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■夏の日の想い出・アルバムの続き(19)

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紙にはこのような言葉が綴られていた。北里ナナが難しい顔をして腕を組んだ。
 
「素晴らしい演奏を拝聴した。火の鳥はロマノフの小枝以上の名品だ。こんな素晴らしいフルートを銀行の貸金庫にずっと入れておくのは可哀想である。よって小生が保護して、毎日眺めて鑑賞したいと思う。火の鳥をこの展示会の最終日までに頂きに行く。怪人二十面相」
 

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(*55) 西洋茜の色素であるアリザリンは古くはとても高価なものであった。カール大帝はこの茜の栽培で経済的な基盤を得たと言われる。しかし1868年にドイツのBASF (Badische Anilin - u. Soda-Fabrik) 社が天然色素と完全に同じ組成のものを合成することに成功。茜の市場価格は1日にして暴落した。これで昆虫記で有名なファーブルは大損失をしたらしい。
 

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(*56) 現代のフルートはドイツのテオバルト・ベーム (Theobald Boehm, 1794-1881) によって確立された。が彼の楽器はリヒャルト・ワーグナー(*57) が嫌ったためドイツでは受け入れられず、フランスで広く使われた。
 
ここでこの楽器をフランスのクレール・ゴッドフロア (Clair Godfroy 1774-1841) と義理の息子のルイ・ロー (Louis Esprit Lot 1807-1897) の2代が改良して、カバードキィをリングキィに変更。より高度の表現ができるようにした。また新しい運指法も開発した。また彼らはフルートの素材により適した合金の開発にも取り組んだ。
 
カバードキィ:演奏穴をカバーで覆うので指の小さい人でも確実に穴を塞げる。
 
リングキィ:演奏穴にはリングが填められており。そこを指で覆うので、押さえ加減による細かい表現や微妙なピッチ変更もできる。
 
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1860年にはパリ音楽院のフルート担当教授が交代し、この新しいフルートを公式の楽器として受け入れてくれた。(ドイツでは20世紀になるまで受け入れられなかった)
 
ルイ・ローは後に独自の工房を設立し(ゴッドフロアの工房はゴッドフロアの実の息子が継いだ)、パリ音楽院の毎年のコンクール優勝者にルイ・ローのフルートが贈られた。彼の楽器は更に改良を加え、1867年のパリ万国博覧会で、より厚い壁、大きな演奏穴、四角いマウスピース、G#キィを備えた新しいモデルのフルートを発表。このフルートを“フレンチスタイル”と言い、それ以降のフルートの多くがこの系統に属する。
 
ルイ・ローは生涯に870本の金属製フルートを制作したが、その中に1本だけ金製のフルートがあり、これをフルート奏者として有名なジャン・ピエール・ランパル(1922-2000)が所有していた。
 
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なお Claude de Lation というのはこの物語での架空の作者。
 
(ベームが木材に代わって金属を材料に採用したのは“穴を大きく出来る”からである。木製フルートは演奏穴を大きくすると割れてしまうという問題があった。ルイ・ローが多数の注文を受けすぎて処理しきれなくなった時、ベームは材料を彼に送ってあげたりして支援している)
 

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(*57) ワーグナー(ワグネル)は音楽家というより今回のロシアの侵略行為で危険思想家として有名になった。ヒットラーもワーグナー思想に心酔していた。
 

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(*58) セシルと北里ナナが吹くのは当然として3人目のフルート奏者について最初春くらいの段階でテレビ局側から
 
「そちらに信濃町ガールズでフルートの吹ける子がたくさんいますよね。セシルと同年代くらいの子を誰か出してください。女の子に見える子なら本人の医学的性別は問いません」
という話があったので、コスモスは適当に
「じゃ安原祥子を。一応天然女子です」
と言って彼女にこの役を頼んでおいた。安原も
「頑張ります」
と言って、総銀製のフルートを自分で買い(それまでは“管体銀”のフルートを使っていた)、結構熱を入れて練習していたようである。
 

