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■少女たちの晩餐(6)

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しかし蓮菜は言った。
「そのソプラノ集団のD6なんですけど、千里もそこだけ歌うといいと思う」
 
「私はソロ歌ってるんだけど」
と千里。
「C6まで出せるのは6人いるけど、D6出せるのはスミレちゃんと小町の2人だけで音が細すぎるんだよ、でもソプラノ集団がD6出す瞬間、千里は休符なんだ」
と蓮菜は指摘する。実はこの部分の楽譜は下のようになっている。
 

 
つまり、ソプラノ集団の最高音は、ソロの最高音の部分をエコーするように歌う所で出てくるので、その部分ではソロ自体はお休みなのである。
 
「だから千里はラシドレ・ラと歌った後、ソプラノ集団がエコーするようにシドレ・ラと歌う、そのレ(D6)だけを歌う」
と蓮菜は説明する。
 
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「ひぇー」
 
「物理的には可能だな。私はやりたくないけど」
と穂花。
「でも千里ならできる」
と穂花は付け加える。
「うん。千里は非常識だからできる」
と蓮菜。
 
それで蓮菜の言うような形で演奏してみたら、ちゃんとできたのである。そして蓮菜の言う通り、この方法を採るとソプラノ集団のD6の音が細くなりすぎない。千里・小町・スミレの3人が歌っているから充分なボリュームがある。それで
 
「じゃこの方式で」
ということになってしまった。
 
「スペシャル合唱団には、村山(千里)さん、琴尾(蓮菜)さん、広川(佐奈恵)さんが出て」
「分かりました」
 
「やはり最後の砦は千里だな」
と美那と穂花が言っている。
 
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「津久美ちゃんは来年までに去勢してD6がまた出るように練習しておこう。そしたら、千里のような“最後の砦”になれる」
 
などと蓮菜が言うと、津久美はドキドキするような表情をした。どうしたのだろう?この子、ほんとに去勢手術受けるつもりになってたりして?などと蓮菜は思った。まあ小学生の去勢手術をしてくれるような病院は存在しないとは思うけど。
 
千里はロシアのモスクワだかイルクーツクだかで性転換手術を受けたなんて噂もある。ロシアなら小学生でも手術しちゃう病院あるかも知れないけど、千里の家にはロシアに渡航するようなお金は無いはず!千里の手術場所は謎だ。
 

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喉を痛めている3人だが、風邪とかを引いている訳ではないので、歌唱自体には参加することにした。ただし無理をしない範囲で歌う。また映子は篠笛を吹くことにした。喉を痛めていても笛の音にはあまり影響はないと思われた。実際映子が練習で吹いてみると、ごく普通に吹くことが出来た。
 
それで11時頃、早めの昼食(映子は美都が監視する)をホテルのレストランで取ってから旅行会社が手配したバスで会場に移動した。
 
「しかしまあトラブルは起きるもんだね」
「何度も出場している学校もやはり様々なトラブルを乗り越えてきてるんだと思うよ」
「それが常勝校のノウハウなのかも知れないね」
「つまりトラブル対応、そしてトラブルをできるだけ起こさないようにすることがノウハウなのかもね」
 
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と蓮菜と美那は話していた。
 

大会は14時から始まり、全国のブロック大会を勝ち抜いた10校が出場する。ブロック大会は8個である。
 
北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、中国、四国、九州沖縄
 
ここで関東甲信越は2校になる。更に前年の優勝(金賞)校が所属するブロックは1枠増加されるので合計10校になる。昨年の優勝は東京のA小学校なので、今年は関東甲信越から3校出て来ている(2006年からは銀賞校の所属するブロックも1枠追加されて合計11校になった)。
 
N小は昨年熊本Z小と並んで銀賞を取っているので演奏順は10校中の8番目になっていた。N小の後、Z小と昨年の優勝校、東京のA小が歌う。
 
Z小は2年連続銀賞、A小は4年連続金賞である。
 
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昨年銅賞の岩手M小、一昨年銅賞の長野K小・東京O小は出て来ていない。各々の地区で都道府県大会・ブロック大会を勝ち抜くのがどんなに大変かを表している。それに公立校の先生はあまり長時間ひとつの学校に居ないのもあるだろうなと蓮菜は思った。N小が上位大会に出られるのも馬原先生がいる間だろう。先生が以前いた小学校は全国大会出場の経験もあるのに、今年は道大会にも出て来ていなかった。
 
