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■春春(31)

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「でも、無観客方式だから、ぼく応援席から試合を見るということはできなかったんだね」
と晃が言っていた。
 
「うん。だからマネージャーとして座る」
と美奈子。
 
「晃君はちゃんとマネージャーの務めを果たしていたよ」
と春貴は言う。
 
「みんなの交替時刻を記録してただけですけどね」
 
「やはりちょっとした手術を受けて選手として出られるように」
と五月。
 
「勘弁して〜」
 
しかし・・・晃君に秋くらいの試合でテーブルオフィシャルを頼むことになった場合、彼(彼女?)には男子制服・女子制服、どちらを着せればいいんだろう?と春貴は悩んだ。
 
まあ本人が着たいというほうの制服でいいよね?
 

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やがて試合が終わって2〜3年生が車に戻って来た。
 
春貴は「やけ食いしていこう」などと言って、帰りに吉野家に寄って牛丼をテイクアウト。車内で食べた。2〜3年生は、もちろん牛丼に加えて持参のお弁当も食べていた。
 
全員食べ終わってから氷見に向けて出発したが、選手たちで1〜2年生は全員寝ていたようである。今日は2列目に2年生を乗せ、3年生が3列目に春貴と並んで座った。そして3年生2人と春貴とで、今日の試合の反省点と、これからインターハイ予選までの強化方針について、熱い論議をした。
 
「でも練習場所が欲しいです」
「うーん。それに尽きるなあ」
 

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「邦生ちゃん、よかったら、これ署名して」
と言って、長野珠枝が邦生に何かの請願署名のようなものを渡した。
 
見ると「女性行員のボトムを選択制にする要望書」と書かれている。
 
「邦代ちゃんはボトムがパンツだけど、今様々な事情でボトムにスカートじゃなくてパンツを使用している女性行員は全店で30人ほど居るらしい」
「結構居るね」
と言いつつ、自分は男だけどと思っている。
 
「こういうの個人の自由にすべきだと思うのよね」
「賛成賛成」
と言って、邦生は署名した。
 
「それ僕も署名していい?」
と花畑係長が言っている。
 
「歓迎です。ぜひ男の方にも賛同して頂きたいです」
と言って、長野は係長にも署名の紙を渡していた。
 
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「男がスカート穿いてもいいよね?」
と係長が言うと
「私は応援します!」
と長野は言った。
 

5月1日(日・ひらく).
 
寺島奈々美はパリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立った、
 
NRT 5/1(Sun)9:05 (AF275 B777-300ER) 18:00 CDG (15'55)
 
この日は予約していたパリ市内のホテルに宿泊。翌朝、モンパルナス駅に行き、TGVに乗る。約2時間の旅で、お昼すぎ、ボルドーの Bordeaux-Saint-Jean(ボルドー・サン・ジャン)駅に到着した。
 
タクシーに乗って、LFBに所属する、ボルドー・ゲパール(Bordeau Guepard) の事務局に入った。
 
「Bon jour. Je suis Terashima du Japon」
と自分の名前を名乗る。
 
「Ah, Mme Terashima! Bien venue a Bordeaux」
と40代くらいの女性が笑顔で寄ってきて、奈々美はボルドー・ゲパールでの第一歩を踏み出した。
 
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南野里美は日本選手権に参加して、決勝には進出したもののライバルの永井に僅差で負けてアジア大会の代表を逃し、5月2日にはいったん津幡に戻る。そして翌3日、代表組が抜けて閑散とした専用プールで泳いでいたら、水連から連絡が入る(休憩していた月見里姉が教えてくれた)。何だろうと思う。
 
電話を掛けてきたのは水連の強化部長さんである。
 
「南野さんは、パスポートとシェンゲン圏のビザを取得済みですよね」
「はい、取得しています」
 
代表になれる可能性がある人は、全員取得していたはずである。竹下ハネも「0.1%くらいは可能性がある」とか言って、姉と一緒に申請していた。
 
「急で申し訳無いのですが、5月6日に出発する代表海外合宿の臨時コーチをお願いできないかと思って」
「行きます!」
 
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それで、南野里美はその日の内に荷物をまとめ、5月4日朝、千里が手配してくれたホンダジェットに乗り熊谷に移動。その先も千里の知人が車で送ってくれて、水連に入った(つまり南野は千里には会っていない)。
 
「海外遠征組は今回こういうスケジュールになっています」
と強化部長は提示した。
 
5.06 遠征1陣出発 (Sierra Nevada)
5.20 遠征2陣出発 (Sierra Nevada)
5.25-26 Mare Nostrum (2) Barcelona
5.28-29 Mare Nostrum (3) Canet-en-Roussillon
5.30- 合宿 Canet-en-Roussillon / Andora
6.07 カネ組が Hodmezovasarhely (Hungary) に移動
6.10 アンドラ組が合流
------------
6.18-25 World Aquatics Championships (Budapest)
 
