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■夏の日の想い出・止まれ進め(28)

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9月5日(月).
 
都城の藤弥日古は女子制服を着て登校した。この日は雨模様だったので水玉模様の可愛い傘を持っていった。校門付近で会った友人が
「傘、可愛いね」
と言ってくれた。
 
女子制服も3日目になると、もうこれで登校するのが当たり前になり、何も緊張などしないし、7月まで男子制服を着ていたこと自体、忘却の彼方にあった。
 
3時間目の途中で身体測定・心電図検査・内科検診がある。弥日古は他の女子と一緒に保健室に行く。
 
非接触の体温計で体温を計測され、入口で手をアルコール消毒する。着替えを入れるビニール袋を渡される。
 
制服のブラウスとスカートを脱ぐが、みんなが自分の下着姿を注視している。でも弥日古はその視線に気付かないふりをしていた。
 
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「168cm」
「45kg」
 
と測定される。
 
「あれ?藤さん、7月は169cm 47kgだったのに」
「身長は測定誤差かもー。体重は夏休み中バイトしてたのでそれで減ったのかもです」
 
「ああ、バイトしてたんだ?」
と保健の先生は納得していた。
「それに私、ちんちん取っちゃったから、その分軽くなったのかも」
と弥日古が言うと
「そんなこともあるかもね」
と先生は笑っていた。周囲の女子も笑っていた。
 
実際には女の子にすると身体が1%くらい縮むよと言われてたからその効果だろうなと思った。長さで1%縮んだ場合、体積は 0.993= 0.97 で体積は3%減る計算になり、体重も1.5kgくらい減るはずである。やはり身体を
作り変えるために消費されるのかなあと漠然と考えていた。
 
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実は身長の縮みが目立たないように今日は厚手の靴下を履いてきて、身長を測られる時はできるだけ背伸びする感じにしていた。
 

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下着姿のままカーテンの向こう、心電図検査に行く。ここでブラジャーも外してベッドに横になる。ひとりずつベッドをアルコール消毒しているようでアルコールの臭いが凄い。
 
そこで待っている内に次の順番の布連(ふれん)ちゃんが来て言う。
 
「どう考えてもちんちんの重さが5kgもあるとは思えないのだけど」
「もちろんジョークだよ。やはり東京での1ヶ月半は、毎日お仕事があったから身体が引き締まったみたい」
「へー。聞いたりしちゃいけないって言われたけど、手術の跡はもう傷まない?」
「全然。ここだけの話、この夏休みに性転換したわけじゃないんだよ」
「やはりとっくに手術は済んでたのね」
「内緒内緒」
「なんか怪しい気がしてたのよね」
「あれ1年くらい回復しない人もいるみたいね」
「大変だね!」
 
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(弥日古は嘘は言ってない。でも翌日までには「やいちゃんは高校1年の夏休みに松江の病院で性転換手術を受けたらしい」という噂が全女子に広まることになる。どこから高校1年とか松江とか?)
 
ちなみに男性器の重さは少し前にも書いたように、陰茎・陰嚢の内容物を入れて勃起時に200g程度(平常時75g程度)。バストの重さはCカップなら1kg程度。
 

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心電図は弥日古の順番になる、ベッドに寝て、バストと足にクリップを付けられる。胸のクリップがくすぐったい。
 
心電図は正常に取れたのでホッとした。
 
続いて内科検診に進む。40歳くらいの女性のお医者さんである。この人になら絶対ブレストフォームはバレていたなと弥日古は思った。
 
胸に聴診器を当てられ、背中にも当てられる。
 
「コロナに感染したことは?」
「感染してません」
「家族に罹った人は?」
「誰も罹ってません」
「ワクチンは打ちましたか?」
「BioNTechの製品版を3回打った後、同社のオミクロン対応版治験に参加しました」
と言うと医師は
「へー」
と感心していた。
 
§§ミュージックのタレント、信濃町ガールズおよびその兄姉で今回竹取物語に参加した人は全員これを打っている。
 
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「生理は順調に来てますか?」
「はい。だいたい規則的に来てます」
「前回生理があったのは?」
「20日頃でした」
と弥日古が答えると、布連ちゃんが頷いていた。
 
弥日古はそれで解放され、カーテンの向こう側に行って服を着て、そちらのドアから退出した。感染拡大防止の観点でこういう所は全部流れを一方通行にしている。
 

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この日の4時間目の体育は、台風が来ているので水泳は中止になり、体育館でバスケットをしますということだった。
 
