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■春春(11)

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郷愁飛行場に着くと、千里が“黒いインプレッサ”を貸してくれた。それで優子はその車を運転して千葉まで行き、夏樹のアパートに入った。
 
アパートに入ってみて、優子は呆れた。全然荷造りできてないじゃん!私が来なかったらやばかったよ。
 
最初に判明したのは、これは運送屋さんの手を借りないと無理だ!ということであった。衣料などはどうにでもなるが、大型家具の類いは、女2人では動かせない(夏樹はもう男性時代のような腕力は無い)し、載せられる車も無い。そもそも荷物が1Kの荷物とは思えないほど凄い。書籍類は前から多いなと思ってたけど、たぶん本だけで段ボール箱30個くらい必要だ。2018年の水害で全て失ったと思うが、あの後買い集めたのだろうか。エレクトーンやクラビノーバは素人にはどうにもならない。冷蔵庫・洗濯機もあるし。バイクも課題だ。
 
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4月3日、優子はあちこちの運送屋さんに電話してみたが、どこでも、今の時期は無理だと言われる。引越のシーズンだもんね〜。しかも料金がむっちゃ高い!通常期の倍になっているようだ。
 
優子は、色々裏情報を知ってそうな桃香に電話してみる。
 

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「千里の知り合いの運送会社で“緑組”という所があるんだよ。ここは播磨工務店という建築会社の運送部門だから、一般の仕事は受けてない。でも千里に頼めばやってくれるはず」
 
結局千里頼りか!
 
それで優子は、おんぶにだっこで悪いと思ったが、千里に電話してみた。
 
「ああ。あいつら、ちょっと荒っぽいから、大事なものはやらせないで。万一壊れても最悪買い直せるものだけ頼んで」
という話であった!
 
“緑組”の営業担当者はその日(4/3)の内に来てくれた。部屋の中を見てから尋ねられる。
 
「エアコンの取り外し・取り付けもしましょうか?」
「お願いします。素人では辛いです」
「エレクトーンとクラビノーバの移動もこちらに依頼なさいます?」
「引越シーズンで他に頼める所が無いのでお願いします」
 
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100万円以上する楽器だが、残しても行けないし、壊れた時は壊れた時だ!千里は“買い直しがきかない物”は預けるなと言ってたし。
 
「他にバイクもお願いしたいんですが」
「何ccですか?」
「250ccです」
 
「分かりました。エアコンの取り外し・取り付け、エレクトーンとクラビノーバにバイクの移動まで入れて10万かな」
と言った。
 
うっそー!?普通ならエレクトーンの移動だけで10万取られるのに。それに荷物が1DKにしては多い。本当に大丈夫か?と不安になるが、他に頼める所が無いので頼むことにした。
 
4月5日の夕方19時に取りに来てくれることになった。「サービスです」と言って、段ボール箱を50個と荷造り用テープをくれたが、これだけで2万くらい行っている気がした。ガソリン代と高速代も2万くらい飛びそうなのに。高速も使わずに下道を走っていくとか??下道で走ると碓氷峠や白馬付近がかなりきついけど(←優子自身は高速代をケチって何度もこのルートを走っている)。
 
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もしかしたら、千里さんが「知り合いだから安くして」とか言ってくれたのかな?それならこの料金もあり得るかも。
 

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3日の夕方、帰宅してきた夏樹に、優子は運送屋さんに頼んだことと、引越先の説明とをした。
 
「引越先はマンションとかじゃなかったの?」
と夏樹が驚いて訊いた。
 
「それがさあ」
と言って、父が張り切って、金沢に家を建てるという話になってしまったこと。千里さんから、金沢市M町、YY楽器金沢支店まで歩いて15分ほどの場所に土地・家屋付き1600万円の家を買うことにしたことを説明した。
 
「なんか凄い話になってる」
「私も急展開で驚いている。でも千里さんの持って来た話なら間違いないと思う」
「それは私もそう思う。あの人は信頼できる。でも1600万円の支払いは?」
 
「分割払いでいいよと言われてる。だから無理なく返せる計画を立てて提示してほしいって。引越が落ち着いたら、お父ちゃんと話して決めないと。父ちゃんか今450万ほど持ってるのよ」
 
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「言ってたね!450万なら頭金になりそう」
「そうそう。これ使い込まない内に、支払わなければ」
「私も500万出すよ」
「そんなお金あるんだ!」
 
「代理母の報酬でお兄ちゃんから1000万円もらった。その半額でこのMX-30を買った。だから残り500万残ってるんだよ」
「それ使っていいの?」
「もちろん。私たちの家だもん」
 
「でも代理母の報酬に1000万円って凄いね」
「それまでの不妊治療で2000万使ったらしいよ」
「ひぇー!恐ろしい」
 
それで1600万円の内、1000万円くらいは、支払いのメドが付いてしまったのである。
 

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ところで桃香は、高岡の家が区画整理に掛かって、それで青葉が新しい家を建て、そこへの引越のために11月13日に浦和から高岡に来て以来、ずっとこちらに居る。そして、だいたい昼まで寝てて、その後、酒を飲みながら、夜遅くまでゲームとかをしているようである。
 
