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■少女たちの晩餐(17)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-17
 
12月10日(火).
 
早朝桜井先生が千里の家に来て、千里および母と一緒にJRで札幌に出た。桜井先生は母が逃亡したりしないようにする監視役である!
 
「千里ちゃん、前にも性別検査は受けてるよね」
 
「はい、剣道の大会に出た時に私の性別を確認したいと言われて、留萌市内のC病院で検査を受けて、あんたは女と言われました。それで以降は女子の部に出るように言われました」
 
正確には大会で女子の部に出るように言われて、大会後に性別検査を受けさせられている。
 
しかし母は千里が女子の大会に出ていたなんて知らなかったので驚いていた。
 
「まあ多分S医大の検査はそれを踏襲することになると思うよ」
「はい」
 
留萌5:54-6:48深川7:18(ライラック2)8:30札幌
 
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「だけど、こないだあんたが結婚式に出たと言ったのにも、私、心臓が停まるかと思った」
などと母は言っている。
 
「結婚式?」
 
「この子ったら、ボーイフレンドとデートしてきた後、結婚式に出たよと言ってお料理渡すから、私、てっきりこの子が結婚したのかと思って」
 
「小学生が結婚するわけないじゃん」
「まあそうだけどね」
「結婚は16歳以上だし」
と千里が言うと、母は、この子は“女子として”16歳で結婚するつもりなのだろうかと、また悩んだ。
 
「でもボーイフレンドがいるんだ?」
と桜井先生が言う。
「別れますけどね」
 
「なんで?」
と母と桜井先生の双方が言う。
 

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「だって、彼、他にも彼女がいるんだもん」
「ありゃ」
 
「だから、私、自分が女の身体であることは言わずに、私きっともうすぐ声変わりもするし、中学では短い髪にしないといけないから、あなたの可愛い彼女ではいられなくなる。だから心の中の私は永遠に可愛い女の子でいられるうように別れようと言いました」
 
「ハッキリ、浮気に怒ってると言えばいいのに」
「今回それで収まっても、絶対また浮気しますよ」
 
「確かに、浮気する男は何度でもする」
と桜井先生は言ったが、そういう頻繁に浮気する男と、やがて自分が結婚することになるとは、この時、千里は思いもよらなかった。
 

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病院に行くと、最初に尿を取り(千里が女子トイレに平気で入るので母が焦っている)、身長・体重に血圧・脈拍・酸素量、トップバスト・アンダーバスト・ウェスト・ヒップを測られ、採血される。
 
それからMRIを撮ると言われてMRI室に行く。ここで30分待ちである。
 
「ブラジャーにワイヤーは?」
「入ってません」
 
それで下着はそのままでいいことになるので、髪留めはバッグの中に入れて桜井先生に預け、検査着に着替えてMRIの中に入る。この中でまた1時間くらい検査されていた。千里はMRIは初体験になった(昨年夏の検査ではCTしか取られていない)が、ドンドンドンドンという音を聴きながら、千里はスヤスヤと眠っていた。
 
千里の場合“性同一性障害の疑いは無い”ので、精神科などには行かず、そのまま婦人科に行く。
 
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最初少しお話をする。
「今胸のサイズは・・・」
と言ってカルテを見ている。
 
「アンダーが56cm, トップが64cmか。ブラジャーは何を着けてる?」
「A55です」
「A60でいいね。55ではきついよ。お母さんに言って買い直してもらいなよ」
「はい」
 
「生理はいつ始まった?」
「去年の12月です」
「定期的に来てる?」
「ほぼ28日おきに来てます」
「いちばん最近来たのは?」
「えっと」
と言って千里は手帳を確認する。
「12月2日です」
「ほんとにほぼ正確に来てるみたいね」
と婦人科医は千里の手帳を覗き込んで言った。
 
裸になってと言われたので全身裸になる。医師は千里の体型やバストの発達具合を観察している。それでOKと言われ、上半身は服を着てよいと言われるので上だけ着る。下半身はアクリルのフレアースカートを穿いてきているので、そのスカートなら穿いてもいいと言われ、パンティ・タイツは穿かずにスカートだけ穿いた。むろん“次の検査”のためにフレアースカートを穿いてきたのである。
 
