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■少女たちの晩餐(5)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-04
 
コンクールが終わった津久美は日曜日の夕方、帰宅した。
 
「ただいまあ」
「お疲れ」
「コンクールどうだった?」
と母親や2人の姉、日波(ひなみ)と涼葉(すずは)から訊かれる。
 
「7位だった。賞は取れなかった」
「残念だったね」
 
「部長の穂花さんが喉を痛めて高い声が出なくて、何かの時は私が代わることになっていたのに、私、急に声変わりが来ちゃって、私も高い声が出なくて、急遽他のソプラノの人がソロパート歌ったんだけど、あまり練習してないから、歌唱が微妙だってので賞は取れなかったみたい」
 
「声変わり?」
「あんたまさかまだ睾丸付いてるんだっけ?」
「付いてるけど・・・」
「それはいけない。すぐ取ろう」
「あんた早く取らないと、その内、声変わりがもっと進行して、ソプラノの声も出なくなっちゃうよ」
「今すぐ病院行って睾丸取ってもらいなさいよ」
「今からなの!?」
 
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姉たちが言うので母も
「それがいいかもね」
と言い、津久美は今から病院に行くことになった。
 
病院行く前にお風呂入ってと言われたので、津久美はお風呂であの付近をきれいに洗った。それで母の運転するシャレード(G200)に乗せられてH婦人科に来た。
 
「婦人科なの?」
「紳士科という病院が無いからね」
 
そういえば、ちんちんとかタマタマに異常が起きた時はどこで診てもらうのだろう?と津久美は疑問を感じた。ちんちんが切れちゃったとかタマタマが潰れちゃったとかした時は?
 

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「ああ、声変わりが来ちゃってそれを早急に止めたいのね。じゃすぐ睾丸を取ろう」
と病院の先生は言った。
 
「あんた何年生?」
「小学5年生です」
「それはいけない。睾丸なんて小学3年生くらいまでに取るものよ」
 
そうなんですか!?
 
最初に病室に入れられ、看護婦さんから、あの付近の毛をきれいに剃られた。すごく胸の大きな看護婦さんで「いいなあ。私もおっぱい欲しい」と思った。
 
毛を剃り終わると消毒液できれいに拭かれる。ちんちんの外側を消毒した後、皮を剥かれて中まで消毒された。どうしてそこまで消毒するのだろうと思った。
 
服を全部脱ぐように言われるので、(スカートとパンティは既に脱いでいるが)ポロシャツとアンダーシャツも脱ぐ。ゴム製の手術着を着せられてストレッチャーに乗せられる。それで手術室に運ばれ、手術台に乗せられた。手術室ってドラマとかで見ててピッシリドアの閉まる密閉された部屋かと思っていたら、一応ドアは付いているものの、トイレの出入口とかにあるようなスイングドアである。空気の出入りは自由だ。わりと適当なんだなという気がした。
 
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麻酔の注射を打たれる。
「ここ感じる?」
「いえ」
「効いてるみたいね」
と先生は言う。
 
「じゃ今から津久美(つくよし)君の睾丸を取りますけど、いいですか?」
と先生は母に尋ねた。
「はい、こんなの付いてたら可哀想です。取ってやってください」
 
それで手術が始まる。ああ、これで男にならなくて済む、と津久美は思った。こないだ手術されたのは夢だったし。
 

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何かカチャカチャしている音がする。痛みは無い。麻酔がかかっているからだろうなと思う。
 
「はい。睾丸取ったよ。この睾丸はどうします?持ち帰ります?」
と先生は訊いたが、母は
「要りません。捨ててください」
と言った。それで先生は
「分かりました」
と言って、本当にゴミ箱に捨てちゃった!
 
ごめんね。睾丸ちゃん。今度は男らしい声になってもいい人の所に生まれてきてね、などと思う。
 
「睾丸取って男の子ではなくなったから、名前は津久美(つくよし)から同じ字で津久美(つくみ)に変えようか」
と母が言う。
 
「うん、私普段から“つくみ”ってみんなから呼ばれているし」
と津久美。
 
「じゃ明日にも役場に届け出してくるね」
「うん。ありがとう」
 
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へー。名前を変えるのは役場に届けを出すだけでいいのか。
 

先生は母に訊いた。
 
「睾丸を取ってしまうと、男性ホルモンが無くなって、ホルモン・ニュートラルになるんですが、その状態では骨粗鬆症になったり、視力が落ちたり、精神的にも不安定になって、鬱病などを引き起こす場合もあるんですよ。その対策をどうしましょう?」
 
