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■春春(15)

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邦生はその日、銀行に出勤すると、上司の沢本課長に言った。
 
「すみません。急で申し訳無いのですが、13日にお休みを頂けませんでしょうか」
「ああ。いいよ」
「実は突然結婚することになって」
「ああ、結婚するとは言ってたもんね。日取りが決まったのね」
と課長は言ってから
「お仕事は続けてくれる?」
と心配そうに訊く。
 
「もちろん続けます」
「良かった。今君に辞められたら困るからよろしく。明日入ってくる新人を君に1人付けることになっているから、津幡の件はその2人でお願いね」
 
「分かりました!」
 
「2月に指輪をもらったとか言ってたよね」
と花畑係長が言う。
 
「いえ、私が贈ったんですが」
「最近は女から男にもエンゲージリング贈るんだっけ?」
「いえ。相手は女性なので」
 
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と邦生が言うと課長は目をパチクリさせていたが
 
「最近は色々なのがあるから、それもいいかもね」
と言っていた。
 
「ありがとうございます」
 
「ぼくはホモには抵抗があるけど、レズは構わない気がする」
などと花畑さんは言っている。
 
何かこういう微妙な人居るよね?レズは抵抗あるけどホモは構わないとか、ホモは気持ち悪いけど、レズならいいとか。
 
自分と真珠の関係は自分としてはストレートのつもりだけど、人によってはレスビアンに見えたり、ゲイに見えたりするかも知れない。
 

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「披露宴とかしないの?」
と係長が訊く。
 
「一応、ネット祝賀会形式で、夕方19時から21時まで」
「おお。だったらぼくも参加したいから招待してよ」
「ぼくにも招待状ちょうだい」
と課長・係長が言うので、ふたりに葉書を渡した。
 
「参加してくださる場合は、この招待状に記載しておりますURLかQRコードからお願いします」
 
などと言っていたら、長野珠枝が立ってくる。
「祝賀会というと、会費制なのね?」
 
「はい、そうです。会費は1万5千円にさせて頂いて、御祝儀はご辞退させていただきます。支払いは、各種クレカのほかPayPayでも払えますので、またネットですので、服装は平服でお願いします」
 
「ネットなら、豪華ドレス着ても意味ないよね!」
「はい。ドレス着るのは結婚する当人たちだけです」
 
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「相手も女の子なら、どちらもウェディングドレス?」
「なんか、そういうことになっちゃいました。私がタキシード着ると言ったのですが却下されて」
「そりゃ折角の結婚式だもん、ちゃんとウェディングドレス着なよ」
「恥ずかしいんですけど」
 
「女同士なんて最近珍しくないから恥ずかしがることないよ」
と長野さんは言っていた。
 
課長は言った。
「でも13日は水曜日だよね。その後、新婚旅行とかに行かないの?」
「コロナのご時世なので、新婚旅行はパスで」
「でも課長、木金はお休みあげましょうよ。結婚式の翌日に勤務とか可哀想ですよ」
と長野さん。
 
「そうだね。君、水曜から金曜まで有休あげるから、ゆっくりと日曜まで過ごしなさい」
「そうですか。ではそれでお願いします」
 
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それで邦生は有休届けを書き直してデジタル捺印し、課長に送信した。
 
「くにちゃん、その招待状30枚くらいちょうだい」
と三村小梢が言う。
 
「30枚!?」
「いつもの女子会メンツに配るから」
「あははは」
 

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4月8日は学校・幼稚園などが始まる。この日の朝、“古庄奏音”は新しい制服を身に付け、優子に手を引かれて、新しい幼稚園に登園して行った。富山石川ではあまり言葉の差違は無いし、だいたい神経が太い子なので、奏音はすぐ新しいお友だと仲良くなったようであった。
 
奏音の苗字だが、どうせ苗字を変えるなら、引越のタイミングで変えるのがよい、と大人たちの意見が一致し、夏樹は4月中に奏音を自分の養子にする予定である。それで、奏音は法的には、実母の優子、養母の夏樹という2人の母親を持つことになった。
 
幼稚園には「苗字が変わる予定」ということで、フライング登録した。
 
本人は「こしょう・かなで」「こしょう・かなで」と100回くらい発音練習していた。更には「古庄さ〜ん」と呼ばれて「はーい」と返事する練習もたくさんしていた。
 
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「わたし、かわるのはみょうじだけ?せいべつはかわらないの?」
「女の子のままだよ」
「おとこのこになったら、たっておしっこしてみたいなあ」
「大人になってから、男になりたいか女になりたいか、自分の気持ちで選べばいいよ」
 

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4月8日(金).
 