「この台風が行ってしまうまではダメだね」
 
(台風は翌日の9/6に韓国南部に上陸した後、日本海で温帯低気圧になった。日本で1人、韓国で11人の死者が出た)
 

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弥日古は他の女子と一緒に女子更衣室に行く。制服のスカートを脱いだ時、視線を感じる。ブラウスを脱ぐと更に視線を感じる。でもその視線に気付いてないふりをして堂々と前を向いて体操服に着替えた。
 
バスケットは体育館のハーフコートずつを使い、男子・女子各々2チームに分けて試合をした。弥日古は女子のBチームに入れられた。
 
1時間の試合の中で10回シュート機会があったが、ミドルシュート8本の内1本だけ入れた。ランニングシュートは2回の内1回だけ成功させた、
 
「元男の子ならもっと凄いかと思った」
「女の子になって筋力が落ちた気がする。思うように自分の身体が動かない」
「ああ、やはり性が変わると筋力も女子並みになるんだね」
「たぶんホルモンの影響なんじゃないかなあ」
「そうかもね」
 
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体育が終わった後は、女子更衣室に戻り、
「汗掻いちゃった」
と言って下着も交換した。
 
弥日古がブラジャーを外した時、女子更衣室の中にいる全女子の視線か集中するが、弥日古はそのままボディーシートで身体を拭き、新しいブラジャーを着けた。それからショーツを脱ぐと、全女子の鋭い視線が弥日古の股間に集中する、でも弥日古はごく普通にそのまま新しいショーツを穿く。
 
弥日古はその後、普通に制服のブラウスを着て、スカートを穿いた。女子たちがホッとしたようにおしゃべりを再開した。弥日古も近くで着替えてる比奈美とおしゃべりをしながら、脱いだ汗を掻いた服をまとめてビニール袋に入れ。スポーツバッグに入れた。
 
なお、この日は台風接近のため授業は午前中で打ち切られ、生徒はお弁当を食べてから、保護者に迎えに来てもらって帰宅ということになった。
 
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9月6日(火).
 
朝、薩摩川内市の松崎真和(月城としみ)はパジャマのまま朝御飯を食べてから、自分の部屋に戻ると、下着を交換して真新しいブラジャーとショーツを身につけた。女体に下着がピタリとフィットする。
 
私、きれいに女の子になっちゃった。
 
学校指定の女子ブラウスを着てリボンを結び、スカートを穿き通学カバンとスポーツバッグを持つ。昨日が台風接近で臨時休校になったので今日が“初登校”になる。真和はその女子制服姿で居間に出て行った。
 
「お弁当もらってくね」
「お前、まさか本当にその制服で学校に行くの?」
と母が言う。
 
やはり“性別変更届け”ってジョークだったのかなあ。でも5日半考えて私もうこの制服で登校しようと決めたもんね。
 
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「もちろんだよ、だって私、女の子だから」
と言うと、
「行ってきまーす」
と言ってローファーを履き、家を出た。
 
女子制服で外を歩くと何か全てのものが新鮮に見える感じだ。コロナ対策で時間帯をずらして通学しているので、バスはゆっくり座れる程度しか人が乗っていない。社内で手鏡を出して顔の“調子”を確認する。
 
OK!
 

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バスを降りて歩道橋を降り、細い道を通って校門まで行く。門のところに先生が立っている。朝早くから大変だなと思う。
 
「おはようございます」
「おはよう」
と言葉を交わして校内に入る。体育館の横を歩き、生徒玄関で持参の内履きに履き換え、教室に行く。
 
「おはよう」
「おはよう」
と声を交わす。自分の席に就く。
 
「転校生さん?」
と初海ちゃんが声を掛ける。
 
「私松崎だけど」
「へ?」
 
初美ちゃんがじーっとこちらの顔を覗き込む。
「マスク取ってみて」
と言われるので外す。
 
「本当にマナちゃんだ!」
と驚いている。
「とうとう女子制服で通うことにしたの?」
「だって私、女の子だもん」
「うん。マナちゃんが女の子だというのは、みんな理解してる」
「これ書いてもらった」
と言って、8月31日夜に母が書いてくれた“性別変更届け”を見せる。
 
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「何これ〜!?」
と呆れている。
 

やがてクラスメイトがどんどん入ってくるが、みんな真和の女子制服姿に驚いていた。
「とうとう決断したか」
「時間の問題だとは思ってた」
「ちょっと胸触らせて」
といって、随分触られた。
 