桃香は料理もできないし、食事の買物させるとお金ばかり使って大した量が無かったりする。そもそも車の運転が下手なので、危なくてさせられない。
 
子供と一緒に遊ぶくらいはできるので、朋子は孫2人(緩菜・由美)を桃香に見ていてもらって、その間に買物に行って来たりする。(青葉が手配してくれた、らでぃっしゅぼーやにも助かっている)
 
青葉や千里が桃香を高岡に置いているのは、青葉がずっと関東方面に滞在しているため、桃香が浦和に戻ると、こちらの家は朋子ひとりになってしまい、何かあった時にヤバいからである。たぶん猫程度には役立つはず!
 
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しかし高岡滞在が3ヶ月に及んだ2月中旬、朋子はたまりかねて言った。
 
「あんたさ、30代の健康な女が何もせずに昼間から酒飲んでるだけというのは絶対良くない。まだしばらくこちらに居るのなら、パートにでも出たら?」
 
「私のできる仕事とかあるかなあ」
「うーん・・・」
と朋子も悩む。
 
桃香は気が利かないし愛想が悪いから、コンビニスタッフなどの客商売は難しい。料理のセンスが絶望的に無いから、厨房とか食品製造工場とかの仕事もてきない。運転が絶望的に下手だからGSスタッフとかウーバーみたいな仕事もできない。
 
(なんか絶望するものが多い)
 
実は千葉に居る桃香Aがやってる塾講師というのは、桃香ができる数少ない職業のひとつである。理学修士を持っているだけあり、科学的な知識は膨大である。専門の数学だけでなく、物理や化学についても詳しく実際『高園先生の有機化学の講義は分かりやすい』と評判である。
 
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桃香は生徒からの高度な質問にもスラスラ答えるし、理科系大学入試問題の難問も20-30秒考えただけで「あ、分かった」と言って解いてしまう。生徒からの信頼が絶大である。他の先生も桃香に色々尋ねたりする。
 
もっともみんな桃香のことは男性と思っているけど!
 
でもお陰で男子トイレを堂々と使えて「便利便利」と思っている。桃香は、また男子更衣室を使うのは平気である。
 
(桃香Aは社会的には男性に性転換済みかも!?)
 

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千里は桃香Aに
「性転換手術して男に変えてあげようか」
と言ったこともあるが、
 
「男の身体になったら季里子に振られる」
と言って、辞退した。
 
「それに私、男になったら絶対、性犯罪者として捕まる自信がある」
などとも言っていた。
 
「自分の性癖、よく分かってるじゃん」
と千里も答えた。
 
貴司がこれまで逮捕されなかったのは、ただのラッキーだよなという気もする。貴司もそろそろ男を廃業したほうがいいんじゃないかなあ。
 

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「あんた土方でもする?」
と朋子は訊いたが
「それはさすがに腕力に自信が無い」
と桃香は言う。
 
桃香は現場に出れば男として扱われるだろう。桃香は女としては割と腕力があるほうだが、男としては非力である。桃香は30kgを持てないから、土方をすれば多分1日でクビになる。
 
「内職とかは?」
「昔やったことあるけどエラー品が多すぎて、マイナスになった」
 
確かに桃香はその手の作業をさせると仕事が雑っぽい。結果的には工場のライン労働者とかにも向かない。
 
「テレワーク」
「20代の子しか取ってくれないと思う」
 
「そうだ!通信教育の採点者とかは?」
「あれは自己管理が出来て、きちんとした性格の人でないと無理だと思う。私みたいなムラ気のある人間には向かない」
「まああんた確かに自己管理は全くできないよね。あんたひとり暮らししたら半年で孤独死するよ」
「ありそうだ」
 
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しかし朋子は言った。
「要するに、あんたの生活リズムを強制して、毎日仕事をさせる人が付いていれば、できるんじゃない?」
「うっ。そういう人が居たら、ひょっとしたらできるかも」
 
でも千里はそもそも多忙な上に自分以上にムラ気だからなあと思う。季里子はすごく、きっちりした性格だから、それで千葉の桃香は仕事を続けられている。
 
「緩菜〜!」
と言って、母は緩菜を呼んだ。
 
「緩菜さあ、これから“お父ちゃん”(*19) がお仕事することになるから、毎朝8時までに起こしてあげて、10時くらいになったらお仕事するように言ってあげて」
 
「うんいいよ」
 
「緩菜は・・・厳しそうだ!」
 

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(*19) 京平と緩菜のおとなたちの呼び方
 
千里:お母ちゃん
桃香:お父ちゃん
貴司:パパ
彪志:彪志お兄ちゃん
青葉:青葉お姉ちゃん
朋子:おばあちゃん
季里子:ママ
 
(京平は阿倍子もママ、緩菜は美映もママだが、季里子とこの2人が同時に同じ場所にいることは考えられない。また京平・緩菜はは津気子・保志絵もおばあちゃんと呼ぶ)
 