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※Mare Nostrumとは直訳すると“我らの海”という意味で、“地中海”のことを表す古風な表現。地中海沿岸の数ヶ所で行われる水泳大会である。現在の開催場所はモナコ、バルセロナ、カネ・タン・ルシヨン (Monaco, Barcelona, Canet-en-Roussillon) の3ヶ所。以前はローマでも行われていたらしい。
 

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強化部長は南野に説明した。
 
「実は今やっている代表合宿が、施設の割りに人が多くて全然練習できないという不満が、かなりの選手から出ていまして」
と歯切れの悪い言い方をする。
 
ここ2年ほどはコロナの影響もあり、プールはどこでも密度を下げる努力をしている。すると結果的にどうしても練習時間自体が短くなりがちである。
 
今回は久しぶりの海外合宿だが、それでなくても代表合宿は練習時間があまり取れないことが多い。だからメダルを狙えるレベルの選手は別行動になることも多い。そして今年の場合はコロナ以前より、かなり練習時間が短くなっているようだ。それで元々恵まれた環境で練習をしている一部の選手から不満が出たのだろう。
 
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「それで今回のヨーロッパ遠征も、当初の予定よりかなり分散した合宿になりそうなので、結果的に指導する人が足りなくなってしまいまして。お願いするにも、元々ビザを取っている人でないと間に合わないので、選手さんの中で代表に入らなかっった比較的年長の方に、コーチ役をお願い出来ないかと、苦渋の対応なんですよ」
 

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「いいですよ。私も久々の海外になりますし」
 
「津幡組さんやZZスポーツクラブさんを始め幾つかのグループが分散合宿になります。実はこれらのグループはヨーロッパに独自のあるいは友好企業のプールがあるということで、大会直前までそこで練習していただこうということになりまして」
 
「なるほど」
 
要するに元々恵まれた環境で練習していた大手から不満が出たのかな。大手だと所有している企業がヨーロッパに拠点を持っていたり、あるいは人脈があったりするから、その関連施設を使うのだろう。津幡組は・・・若葉さんが用意するのかな?
 
「じゃ津幡組を見ればいいんですかね」
「はい。済みません。津幡組さんの施設は少し余裕があるということでSTスイミングクラブの選手も少し引き受けていただきました」
「分かりました」
 
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おそらく、それらの大手同士で融通しあうのだろう。
 

日本選手権後の代表合宿は5月4日で終了し、5月5日に世界選手権の代表(コーチ陣や通訳・医師などのスタッフを含めて約70名)が成田から乗替え地のドーハに向かう飛行機に乗る予定だったのだが、
 
出発は5月6日に変更され、合宿も5日まで1日延長された。
 
そして6日早めの朝食を食べた後、選手たちはバスで成田(NRT) ではなく羽田空港(HND) に向かい、スペインに直行するチャーター機に乗って、出発した。
 
15時間ほどの飛行で、シェラネバダに近いグラナダのフェデリコ・ガルシア・ロルカ・グラナダ=ハエン (Federico Garcia Lorca Granada-Jaen GRX) 空港に到着した。
 
HND 5/6 10:00 - 17:00 GRX (時差8時間)
 
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この区間を航空会社の便を使うと現在成田−マドリッド便がコロナのため運休中なので例えば、ドーハとバルセロナで乗り継ぐなど、最低2度の乗り換えが必要である。待ち時間も入れると最短乗り継ぎでも30時間、連絡が悪いと丸2日かかる。それがチャーター便のおかげで半分以下の時間で済んだ。しかも代表団のみで乗っているので感染リスクが低い。
 
選手たちも定員の3割ほどしか乗せてない、余裕のある空間でのんびりと旅を楽しんだようである。
 
実は15時間で行けることになったため、向こうの受け入れ施設の予約問題で、こちらの出発を1日遅らせる必要が出たのである。
 

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「でもチャーター機なんて凄いね」
「水連って結構お金あるのかな」
 
「このチャーター機はZZ社さんが提供してくれたらしい」
「おお、それは感謝感謝」
などという声も出ていた。
 
「機内食はST社さん提供で、好きなだけ食べてということらしい」
「それは嬉しい」
「私体重コントロールしてるから、好きなだけ食べられなーい」
「ああ、それはお気の毒」
 

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「いや、それが大変だったみたい」
と南野と並んで座ったZZスイミングラブ所属の田幡道代は小さな声で語った。彼女も急遽コーチ役を頼まれたらしい。南野は彼女とも何度もメダル争いをしたことがある。彼女は今回決勝6位で代表に届かなかった。
 
田幡の話では、どうもこのような背景があったようである。
 
(1)津幡組が異様とも思えるドーピング検査をされたことで、メンバーから不満が出た。それで津幡組の後援者のひとり、百万石スイミングクラブの宮崎会長が水連に乗り込んできて抗議した。
 
