広告:不思議の国の少年アリス (1) (新書館ウィングス文庫)
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■春春(16)

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「唐本冬子は、むしろローズ+リリーのケイと言ったほうがいい」
「音楽関係者が多いですね」
「そのつながりが大きいんだよ。ムーランの山吹若葉さんは唐本冬子さんの小学生以来の友人」
「なるほどー」
 
「唐本冬子さんは、自身がローズ+リリーのケイとして歌手をしているし、ローズ+リリーの相棒のマリさんと一緒にマリ&ケイとして多数の楽曲を書いている。そしてアクアの事務所、§§ミュージックの会長だよ」
 
「なんかスーパーウーマンばかりじゃないですか?」
「みんな信じられないよね。ケイさんも昔から複数人説がくすぶっている」
 

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「そういえば、川上青葉・村山千里と苗字が違うのは、どうしてなんですか?」
 
「それについては悲しい話をしなればならない」
と言って、邦生はその件を話し始めた。
 
・川上青葉が、東日本大震災で、姉・両親・祖父母を一気に失い、天涯孤独の身になったこと。
 
・たまたま震災のボランティアで行っていた、村山千里と友人の高園桃香が川上青葉と意気投合して保護し、桃香さんのお母さんが未成年後見人になってあげたこと。
 
・それで、川上青葉は、村山千里・高園桃香と姉妹の契りをして、姉・妹と呼び合っていること。後見人になってくれた桃香さんのお母さん・朋子さんのこともお母さんと呼んでいること。
 
それまで巨額のお金の話には動ぜずに聞いていた豊畑さんが、この話にはぼろぼろ涙を流していた。
 
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「ほんとに辛いことがあったんですね」
「川上青葉が何にでも全力投球なのは、ひとつはやはり自分を忙しくして涙を流す時間を与えないためだと思うよ」
 
「強い人ですね」
「この4人はそれぞれ強い人だよ」
 

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「4人はそれぞれどこに住んでいるんですか?」
 
「山吹若葉さんは、仕事でひたすら飛び回っているから、固定の住所というものが無い。一応住民登録は小浜市に置いている。本人としても、そこが拠点という気持ちがあるみたい。ムーランの登記自体も最初東京にしていたけど、これも現在は小浜市に置いている。彼女の実家は東大和市。唐本さんの実家もその近くにある」
 
「そうか。小学校の同級生だったんですね」
と豊畑さんはメモを見ながら言う。
 
「唐本冬子・ケイさんは現在、東京恵比寿のマンションに住んでいる。でもローズ+リリーでの相棒のマリさんこと中田政子さんと共同生活してるし、彼女の実家にもよく滞在している。中田さんの実家は小平市だよ(*26). でも芸能人の住所は基本的に秘密だから絶対に口外しないでね」
 
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「分かりました!」
 
「川上青葉さんは、生まれは埼玉県の大宮だけど、岩手県の大船渡で育ち、そこで震災に遭った。その後は、高園さんの実家のある高岡市伏木に住んでいる。ずっと住んでいた家が区画整理にあったので、同じ伏木地内に新しい家を建てて昨年11月に引っ越した」
 
「村山千里さんは北海道の留萌市の出身。大学に入るのに関東に出て来て、千葉市に6年間住んでいたけど、その後、東京に引っ越して、更には子供を育てるのに、浦和に引っ越した。現在は浦和に建てた家に、実は村山千里さん、高園桃香さん、それに川上青葉さんの婚約者の鈴江彪志さん、そして4人の子供と一緒に住んでいる」
 
「その子供は誰の子供ですか?」
「その説明はあまりにも複雑すぎるから、今度また説明してあげるよ」
「なんか複雑なんですね!」
 
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「川上青葉さんが昨年10月29日以来、関東方面に行ってあれこれ作業をしているから、伏木の実家がお母さんひとりになってしまう。それで高園桃香さんが子供たちと一緒に伏木にいっったん戻って一時的に一緒に暮らしている。子供4人の内、2人は小学校・幼稚園があるので、現在は浦和に戻っている」
 
