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■少女たちの晩餐(11)

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「諸外国でも性別を変更できる国はどんどん増えています。わざわざ性別を変更できる国に帰化して、そこで変更する人もあるんですよ」
 
「苦労してますね」
 
「歴史的にはこういう傾向は、古くは変態とか、性的倒錯とか、性的逸脱とか、まるで犯罪者みたいな言われ方をした時代もあるんですが、現在ではこれは一種の病気であると考えられています。病気だったら治せばいいんですよ」
 
「なるほどー」
 
「その時、心の性別 gender と身体の性 sex のどちらを優先させるかについて現代のほとんどの医学関係者が、心の性別 gender に合わせて、身体の性 sex を修正すべきであると考えています。ですから堂々と治療を受けましょう」
 
「分かりました。少し気持ちが楽になりました。でもどこの病院の何科を受診したらいいのでしょう?」
 
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「旭川か札幌の大きな病院を受診した方がいいと思います。具体的には・・・ちょっと待ってください」
 

実はその時、職員室の中で千里の声がしたのである。祐川先生が千里に声を掛けた。
 
「千里ちゃん」
「はい」
 
「北海道内で、性同一性障害に関して診断ができる病院を知らない?」
「えっと・・・ある程度“まともな”病院がいいですよね」
「まともじゃない病院もあるんだ!?」
 
「札幌のS医大がいいと思います。まずは精神科で相談してください。診察の流れの中で、泌尿器科医、場合によっては婦人科医の診察も受けることになると思います」
 
「ありがとう!」
 
「MTFですか?FTMですか?」
と千里は訊く。
「MTF」
と祐川先生は答える。
 
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「だったら、お勧めです。診察を受けに行く時は、スカート穿かせて、できるだけ女の子らしい可愛い格好をさせてあげてください。靴なんかもおジャ魔女とかサンリオとかの靴を穿かせて。性別の診断ってお医者さんの主観の部分が結構あるんですよ」
 
姫野真由美もそれを聞いて頷いていた。
 
「分かった!ありがとう」
 

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祐川先生は席に戻ってから津久美の母に告げた。
 
「お聞きの通りです。S医科大の精神科を受診してみてください。その時の服装はあの子の言った通り」
 
「分かりました。精神科なんですね」
「心の性別をまず診断するんですよ」
「なるほどー」
 
「恐らく3-4回通院する必要があると思います」
「そうでしょうね。でも今の子は?」
 
「あの子も当事者ですね。戸籍上は男の子ですけど、学籍簿上は女子です」
 
実際には千里が学籍簿上女になっているのは我妻先生の単なる修正漏れである!教頭先生はなぜ千里の学籍簿が女になっているのだろう?と思ったが、取り敢えずこの場では、いいことにした!
 
「そういう子がいるというのは聞きました。でもチラッと見ましたけど、女の子にしか見えませんね!」
と真由美。
 
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「あの子はパーフェクトですね」
と祐川先生。
 
祐川先生は千里が(恐らく)既に去勢済み、ひょっとしたら性転換手術済みであることは言わなかった。正規の医療で小学生の去勢をする病院は無いはずだ。恐らく闇の手術を受けたのだろう。今も“まともな病院”と言っていたから、きっと“まともじゃない病院”で治療を受けたんだ。
 

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蓮菜は神社で津久美に言った。
 
「津久美ちゃん、今生理中なんだって?」
「はい、そうなんです。それで巫女とかしていいのかなと思ったけど、昇殿とかするのでなければいいと小春さんが」
 
(津久美をスカウトしたのは大神様の指令である。大神様は津久美を千里死後の後任候補のひとりに考えていた。蓮菜の目で見てもこの子には少し霊感がある)
 
「着けてるのはナプキンだけ?」
「そうなんです。生理用ショーツも欲しいけど、お小遣いが足りなくて」
「私が買ってあげるよ」
「え?でも」
「それで巫女衣装汚すと困るからさ」
「あ、そうですね」
「巫女さんのバイト代が出たら返して」
「はい」
「サイズはXSでいいかな?」
「たぶん」
「じゃ林田さんに買って来てもらおう」
と言って、蓮菜は宮司の実質的な奥さんである林田菊子(彼女は基本的に神社の運営には一切関わらない)にお金を渡して取り敢えず1枚買ってきてもらった。津久美は蓮菜と林田さんに御礼を言ってトイレで装着してきたが、物凄い安心感があった。
 
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「これいいなあ。少し蒸れるけど」
 

3ヶ月ほど時間を戻す。
 
詩の発想に行き詰まっていた高岡猛獅は2002年8月4日(日)、適当に電車に乗って適当な駅で降り、散策しながら構想を練っていた。
 
ワンティスの楽曲は3作目の『琥珀色の侵襲』までは高岡が詩を書いたのだが、4作目の詩を高岡がどうしても思いつかず、レコード会社にせかされて、結局夕香が書いた『霧の中で』という詩に上島が曲を付けリリースすることになった。
 
