広告:まりあ†ほりっく 第5巻 [DVD]
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■夏の日の想い出・アルバムの続き(18)

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今回の“細川家至宝展”には、雪月花の三姉妹(主として月子)が収集していたヨーロッパの名画、多数の仏像、元々細川家に伝わっていた多くの浮世絵、洋二氏の奧さんが収集していた貴金属などが展示され、中にはゴッホ・ルノワール・モネなどの作品もある。
 
そしてなんといっても目玉は2年前に怪人二十面相に奪われたものの明智探偵・小林少年のコンビが取り戻した“ロマノフの小枝”、そして一般の目には約10年ぶりに公開されることになる“火の鳥”というフルート、その2本のフルートである。
 
火のように燃えるかのような赤いフルートであるが、その管体に3個の大粒のルビーが埋め込まれているので“火の鳥”と呼ばれる。
 
このフルートの出所は洋介氏によるとこのようである。
 
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洋介氏の両親、洋一・貞子夫妻が海外旅行の制限が解除される少し前の頃(*53), アメリカの音楽学の大家に招待された。それで政府から特別許可を取り、渡米したことがあった。そして向こうの知人と交流していた時、ある富豪の家のパーティーに招かれた。招待されたお礼に洋一氏はストラディバリウスのヴァイオリン、振袖を着た貞子は“ロマノフの小枝”を使って2人で
ガーシュウィンの『Concerto in F』を演奏した。
 
するとその富豪は
「君たちうまいね。これやる」
と言ってそのフルートをくれたのだという。
「君のその白いフルートとセットで大事にしなさい」
と言われた。
 

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(*53) 戦後、一般人の海外旅行が自由になったのは1964年4月1日である。だからこのできごとは1962-1963年頃と推定される。
 

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貞子さんは“重み”で金かプラチナのフルートと思ったが、真っ赤なのは何だろうと思った。そのフルートに大きなルビーが3つ埋め込まれている。そして"L'Oiseau de feu" (火の鳥)という銘と共に作者名かと思われる C.d.L という文字が入っていた。
 
帰国後貞子さんは東京藝大で楽器に詳しい人にこのフルートを調べてもらった。その結果、管体は23金でそれにアリザリン(西洋茜の色素)(*55)で塗装されていることが判明した。キィはレッドゴールドである。埋め込まれているルビーはビルマ産とみられ宝石3個の価値だけで5000万円程度と思われる。
 
C.d.L は恐らくClaude de Lation と思われ19世紀末のフランスのフルート制作者と言われた。フレンチスタイルのフルートを確立したルイ・ロー (Louis Esprit Lot 1807-1897) (*56) の直弟子のひとり。この人の作品はとても優秀であったが戦乱で多くが失われたため現在残る作品には希少価値がある。しかも管体金は珍しい。もしかしたらドゥ・ラシオン作の金フルートは世界にこれ1本かもしれない。この宝石が無くても自分ならオークションで2000万円出す、という意見であった。
 
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またこのフルートの穴の位置は通常のフルートから微妙にずれていた。おそらくこれは管体にルビーを填め込んだ上でその状態で正しい音が出る位置に穴を開けたものと推察される。またレントゲン検査によりルビーを埋め込んだ凹みの内部にもアリザリン塗装が及んでいることが判明した。つまりこのフルートは、フルートの管体制作→アリザリン塗装→ルビー埋め込み→穴開けという順序で加工したものであり、最初から宝石付きフルートとして制作された、極めて珍しい作品であることが判明した。
 
その後、Claude de Lation の作品を持っているフルート奏者に吹いてみてもらい「確かにこれはClaude de Lation の作品だと思う」という判定も出ている。
 
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2000万円というのは1960年代の鑑定なので今ならその価値は宝石と合わせて3億円くらいであろう。Claude de Lation の作品というだけで価値の高いものなので、貞子さんが亡くなってからは、このフルートを吹いてくれる人を探すべく、銀行の貸金庫に収め、時々奏者の募集を掛けている。しかしこのフルートを預かるには、しっかりした家に住む人で、警備代だけでも毎月かなりの費用が掛かると思われ、充分優秀な吹き手で、良い家に住み、警備費の負担に耐えられそうな人が現れないのである。
 

