
みんなが壁に掛かる時計の秒針が進むのを感じ取っている。
 
0:00
 
2本のフルートは7人が見守る中、展示ケース内で幻のようにすっと姿を消した。
 

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「え〜〜〜!?」
と声をあげたのは、細川洋介・洋造、店長、の3人だった。
 
警備員2人は声はあげなかったものの驚いた表情で周囲を見回している。
 
そして小林と明智は声をあげなかった。それで明智は小林を見た。小林は明智をチラっと見たが、気にしないかのようにフルートケースのほうに視線を戻す。
 
「明智先生、フルートが盗まれました」
と洋介氏が声をあげる。
 
「そのようですね」
と明智は言った。
 
「明智先生、先生はどうしてそんなに冷静で居られるんです?怪人二十面相がフルートを盗んだんですよ」
と洋介氏(東堂千一夜)は言っている。
 
明智は言った。
 
「ぼくはむしろ小林君がどうしてそんなに冷静なのか疑問を感じているのだが」
と明智(本騨真樹)は小林にボールを回した。
 
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「その理由は“明智さん”には分かってるでしょ?」
と小林(アクア)はボールをそのまま明智に返した。
 
ここで小林の言い方は変である。普通、小林は明智のことは「先生」とか「明智先生」などと言う。『明智さん』などという言い方は全く小林らしくない。
 

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「明智先生、小林さん、フルートを取り返してくださいよ、二十面相を捕まえてくださいよ」
と洋介氏が訴える。洋造氏のほうはどうも“わけの分からないこと”が起きているようだぞと思い、腕を組んでいる。兄弟でも芸術家と実業家の差だろう。
 
店長は困惑している。
 
明智は言った。
「二十面相の所在は知りませんが、ぼくはフルートを確保しているよ」
 
「ほんとうですか!」
と洋介氏は嬉しそう。
 
小林は言った。
「フルートの行方は知りませんが、二十面相は確保していますよ」
 
「ほんとうですか!」
と洋介氏は嬉しそう。
「さすが名探偵明智小五郎とその1番弟子の小林さんのコンビだ。それでフルートはどこですか?二十面相はどこに?」
 
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洋介氏は明智と小林の意味深な禅問答は全く理解していない。
 

小林が店長に尋ねた。
 
「高石さん、ライブが終わってからですね。18時に展示会を再開するまでの間にどんな小さなことでもいいですから、何かこの展示会会場付近で起きたことはありませんか」
 
店長は考えながら言った。
「えっと・・・ヘリウムガスで膨らませて浮かばせる風船を1階で配っていたのを子供がそのまま7階に持ち込んで、うっかり手を離してしまいまして、天井まで飛んで行ったのを少年探偵団の方が飛び付いて確保してくださいました。子供が喜んでいました」
 
少年探偵団の男子!制服を着た溝口団員(松田理史)が風船に飛び付いて取り子供に渡してあげるシーンが一瞬流れる。
 
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(理史も初期の頃は何度か女装させられたがここ3年ほどは女装は勘弁してもらっている。鈴本などには「まだ充分女の子で通るのに」と言われるが)
 
「それから7階女子トイレのひとつを外国のお客様が詰まらせてしまいまして、業者を呼んですぐ修理してもらいました」
 
「あと退出口の所の金属探知機が故障して、これも業者を呼んですぐに直してもらいました」
 

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「それから・・。」
と言って店長は考えたが突然青くなる。
 
「どうしました?」
「いえ、実はフルートの展示ケースのケース内照明が故障したんですよ。それで業者を呼んで修理させましたが・・・・何かまずかったですかね」
 
小林は言った。
「朝になったらその業者さんに問い合わせてみてください。きっと修理依頼はキャンセルされてますよ」
 
「え〜〜!?」
 
「どう思う?明智さん」
と小林は明智に投げる。
 
「きっとその時やられたんだろうね」
と明智もいう。
 
「ひぇー、どうしよう」
と店長は焦っている。
 

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明智は言った。
「きっとこういうことが起きたんだよ。業者を名乗る男がやってくる。業者は展示ケースをチェックしてこう言う。『これは照明ユニットが壊れてますね。ユニット交換したほうがいいですよ』と。店長はあと1日だし修理で何とかならないかと言ったが業者は『最近の機械は何でも一体化されてて部分的な修理というのができないんですよ。スマホの“修理”だってメーカーに依頼すると新品を送り返してくるだけです』と」
 
「そうです、そうです。そんな感じのことを言われました」
と店長。
 
明智は続ける。
「それで店長がユニット交換に同意したので、業者は電話で同僚を呼んだ。同僚が黒い照明ボックスを持ってやってくる。最初に来た人と2人で展示ケースの照明ユニットを交換する。古い照明ユニットは業者が持ち帰る。修理代は5000円で業者は請求書を置いていった」
 
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「そうです!5000円で税込5500円でした!」
と店長。
 
小林が呆れて言った。
「まるで見ていたみたいだね」
 
明智は答えた。
「まあ見ていたからね」
 
洋造氏は腕を組んでいる。洋造氏には“明智”の正体が分かったのである。洋介と店長はまだ気付いていないようだ。
 
洋造はさっと周囲の人数を確認する。自分と小林の2人で“明智”を捕まえられるか?と考えたが、すぐ警備員がいることに気付く。
 
それにしても“明智”は余裕だ。まさか警備員がすり代わっていたりしないか?
 