H銀行では、昨日まで火牛ホテルで研修を受けていた新入行員たちが各支店に配属されてきた。
 
瑞穂は朝7時に真珠に起こされ、半分眠りながら御飯を食べ、お化粧してから出掛けようとして、邦生に「口紅塗り忘れ」と指摘されて慌てて塗ってから出掛けていった。
 
「間に合うかな」
「道に迷わなければ大丈夫と思うけど」
 
その後、邦生も出掛けた。
 
11時頃、会議室に呼ばれるので行くと、支店長・融資課長・渉外課長・投資課長と揃っているので緊張する。邦生の後から、女子行員が1人入ってくる。
 
見知らぬ顔だし、お化粧が初々しいので、新人と判断する。この子を火牛タウンの件で自分に付けるのかな。
 
でも意志の強そうな顔をしている。やはり金沢支店に配属されてくる女子って、“OL”気分の子は居ないよなと思った。たぶん富山の本店も同様だろう。新人研修の準備の時に共同作業した本店の子たちももテキパキとした“できる”感じの子ばかりだった。1人、邦生同様ズボンを穿いてる子が居て、思わず握手した!
 
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支店長が言う。
「紹介するね。こちら今年入社して金沢支店・渉外課に配属された、豊畑雛美(ひなみ)さん、こらは投資課の吉田邦生(くにお)さん」
 
「それで吉田さん、火牛スタジアムと、運営会社のグリーンフェニックスに関して、2人で共同で当たってもらおうと思って」
 
「はい」
 
「そういう訳で、豊畑さん、これから整備工事が始まる火牛スタジアムという案件と、その運営会社のグリーンフェニックスについて、吉田さんと共同で顧客対応をして欲しい」
 
「はい」
 
「では後は、吉田さんから説明してあげて」
「分かりました」
 

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それで、支店長たちが出て行くので、邦生はこの会議室をそのまま使わせてもらい、まずは物件の説明をした。
 
・現在津幡町の元スポーツセンター跡地に一大公園ができつつある。
 
・土地の所有者はグリーン・リーフ。ここにこれらの施設が建設済み、或いはこれから建設される予定、
 
−火牛スポーツセンター(専用プール・一般プール・アクアゾーン・火牛ホテル・火牛アリーナ・屋内テニスコート・屋内グラウンドゴルフ場)
 
−火牛バーク(公園)
 
−火牛スタジアム(サッカー場&全天候型陸上競技場)
 
「火牛スポーツセンターが第1期工事、火牛パークが第2期工事で、これが今年の春にオープンした。火牛スタジアムが第3期工事でこの工事はたぶん1年ちょっとかかる」
 
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「それで第三期工事の建設費80億円を融資して欲しいという申し入れがあり、うちの銀行は受けた。工事完成後に建築会社にうちが支払い、グリーン・フェニックスは、毎年20億円+利子を4年間払って完済する」
 
「なんか凄いアバウトな返済ですね」
「実際お金を借りる必要は無いんだと思う。ただ銀行と付き合っておきたいからちょっと借りてみたという所」
「うーん・・・」
 
「だからこの機会に、給与の振り込みをうちの銀行からなさいませんかとか、クレカ作りませんかとか、社員の方たちのボーナスが出たらぜひ定期預金をとか、その手の営業をするのが、豊畑さんの仕事になると思う」
 
「なるほどぉ!それはやり甲斐がありますね」
 
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邦生は火牛タウンを運営してる各企業について説明する。
 
「何か大きな会社っぽく見えるけど、実は、どの会社もほとんど個人経営の会社なんだよ」
「へー」
 
「押さえておかなければいけないキーパーソンが居る」
と言って、邦生はホワイトボードに書き出す。
 
川上青葉 Green Leaf
村山千里 Phoenix Trine
唐本冬子 Summer Girls Publishing
山吹若葉 Moulin Holding
 

