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■春春(19)

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邦生の豊畑さんへの説明は続いていた。
 
「ここまでの説明を元にやっと、本題に入れる」
と邦生は言った。もう15時を過ぎている。
 
「火牛タウンに建設済みあるいは建設予定の施設は、各々こういうところが建設・運用している」
と言ってホワイトボードに書いた。
 
火牛アリーナ S+P
専用プール G
一般プール M
アクアゾーン M
テニスコート G+P
グラウンドゴルフ G+P
火牛パーク G+M+P
火牛スタジアム G+P
 
G=Green Leaf (川上青葉)
P=Phoenix Trine (村山千里)
S=Summer Girls Publishing (唐本冬子)
M=Moulin Holding (山吹若葉)
 
「これメモしていいですか」
「OKOK。こんなの覚えられないよね」
「でも吉田さんはそらで書きました」
「当初から関わっているからね」
「なるほどー」
 
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「テニスコートとグラウンドゴルフ場の運営は津幡町に委託されいる。専用プールと一般プールを使用して、〒〒スイミングクラブが運用されている。これは〒〒テレビの子会社だけど、東京オリンピックに選手を8人も出した」
 
「凄い!」
 
「彼女たちの活躍を支えるのが専用プール、元々長距離の選手って1回800mとか1500mとか泳ぐのに8分、15分と掛かる。普通のプールでは充分な回数の練習が出来ないし、レーンを共用すると衝突回避のためタイムロスするから思いっきり練習できない。そもそも昼間しか開いてない。更に一般のプールは不特定多数の人が使うから感染の危険もある。ところが、この専用プールは、24時間365日営業だし、オリンピック代表クラスの選手は1人1レーンの専用レーンを持っているから、24時間好きな時に好きなだけ泳げる。共用しないから衝突する可能性を考えずに全力で泳げる。更に限られた人しか施設内に入れないから感染の危険も少ない。その恵まれた環境で彼女たちは力を付けてきたんだよ」
 
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「でもそれ採算取れるんですか?」
「採算なんて何も考えていない」
「え〜〜!?」
 
「そもそもここは川上青葉の個人的な練習場なんだよ。そこをレーンが空いてるから、知り合いを呼んでるだけ。だから個人の家のお風呂と同じ」
 
「大きなお風呂ですか!」
 
「一般プールの方は会員制で、会員になっている人は誰でも泳げる。こちらもコロナで入場制限してるから、全く採算は取れてないけど、いいことにしている」
 
豊畑さんはメモを見ていた。そして言った。
「ムーランさんの運営だから、赤字OKなんだ!」
「そうそう。たくさん赤字が出るから、山吹さんは嬉しくてたまらないみたい」
 

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奥村春貴は4月8日の夕方、邦生に電話してみた。
 
「10人くらい乗る車をさ、安く借りられる所とか知らない?」
「ああ。だったら千里さんに連絡してみるといいよ」
「川上さんのお姉さん?」
「そそ。あの人、たくさん車持ってるから、きっとそのクラスの車もあるよ。あ、俺が連絡しようか」
「助かる!」
 
すると千里さんから直接春貴に連絡があり
 
「置き場所に困ってるから、1台当面貸しとくよ」
と言って、その夜9時頃、持って来てくれたのである。
 
「キャラバンですか!」(*33)
 
「多分10人乗りと言ったら、ハイエースかキャラバンだと思う。これが普通免許で運転できる最大サイズ。これより多人数乗せるならマイクロバスが必要だよ」
 
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「マイクロバスは大型免許が必要ですよね?」
「中型免許でも運転できるけど(*32)、どうせなら大型免許取りなよ。部活の顧問とかしてたら、絶対必要になるよ」
 
「そうですね。今年中に取ろうかな」
「うんうん」
 
(*32) 中型免許は29人乗りまで運転できる。但し以前の普通免許から移行した5t/8t 限定の中型免許では10人乗りまでしか運転できない。限定解除するか大型を取る必要がある。
 
(*33) 震災イベントの時に邦生たちを仙台から運んだ車とは別の物。パン屋さんが使用していた車体で、貴司と美映が千里(せんり)から姫路への引越に使用した車である。その後、塗装も変更し、4列シートを設置した。
 

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「あと、うちの部で火牛アリーナを使わせてもらえませんか」
「部員は何人?」
「2〜3年が合わせて4人なんですよ。1年生は多くて3〜4人と思っているんですどね」
「その人数なら年間3万円で(今適当に決めた)」
「私の年間パスと同額だ!」
「高校生の部活は安いから。何なら春貴ちゃんの個人年間パスをそれに書き換えようか」
「それで私も使えるんですか?」
「付き添いということで」
「なるほどー」
 
「じゃ、今度連れてきたら、その場で年間利用者証を交換するように言っておくから。場所はラビット・コアラ・ポニー・タビー・ショコラのどれかになると思う。換気性が落ちるトリコロールはコロナが終わるまでは使わない」
 
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(トリコロールは体育館の中央にあり、外の壁と接していない:後で図を出す)
「火曜日とか借りられます?」
「12日?」
「はい」
千里さんはスマホでどうも予約状況を見ているようだ。
 
「大丈夫。予約入れとくね」
「ありがとうございます」
 
それで千里さんは、一緒に来た、20歳くらいの女性のスペーシアで帰って行った。
 

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4月9日(土).
 