早月・由美はまた違う呼び方をするが省略。
 

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優子は、ひたすら荷造りをしていた。結局夏樹が連絡して、夏樹の母も来て荷造りを手伝ってくれた。それで2人で、ひたすら“緑組”さんがくれた段ボールに詰めていく。それで4月3日から5日午後まで3日掛かり・2人掛かりで、何とか夏樹の荷物をまとめたのである。
 
「でもあの子、Hな本とかが無いのね」
「水害で流されたのでは」
「あ、そういうことか」
「男の子が女の子に変わってしまう漫画とか、だいぶ読んでたみたいですよ」
「ああ、そういうのが好きなのか」
 
重要な技術書の類い、壊れやすい陶磁器・ガラス製品、CD/DVD関係、パソコン関係の機器、電子キーボードや管楽器などを先に夏樹のMX-30に積み込んだ。他にすぐ使う衣類、また向こうですぐ使いそうな、電子レンジ・IHヒーター・湯沸かしケトル、フライパンと煮鍋などの類いも、自分たちの車に積んだ。荷室だけでは入りきれないから後部座席の床、助手席とその床にもかなり載せた(後部座席そのものは仮眠のため空けておく←シートベルト違反!)。
 
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4月4日の夕方、千里がSCCの車に乗って、夏樹のアパートにやってきた。
 
「今日契約が成立したから、前の持ち主から私が買い取って、土地の移転登記も終えた。これでいつでもそちらに引き渡せるよ」
 
「こちらはまだ正確な金額じゃないけど、頭金で1000万くらい払えそう」
「だったら残りは楽勝だね」
 
夏樹が質問する。
「建築費が1000万円くらいと聞いたんだけど、凄く安い気がするんだけど」
 
「ユニット工法だから。部品を運んで来て、組み立ててボルト締めるだけ」
「なるほどー」
 
だから1000万で済むのかな。まあいいか、住めれば問題無いよね、と優子は思う。
 
(↑プレハブ住宅みたいなものを想像している)
 
「木下藤吉郎が墨俣に作った一夜城がユニット工法だよ」
「あぁ」
 
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「川の上流で蜂須賀小六たちが、城の部品をせっせと1ヶ月くらい掛けて作る。そして夜中、闇夜に紛れて筏(いかだ)に部品を乗せて川を下り、多人数かけて組み立てて、あっという間に城が出来てしまう」
 
「昔からそういう考え方はあったのね」
「秀吉は建築の天才だから、知ってたんだろうね」
 

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「それで設計図を書いたんだけど」
と言って、千里は図面を見せてくれた。
 

 
「すごーい。1階にも2階にもお風呂とトイレがある」
「2世帯住宅に近いね」
「実質2世帯が暮らすしね。それに5人暮らすのにお風呂トイレが1つしか無いと、まともな時間内にお風呂入れないし、トイレも朝とかパニックになるよ」
「そうかも」
 
「2階は洗面台が2つある」
「モニカちゃんと、大きくなったら奏音ちゃんがお化粧するだろうし」
「私がお化粧しないことは理解(わか)ってるな」
「優子ちゃんがお化粧した所とか、ほとんど見たことない」
 
「仏間、6畳で設計したんだけど足りる?縁側で張り出して広げる手もあるけど」
「いや、このくらいあれば充分だと思う」
「そんなにお客さんが来るとは思えないし」
「父ちゃんの葬式する時は“置き縁”で」
「いや葬式でなくても置き縁は便利だと思う」
 
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ここでいう仏間というのは、北陸の住宅に特徴的なもので、玄関を通らずに(掃き出し窓から)直接入れる応接室である。日常生活を送る居間とは区別される。“神婚”で取り上げたような、奈良県の伝統的な住宅では居間の奥に仏間があるが、富山石川の住宅では、仏間の奥に居間がある。
 

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「2階はここに奥行き1間のクローゼットがあるのね。部屋をもう半間広くできないのかな」
と優子が言った。
 
「それをすると、その部屋が7畳半になっちゃうのよ」
と千里は言う。
 
「7畳半は禁忌だよね」
と夏樹が言う。優子は首を傾げているので、優子は知らなかったようである。
 
「うん。切腹の間と言って、絶対に作ってはいけない部屋」
 
と千里は言うと、自分のパソコンで適当な工務店のサイトを開いて説明した(解説しているサイトは多い)。
 
「江戸時代に武士が切腹する時、卍型に敷いた四畳半の間で切腹し、見届役の人がそれに続く三畳の所に居たんだよ。七畳半の部屋もいけないし、四畳半の畳は巴型に敷かなければならない」
 
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なお巴型の敷き方は茶室などに見られるもので、中央には茶釜がある。卍型と巴型は向きが逆なだけで似ているが、中央にあるのが、切腹と茶釜では大違いである。
 

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春春(11)

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