演奏順の1-7番目は抽選で選ばれたらしい。各々のステージは学校紹介のビデオに引き続き、課題曲・自由曲の順に演奏される。↓は予定なので多少後にずれる場合もある。
 
14:00 開式の辞
14:06 (関)東京S小
14:18 (海)大府J小
14:30 (中)倉敷C小
14:42 (四)徳島T小
14:54 (関)長岡B小
15:06 (東)郡山G小
15:18 (近)大阪W小
15:30 (北)留萌N小
15:42 (九)熊本K小
15:54 (関)東京A小
16:06 自由演奏
16:40 スペシャル合唱団の演奏
16:50 結果発表
17:00 閉式の辞
 
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出場校の一覧が書かれた参加者用のパンフレットを見ていた何人かの子が言った。
 
「今年は大阪から2校出て来てるんですね」
「ん?」
 
それを聞いた馬原先生はしばらく出場校一覧を見ていたが、たっぷり30秒くらい考えてから言った。
 
「違うよ、大府(おおぶ)は愛知県だよ」
「え?」
 
先生はわざわざA4のPPC用紙を1枚取り出してマーカーで紙に書いた。
 
大阪府(おおさかふ):日本の都道府県のひとつ
大阪市(おおさかし):大阪府の府庁がある市
大府市(おおぶし):名古屋の近くにある市
 
先生はこの紙を部員たちに回覧!したが、この紙を受け取った子たちは数人で見て、みんな数十秒、どうかすると1分以上眺めてから、やっと理解し
「そういう名前の市があるのか!」
と驚いていた。
 
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(一部最後まで分からなかった子もある:千里など!)
 
「社会科の勉強をひとつした」
「でも似た名前の地名があると、結構勘違いされますよね」
「そうそう。うちの近所の秩父別(ちっぷべつ)とか、東京の秩父(ちちぶ)(*7)と混乱する人がいるし」
 
(*7)秩父は埼玉県!
 
「深川だって東京の深川と混同される」
「札幌の隣の北広島市は広島県かと誤解される」
「新旭川駅は新幹線の駅と思われることがある」
 
「あと茨城県に水海道市(みつかいどうし)(*8)ってあるけど、ここ知らない人はうっかり北海道市(ほっかいどうし)と読んでしまう」
 
(*8)この時点では水海道市だったが、2006年に石下町と合併して常総市になった。joso.netみたいな感じのドメインを取得しようとするとだいたい常総地方の関係で押さえられている。千里が後2012年に作る“joso labo”は旧石下町の領域にある。なお常総はむろん女装とは無関係で、常陸(ひたち)国と下総(しもふさ)国の境界付近にあることから来ている。元々茨城県南部・千葉県北部付近の地域を常総地域と言っていたのである。
 
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千里が後2010年に日本代表でリトアニアに遠征した時知り合った“変なリトアニア人”ルーカスさんは日本に留学した時、常総(Joso)市に住んでいたから女装(joso)は得意などと言っていたが、常総市には大学が無い!比較的近い筑波大学までもかなりの距離があり、全てジョークだと思った方がいい。ただ筑波大にもし留学していたのなら近隣に常総市というのがある(あるいは出来た)のには気付いたであろう。
 

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演奏が始まってから自分たちの出番までが長いので、3校目の演奏まで聴いたところで一度ホールの外に出て、ロビーで身体をほぐしてストレッチなどもし、トイレに行く。それで席に戻ろうとしたら係の人が寄ってきて
「リハーサルの準備お願いします」
と言われる。それで直接そちらに向かう(映子と由依は篠笛を取ってくる:松下先生が付いていく)。リハーサル室で最後の練習をしてから舞台袖で控え、前の学校が終わったらステージに昇るという手順である。表にすると
 
Time 演奏 待機 リハ 準備
1442 4番 5番 6番 7番
1454 5番 6番 7番 N小
1506 6番 7番 N小 9番
1518 7番 N小 9番 10番
1530 N小 9番 10番
 
という動きになるようである。だから実は3番目の演奏が終わったら12分後には呼びにこられる所だったのである
 
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それでリハーサル室に向かう。この時、先頭を5年生の希望(のぞみ)が歩いていた。ところが彼女が廊下の角を曲がろうとした時、ツルッと滑った!希望が倒れる。
 
「のんちゃん?」
とすぐ後に居た同級生の美知花が声を掛けるが反応が無い。
 
意識を失っている!?
 