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ところが企画が具体化した夏頃の段階で小池プロデューサーからコスモスに連絡があった。
 
「セシルちゃんのロマノフの小枝が白いプラチナ、アクアちゃんの火の鳥が赤塗装のゴールドフルートでしょ。だから、その音に負けないようにするには3本目のフルートもゴールドフルートにしたいんです」
「なるほどですね」
 
「最初はこちらは青塗装にして赤・白・青の三色旗にするつもりだったんですが、ロシアがウクライナに侵略したからロシアの国旗は絶対成立させるなと言われまして“ロマノフの小枝”はもう放送で流しているものだから今更変えられませんけど、こちらは普通の金色のゴールドフルートを考えています。安原さん、ゴールドフルート吹けますかね?」
 
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コスモスは即答した。
「ああ、あの子はゴールドも平気です」
 
「良かった。それじゃそれでお願いします。ゴールドフルートは普通のでいいのですが、そちらでお持ちじゃないですよね。賃料はお支払いしますからお持ちならお借りできないかと思いまして。ゴールドフルートは買おうとすると時間が掛かる可能性がありますし」
 
「いえ、普段彼女が吹いているのを使わせますよ。賃料とかいりません」
「ああ、所持しておられるんですね。だったら安心です」
 
電話を終えてからコスモスは安原祥子を事務所に呼び出して言った。
 
「あんた少年探偵団ではゴールドフルートを吹いて」
「え〜〜〜〜!?」
 

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安原がゴールドフルートは吹いたことないけど、頑張るから練習用に本物のゴールドフルートを買って下さい、と言うのでコスモスは千里を呼び出し彼女にゴールドフルートを見立ててやってと頼んだ。
 
千里に頼んだのは、普通のルートで入手しようとするとゴールドフルートはそんなに数の出る品ではないので時間が掛かる可能性があるが、彼女ならすぐ入手できるルートを持ってそうな気がしたからである。この際、インド製とかブラジル製とかでもいいし。
 
すると千里は
「ゴールドフルートが1本必要になる気がして、去年のうちに頼んでおいた」
と言って、三響製のゴールドフルートのケースをカバンから出すとポンと渡した。
「いくらした?」
「1276万円(*59)」
「じゃ手数料込みで1400万円払うよ。振り込みでもいい?」
「いいよー」
 
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ということで
「はい」
と安原祥子は24金のゴールドフルートを手渡されたのである!
 
(物事に動じない安原も、さすがにこのやり取りには呆気に取られていた)
 
千里は
「そのフルートで音が出るようになったら吹き方の指導をしてあげる」
と言っていたが、安原はこのフルートで音が出るまで1ヶ月かかった!
 
(*59) 1276万円は2021年時点の価格。2023年時点では円安のため1628万円に改訂されている。
 

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「1ヶ月で出るようになるとは優秀優秀」
と千里は褒めてくれた。でもそれから2週間、毎日指導してくれた。
 
「千里さん、その全身金色の服、すごいですね」
「そう?ゴールドフルートの指導にはこれがいいかなと思って。君にも1枚あげよう」
「わっ」
「これ洗濯機も大丈夫だけど乾燥機はやばいかも」
「わかりました」
 
ということで、金色のチュニックとスカートを1枚もらったので、安原も教えてもらう間それを着ていた。
 
この2週間の後も週に1回指導してくれたので、11月頃には
 
「凄く良くなった。もうフルートのプロを名乗ってもいい」
と言われるほどになった。
 

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(*60) 撮影で使用したゴールドフルート(23.6K)“金狐”は千里が私物を貸してくれたものである。練習のため2週間前からこのフルートを貸してもらった安原は「これ買って頂いた24Kフルートよりパワーがあります」と言っていた。
 
千里はこのフルートを14-15年前から使用していたらしい。24Kでなく23.6Kなのは、24Kは柔らかすぎて加工が難しいし、丁寧な扱いが必要だからと言っていた。
 
23.6Kのフルートは金相場が現在(2022)の半額くらいだった(=円高だった)14-15年前でも700-800万円は、したはずである。よく14-15年前の千里に買えたものである。
 