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「君、内診をされたことある?」
「はい、昨年1度受けました」
「じゃ内容は分かってるね。少し恥ずかしい格好になるけど我慢してね」
「はい」
 
それで内診台に乗せられ、下半身を持ち上げられ、お股を広げられて“内部”を観察された。しかし・・・これは何度されても恥ずかしいぞ。
 

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内診が終わり、パンティとタイツを穿いていったん診察室を出る。婦人科のロビーで母および桜井先生と待機する。20分ほど待ってから母と一緒に呼ばれ、2人で診察室に入る。
 
婦人科医は笑顔である。
 
「お嬢さんはどこをどう見ても完全な女性ですので、ご安心下さい」
と医師は言った。
 
「それはその・・・いわゆる半陰陽というやつでしょうか」
と母は訊くが医師は否定する。
 
「半陰陽ではありません。事情をお聞きすると、戸籍上は男性として登録されているということですが、単純な間違いと思われますから、家庭裁判所に申請して訂正してもらってください。何か手続き上のミスがあったんでしょうね」
 
母は狼狽している。
 
「ほんとに女なんですか?」
 
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「MRIで見ると卵巣・卵管・子宮・膣が普通にあります。外陰部も大陰唇・小陰唇・陰核があり、尿道口は普通の女性の位置に開口しています。性ホルモンについても、エストロゲン・プロゲステロンともに成人女性の標準値です。この年齢の女子にしてはむしろ多すぎるくらいですね。卵巣の働きがとても活発なようです。月経もちゃんと定期的に来ているし、乳房も急速に発達しているようですね」
 
「あんた生理あるんだっけ?」
「あるけど」
「・・・・・」
 
「一方男性ホルモンは低く、これも女性の標準値の範囲です。念のため遺伝子も確認しましたが、普通に女性の性染色体XXです」(*18)
 
(*18) 千里の性染色体については、ほとんどのケースでXXと判定されるし、性染色体を見抜いて天然女性と性転換者を識別できる天津子にもXXに見えるが、何度かXYと判定されたこともある。冬子は千里のY染色体は不活性(PCRで増幅されないので検出困難:時々こういう人がいる)か、あるいはひょっとして千里は実はモザイクなのではと想像している。羽衣は本当の状態を知っているようだが、誰にも言わない。丸山アイはのんびりした性格なので、千里の性染色体のことは考えたこともない!
 
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医師は説明を続ける。
「外見も観察させて頂きましたが、女性のボディラインです。全体的に丸みを帯びて肩も撫で肩です。脂肪の付き方も女性的です。どこにも性別を疑う余地はありません」
 
まあそんなものだろうなと千里は思ったが、母は完璧に混乱している。
 
「だったらどうしたらいいんでしょう」
 
「診断書を2枚書きます。1枚は学校に提出して、学籍簿上の性別を訂正してもらって下さい。もう1枚は家庭裁判所に必要書類と一緒に提出して戸籍上の性別を訂正してもらってください」
 
「はあ」
と母は返事しているが、思考停止してるなと思った。
 
「あ、そうそう。ブラジャーは今A55を付けているということですが、A55では小さいですから A60を買ってあげてください」
 
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「あ、はい」
 

それで診察室を出た。
 
「どうだった?」
と桜井先生が訊く。
 
「どこをどう見ても女だと言われました」
と千里。
「まあそうだろうね」
と言って桜井先生は笑っている。
 
「だって、千里ちゃんの古い友だちに尋ねると、みんな異口同音に言うよ。千里ちゃんと一緒にお風呂入ったことあるけど、間違いなく女の子でしたよって。私の推測では、千里ちゃんは少なくとも3歳頃には既に女の子だった」
 