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「グリーンリーフは、川上さんの個人資産管理会社で、あまり大きな業務はしてないけど、あちこちのプロジェクトに出資して、凄い利益が上がっている。村山さんのフェニックス・トラインとの共同事業“松本花子”の利益が物凄い」
 
「松本花子って、あの作曲家集団のですか?」
「そうそう。実はこの2人か共同で設立した会社なんだよ」
「へー」
「ちなみに2人は姉妹で、川上青葉はアクアのメインライターの大宮万葉で、羽鳥セシルのメインライター・ 桜蘭有好、そして“霊界探偵”金沢ドイルだよ」
「すごーい!そんなに作曲で活躍している上に霊界探偵までしてるんですか」
 
「更に水泳の東京オリンピック代表で金メダル取ったね」
「あの川上選手なんですか!すごーい!!」
 
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「火牛アリーナに隣接する“津幡組”の専用プールが練習の本拠地だね」
 

「フェニックス・トラインは、林業を中核とする企業集団の持株会社。北海道、栃木県、北陸3県、兵庫県に広大な森林を所有していて、製材、製紙、キノコ栽培、牧畜などをしている。ハム・ソーセージも製造しているから、その関連事業で主として北海道にいくつもの養殖場を持っていて水産加工品の缶詰とかも作っている」
 
「あと多数の化学工場を所有していて、プラスチック製品、アクリルボード、防音板、アクセサリーなどを製造している。今私が付けてるこの指輪」
 
と言って、邦生は自分の左手薬指の“プラスチーナ”の指輪を外して豊畑さんに見せる。
 
「あれ、これプラスチックだ!」
 
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「まるでプラチナみたいに見えるプラスチックでプラスチーナというんだよ。こういうのを作って普段使いのアクセサリーを製造している」
 
「おもしろーい」
 
「他にもトイレットペーパーとか、不織布マスクとかも作っている。またコットンとか紅茶とかをインドから輸入したり、インドネシアからコーヒーを輸入したり、スペインからスポーツ用品を輸入したり、その手の輸入部門も大きい」
 
「凄い大きな会社なんですね」
 
「どうも50-60人から成る側近集団を持っていて、実際の業務の指揮はその人たちがしているみたいね」
 
「ひとりではできませんよね!」
 
「更にこの人は、山森水絵のメインライター鴨乃清見で、多数の歌手に楽曲を提供している琴沢幸穂、醍醐春海でもある」
 
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「琴沢幸穂の名前は結構聞く気がします」
 
「そしてバスケット選手でもあって東京オリンピクに日本代表として出て銀メダルを取得した」
 
「なんでそんなにひとりでできるんですか〜〜!?」
 
「だから村山千里複数人説というのが昔からある」
「うーん・・・」
 

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「山吹若葉さんは、移動レストラン“ムーラン”の事業が当たって、その後、ムーラン・リゾート、ムーラン建設、ムーラン・ハウジング、ムーラン・エレクトロニクス、など多数の事業を立ち上げている。物凄く多忙で、ヘリコプターとジェット機で全国を飛び回っている。日本で最も年間移動距離の長い社長さんかも」
 
「へー」
 
「2020年春以降のコロナ下で、デリバリー部門が物凄い利益を上げていて、現在個人資産は2-3兆円と思われる」
 
「兆!?」
 
「ムーランの株式をもし公開したら、その10倍行くだろうね」
「公開しないんですか?」
 
「株式公開して、一般の株主ができると、株主たちは会社が利益をあげるように要求する。でも山吹さんは、むしろ資産を減らしたいと思っている」
 
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「減らしたいんですか!?」
 
「山吹若葉さんはいつも『お金が余って余って困る』と言っている。だから山吹さんを動かすキーワードはね。『社長、これやるとお金が減らせますよ。やりませんか』という言葉」
 
「私、その社長好きになったかも」
「面白い人だよ」
 

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