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■春春(29)

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(C) Eriko Kawaguchi 2022-11-19
 
2022年4月23日(土).
 
H南高校女子バスケット部は、この日、南砺市の福野体育館で行われる、春季バスケットボール選手権大会に参加した(会場は4ヶ所に分かれている)。
 
南砺市は2004年に、福野町・福光町(『福光めでた』で有名)・城端町(じょうはな/城端線の終着駅:城端駅がある)・井波町(木彫りの里として有名 (*43) )など8町村が合併してできた市で、「こきりこ節」「麦や節」で有名な五箇山(ごかやま)地域を含む。船で行くことで有名な大牧温泉はここの利賀村である。
 
福野体育館はこの旧・福野町の運動施設である。
 
(*43) 井波町の瑞泉寺前にはギネス認定の世界一長いベンチが作られたことがあるが、以前にも述べたように、その後、解体されて消滅している。このため石川県志賀町のものが少なくとも日本一に復帰した。
 
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この日は朝7時半までに学校に集合し、春貴のキャラバンに選手8人と愛佳の母が乗って福野に向かった。更衣室は混むので、全員最初からユニフォームを着てその上にウィンドブレーカーを着けている。
 
「ルミちゃんは女の子になった?」
「それがまだなのよ。ちんちん切ってあげようかと言ったけど遠慮すると言って」
「遠慮しなくていいのに」
「せっかく女子トイレや女子更衣室に入れるようになるチャンスなのに」
「ルミちゃん、可愛いお嫁さんになれそうなのに」
 
ということで、晃は今朝までには性転換手術は受けなかったので?出場できない!
 
しかし女子たちからそんなことわ言われて、晃がドキドキした顔をしているので、やはりこの子、女の子になりたいのかな?と春貴は思った。
 
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「でも昨年秋の大会以来、半年ぶりの試合だぁ」
と2〜3年生は楽しそうである。
 
「バスケって冬の間は大会無いんだっけ?」
と春貴は運転しながら訊いた。バスケって冬のスポーツと思ってたのに。
 
「新人戦は人数不足で出られなかったんですー。4人しかいなかったから」
「あっそうか」
 
「1年生が4人入って8人になったから、ちゃんと試合に出られるし、交替要員も3人いるし」
 
1人は(まだ性転換手術を終えてないので!?)出られないと思うが!?
 

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8時すぎに到着。コロナで入場制限が掛かっていて、ベンチに座る人以外は入場できないので、愛佳のお母さんには申し訳無いが車内で待機していてもらう。
 
「駐車場待機ですみません」
「寝てますから大丈夫ですよ」
というので、持参の布団をかぶって寝ていたようである。
 
春貴は体育館に入ると、受付でエントリーシートと、自分および8人の部員のバスケット協会会員証を提出する。そしてコーチ証を受け取るので首から掛ける。これを下げている人だけが、ベンチ前で立ち続けることができる(控え選手は立って試合を見ていてはいけない:乱闘予防のための規定)。
 
火牛体育館での練習では春貴も動きやすいように、選手たちと同じ練習用のユニフォームを着用していたのだが、大会ではコーチは長ズボンの着用が求められている(選手がコーチを兼ねる場合を除く)それで、春貴は、選手たちと同じ白い試合用ユニフォームのトップに、同色のズボンを穿いていた。
 
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この大会は、1回戦→2回戦(4/23)→3回戦(4/24)→準々決勝(4/29)→準決勝→決勝(4/30) と進行する。
 
強いチーム(4チーム)は3回戦から、大半のチームは2回戦から、弱いチームは1回戦からというシステムになっている。H南高校は少なくともここ数年この弱いチーム同士の1回戦に大敗して消えている。最弱校のひとつである。
 
今日は1回戦と2回戦が行われる。この会場では(女子は)朝1番に1回戦(1試合)、その後2回戦の4試合である。1回戦に勝てば、午後に行われる2回戦に出られる。
 
春貴は、試合前の相手校の練習を見ていて
「ここ、うちと似たようなレベルの相手では?」
と思った。そもそも部員が5人ぎりぎりしか居ない!
 
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事前練習では、多数のボールを入れて一斉にミドルシュートを撃つ練習をしているのだが、
 
入ってない!
 