(↑凄く勘が良い)
 

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明智は説明した。
「元々このフルート展示ケースには仕掛けがしてあったんですよ。外側に展示しているものと、裏側の隠しスペースに用意されたものを一瞬で入れ換えることができる」
 
「なんと」
と店長さんが声をあげる。
 
「だから二十面相はライブ後の混乱に乗じてこの作動スイッチを押し、本物のロマノフの小枝・火の鳥と、精巧に作った偽物を入れ換えてしまった。そして照明ユニットの交換と称してその隠しエリアの方は持ち出してしまった」
 
「では本当はあの時に盗まれてしまったのか」
 
「二十面相は何も有名人に化けるとは限りません。掃除のおばちゃんにも、一般店員にも、お客にでも化けますよ」
 
「ああ、推理小説だと最初に出て来た掃除のおばちゃんが犯人だったなんてのは酷いというルールがありますね」
 
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「モーリス・ルブランの『813』なんかがそんな感じです。最初に出て来た関係者がことごとく殺されてしまう。誰も犯人になり得る人がいなくなったら、最初のエピソードでは背景的に描かれていた名も無き人物が犯人だったということになって『これは酷い』ということになる」
と明智。
 
「あれルブランはきっと締め切りに追われてよく考えないまま書き始めて、関係者をうっかり全員殺してしまったんだよ」
と小林。
 
「まあ推理小説だとそんなルールがあるけど、現実の事件はほとんどが、最初の事件では背景的に見えていた人物が犯人なんだよ。それが小説と現実の違いだね」
と明智。
 
「でも『813』で一番許せないのは部下のグーレルを死なせてしまった件だよ。ルパンともあろうものが能力無さ過ぎ」
と明智は言う。
 
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「ああ、明智さんとしてはそこが一番憤慨するところかもね」
と小林は言う。
 

「でも盗まれてしまったフルートを明智先生は確保して下さったんですか」
と洋介氏が言う。
 
「ええ、ある場所に確保しています。ところで小林君は二十面相をいつ確保したんだい?」
と明智は小林に訊いた。
 
「今現実にここに確保してますよ」
「ここに?じゃ君はその二十面相に手錠でも掛けたり、縄で縛ったりしたわけではないのかい?」
「二十面相に手錠も縄も無意味なのは知ってる癖に」
「ほほお。では君はどうやって二十面相を確保したんだい?」
「みんなの目で見ていること。それが唯一の二十面相確保方法です」
「ほほお。では君は何人かの目で二十面相を見ているんだ?」
「ええ。そうですよ」
 
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明智は話題を変えた。
 

「業者を装った二十面相が“照明ユニット”を持ち去った後はどうなったか分かるかい?小林君」
と明智は小林に尋ねる。小林は答える。
 
「多分その新しい“照明ユニット”を持ち出したあと、今日の0時になると同時に、再度表のフルートと裏の収納場所とを交換したんでしょうね。だからそれまで展示されていた偽物は裏側の隠しスペースに行った。裏側の隠しズースには今度は何もセットされていなかったから、フルートが消失したように見えた」
 
「惜しいね。実際は新しいユニットの隠しスペースと表の偽物とは展示時間が終わったあと、入れ換えたんだよ。新しいユニットにはホログラムがセットされていたので、あたかもそこにフルートがあるように見えた。二十面相は0時にそのホログラフィーのスイッチを切った。入れ換えの仕組みを作動させると、どうしても音がする。ホログラフィーのスイッチを切るだけなら、ほとんど音がしないからね」
と明智は言う。
 
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「でもどっちみち二十面相は0時の時点で展示ケースの近くに居る必要があった。スイッチを押すために」
と小林。
 
「そうかい?スイッチなんてタイマーでも作動させられるのに」
「自己顕示欲の強い二十面相がフルートが消失してみんなが騒ぐところを見ないなんてのはあり得ないからね。スイッチは近くで自分で押したはず」
「ほほお。だったら二十面相は今この場にいることになるよ」
「今この場にいるよ」
 
それで洋介氏も店長もキョロキョロとあたりを見回す。
 

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