宮崎会長は今大会でのドーピング検査回数の資料を出せと要求。ドーピング検査はJADAの所管なのでこちらは知らないと水連の担当者は言ったが、宮崎は文部科学省とのコネもちらつかせて強引に迫る。
 
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それで出て来た資料では、津幡組の選手が他の所属の選手に比べて、倍の検査を受けさせられていることが判明。水連側は陳謝して、今後は不平等な検査はしないと医学部長が約束した。
 

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(2)それとともに宮崎会長は、代表合宿の品質についても改善を要求した。本来は代表合宿なんて通常より濃厚な練習ができるべきなのに、現状は全然練習時間が回って来ず、津幡組のみでなく他のクラブのメンバーからも不満が出ているとした。そういう声は実はZZスイミングクラブなどからも上がっていた。
 
宮崎は主張した。今回の遠征で予定されている練習会場で、特に前半のシォラネバダは、世界中の選手が共用する施設である。世界水泳の直前で、とてもまともに泳げるとは思えない。練習時間がたくさん必要な長距離組だけでも分離して欲しいと。
 
宮崎が、他のクラブ所属の代表も受け入れると約束したので水連はこれを認め、男女長距離代表(津幡組4人・STスイミングクラブ2人)の合計6名は、シェラネバダには行かず、別のプールで練習することになった。
 
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またヨーロッパへの渡航も津幡組の支援者であるムーラン社長が自社所有のA330 をパイロット付きで無償で貸すので、それで運んであげてと言っていることを述べ、水連はそれに頼ることにして、航空会社のチケットはキャンセルした。
 

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(3) 翌日、今度はZZ社の宮城会長(津幡組に圧力を掛けていて青葉の性別調査をさせた張本人!)が水連に乗り込んで来た。
 
ZZ社も「合宿で全然まともに練習できない」問題で以前から不満を訴えていた。それで、ZZ社もドイツとオーストリアにある、友好企業所有のプールを合宿中、ほぼ専用で提供するから、自分の所の代表選手も分離して欲しいと言った。
 
津幡組を認めてこちらを認めない訳にはいかないので、そちらも使用させてもらうことにした。こちらも施設に余裕のある範囲で、他のクラブ所属の選手も使ってもらっていいという話である。
 
更にZZ社はこちらは所有機は無いがチャーター便を提供すると言った。
 
それで結局、宮崎−宮城の両者が直接会談で調整した結果、遠征の第一陣をZZ社のチャーター便で、第二陣をムーラン所有機で運び、ムーランの飛行機はその後のヨーロッパ内移動にも使わせてもらうことになったのである。
 
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(4) そして!この話を少し遅れて知った最大手のSTスイミングクラブは、選手たちの帰りの便を提供し、また合宿中の選手たちの食事代を負担すると言った。
 
そういう訳で、今回の約3年ぶりの海外合宿は、3つの大手?スイミングクラブから多数の環境と費用を負担してもらい、水連としては、とても助かる合宿となったのであった。
 
※この物語はフィクションであり、記載されている企業名・組織名は実在の企業や団体とは無関係です。
 

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5月6日(金).
 
国際大学スポーツ連盟(FISU) は、中国の成都(チェントゥー)で6月に行われる予定だったユニバーシアードを来年に延期すると発表した。
 
ユニバーシアードは本来2年に1度、奇数年に開催されることになっている“大学生のオリンピック”である。前回は2019年にナポリで行われた。
 
2011 深圳(中国)
2013 カザン(タタール)
2015 光州(韓国)
2017 台北(台湾)
2019 ナポリ(イタリア)
 
成都での大会は、本来は2021年8月16-27日に開催されるはずだった。しかし2021年4月2日、COVID-19の流行が収まらないので2022年に延期されることが発表され、日程は2022.6.26-7.7 と決まった。しかしまだまだCOVID-19が収まらないことから、この日、日程が2023年に再延期されることが決まった。その後、新たな日程は2023.7.28-8.8 と決められた。
 
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5月6日(金).
 
アジア・オリンピック評議会 (OCA) は、今年9月に中国・杭州(ハンチョウ)で行われる予定だったアジア大会を延期すると発表した。新たな日程は後日決定としたが、7月になってから、2023年9月23日〜10月8日に決まったことが発表された。
 

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アジア大会とユニバーシアードの延期が発表されたことで、海外遠征への出発を待って東京のHPSC, 熊谷の郷愁プール、STスイミングクラブの旧大宮教場、長野県のGMOアスリーツパークなどで合宿をしていたアジア大会やユニバーシアードの代表たちの間に動揺が走る。
 
そもそも“幻の代表”になってしまう可能性が濃厚な上に、海外遠征も中止だろうか。合宿も中断して、このまま解散?と選手たちは不安になる。
 
しかし翌日には、水連側から、代表問題は後日検討することになるが、国内合宿も続けるし、海外遠征にも行ってきて欲しいという伝達があり、選手たちは一応安堵した。
 

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