邦生と真珠はお揃いの白いドレスを着て、スペーシアを使って香林坊に出た。そして“予約していた”ティファニーに入った。
 
「吉田様、伊勢様、お待ちしておりました。こちらへ」
と笑顔で案内され、商談室に入る。
 
今日は“結婚指輪”を買いに来たのである。
 
真珠は左手薬指に2月に買ったエンゲージリングを着けている。
 
「結婚は来年かなと思っていたのですが、急に今月結婚することになってしまって」
「こういうのは、話が決まったら、どんどん進行することが多いようですよ」
 
と先日、婚約指輪を買った時の担当さんは言っていた。
 
「先月送っていただいていたカタログを見てて、このデザインがいいかなあと言っていたんですよ」
 
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と言って、ひとつの指輪を指さす
 
「いつも着けていられるものは、やはりシンプルなものかと思って」
「そうですね、やはりダイヤ入りとかのマリッジリングも人気ではあるのですが、家事をする時とかに外すので、それで紛失したりすることがあるんですよ」
「ありがちな事故ですね」
 
真珠の指より少し大きいサイズのものの在庫かあったので、通させてもらった
 
「いい感じです」
 
シミュレーターで、真珠と邦生の各々の指に填めている状態を見たが、感じがいいなと持った。それでその指輪を買うことにした。
 
「お二人ペアでいいですよね?」
「はい。やはり結婚指輪1本だけ買う人も居ます?」
「失くしたような場合には」
「ああ」
「内緒でというのも多いですよ」
「それ凄く分かります」
 
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「刻印はどうなさいますか?」
「K to M / M to K で」
と言って、真珠は、真珠が着けるサイズの指輪のほうにK to M, 邦生が着けるサイズの指輪のほうに M to K を指定する紙を渡した。
 
(邦生は「俺は“ほうせい”だと」と主張したが、真珠は「みんな、くにちゃん」と呼んでるからもう「くにお」でいいよと言って、押し切った)
 

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4月11日(月).
 
春貴は最初に横田先生に
「明日の練習初日は、生徒たちを屋根のある所で練習させたいので、外部の体育館にに連れ出していいですか」
と尋ね、許可をもらった。
 
「それ体育館の使用料は?」
「私が個人で出しておきます」
 
「場所はどごですか?」
「津幡の火牛アリーナです」
「借りられます?あそこ凄い制限してますよ」
「社長の妹さんが私の元同級生なので、連絡したら使っていいよと言われたんですよ」
「凄いコネ持ってますね!交通はどうします?」
 
「私の個人の車で運んでいいですか?」
「いいですけど、慎重運転で」
「はい。安全運転で」
 
「ちなみに車は何ですか?」
「知人から借りた10人乗りキャラバンです」
「いい車がありますね!」
「1年生が6人以上入ったら乗せきれませんけど」
「あはは。それは無いでしょう」
と横田先生は笑っていた。
 
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往復に合計1時間掛かるので、向こうでの練習時間は1時間くらいということになる。着替えは、車内でやっちゃおう!ということで、2〜3年生とは話がまとまっている。顧問の自分を含めて女ばかりだから、気にすることはないだろうということにした。
 

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その日の放課後の部活紹介では、3年生の2人が“バスケット漫才”をしていた。
 
「こないだお兄ちゃんにバスケット・リング買ってきてと頼んだら、何だか小さなドーナツ状の薄いわっかでさ」
「そりゃ、あんさん、ガスケット・リングでっせ」
 
「こないだバスケット大会って書いてあるから、見に行ったら、みんなお花をアレンジして、籠(かご)に詰めてんの」
「フラワーバスケットの大会でんな」
 
「ウィンターカップの中継やってると言うから見てたら、なぜかみんな馬に乗って走ってんの」
「そりゃウィンザーカップ(*34)やわ」
 
「こないだ後輩に『そこでシュート!』と言ったら、突然ヘッドギア着けてファイティングポーズ取るんだよ」
「そりゃシュートボクシング」
 
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などと、5分ほど、ひたすらダジャレを並べていたが、結構笑いを取っていたので大したものだと思った。
 
(*34) ポロの大会の名前。
 

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その後、体育館内で《女子バスケットボール部》の看板を立てていたら、1年生が3人も来てくれた!
 