「これパッドか何か入れてるの?」
「本物だよ」
「本当におっぱい大きくしちゃったんだ!」
 
「ちなみにちんちんは?」
「もう無いよ」
「手術しちゃったんだ!?」
「思い切ったことを」
「よく決断したね」
 
「私トイレどうすればいいかなあ」
と真和が言うので、クラス委員の女子が保健委員の子と話し合う。
 
「ちんちんも無いのなら女子トイレ使っていいよ。不安なら一緒に行こう」
「助かる」
「更衣室は明日までに検討させて」
「うん」
 
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やがて担任の青川先生が入ってきて朝のホームルームを始める。真和は9月1-2日の欠席届と一緒に性別変更届けを提出した。
 
「おお、松崎とうとう性別が変わったのか?OKOK。これ生徒原簿に綴じとくな」
と先生は明るく言っている。
 
それでごく普通にホームルームは始まった!
 

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「先生、ジョークと思ったのでは」
とホームルームが終わった後、他の子から言われる。
 
「でもちゃんと届けを提出して先生は受け取ったからね」
「性別変更届けが受け付けられたことになるかもね」
 
それで真和は1〜3時間目の授業を普通に受けた。先生たちは女子制服を着ている真和に何も言わなかった。
 
4時間目の音楽の時間、先生が来る前に。ピアノ担当の尚美ちゃんから
「ちょっと音域確認しよう」
と言われ彼女のピアノに合わせてドレミファソファミレドを歌った
 
「マナちゃんはソプラノでいいよ。ソプラノに入って」
「分かった」
それで真和は初めてソプラノの席に座り、その日は歌った。音楽の池田先生は
「あら、まなちゃん女子制服着たの?」
と訊いたが
「はい。女子になったので」
と言ったら
「うんうん。マナちゃんは女子だと思っていたよ」
と言ってくれた。凄く心強いなと思った。
 
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「じゃコーラス部でも今日からはその制服で参加ね」
「はい。よろしくお願いします」
 

昼休みに保健委員とクラス委員に連れられて保健室に行き、身体測定してもらった。
「え?松崎さん、女の子になったの?」
と保健室の先生が驚く。
 
「性別変更届け出したら、先生は受け取ってくれました」
「冗談と思ったのでは」
と言いながらも下着姿で体重と身長を測定してもらった。下着姿だと、バストがしっかり確認できるし、ショーツに何も膨らみが無いのが分かる。
 
「ほんとに女の子になったんだね」
と保健室の先生は驚いていた。
「手術跡は傷まない?」
「全然大丈夫ですよ」
「それならよかった」
 

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それで真和が放課後、女子制服を着てコーラス部の練習に行くと
 
「マナちゃん、とうとう女子制服にしたのね」
とみんなから言われる。
 
「自分の本心に従うことにした」
「マナちゃんは性格的にも女子だと思うよー」
 
「この子、上の方の声がかなり出るようになったみたい」
と同じクラスの子が言う。
 
「へー。テストしてみよう」
というのであらためて音域確認するとB5まで出た。音楽の時間はB♭5までだったのに。
 
「凄い。夏休み前はE5までしか出なかったのに」
「上が5度も広がってる」
「下はD3まで出てたのがE3までしか出なくなってる」
 
「睾丸取ったから上が出るようになったのかも」
「取っちゃったんだ!」
「よく決断したね」
「でもマナちゃんが女の子と結婚する訳無いから睾丸は要らなかったかもね」
 
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うーん。確かに私、恋愛対象は男の子だけど。でも睾丸取ったことより喉仏を消してもらった効果だろうなと真和は思った。
 
「でもこれなら完全にソプラノだね」
「練習してればきっとC6も出るよ」
「うん、頑張る」
 
ということで、真和はソプラノの列、しかも最後尾に並ぶことになった。最後尾に並ぶのは他の子のお手本になる子で、音程勘が良く、声量の大きな子である。
 
真和はこれまでコーラス部ではアルトに配されて、アルトとテノールの境界線のところに男子制服で立ち歌っていた。面倒臭いから女子制服着なよとみんなに言われていて、かなり心が動いていた。でもこれからは堂々とソプラノで歌うことが出来るようになった。
 
こうして真和の女子高生生活は思った以上にスムースに始まったのである。
 
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夏の日の想い出・止まれ進め(28)

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