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この“金狐”は以前、フルートメーカーとして国内でも有名な宮澤フルート(*61)で働いていた技師さんが、独立して開いた小さな工房の製品らしい。
「それ山田フルート?」
「いや、そんな有名所じゃない」
 
北海道夕張の山田フルート・ピッコロ工房は“村松”フルートの技師さんが独立して開いた工房である。
 
千里のフルートを作ってくれた技師さんの工房はもう閉鎖されてしまったし、本人は自分の工房を開いてから50本ほどの金属フルートしか作らなかったが、千里が所有しているのはその中で恐らく唯一の金製だと言っていた。(貴重なものでは?)
 
管端に三尾狐のレリーフが入っている。
「その工房のマーク?」
「いや、私が頼んで入れてもらった。狐の絵は私が原画を描いた」
「へー」
 
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つまり完全なオーダーメイドだったようである。
 
「工房マークはこちら」
と言って見せてもらったが頭部管の裏に丸に十の字のマークが付いている。
「工房の主は太田さんなんだよ。その家の家紋だと言ってた」
「へー」
「丸に十の字というと鹿児島小原節にも歌われていて島津家の家紋として有名だけど、太田一族も丸に十らしい」
「なるほどねー」
「下に入っているOFHは“Ota Flute House”の略」
「ああ」
 

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セシルは本人も2年前から雨宮先生が貸与したプラチナフルートで練習している。アクアも“火の鳥”という企画が2年前に出て来た時、自分でアルタス(*61)の23金フルートを買って、ゴールドフルートの練習をしていた。アクアも最初金のフルートで音が出るまで1ヶ月かかったと言っていた。そして火の鳥は制作に1年半かかり、2022年秋にやっと完成した。
 
(そもそも管体に填め込むルビーをフラックス法で合成するのに半年、2021年の4-9月と掛かっている。それからその宝石を添えてメーカーに特製フルートを正式発注し、コンピュータによるシミュレーションを経て、2121.9-2022.9 と1年掛けて制作された。費用もアクアの番組でなければ出ない巨額のものである)
 
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その火の鳥ができてきてからアクアに吹かせたら
「このフルートのキィの位置少し変です」
と言っていた。
火の鳥は宝石を填め込んでちゃんと正しい音が出るように穴を開けるのに苦労したらしい。“穴の位置が変”というアクアの感覚が正しい。
 
管端に宝石が埋め込まれているロマノフの小枝はまだいいのだが、管体に宝石が並べられた火の鳥は、普通の位置に穴を空けると正しい音にならないのである。
 
今回の番組は小道具作りのため、2年の準備を掛けて制作に辿り着いたものである。
 
そして今回のドラマの内部で放送されることになる白金1本・金2本のライブはとてもゴージャスなものなのである!(この物語のラストで解説)
 

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なお2年前の番組の制作で使用した“ロマノフの小枝”は番組制作後レインボウ・フルート・バンズのフェイに買い取られていたが、今回は彼女(彼?)から借りて制作した。テレビ局は彼女にレンタル料を払おうとしたが「要らない、要らない」と言っていたので、ありがたく無料でレンタルした。ただ
 
「ルビーが取れちゃったぁ」
などと言っていたので番組制作中は、くっつけておいた。細かい傷は放置した。いかにも普段の練習・演奏に使用している感じが出る。
 
ルビーが外れていたことが社長に知れると絶対何か言われそうだから、鳥山編成局長はテレビ局に持ち込む前に修復し修復の手間賃も自分のポケットマネーから払って
「これ外れていたこと内緒ね。SNSにも書かないでよ」
と関係者には言っていた。
 
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やはり高価な小道具の破損が知れると責任問題になるからかなと部下たちは思ったようだが、社長が「オランダの国旗に改造できる」とか言い出しかねないからである!
 