「のんちゃん!」
と言って身体を揺すろうとしたので、蓮菜が
「揺らしてはダメ!」
と言って停めた。
 
「お医者さんか看護師(*9)さんを呼んで!」
と蓮菜が言うので、N小のメンバーを誘導していた係の人が
「私が呼んできます」
と言って走って行った。
 
(*9)それまで女性は看護婦、男性は看護士と呼んでいたものをこの年、2002年3月1日から性別によらず看護師と呼ぶようになった。
 
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千里は姿を消して付いている《きーちゃん》に尋ねた。
『これ大丈夫?』
『大丈夫と思う。バイタルは正常。でもしばらく安静にした方がいい』
『うーん・・・』
 
『もっとも千里みたいに明らかに死んでたのに、簡単に蘇生する変な子もたまにあるけど』
『すんませーん。私、非常識だから』
 
小町が「誰と話してるんだろ?」みたいな顔で千里を見ている。きーちゃんの方が遙かに上位の存在なので、きーちゃんが許可しない限り、小町には、きーちゃんの姿は見えない。
 

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蓮菜は千里が持っていたポーチを希望の頭の下にそっと入れた(千里は例によって、なぜ自分がポーチを持ってきたのか知らない)。お医者さんが3分ほどで駆け付けてきたが、そのお医者さんが到着する直前に希望は意識を回復した。
 
「すみません?今私倒れてました?」
と言って起き上がろうとしたが、医者が止めた。
「何分くらい意識を失っていた?」
「2分40秒くらいだと思います」
と蓮菜。
 
「だったら大丈夫とは思うが、このまま担架で医務室に運びましょう」
 
「私これから出番なんですけど」
「無理したら命の保証はできないよ」
「きゃー」
 
それで希望は担架で医務室に運ばれていったのである。希望のお母さんと穂花のお母さんが付き添った(松下先生は篠笛を取りに行った映子たちに付いている)
 
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とりあえずリハーサル室に入る。
 
馬原先生が頭を抱えている。
「どうしようか?」
と言った。こんな所で弱音を吐くというのは馬原先生にしては珍しいが、まさかソプラノ・アルトのソロの正歌唱者・予備歌唱者が4人全員アウトまたはダウンという事態は想定外だろう。演奏開始は30分後である。希望がそれまでに回復するかどうかは微妙だ。
 
蓮菜が言った。
「津久美ちゃん、アルトソロ歌ってよ」
「私、アルトソロの下の方が出ません」
「声変わりで上の声が出なくなったんでしょ?代わりに下の声が出るのでは?」
「あ」
「やってみよう」
と言って、美那がその部分の伴奏を弾く。津久美が歌う。
 
「出た!」
「よし、それで行こう」
 
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ちょうどそこに映子・由依・松下先生が到着したが、希望が倒れたと聞いて驚いていた。
「私様子見てくる」
と言って、松下先生が出ていった。
 

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それで自由曲を通して1回演奏した。
 
「けっこう綺麗にまとまったじゃん」
 
課題曲も練習したいが、不安のある自由曲を再度通して歌った。
 
「そろそろ舞台袖で待機お願いします」
と言われるのでリハーサル室を出て舞台袖に向かう。松下先生が来て、医師がここにある範囲の検査機器で調べた範囲では異常は無いということだった。本人がステージに出たいと強く望んでいるので、ぎりぎりくらいに連れてくるという話である。
 
「でもソロは交替させるよ」
「それはその方が良いと思う。それあの子に言ってくる」
と言って、松下先生は再度医務室に行った。
 
15:28頃に、希望は、お母さん、穂花の母、松下先生に付き添われて戻って来た。
 
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「ステージが終わったあと病院に行って精密検査受けるという条件でなんとか解放してもらった」
と希望。
 
「私が付いていくから」
と松下先生。
 
「米田(希望)さん、ソロは交替するよ」
「すみません。お願いします。でも誰が歌うんですか?」
「姫野(津久美)さん」
「おぉ」
と言って、希望は津久美をハグした。一瞬何人かの子がギョッとしたようだが、津久美は後から「あれで凄く落ち着けた」と言っていた。
 
「頑張ってね」
「ありがとう、頑張る」
 

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少女たちの晩餐(6)

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