更に舞花は弟の晃を連れてきて、強引に入部者名簿に名前を書かせていた。
 
「ぼく、男子だよー」
と本人は抵抗している。
 
「大会までに性転換手術すればよい」
「そんな手術いやだー」
「ちょっと、ちんちん取るだけだよ」
「取りたくなーい」
「女子制服着れるのに」
「そんなの恥ずかしー」
「女子トイレに入れるのに」
「えっと・・・」
「女子更衣室に入れるのに」
「・・・・・」
 
ということで、彼は“つい”名前を書いてしまった。
 
彼(彼女になるかも?)まで入れて新入生4人で部員は8人になる。春貴はキャラバン借りて良かったぁと思った。これがセレナとかだと乗り切れないところだった。
 
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この日は化学実験室に移動してから簡単なミーティングをする。3年生と2年生が自己紹介した後、全員のコートネームを決めようということになる。これは3年生の2人で決めてしまった。
 
原田河世(かわよ)リバ
鶴野五月(さつき)メイ
綾野美奈子(みなこ)ビナ
高田晃(あきら)ルミ
 
五月の“メイ”は一瞬で決まった。この子と美奈子ちゃんが中学でもバスケをしていたということで期待大である(実際、ドリブルもシュートも上手かった)。河世ちゃんは165cmと背が高く、中学ではバレー部に入っていたらしいが、中学で同級だった五月ちゃんに誘われて、高校ではバスケットをすることになった。
 
綾野美奈子は
「セーラーヴィーナス?」
と訊かれる。
 
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「いえ、愛野じゃなくて綾野です。でもよく愛野と思われます」
「君はビーナスで」
「長いからビナで」
「水森ビーナと同じパターンか」
「あの子の名前、ビーナスから来たの?」
「そうらしいよ。可愛いからビーナスと言われたらしい。ついでにビーナスはインドではサラスバティと言って、この女神様が弾く楽器がビーナという楽器」
「へー」
「これが日本では弁天様が琵琶を弾くという話になっている」
「弁天様ってヴィーナスだったんだ!」
 
「息子のキューピッドはギリシャではエロス、インドではカーマ、日本では愛染明王」
「ホームセンターみたい」
「いや、そこから名前付けたらしい」
「カーマはキューピッドだったのか」
 
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晃(あきら)は“晃”という漢字が、光が輝いて四方に広がるという意味なので、“ルミナス”を短縮して“ルミ”になった。
 
「可愛い」
「あまり可愛いの困るんだけど」
「でもルミちゃん、背が高ーい。170cm近くないですか? 頼もしい」
と他の1年生から言われるが
「ぼく男だから」
と本人。
 
「なぜ男子が女子バスケット部に居るんですか?」
「性転換予定?」
「女の子になりたい男の子?」
 
(晃は体操服姿である。彼は喉仏も目立たないし、女性的な顔立ちである。髪も耳が隠れており男子にしては長い)
 
「姉貴から強引に引き込まれたんだよぉ」
「でも背の高い選手と対抗する練習には凄くいい」
「それは凄くいい!」
「制服は女子制服着て下さいね」
「よし、女子制服は調達しておこう」
「え〜〜〜!?」
 
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それで部員8人のコートネームはこのようになった。
 
3年
谷口愛佳(あいか)ラブ
高田舞花(まいか)ルツ
2年
山口夏生(なつお)サマー
竹田松夜(まつよ)パイン
1年
原田川世(かわよ)リバ
鶴野五月(さつき)メイ
綾野美奈子(みなこ)ビナ
高田晃(あきら)ルミ
 
「明日はちょっと遠出して、津幡の火牛アリーナで練習しますから」
と春貴が言うと
「よし。火牛饅頭(*35)買って来よう」
などと言っている子が居た。
 
(*35) 本当に売ってる:川崎ゆりこがジョークで言ったのを若葉がノリで作っちゃった。饅頭の皮に火牛の絵が描かれている。製造は石川県内のお菓子メーカーである。絵を描いたのはアクア!しっかり“絵:アクア”と表記されている。その他、同じく火牛の絵が描かれた火牛煎餅、牛の形をした火牛チョコ、なども開発されている。
 
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箱には、牛若丸姿の横笛を吹くアクアと、木曽義仲に扮した白鳥リズムの写真が使用されている。間違えにくいように、饅頭は赤い縦長の箱、煎餅は白い正方形の箱、チョコは黒い横長の箱である。また、饅頭には静御前(アクア!)、煎餅には狐忠信(今井葉月)、チョコには弁慶(品川ありさ)も描かれている。
 
これらは火牛アリーナだけでなく、近隣のSAや道の駅にも置かれていて、わりと売れているようである。
 
火牛饅頭は、ピンクの皮に粒あん、白い皮に、こし餡の2種類だったが、グリーンの皮に白餡というのも追加された。6,12月末には“火牛氷室饅頭”(*36)という特別バージョンも販売される。
 
(*36) 石川富山では6月末・12月末に“氷室饅頭”という饅頭を食べる習慣がある。どこでも売ってるが、筆者は、金沢の柴舟小出のものと、輪島の吉野屋のものがお気に入り。
 
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