それに動きを見ていると、どうもバスケット経験者は2人だけで残りは頭数合わせか、あるいはほぼ素人の生徒を勧誘して入れたか、という感じである。
 
こちらも最弱校のひとつだけど、どうやら、対戦相手も同様の最弱校っぽい。
 
この相手なら、あるいは勝てるかもと思った(きっと向こうも同様に思っている)。
 

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第1試合のスターターには2〜3年生と河世を指名した。
 
4 谷口愛佳 ラブ 153 PG
5 高田舞花 ルツ 159 C
6 山口夏生 サマー 154 SF
7 竹田松夜 パイン 155 PF
8 原田河世 キュー 165 C
 
背番号の4〜8で、いかにも最強布陣という感じである!
 

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河世(165cm)と向こうのキャプテン(155cm)とでティップオフするが、この身長差があると、楽々と河世が勝つ。そもそも河世はバレー経験者だから高く上がったボールを打つのは大得意である!それでこちらが攻めて行き、舞花が美しいレイアップシュートを決めて、0-2.
 
試合はH南高校の先制で始まった。
 
そして試合は進んでいくが、両者の実力差が明白になる。
 
こちらはバスケットの経験者が2〜3年の4人と中学でもやっていた2人で一応6人いるのに対して、向こうは4番と5番をつけている2人だけが経験者のようで、残りはほぼ素人であった。レイアップシュートしようとしてトラベリングを取られたり、制限エリア内で3秒バイオレーションを取られたり。また、ダブルドリブルやバックパスをして笛を吹かれても「あれ〜?」のような顔をしている。どうもルールもあやふやっぽい。
 
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シュートも成功率が低いし、そもそもシュートする所まで辿りつけないようだ。何度もシュートを打てないまま24秒計が鳴って、こちらのボールになった。またリバウンドは全く取れない(河世が7割、舞花が3割取っている)。
 
たぶん普段ほとんど練習できてないのだろう。うち同様、体育館をもらえてないのかも?
 
一方、こちらはこの半月、ひたすらシュート練習をしたのが効いて、ミドルシュートの半分は入っている。特に1年生3人のシュート成功率は高いし、美奈子は8割くらい入れている感じだ。この子は凄くシュート精度がいいなと春貴は思った。ドリブルがやや下手だけど!
 
点差はどんどん開いていく。しかし向こうの4番さんと5番さんは楽しそうだ。そうだよね。楽しいからバスケをするんだよね。きっと人数が居ないのを必死で勧誘して、立ってるだけでもいいから入ってよとか言って入部させたのだろう。だから彼女たちは大会に出られただけで嬉しいんだ。
 
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春貴はそこにスポーツというものの原点を見た気がした。
 
勝つことだけがスポーツじゃない!
 
まあ勝った方が、より楽しいけどね!!
 

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そういう訳で、H南高校は、この初戦に、20-64のトリプルスコアで勝利することができた。
 
メンバーは物凄い喜びようだった。
 
「女子バスケット部創設以来の初勝利かも」
などと言っている。
 
「君たちは、良くやった」
と春貴も部員たちを褒めた。
 
初戦に勝利したことは、メールで横田先生に報告しておいたが
「快挙だね!」
と言ってもらった。男子は別の会場になっている。
 

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ところで、対戦校のメンバーが引き上げて行く時
 
「向こうさん、11番の選手使わなかったね」
「午後の試合に温存したんだろうね」
「背が高くて強そうだもんね」
などと会話しているのを聞き、春貴は「ん?」と思った。
 

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そういう訳で、H南高校は午後の2回戦に臨むことになった。
 
さて、1回戦ではこちらがホーム扱いの白いユニフォームで、相手がアウェイ扱いの赤いユニフォームだった。2回戦はこちらがアウェイ扱いになり、濃緑のユニフォームに着替えることになる。
 
「じゃ、ユニフォームを着替えてお弁当を食べよう」
と春貴は言ったのだが、
 
ここで!
 
2年生の2人がお弁当を持って来てない!という事態が判明する。
 
「ごめんなさい!午後まで試合があるとは思わなかった」
 
ということで、春貴は荷物持ちしてもらおうと晃に声を掛け、自分の着替えを持たせて一緒に駐車場に行き、愛佳のお母さんに五千円札を渡して言った。
 
「1回戦勝ちました。午後にも試合があるのですが、お弁当を持って来てなかった子がいたんです。大変申し訳ありませんが、コンビニに行って、お弁当2人分と、あと飲み物やおやつを適当に買ってきてもらえませんか」
 
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「勝ったの?すごーい!快挙ですね!」
「ええ、選手たちはよくやりました」
 
