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■夏の日の想い出・止まれ進め(24)

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9月3-4日(土日).
 
杜屋鈴世の高校で文化祭が行われた。鈴世は友人の日都美ちゃんたちと一緒に有志演奏の時間に“ウシ娘”のメンバーとしてドラムスを演奏する。
 
衣裳は最初おっぱいが巨大なホルスタインの着ぐるみが提案されたものの、先生の許可がおりず結局制服での演奏となった。代わりにウシっぽい帽子をかぶる。鈴世はその帽子の下にヘッドホンを付けてて、本来のドラマーである彰奈ちゃんが出してくれるクリック音を聞きながらドラムスを打つ。
 
「だいたいホルスタインってお乳をたくさん出すだけで、おっぱいが大きいわけではない」
「オッパイが大きいのって、人間とジュゴンだけらしいね」
 
「普通の動物はお尻でオスを誘惑するけど、人間は服でお尻を隠してしまったから代わりにおっぱいでオスを誘惑するんだって」
「じゃ、おっぱいってお尻の代わりなの?」
 
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「なんか怪しげな説だなあ」
「人間が服を着るようになったのってたぶん氷河期からで、おっぱいはそれ以前から大きかった気がする」
 

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ウマ娘の曲でも演奏するのかと思ったら、演奏するのはYOASOBIの曲である。『大正浪漫』と『群青』を演奏する。ボーカルは日都美である。怪我をした彰奈に歌わせる案もあったが、彼女はリズム感はあるが音程が不安定という重大な欠点がある。それでクリック音係になった。
 
「彰奈と鈴世の子供ができたら優性の法則でリズム感も音程もしっかりした子ができないかな」
「いやきっと劣性遺伝でリズム感も音程感も悪い子ができる」
「なんかどっかで聞いたような話だ(*23)」
「まあそもそも女同士では子供を作れない」
「コモドドラゴンみたいに卵子融合で(*24)」
 
鈴世は女の子には恋愛的興味が無いのでこういうことを言われても平気である。
 
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(*23) バーナード・ショー(1856-1950)は晩婚である(1898年に結婚)が、若い頃美人の女優さんにプロポーズされた。
 
「あなたが私と結婚したら、きっとあなたの頭脳と私の美貌を兼ね備えた子が生まれるわ」
ショーは答えた。
「いやきっとぼくの容姿と君の頭脳を兼ね備えた子が生まれる」
 
この女優をエリザベス・テイラー(1932-2011)とする説もあるが、年齢が合わないので違うと思う。
 

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(*24) コモドドラゴンは生息密度が低いため、一生の間に異性の個体と1度も出会えないことがある。メスはオスと出会ったらそのオスと有性生殖して卵を生むが、出会えなかったら自己生殖して卵を産む。この時生まれる子供は必ずオスなので、その子と今度は有性生殖して(母と息子の怪しい関係!)更に卵を産む。
 
自己生殖でオスが生まれる仕組みは実はよく分かってないようであるが、以下はひとつの仮説である。
 
コモドドラゴンの性染色体は“雌ヘテロ型”と言い、ZZがオスで、ZWがメスである(人間のように雄がXY、雌がXXのような形式は“雄ヘテロ型”という)。
 
通常、精子や卵子が作られる時には減数分裂が行われるが、この減数分裂により生じたZ卵子・W卵子の内部で遺伝子が更に分裂し、通常の数の遺伝子を持つ卵子が出来る。つまりZZ卵子とWW卵子である。しかしWW卵子は生物として生きる力が無いのでZZ卵子だけが生き残り、これが育ってオスの子供となる。
 
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一時期そういう説もあったように卵子同士が融合するのではないと思う。融合するのであればZW卵子もできて、メスも生まれるはずである。
 