「浦和って市町村合併しましたっけ?」
「大宮と合併して“さいたま市”になったんだよ」
「あ、そうか」
「浦和の家には川上さんの部屋もある。川上さんにとっては、生まれ故郷に戻ったようなものだね」
「わあ」
 
「浦和の家も伏木の家も、川上さんが水泳をして、村山さんがバスケットをするから、地下1階にバスケットコート、地下2階に25mプール作られている」
「すごーい!」
 
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「浦和の家は2階建てだけど、伏木の家は平屋建て。こうなったのはやはり土地の問題があると思う」
「浦和だと土地が高そうですね」
「値段以上に広い面積を確保しにくいんだと思うよ」
「あ、そうですよね。田舎だとわりと土地が確保しやすい」
 
「どちらも車が8台駐められる。伏木は平面駐車場、浦和は立体駐車場だけど」
「ああ。でも8台って凄いですね」
「田舎は車が無いと生活できない上に、みんな頻繁に遠距離移動してるから、どうしても車の台数が増えるんだよね。来客も多いみたいだし」
「多そうですね」
 

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(*26) 冬子や政子の実家位置を簡単に示しておく。
 
↓東京多摩部部分図

 
冬子や若葉の実家は東大和市。
政子や詩津紅の実家は小平市。
冬子や詩津紅の高校は国分寺市(最寄駅:国分寺)。
若葉や和泉の高校は小平市(最寄駅:恋ヶ窪)。
 
美空が2014年に引越したマンションは国分寺駅から徒歩1分。
上島雷太が逮捕されるまで住んでいた家は国分寺市。
千里がよく使っていた武蔵野線は、国分寺駅の隣の西国分寺駅を通る。
 
東大和から国分寺に出るルートは2つあり、その内のひとつが恋ヶ窪を通る。冬子は高校時代、このルートの電車に乗っていて若葉に痴漢と間違われ、一緒に降りて高校をサボる羽目になる。
 
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「その4人、ご結婚は?」
 
「それがなかなか難しい」
「難しいんですか!?」
 
「山吹若葉さんは、実質結婚していて子供も3人居るけど、夫はずっとドイツに住んでいる」
「ドイツ人?」
 
「日本人だけど、自動車メーカーのデザイン部門に関わっていて、それでずっと本社に居るんだよ。だから山吹さんは頻繁にドイツに行ってたけど、コロナの流行でずっと渡航できずにいる」
「大変ですね!!」
 
「川上青葉さんは婚約者の男性がいるけど、多分パリ・オリンピックが終わるまでは結婚式は出きないと思う」
「結婚とかしてられないでしょうね」
 
「唐本冬子=ケイさんは、実態がよく分からないけど、多くの人の見方では、ローズ+リリーのパートナーでもある、中田政子=マリさんと実質結婚しているのではないかと思われている」
 
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「ああ。私もそうだと思ってました」
「でもケイさんには他に男性の婚約者がいる。またマリさんは子供を2人産んでいるけど、その父親は公表されていない」
 
「ケイさんに婚約者がいるんですか?」
 
「だから多くの人は、ふたりが同性婚であることをカムフラージュするためにレコード会社から言われて婚約者ということにしている、ダミーではないかと思っている。女同士では子供が作れないから、マリさんの子供は恐らく誰か友人の男性からタネをもらったのだろうと」
 
「ええ」
 
「ところがここに“ケイ複数人説”があって」
「へ?」
 
「ケイというのは10人くらい居て、1人がマリさんと結婚していて、1人がその“男性婚約者”と婚約しているのではないかと」
「うーん・・・・・」
 
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ケイ複数人説
1=ローズ+リリーのケイ(マリと夫婦)
2=KARIONの蘭子(水沢歌月)
3=秋穂夢久・紅石恵子(男性の婚約者がいる)
4=§§ミュージック会長
 