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雪月花-三姉妹の中で唯一存命の月子(91/演:カサンブランカ由美) (*54) も今回の至宝展のオープニング・セレモニーに来ていた。月子は性別変更で父が怒っていたのでなかなか帰国できなかったが父が亡くなる前には帰国し父ともあらためて和解。日本では絵画教室をやっていた。実はフランスでも絵の先生をしていたのである。帰国後二科会に入会し現在でも年間20枚ほどの絵を描いて、結構な人気がある。法的な性別は1950年代に一時帰国した時に訂正しているのでもう70年ほど前から戸籍上も女性である。
 
パスポート上も早い時期から女性になっていたので向こうではフランス人男性と結婚していた。夫も一緒に日本に来て、亡くなるまでこちらで一緒だった。彼は物凄く日本にハマり、朝御飯は必ず御飯・味噌汁・焼き魚で、お寿司も大好き。常に和服を着て、庭には枯山水を作り、毎朝神棚拜詞を奏上していた。そして仏像コレクターとなった!!今回の至宝展にはその一部も展示されている。先妻との息子・娘(60代)はフランスに住んでいるが1〜2年に一度日本に来てくれていた。ただしコロナ以降は、まだ会ってないらしい。
 
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(*54) カサンブランカ由美は実際は75歳。ボーダーマンズのベース奏者である。ボーダーマンズは植物状態からの回復者(生と死の境界)、フランス人とのハーフ(国の境界)、刑務所からの出所者(シャバとムショの境界)、そしてカサブランカ由美(男と女の境界)という異色4人のバンドだったが由美以外は全員鬼籍に入っている。それでここ1〜2年はたまたまベースが亡くなって欠けたスウィンギング・ナイツと一緒に演奏活動をしている。
 
「私だけ残ったのはやはり女の方が平均寿命長いからかも。私は途中から女だけど」
などと本人は言っている。
 
性転換者の役を天然女性が演じるのはよくないと小池プロデューサーが言い、美高監督も同意見だったので、年齢は合わないが高齢の性転換芸能人である彼女を担ぎ出した。今回は
 
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「うっそー!?アクアちゃんのドラマに出られるの!?」
 
と言って喜んで“老けメイク”!して演じてくれた。アクアとサイン色紙を交換していた。二十面相の予告状にギョッとする表情などをしっかり演じてくれた。
 
カサンブランカ由美(1947生) は1973年に25歳でモロッコに渡りマラケシュ(マラ消し?)のジョルジュ・ブロー博士の手術により女性に生まれ変わった。彼女の場合は特例法施行後の2004年に法的な性別を変更している。彼女の娘の夫は作曲家の山本大左である。
 
月子が1950年代に性別を変えられたのは、当時はまだ裁判官がGIDのケースと半陰陽のケースの区別があまり分かっていなかったためと思われるが変えられたのは運が良いとしか言えない。日本最初の性転換者とされる永井明子(手術を受けたのは1950-1951年:戦後では世界初の性転換者)も普通に戸籍の性別を訂正できている(彼女の場合東大・日本医大が絡んでいたのも大きいと思う)。
 
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今回の至宝展の会場はデパート7階の、東側にある催し物エリア全てを使用する。この階の中央にはマタニティやベビー用品の売場、西側には食堂がある。
 
ロマノフの小枝と火の鳥は経路最後の特別展示室に展示されるが、その奥にはミニステージが設営されていて、ここで今回の至宝展を記念して初日の7日、中日の14日、最終日前日の21日、と3回、ロマノフの小枝と火の鳥の共演、ミニライブという凄い企画が行われることになっている。
 
このミニステージに置かれたピアノは、スタインウェイアンドサンズの・・・S-155 ベビー・グランド・ピアノ!である。
 
このピアノが女性客に「可愛い!」と受けて人気だったので、デパート側は気を良くして、細川家側の許可を取り、デパートと取引のある音楽教室のデモンストレーターを呼び、毎日ポップスを中心にピアノを弾かせた。すると隣の食堂にも響くのでとても好調で店長(横田直樹)もご機嫌だった。
 
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このミニライブには、最初、豪華なフルートの共演を記念してと社長(神崎寛士)が張り切って巨大なD-274 コンサート・グランドピアノ(2千万円)を発注した。しかし事前調査に来た楽器メーカーの人は「このステージでは無理です」とあっさり言った。
 
「なんでダメなんだ?」
「大きなグランドピアノは<それを鳴らすための広い会場が必要です。狭い会場で大きなピアノを鳴らしてもまともな音は出ません。お風呂の中でエレキギターを全力で弾いた状態を想像してください」
 