これと同様に人間でも、XY女性の卵巣の中で、減数分裂によってX卵子とY卵子ができても、Y卵子は生きることができず、X卵子のみが生き残ると思う。
 
コモドドラゴンのW染色体にしても人間のY染色体にしても中身がスカスカで生物として生きられるだけの情報が無い。
 
なおこのように自己生殖できる動物は時々いるが、メス同士で子供を作る生物は居ないと思う。オスがおらずメスだけの集団があったら、だいたいメスの中のどれかの個体が性転換してオスになり有性生殖を行う。魚にはこういう生殖の仕方をするものがある。
 
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刑務所や軍隊、また修行僧などで男性だけの集団があると必ずその中に女の子役の人が生れて、有性生殖の疑似行為をするようになるのはとても自然な行動であり、何も非道徳的なことではない。多くの生物がしているのと同じ類型行動である。
 

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“ガールズバンド”の中に、学籍簿上男子が混じっていることにはほとんどの観客が気付かなかったと思う。だって全員女子制服を着ているし。鈴世のことに気付いた人も「まあ、すずちゃんは女子ということでもいいよね」と思った。
 
鈴世のガールズバンドとしての出番は、土曜・日曜各々1回ずつではあるが、鈴世は1日中女子制服で過ごした。鈴世はだいたい男子制服着てても女子がコスプレしているようにしか見えないので、中学生時代は、こういうイベントの時に男子制服で男子トイレを使うと
 
「女の子が男子トイレを使ってはいけない」
と保護者に注意されたりしていた。
 
女子制服で過ごすとそのようなトラブルも無いので
「これいいなあ。このままずっと女子制服で学校に来たい」
と鈴世は真剣に思った。
 
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9月3日の朝、藤弥日古はとても爽快な気分で目が覚めた。
 
「なんかまるで生まれ変わったような感じ。何だろう」
と思いながら、トイレに行く。
 
そしていつものように便座に座っておしっこをした時、ギョッとする。
 
なにこの感覚!?
 
そして思い出した。そうだ!魔女っ子千里ちゃんに女の子に変えてもらったんだ!
 
それでトイレを出て部屋に戻ると、服を全部脱いで鏡に映して見た。
 
(布団の中で身体を確認した真和とまず鏡に映してみた弥日古の性格の違い)
 
「きれ〜い」
と声を挙げる。
 
肩が昨日までより少し撫で肩になった気がする。胸には2つの丸い膨らみがある。これが昨日まではブレストフォームによる偽装だったのが今はもう本物の膨らみだ。お股には余分なものはなく美しいラインである。これも昨日まではタックした状態だったのが、今は本当に何も無い。
 
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あぐらをかいて座り手鏡で“中”を確認する。昨日までは開けなかった割れ目ちゃんが今はちゃんと開ける。クリトリス、おしっこの出るところ、ヴァギナ、ちゃんとある。
 
嬉しい!
 
本当の女の子になれた。
 
弥日古はまずショーツを穿く。ピタリとお股にフィットする。昨日までは偽装してフィットしていたのが、今は本当にフィットしている。ブラジャーを着ける。昨日までは偽装したブレストフォームにブラを着けていたのだが、今は本物のおっぱいを優しくブラが包み込む。この感触いいなあと思ったのだが、ここで重大な問題に直面する。
 
ホックが届かない!
 

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あらためて自分の身体を観察すると、バストが昨日までよりかなり大きくなってる。これCカップくらい無い?
 
取り敢えずスカートを穿いてからメジャーを出してバストのサイズを計測したらアンダー74cm トップ90cmで完璧なCカップであることが判明した。
 
えーん。ブラジャー買い直さなきゃ!
 

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9月3日(土).
 
真和は両親と一緒に父の車で藺牟田飛行場まで行った。ゲートの所の人に駐車場に駐めた姉の車を回収しにきたと言うと通してくれた。
 
父の車とブースターケーブルをつなぐ。父がタントのエンジンを掛ける。ちゃんと掛かった。それでケーブルを外す。ところが、母がタントに乗り車をスタートさせ
「暑いね」
と言ってエアコンを入れたら・・・
 
落ちた!
 