この時、ワンティスのメンバーは当然作詞のクレジットは長野夕香にするつもりだった。ところがレコード会社の担当・太荷主任は、作詞のクレジットは高岡猛獅にして欲しいと言った。
 
「事務所の社長とうちの会社の上層部との話でそうなった。高岡の名前にしないと売れないからということで」
 
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それで上島たちは極めて不本意だったものの、高岡猛獅作詞・上島雷太作曲のクレジットで2002年2月にこの曲をリリースした。そして『霧の中で』はこれまでで最高のセールスをあげた。
 

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次のシングルで、高岡は久しぶりにいい発想が得られて『蒙古色の戦い』という詩を書き、メンバーも「いい詩だ」と言い、上島が曲を付けたのだが、太荷主任からダメ出しを食らう。
 
「“蒙古”は差別語だからダメ。どうしても使いたいならモンゴルに言い換える手はあるけど“モンゴル色の戦い”は、元寇を連想させ、親日国であるモンゴルとの間に不要な軋轢(あつれき)を招くおそれがある。更に国の名前に色という文字を付加するのは人種差別と取られかねない」
 
要するにこのタイトルは丸ごとNGということである。それで高岡はぶつぶつ言いながらもタイトルを『電子色のバイアス』と改め、歌詞も一部修正した。しかし太荷主任は
 
「電子色というのが意味不明」
とクレームを付けた。
 
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「高岡君さあ、君がいろいろ自分を表現したいのは分かる。だけどね、プロである以上、自分が作りたい曲を作ってはダメなんだよ。人々が聞いてくれる曲を書かなきゃ」
と太荷主任は言った。
 
ここで高岡はすねてしまって「もう俺は詩は書かない」と言い出した。みんながなだめてもダメである。リリース予定は決まっているのでもう制作しなければならない。そこで上島自身が詩を書いて『蒙古色の戦い』の曲に『漂流ラブ想い』という詩を乗せた(作詞クレジットは前回同様高岡猛獅)。それで高岡も渋々その歌詞で歌い、楽曲は2002年5月にリリースされ、そこそこの売上をあげた。
 

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そして次の楽曲こそ、たけちゃん書いてよとみんなから言われ、猛獅は色々書いてみるものの、自身で気に入らない。どんどん期限は迫ってくる。というより締め切りを過ぎてしまった。それで少し気分転換しようと、この8月4日、ふらりと電車に乗ったのであった。
 
彼は駅を出て歩いていた時、公園のベンチに座って何かを書いている小学生の女の子を見た。何を書いているのだろうと思い近寄ってみると、彼女が五線譜にどんどん音符を書き込んで行っているので驚く。最初は何かの曲を書写しているのかと思ったが、彼女はその五線紙以外、何も見ていない。
 
まさか作曲してる?
 
彼女は凄い速度で楽譜を書いていき、二部形式(4x4=16小節)の楽曲を完成させた。高岡は彼女に声を掛けた(こういうことをすると多くの場合、悲鳴をあげられ通報される!が、高岡は、なーんにも考えていない)。
 
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「君もしかして作曲してたの?」
「はい、そうです」
「楽器も使わずに?」
「私エレクトーン弾くんですけど、エレクトーンは持ち歩けないから」
「そうだね。ウルトラマンくらいの腕力が無いと持ち歩くのは無理だね」
 
そこから2人は話し始め、結構マジな作詞論議になる。彼女の相談に乗っていて、結果的には高岡自身の頭の中の回路も整理されていく感じであった。
 
少女は、ワンティスが好きだが、最初の頃の作品が特に好きだと言った。『霧の中で』以降は、分かりやすいけど平凡すぎて、まるで書いてる人が変わってしまったみたいと言われ、ギクッとする。
 
お互いに詩を書いてみようなどという話になり、少女は『白い雲のように』、高岡は『恋をしている』という詩を書いた。どちらも美しい詩になった。更に高岡は自分の書いた詩に、曲を付けられる?と訊いたら彼女はスラスラと曲を書いてしまった。上島も曲を書くのが早いが、この子はそれ以上かも知れない気がした。モーツァルトは5歳の時から作曲をしていたというが、音楽では時々ほんとに若い頃から才能を発揮する子がいる。
 
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彼女はFKと名乗ったので、高岡もTTと名乗った。
 

高岡は気分が良くなったので、松戸市に移動し志村夫妻のマンションを訪ね“娘の龍子”に会う。
「少し早いけど誕生祝い」
と言って、ケーキと、可愛いベビーブラウスにスカートをプレゼントして帰った。その日はとても楽しい気分だった。
 