えっと・・・そういう話はできたら睾丸を除去する前に話し合って欲しいな。
 
「人工的にホルモンを補充すればいいんですかね?」
と母は訊く。
 
「そうです。男性ホルモンか女性ホルモンを身体に入れてあげればいいです」
「男性ホルモン入れたら睾丸があるのと同じですよね」
「そうなります」
「じゃ女性ホルモンを入れるしかないですね」
と母は言う。
 
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ドキドキする。やはり男の子を辞めたら女の子になるしかないのかな。
 
「女性ホルモンを入れるのにも、女性ホルモンの注射をする方法、女性ホルモンの錠剤を飲む方法、女性ホルモンを出す貼り薬を貼る方法、卵巣を移植する方法がありますが」
 
「この子はES細胞(*6)から作った女性器一式がありますから、それを移植してください」
「そんなものがあったんですか?」
「臓器バンクで保管されていますから、取り寄せましょう」
 
と言って、母はどこかに電話を掛けた。津久美は下半身に毛布を掛けられたまま手術台の上で待った。
 
(*6) ES細胞(Embryonic Stem cell 胚性幹細胞)とは、分裂開始初期の受精卵から細胞を1個取り、保存しておいたもの。どんな臓器にも発展させられる“万能細胞”である。山中伸弥が2006年にIPS細胞(Induced Pluripotent Stem cell, 人工多能性幹細胞)を作る技術を確立するまでは、唯一の万能細胞であった。
 
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ES細胞は、発見当時、これがあれば臓器移植の際の拒絶反応が克服できると大きく期待された。『特命リサーチ200X』でも取り上げられ多くの人の関心を呼んだ。しかしこの手法は、分裂初期の受精卵から細胞を採取するという危険な手法であるため、倫理的に問題があるとされた。そんなことをして本当に産まれてくる子供に影響が出ないのかは未知数の部分が大きかった。
 
ES細胞の技術はマウスでは1980年代、人間では1998年に確立されたが、受精卵を“壊さずに”細胞を取り出すのには成功していない。つまり本人のES細胞というものは製作に成功していない。それがあまりに困難なので、代わりに本人のクローン受精卵を作り、そこからES細胞を作るという手法が考案されたが、その技術が確立する前にIPS細胞の技術が発見されてしまった。
 
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なおクローン受精卵の製作は、そのまま育てるとクローン人間ができてしまうため、多くの国で禁止されている。
 
なお“万能細胞”という言葉は、日本のマスコミが勝手に作った用語で、科学用語ではないし、英語などにこれに相当する用語は存在しないらしい。
 

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「到着しました。それでは移植します」
と言って先生は津久美に下半身麻酔を掛けた。レーザーメスを使っているようで、肉の焼ける臭いがする。手術器具の触れ合う音がしている。
 
津久美は手術されながら質問した。
「卵巣が移植されたら、月経も起きるんですか?」
「当然起きるよ。その排出される通路もちゃんと確保されるから安心してね」
「ナプキンが必要ですよね?」
と母が訊く。
「はい。当然必要になりますから、お母さん一緒に選んであげてくださいね」
と先生は言う。
 
やはりナプキンが必要になるのか。まあいいよね。
 
手術は1時間くらい掛かった気がした。傷口を縫い合わせていたようだが、やがて先生は言った。
 
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「手術完了です。卵巣・卵管・子宮・膣・Gスポット・大陰唇・小陰唇のセットを移植しました。邪魔になる前立腺と陰嚢は除去しました」
 
と先生は言った。
 

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Gスポットとか前立腺って何だろう?と思った。あ、でも陰嚢も除去したのか。まあ中身を取ったんだから、その“包み”も要らないよね。コンビニのお稲荷さん食べたら、お稲荷さんが乗ってたトレイは捨てていいのと同じ。
 
だけど大陰唇・小陰唇も移植したって、割れ目ちゃんができたということ?まああってもいいよね。でもおしっこはどこから出るんだろう?割れ目ちゃんの中かな?それともちんちんの先かな?どうせなら、女の子みたいに割れ目ちゃんの中からおしっこできたらいいな。私どうせ立っておしっこしないし。
 
「ひとつ注意点だけど、大陰唇・小陰唇の後の端はわりと肛門に近いのよ。だから今までは、うんこした後、後から前に拭いてたかもしれないけど、その拭き方をすると大陰唇に汚れたものが飛んで不潔になる場合がある。たから大をしたあとは、必ず前から後へ拭いてね」
 
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「分かりました!」
 
それ学校の保健の先生も言ってた。だから実は今既にそういう拭き方にしている。腕の筋肉の使い方が全然違うから、これができるようになるのに1年かかったけど。
 
「新しいお股を見る?」
「はい」
 
それで手術台の上半身部分が起こされ、津久美は“新しいお股”を見た。
 
「え!?」
と思ったところで目が覚めた。
 

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10月13日(日).
 