まだ10mも走ってない。
 
「どうした?」
「エアコン入れたら落ちた」
「30分くらいアイドリングしてから出たほうがいいな」
 
それでその場で30分ほどアイドリングを続ける。その間、父の車のほうで待機する。
 

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「そろそろいいかな」
 
それで出たがエアコンを入れるとまた落ちた。
 
「この車でエアコンは無理かもな」
「エアコン無しじゃ死ぬよ」
「このままイエローハットまで走ってバッテリー交換してもらったほうがいいかも」
「じゃあんたが運転してよ」
 
それで母と真和が父の車に乗り、父がタントに乗って窓を全開にしてイエローハットまで行った。それでバッテリーを交換してもらったがバッテリー代は真和がとりあえず出しておいた。
 
「あとでもと兄ちゃんに請求しよう」
 
「元兄ちゃんって、あの子ももうお姉ちゃんになった?」
と母が言う。
 

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「そういう意味じゃなくて元紀(もとき)兄ちゃんという意味だけど、ぼく以上に女性化が進んでるみたい。お父ちゃんにはしばらく内緒だけど今月中に睾丸取ると言ってた」
 
と父の前で堂々と言う!
 
「まだ取ってなかったのか。とっくに取ったものと思ってた」
と父は言っている。
 
「精液は保存していたよ」
「精液だけ保存してどうすんだ?あいつ男と結婚するよな?」
 
お父ちゃん、理解がありすぎるよと思う。
 
「代理母さんに頼めば赤ちゃん作れる可能性あるからね」
「ああ」
 

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「赤ちゃん欲しければ、元紀姉ちゃんが自分で産めばいい気がするけど」
「そのほうが安く上がりそうだ。代理母頼むのって1000万くらいかかるんだろ?」
「赤ちゃん産むのって命懸けだし、1年くらい仕事できないから生活補償もあるよね」
 
「まあ性別に関してはお前と元紀のことは諦めてるから好きなようにしろ。ただ後悔しないようにだけしろ」
「うん。そうする」
「まあ男ばかり5人だったから娘が2人くらいできたほうがいいよ」
と母。
「そうそう。典香は向こうの中学で『女子トイレ・女子更衣室の使用を許可します』と言われたらしいよ」
「認めてもらって良かったね」
 
「まあ、のりは立っておしっこするのも好きと言ってたけど」
「やはりあの子ちんちんあるよね?」
「ぼくはちんちん無くなったけどね」
「そりゃ女の子にはちんちん無いよ」
 
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真和はそんな会話をしていて、やはりぼく月曜から女子制服で登校していいのかなと思った。
 

その日の午後、藤弥日古は母に車で運んでもらってイオンに行き、新しいブラジャー、そして水着!を買った。
 
売場のお姉さんにサイズを測ってもらい
「C75ですね」
と確認される。それでそのサイズのブラジャーを5枚買った。そのままそのお姉さんに水着のサイズも計ってもらい、このバストが収納できる競泳用水着を買う。
 
バストが急に大きくなってしまったので、木曜日に買った水着が入らないのである。水着はジャストサイズを買わなければならないので仕方ない。結局木曜に買った水着は1度も使わないままになってしまうが、やむを得ない。
 
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「メルカリにでも出そうかな。未使用なら1000円くらいで売れないかなあ」
 
(↑女子高生の使用“済み”水着のほうが高く売れたりして)
 

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一方真和のほうも週明けに水泳の授業がありますという連絡がラインで来ていたので、母にしまむらに連れて行ってもらい、女子用の競泳用水着を買った。ついでにブラジャーも5枚買った。母は真和が女の子水着を選ぶのを楽しそうに見ていた。
 
「こっちのデザインのほうが可愛いよ」
などとも言っている。
 
ほんとに娘ができて嬉しい??
 
 
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夏の日の想い出・止まれ進め(24)

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