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翌日清書した『恋をしている』の歌詞付き五線譜を持ちスタジオに行くと、上島が
 
「たけちゃんがどうにも歌詞が思いつかないみたいだからさ、夕香ちゃんにまたひとつ書いてもらったよ」
と言う。
 
見ると『紫陽花の心』という美しい曲である。高岡もこれは自分の書いた『恋をしている』より、いいと思った。それで彼はその詩(+曲)を出さなかったのである。
 
「これも作詞クレジットは高岡猛獅ですか?」
「すまないがそれで頼む」
と太荷は言い、以降誰が書いても高岡猛獅の名義にすることが既定路線になってしまった。
 
このシングルは2002年9月にリリースされ、ワンティス最大のヒット曲となってこの年のRC大賞を取ることになる。
 
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なお、この楽曲のリリース直前にワンティスの担当は、太荷主任から、今年入社したばかりの、加藤銀河に交替することになった。
 

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龍虎の所に高岡猛獅は8月4日にやってきて、また女の子の服を置いていったのだが、夕香のほうは誕生日の8月20日に英世の車に同乗してやってきて、ケーキを持ってきてくれた。また夕香は一升餅も持って来たが、これは2kgほどあるので英世が車から運んだ。
 
「ひでちゃんは久しぶりの帰宅だ」
「1ヶ月ぶりかな」
「でもよく休めたね」
「今回はギターを高岡さん本人が弾いてるから」
「へー!」
「最終的には僕が弾いてと言われてるけど、楽曲を練っていく段階では彼が弾く。高岡さんも、以前に比べたらだいぶ弾けるようになってきたよ。何か心境の変化があったみたい」
 
「それなんですけど、彼、浮気してませんよね?」
と夕香がいきなり生臭い話をする。
 
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「じゃタロットさんに訊いてみましょう」
と言って、照絵は棚からタロットカードを取り出すと、ワンオラクル(1枚引き)をした。
 
「棒の6。不首尾。可愛い子を見つけたけど成立しなかった」
「未遂か〜!」
「高岡さんもてるだろうし、ある程度はしかたないですよ」
「まあそれは割り切ってるけどね」
 
一升餅は餅屋さんで予約しておいたもので、できたてを受け取って来たらしい。まだわりと暖かった。
 
ともかくも、龍虎に一升餅を踏ませて、誕生祝いとした。
 

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「このお餅はどうしよう?」
「うちではとても食べきれないから、ワンティスのみなさんで」
「じゃ細かく切って、ぜんざいにでもしよう」
「それ誰が切るの?」
と英世が言うと、夕香も照絵も彼を見る。
 
「俺が切るのか?」
「こんなの女には無理」
「はいはい、頑張ります」
 
ということで、ほんとに頑張って英世はこの2kgのお餅を細かく切る。まだできたてで柔らかかったので、あまり腕力の無い英世でも何とかなった。その場で英世3個・照絵と夕香が2個ずつ焼いて食べた上で、スタジオに持ち込む。そして制作に参加しているメンバーで、ぜんざいにして食べた。さすがに男が13人もいると、あっという間に無くなった。
 
この場にいた人:
男(?) 高岡・上島・水上・下川・海原・三宅・山根
サポートの志水英世・本坂伸輔、レコード会社の加藤銀河
音響技師の佐々木・高島
事務所の雑用係 広中
 
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女(?) 夕香・支香・雨宮
 
もちろん、ぜんざいを作ったのは雑用係の広中!(芸能界では“ぼうや”と呼ぶ)
 
「あれ?もしかしてここにいる男は13人?」
「最後の晩餐か?」
「それは数え方によるわね」
と雨宮は言ったが、加藤や広中は“数え方”って何だろう?と思った。
 
(加藤や広中は三宅や雨宮の性別を知らない。実は三宅の性別を知っていたのは、夕香支香の姉妹と雨宮だけ。三宅は男子トイレの小便器を平気で使う)
 
「日本語で晩餐なら13人、晩餐館は焼肉のたれ、フランス語でバンサンカン(vingt-cinq ans)は25歳。私たちは来年バンサンカン(*15)」
「ふむふむ」
 
(*15)ワンティスの多くのメンバーが1978年度生。支香だけが1979年度生。志水英世は1976、照絵は1974、本坂伸輔は1974、加藤銀河は1979。前担当の太荷馬武は1968年度生まれで、ワンティスとは世代が違いすぎてお互い話が通じないし、正直彼らの音楽が理解できなかったので、同世代の加藤銀河に委ねることにしたのが、担当交代の理由である。
 
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少女たちの晩餐(11)

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