晃には
「ついでにトイレを借りて着替えておいでよ」
と言って、送り出した。
 

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それで春貴は体育館に戻り、更衣室に入るが、
 
「君たちは罰金だな」
などと舞花が2年生2人に言っていた。
 
「本当にごめんなさい」
 
「しかしルミちゃん、着替えは女子更衣室に連行しようと思ってたのに残念」
 
などと五月が言っていたので、晃を買物に同行させて正解だったな、と春貴は思った。
 

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H南高校女子が出場する2回戦は14時くらいの予定である。この日この会場での(女子の)最後の試合となる。つまりH南高校はこの日の最初の試合と最後の試合に出たのである。
 
「この高校とは昨年秋の大会では126-20で負けました」
と2年生の夏生が言っている。セクストゥプル・スコア!?(*44)
 
「だったらリベンジだね」
と春貴は明るく言い、キャプテンの愛佳も頷いていた。
 
ところがその、秋の大会でこちらに大差で勝った相手チームが、試合前のこちらの練習を見て、ざわついていた。
 
練習では、晃をゴール前に立たせて、その防御にもめげずシュートをする練習をしていた(普段校舎裏でやっている練習だし、第1試合の前にもやった)それを見て向こうが何か話し合っているので、こちらの選手たちはみんな「何だろう?」と思っていたようである(春貴と愛佳だけが気付いている)。
 
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(*44) ○倍の言い方
 
2 ダブル(double)
3 トリプル(triple)
4 クアドゥルプル(quadruple)
5 クイントゥプル(quintuple)
6 セクストゥプル(sextuple)
7 セプトゥプル(septuple)
8 オクトゥプル(octuple)
9 ノヌプル(nonuple)
10 デクプル(decuple)
100 セントゥプル(centuple)
 

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13:50.
 
少し早めに試合が始まる。こちらはこのようなメンツで出て行った。
 
4 谷口愛佳 ラブ 153 PG
5 高田舞花 ルツ 159 C
8 原田河世 キュー 165 C
9 鶴野五月 メイ 152 PG
10 綾野美奈子 ビナ158 PF
 
2年生はお弁当の件の罰として、この試合ではスターターから外した!
 
このスターターを見て、向こうが何だか首をひねっている(なぜ背の高い子(晃)が出てこないのだろう?と思っている!)。
 

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ティップオフは、河世と相手の6番を着けたセンターさん(162cm)でやったが、向こうが勝った。身長差は3cmあっても、向こうのスキルが上回っていたようだ。河世が悔しがっていた。
 
それで向こうが攻めてきたもののシュート失敗。そのリバウンドを河世が取って、愛佳がドリブルで攻め上がる。そして舞花がレイアップシュートを決めて、結局こちらが先制して試合は始まった。
 
春貴はベンチ前で立って、時折声を出して指示しながら試合を見ていたのだが、ベンチに座っている2年生の松夜が言った。
 
「向こうさんマジです」
「マジ?」
「昨年秋の大会の時は14-18番で出て来たんですよ」
「ん?」
「今日は4-8番で出て来たもん」
「今年のH南は手強いぞと思ったんだろうね」
と春貴は言った。
 
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春貴は試合を見ていて、このチームは午前中のチームとは違い、“まともな”チームだと思った。みんなちゃんと練習している。うまい・へたはあるけど!
 

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絶対的なスキルと体格の差で、こちらは向こうの制限エリアにはほとんど入れてもらえない。
 
しかしこちらは、この半月ひたすらミドルシュートの練習をしたので、中に入らなくても、ミドルシュートでしっかり点を稼いでいく。午前中の試合では半分くらい入っていた感じが、みんな勝利に気を良くしたせいだろうか。7割くらい入っている気がした。
 
そのミドルシュートを相手が阻止しようとすると、しばしばファウルになり、フリースローをもらう。するとミドルシュートを鍛えているだけあり、フリースローも高確率で入る。それで実力差はあるのに、点数としては拮抗しているのである。
 
春貴は思っていた。この子たちは“才能はある”。でもこれまで練習場所が無いという悲惨な環境にあったので、勝てなかっただけだ、と。しかし取り敢えず午前中に1勝あげられて、みんな自信を付けたと思う。この試合に勝てるかどうかは分からないが、来月のインターハイ予選ではきっと3回戦くらいまで行ける。
 
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春貴は晃に選手交代の時刻を記録させ、それを参考に、各自に疲れが溜まらないよう、サイクリックに選手を交代させながら試合を進めた。2年生の2人は、お弁当の件の名誉挽回と、異様に気合が入っていた。
 

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