コンクール小学生の部・本番の日。
 
千里たちは6時半頃に起きて朝食(バイキング)に行った。小町の分の朝食券を1枚買い(1500円!)一緒に入る。それで適当に取って食べていたら、穂花たち3人が来るので「おはよう」と声を掛ける。
 
すると向こうも「おはよう」と答えたのだが、声が変だ。
 
「どうしたの?」
「空調が強すぎたのかも。なんか喉が痛い」
「え〜!?」
 
穂花・映子・美都の3人とも声が変である。
 
蓮菜が先生に連絡する、先生が飛んできて、取り敢えず3人の熱を測る。熱は無いので、風邪とかを引いたのではなさそうだ。
 
「病院に連れて行って来る」
と松下先生が言う。
「お願いします。9時になったら?」
「その前でも診てくれる所があると思う」
 
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それで松下先生がフロントに尋ねてみると24時間診察してくれる病院を紹介してもらえたので、松下先生はタクシーで3人をそこに連れて行った。
 

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「ホテルの空調はわりと調整が難しいのよね。乾燥しがちだから、窓が開けられる部屋なら開けておくとか、乾燥防止にバスルームのドアを開けておく手もある」
と蓮菜は言う。
 
蓮菜も実は以前空調で喉を痛めたことがあるらしかった。それで千里たちの部屋は湿度調整のためにバスルームのドアを開けておいた(但し、お湯を出しなから、あるいはシャワーなどを使っている最中に開けていると火災報知器が誤作動する場合もあるので、入浴が終わった後開けるのが鉄則)。
 
馬原先生と松下先生が手分けして全児童に確認したが、他にこの手のトラブルが起きている所は無いようだった。去年も一昨年もこの手のトラブルは起きていない。
 
実は昨夜は雨が降っていたので、多くの部屋で窓を閉めていた。これが去年や一昨年は晴れていたので「暑いね」などといって、多くの部屋で窓は開けていた。窓を閉めて空調を掛けると、湿度の問題が起きやすい。空調をタイマーなどで掛けた場合は問題無いのだが、一晩中掛けっぱなしにすると、部屋が乾燥しすぎて喉を痛める場合がある。家庭用のエアコンでは問題になることがないが、ホテルの部屋は密閉性が高いのでこういう問題が起きる場合がある。
 
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9時頃、練習のために予約しておいた、ホテルのパーティールームに部員が集まった。松下先生から報告がある。
 
「矢野部長、花崎(映子)さん、風月(美都)さんの3人ですが、喉に炎症が起きているものの、風邪とかは発症していないそうです。一応トローチを頂いてきましたが、今日一日程度は喉を酷使しないようにしてくださいとのことです」
 
「今日1日・・・・」
 
「ごめんなさい、面目ないです」
と部長の穂花がみんなに謝る。
 
「先生、ソプラノソロは交替しましょう」
と蓮菜が言った。
 
「でも誰に?」
 
何かあった時のバックアップ歌唱者だったはずの津久美は声変わりが起きて歌えなくなってしまった。
 
「村山さんが歌えます」
と言ったのは、喉を痛めた1人、映子である。
 
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「村山さん歌えるの?」
「村山は私の練習に付き合ってくれて、ひとりでピアノ伴奏からアルトパート、ソプラノパート、アルトソロ・ソプラノソロと歌ってくれました。だからアルトソロもソプラノソロも歌えます」
と映子は言った。
 
「それは知らなかった」
 
「村山は聴いていれば歌えるし弾けるんですよ。やってみましょう」
と蓮菜も言う。
 

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それで、喉を痛めた3人が外れて、ピアノ:美那、篠笛:由依、アルトソロ:希望、ソプラノソロ:千里、というので演奏してみる。
 
「凄い。千里ちゃん」
と馬原先生。
「私よりうまいじゃん」
と穂花。
 
「村山さんがソロの方に取られると、ソプラノ集団がソロを追いかけて最高音を出す所がどうなるかなと思ったけど、星山(スミレ)さんと幡多(小町)さんが出してたから、何とかなったね」
と松下先生は言った。
 
蓮菜が念のため小町を呼んだのがここで利いた。
 
「最近星山さんが安定してあの音出せるようになったのが大きいです」
と穂花が言う。
 
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少女たちの晩餐(5)

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