「わっ」
 
「音を鳴らすには充分な体積の空気が必要なんですよ。楽器が鳴るのではなくホールが鳴るんです。たとえばこのデパートの1階から5階までをぶち抜いて2000人くらいの観客席を設置し満杯の客を入れたら何とか鳴るかもというレベルです」
 
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「高さも必要なのか・・・・」
「基本的には14m、最低でも7mの高さと周囲の壁の長さ最低28m、できたら56mが必要です」
「ひぇーっ」
 
14mの高さは通常の5フロア分である。このデパートの建物がだいたい50m×25m程度なので高さがそれだけあるなら、このデパートの半分くらいの広さでもなんとかなる。
 
「大規模なコンサーホールでないと無理ですね。ですからこの会場で鳴らせるのはせいぜいこれです」
と言って、155cmのベビー・グランドピアノを置いていったのである。
(これでも870万円する)
 
社長は
「いくらなんでもこんなおもちゃみたいなのを」
と怒っていたが、客が来てみると女性客たちに人気なので、すっかりご機嫌が直った。
 
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さて、このミニライブは招待された人だけが出席でき、警備員がステージ脇に立つという物々しい警戒の中で行われた。ステージと通常の通路はアクリル板で仕切られて、至宝展の一般観覧客は、演奏中は中に入れない(外から様子を見ることはできる)。
 
このミニライブでロマノフの小枝を吹くのは、もちろん細川聖知(羽鳥セシル)、そして火の鳥を吹くのは聖知の親友でもあるアイドル・北里ナナ(アクア)である。この2人のデュエットで演奏するがピアノ伴奏が必要なので、聖知の友人フルーティスト花田小梢(安原祥子)が問題のベビーグランドを弾いて伴奏する。
 
小梢は
「きゃー!可愛いピアノ!」
と声をあげていた。
 
(視聴者からも「ほんと可愛い」「値段は可愛くないけど」といった声が出ていた)
 
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聖知(セシル)とナナ(アクア)のデュエットで演奏は進む。そして最後になってピアノを弾いていた小梢もピアノから立ち上がり、金色のフルートを持つ。これは普通のゴールドフルート(23.6金=985‰) で二十面相が狙うようなお宝ではないが“金狐”という名前を持つ。これは管体の端に三尾の狐模様のレリーフがあるからである。
 
(カメラはロマノフの小枝のルビーとサファイア。火の鳥の3つのルビーに続けて金狐のレリーフもしっかり映していた)
 
小梢がピアノで最初の音を出したあと、まずは聖知(セシル)がロマノフの小枝で
「ミーレードーシー・ラーソーラーシー」
と始めると、ナナが2小節遅れで火の鳥で
 
「ミーレードーシー・ラーソーラーシー」
と続く。このモチーフを2度吹いた聖知は次に
 
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「ドーミーソーファー・ミードーミーレー」
と次のモチーフに進む。ナナも最初のモチーフを2度吹いてから次のモチーフに進む。
 
つまりこの曲は3人の奏者が同じメロディーを2小節ずつずらしで演奏する。輪唱(カノン)をするから『パッへルベルのカノン』というのである。(本来はヴァイオリン×3の曲)
 
つまり『カエルの歌』のもっと、かっこいいのである!
 

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有名な
 
cBc CB, GDE| C cBA Bega| fedf edcB| AGFE DFED |
 
のくだりでは歓声があがっていた。
 
この曲が流れている中、ステージ脇に立つ警備員(香取泰裕)も顔が弛み熱心に演奏に聴き入っているようだった。
 
やがて演奏終了。素晴らしい演奏、そして豪華な共演に招待客だけでなく展示会場側からこれを眺めていた人たち、また外部のプロジェクターで演奏を見ていた人たちからもたくさんの拍手が贈られた。それでフルートを吹いた3人がお辞儀をしたその時
 
何かが発射されるような音があり、ステージに1枚の紙が舞い降りてきたのである。
 
何だろうと見詰めるセシルたち。紙を拾ったのは小梢(安原祥子)である。
 
真っ青になるので、セシルとナナが駆け寄り彼女を支える。ステージ脇に居た警備員と洋介氏(東堂千一夜)も駆け寄る。洋介氏が彼女の手から紙を受け取ると読んで激怒した。
 
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「ふざけやがって」
 
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夏の日の想い出・アルバムの続き(18)

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