「まあそういうこともあるかも知れませんね」
「お母さん、千里ちゃんのちんちん見たことあります?」
「2歳頃までは確かにありましたけど」
「きっとその後、無くなっちゃって女の子の身体に変化したんですよ」
「そう言われると、そうかも知れない気がして来た。小学校にあがって以降、この子にブリーフとか買ってないし。買っても穿かないから。仕方なく女の子用のショーツ買ってました」
「女の子の身体なんだから、ブリーフとか穿けませんよね」
 
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実際には母が千里にショーツしか買わなくなったのは、小学3年生頃からなのだが、このあたりは津気子も記憶が曖昧である。ショーツしか買わなくなったのは家庭の経済事情である。家計が厳しいので、どうせ穿いてくれないものは買わなくなった。
 

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10分ほどで婦人科の受付で呼ばれ、診断書を2通渡された。開封無効なので決して開封しないよう言われる。念のため診断書の内容のコピーももらった。その後、1階の精算所に行き、桜井先生が支払いをしてくれた。学校に出す方の診断書は桜井先生が
「これ私が預かっていいですか?」
と言うので、母も(思考停止しているが)
「よろしくお願いします」
と言って先生に渡した。
 
「弁護士事務所に行きましょう」
と桜井先生は言い、予め調べていたのだろう、札幌市内の法律事務所に行く。そして弁護士さんとお話をした。
 
「なるほど。半陰陽とかではなく単純ミスの修正ですね」
「そうなんですよ」
「分かりました。戸籍謄本を取ってもらいたいのですが」
 
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「取ってきました」
 
と言って千里は昨日の内に留萌市役所で取得しておいた、戸籍謄本の写しを提出する。そんなものが用意されていたことに母が驚いている。桜井先生も驚いている(千里は必要なものが予め分かっている)。
 
(津久美の場合は裁判所まで行ってから戸籍謄本が必要なことが分かり、留萌に戻ってからすぐに取って郵送している)
 
「ではこことこことここに署名を頂けますか?」
と言われたので、千里と、親権者である母が署名した。
 
「ではこれで旭川家庭裁判所に提出します」
「よろしくお願いします」
 
それで千里の戸籍は女性に訂正されることになったのである。
 

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弁護士事務所を出た後、千里が母に新しいブラジャーを買って欲しいというので、桜井先生に少し待っていてもらって(実は疲れているだろう桜井先生を休ませるのもひとつの目的)、千里と母の2人でジャスコのランジェリー売場に行く。千里が堂々とランジェリー売場に入っていくので母は頭がくらくらしている。売場のお姉さんに再度サイズを測ってもらい、これは確かにA60ですねと確認してもらう。それで千里はピンク、ベージュの、わりと安いブラ、それに少し値段は張るが、お姉さんに言って出してもらったスポーツブラを1枚、母に買ってもらった。これは体育の時間用である。
 
帰りも切符は桜井先生が買ってくれて(実際の費用は校長と教頭が折半して出してくれている)、JRで留萌に戻る。
 
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札幌17:00(スーパーホワイトアロー21)18:01深川18:05-19:03留萌
 
「千里ちゃん、去年性別診断受けた時に診断書もう1枚もらってそれを学校に提出してたらもっと簡単だったのに」
「すみませーん」
 
「でも父ちゃんには何て言おう?」
と母が悩むように言う。
 
「何も言わなくていいと思うよ」
と千里。
「それに賛成」
と桜井先生。
 
「どうせお父ちゃん戸籍なんて見ないし」
「確かにそうかも」
と母は少し安心したようである。
 
「我妻先生にお伝え頂けますか?『村山さんは女子になりましたので、女子のみなさん仲良くしてあげてね』みたいなお披露目はしないで欲しいと」
と千里。
 
「OKOK。伝えておく。そもそもあんたみんなから既に女子としか思われてないからね」
と桜井先生。
 
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「そうなんですけどね」
 
帰りの汽車の中では、千里と桜井先生は楽しく会話していたが、母は終始悩んでいるようであった。しかし翌日、12/11付けで、千里の学籍簿は“誤って女子として登録されている状態”から“正しく女子として登録されている状態”に変化したのであった。
 

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少女たちの晩餐(17)

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