返す時にフェイに
「取り外しておきます?くっつけたままにしておきます?」
と訊くと
 
「外しといて。また外れて彼のヴァギナに入り込むと大変だから」
などというので今の話は聞かなかったことにして!外してから返した!
 
しかしどうも凄い環境で普段使用されているようだ。
 
(おやつ食べてるテーブルの下に無造作に転がってるし、奈美ちゃんがおもちゃの太鼓を打つバチ代わりに使ってたりするし)
 
なお "Rainbow Flute Bands" でフェイが吹いているフルートは総銀のフルートをマゼンタに塗ったものであるが、2013年にデビューして以来既に3本(修理不能なまでに)壊して現在4代目。他のメンバーは2代目か、丁寧なアリスなどまだ初代の千里が買ってあげたフルートを使っているのにフェイは荒っぽすぎる。ロマノフの小枝も来年までには壊れてたりして。
 
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(*61) 筆者が独断と偏見で選ぶ国産フルートメーカー5社
 
アルタス(長野県安曇野)、三響フルート製作所(埼玉県狭山市)、宮澤フルート製造(長野県駒ケ根市)、村松フルート製作所(埼玉県所沢市)、ヤマハ(静岡県磐田市豊岡)。
 
この他に、打楽器メーカーとして有名なパール(千葉県八千代市)も管楽器部門を持っており、中高生の吹奏楽部ではヤマハと並ぶ人気メーカーになっている。
 
ヤマハ、パール、アルタス、三響のフルートは故障しにくいのも良い所である。
 
(村松は多分技術力ではトップだと思うが、とてもデリケートな作りなので、他社のフルートのつもりで扱うと簡単に壊れる!しかも修理がとても難しく村松の技術者にしか修理できない。また誰が吹いても“村松の音”にしかならない。それで支持者も多いが“アンチ村松”も多い)
 
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現在国内のフルートメーカーはたぶん20社くらいあるかと思われるが、普及品では中国や台湾の製品に押されていて経営の厳しい所も多いようである。台湾には良い品を出すメーカーもあり、そういうのを学校で一括で買っている所もある。
 
国産メーカーもコストダウンのため海外での生産も行っており、現在ヤマハのフルートで売り上げの殆どを占める廉価品“スタンダード”はインドネシアで生産されてから日本国内で調整されている(管楽器はこの作業が重要:きちんと調整されてない管楽器はガラクタに近い)。上級アマ向けの“プロフェッショナル”は国内の工場(豊岡)で製造、プロ向け高級品の“ハンドメイド”は国内の工房で制作されている。パールは低価格製品は台湾で作り台湾で調整までされている(それで最初の“国産”メーカーには数えなかった)。アルタスは一部の“部品”を海外で作っている。
 
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しかし高級品については日本は国際的な競争力を持っているし、上記5社の制作能力には大きな差は無い。どれが本当に良いかは奏者の好みや吹くポジション(ソロかトゥッティか)の違いの問題だと思う。
 
(先に少し書いたように中高生の吹奏楽ならヤマハやパールの普及品が良い。またソリストにはアルタスや三響が合うと思う(ヤマハも悪くない)。ジャズならアメリカっぽい音のする宮沢がいいかも:宮沢は国内より海外で人気がある)
 
日本で最初にフルートを造ったのは村松である。それに続いて日本管楽器(ニッカン)が作り始め、戦前はこの2社が国産フルートの2大メーカーであった。1970年に日本管楽器はヤマハ(オルガン制作から出発した会社:旧山葉風琴製造所(*62))に吸収された。
 
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(*62) 正確に言うと、山葉風琴製造所が出資者の都合でいったん解散した後、山葉寅楠と河合喜三郎が共同で再建した山葉楽器製造所が今日のヤマハのルーツ。ちなみに河合喜三郎は河合楽器とは無関係!
 
河合喜三郎は飾り職人で資金提供者でもあった。河合楽器はヤマハに勤務していた河合小市が独立して創設した会社である。河合小市は車大工の息子でヤマハ・ピアノのハンマー機構の完成者。
 

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夏の日の想い出・アルバムの続き(19)

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