(8人説、10人説を唱える人もある)
 
「村山千里さんについては全く分からない」
「はい?」
「彼女は昨年1月に、結婚式を挙げているのだけど、20分の時間差で別々の人と結婚式を挙げている」
「重婚ですか?」
 
「本人は重婚はしてないと言っている。そもそも2つの結婚式に出た村山さんは、別の婚礼衣装を着ていたし、髪型も全く違っていた」
 
「うーん・・・」
 
「そんな短時間に婚礼衣装を着替えられる訳がないし、髪型を変更できる訳が無いから、やはり村山千里は最低2人いるとしか考えられないんだよ」
 
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「もしかして双子とか?」
「双子説は多くの関係者が否定している。結局よく分からない」
「うーん・・・」
「結婚相手は、ひとりは細川貴司さんと言って、中学のバスケ部の先輩、もうひとりは、高園桃香さんだよ」
 
「ああ。同性婚なんですね」
「なんか最近多いよね」
「別にいいんじゃないですかねー。本人たちの問題だもん」
と言ってから、豊畑さんは
 
「あれ?でもどちらの苗字も名乗ってないんですね」
と言った。
 
「そそ。そもそもバスケット選手としての登録は“村山千里”のまま。だから、千里さんには、村山千里、細川千里、高園千里の3人がいるのでは?と千里さんの友人の多くが言う」
 
「三つ子?」
「それも多くの関係者が否定している」
 
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夏樹が担当地区内の物件に関する膨大な資料を端末で読んでいたら、教室課長の山道さんが、もじもじした感じの21-22歳くらいの女性を連れてくる。女性は長い髪にストレートパーマを掛け、白い上品なワンピースを着ている。講師さんかなと思った。
 
「支店長、ちょっとご相談があるのですが」
と山道さんが言う。
 
夏樹は、個室に入ったほうが良さそうだと判断した。
「ちょっと会議室に入ろうか」
「はい」
 
それで3人で定員6名の小会議室に入る。
 
女性は「自分で自己紹介しなさい」と言われて発言した。
 
「支店長さん、初めまして。池田友紀(ゆき)と申します。」
 

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「君、女性的な声を出すの上手いね」
と夏樹は言った。
 
「私のこと分かりました!?」
と本人が驚いている。
 
「普通の人にはリードできないと思うよ。特に声パスする人はそれでもう普通に女性だとみんな思う」
 
「リードされたのって、高校卒業した後では初めてです!」
 
「山道課長、この人を女性講師として雇っていいかという話?」
と夏樹は山道に訊いた。
 
「はい、まさにその通りです」
「私は問題無いと思うけどね」
 

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「トイレとか更衣室の利用はどうしましょうか?」
「トイレは普通に女子トイレを使ってもらっていいと思うよ。更衣室は・・・」
と言ってから、夏樹は池田さんに訊く。
 
「池田さん、失礼ですが、去勢とかは?」
「したいんですけど、まだ取ってないんですよ」
「だったら・・・」
 
夏樹は少し考えて言った。
 
「女子更衣室の入口付近に、よく保健室とかにあるカーテンスタンドを立ててさ、そこで着替えてもらううというのはどうだろう?」
 
「男子更衣室ではなくと女子更衣室でいいですか?」
「カーテン立てて、お互い見えないようにすれば、あまり苦情は出ないんじゃないかなあ。この人を男子更衣室には入れられないでしょ」
 
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「分かりました。では用意します」
「よろしく〜」
 
「ありがとうございます。嬉しいです」
と池田さんは感謝していた。
 
まあ音楽関係にはこういう人多いよな、と夏樹は思った。
 
なお、彼女は“友紀”は通称で、それで郵便物なども届くが戸籍名は男性的というので、講師名などは通称を使用し社員証もその名前で発行するが、健康保険証や年金手帳、税務申告などは戸籍名を使用することにした。
 
 
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