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■少女たちの晩餐(12)

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照絵は龍虎を1歳児健診に連れていった。
 
通常、乳幼児健診は9ヶ月健診の次は1歳半健診なのだが、夕香が1歳健診も受けさせてあげてと言って予約し代金も払ってくれたので連れていったのである。
 
身長体重を計られ、視覚・聴覚なども検査して異常なしと言われる。服を脱がせ、裸にして全体を観察される(骨格の発達具合などの確認)。看護師さんが言う。
 
「あら、お母さん、書類が間違ってますよ」
「はい?」
「この子、書類では男の子と書いてありますけど、女の子ですよね?」
「あ、すみませーん」
 
見ると確かにちんちん付いてない!
 
もういいやと照絵は思う。
 
医師の診察も受け、発達の状態について色々尋ねられたことに答えて行く。医師は自分をこの子の母親と思っているようだが、話が面倒になるのでそのままにしておいた。
 
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診断書をもらって病院を出たが、性別:女、と印刷された診断書を見て、
 
「あんた、性別を女に修正してもらう?」
と龍虎に言うと、この日の龍虎は笑顔だったので、そのまま市役所?に連れて行きたい気分になった。
 
「性別の修正って市役所の市民課かどこかで受け付けてるんだっけ??」
などと照絵は呟く。
 
戸籍上の性別の訂正や変更の仕方なんて、普通の人は知らない。
 
(この時期、志水夫妻は龍虎にそもそも戸籍が存在しないとは夢にも思っていなかった。龍虎の保険証については夕香の健康保険の被扶養者証を照絵が預かっている。これはワンティスのメンバーは(報酬の再配分のため)高岡・上島・雨宮の3人が設立した会社の社員になっており、それで政管健保(現在の協会けんぽ)の健康保険証を発行していたためである。この被扶養者証は2003.12の夕香の死で無効にはなったものの、後に龍虎の戸籍を作る時に、ふたりの親子関係を示す重要な証拠のひとつとなった)
 
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11月7日(木).
 
津久美は父の運転する車で母も含めて3人一緒に札幌に出た。千里のアドバイスに沿ってロングスカート(北海道はもう冬なので短いスカートは穿けない)に厚手タイツ、新しく買ってもらったプリキュアのスニーカーを履き、ピンクのトレーナーを着ている。髪も美容室で女の子らしく整えてもらい、カチューシャまでつけている。
 
それで来院の趣旨を言うと、おしっこを取ってくださいと言われて紙コップを渡されたのでトイレ(もちろん女子トイレ)でそれを取って提出。検査室で身長・体重、バスト(アンダー/トップ)・ウェスト・ヒップを計り、脈拍・酸素量・血圧を測定してから採血もされた。
 
それから精神科に行き、1時間ほど順番を待って先生とお話をする。5分ほどの話のあと、検査を受けてと言われて、臨床心理士?さんとお話をする。最初に心理士さんと話して“自分史”を作った。
 
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「ちょっと待って、あなた男の子になりたい女の子だよね?」
「違います。私は戸籍上男の子ですけど、女の子になりたいです」
「ごめーん!勘違いしてた」
と言って、やり直す一幕もあった。こういう“完璧すぎる”子はごく希にいるらしい。多くの子が18歳になったらすぐ性転換手術を受けてしまうと心理士さんは言っていた。
 

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津久美は検査のため朝御飯を食べずに出て来ているのだが、お昼も食べないでと言われて、お腹が空いている中、午後からは身体的な検査をされた。
 
最初に泌尿器科の医師の診察を受ける。
 
下半身の服を脱いでお股を露出させたら、医師は声こそあげなかったもののかなり驚いた様子であった。
 
津久美に尋ねる。
 
「君、産まれた時からこういう形だった?」
「ごく最近までむしろ男の子の形でした。でも先月、女の子に改造されちゃう夢を見て、起きたらこういう形になってました」
「前日までは男の子の形だった?」
「はい」
 
「君ちょっとMRI撮ってみよう」
「はい?」
 
えむあーるあいって何だっけ??
 
それで津久美は、お腹空いたぁと思いながら、MRI室に行き、結構な順番待ちをしてからMRIを撮られた。台に乗せられて狭いカプセルの中に入れられると宇宙人に拉致された気分だ。なんかドンドンドンドンと凄い音がするなあと思いながら、機械の中で眠ってしまった!
 
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MRIが終わった後待合室でまた1時間ほど待ってから、婦人科に来てと言われてそちらに行く。女性の先生である。
 
「あなた内診って受けたことある?」
「いいえ」
「ちょっと恥ずかしい格好することになるけど、内診してもいいかな」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「じゃスカート・タイツ・パンティを脱いで、この椅子に座ってくれる?」
「はい」
 
そしたら、本当に恥ずかしい格好になったので、津久美は「きゃー」と思った。更に何か“入れられてる”し!
 
「はい、もう大丈夫よ」
と言われて元の姿勢に戻される。
 
「あなた生理来てるよね?」
「先月末に初めての生理が来ました」
「ちゃんと処理できた?」
 
「そろそろ来るかもと思ってナプキンを着けていたのでパンティも汚さずに済みました。先輩のお姉さんが「生理用ショーツつけた方がいい」と言って買ってきてくれたので、その後はそれを穿いてましたし」
「なるほどね。ナプキンは以前から用意してたの?」
 
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「泌尿器科の先生には言ったのですが、先月女の子に改造されちゃう夢を見たんですよ。そして起きたら本当に女の子みたいな形になってたからびっくりして」
 
あの時は本当にびっくりしたよなぁとコンクール全国大会の朝を思い出す。自分が見るより先に梨志や香織に見られたし。あの時、最初は自分も梨志たちも、ちんちんまで無くなって、完全な女の子の形になっていると思った。実際その直前に見た夢では女の子の形になっているのを見て驚いたのである。ところがちんちんは割れ目ちゃんの中に隠れていた。
 
「なーんだ、ちんちんはあるんだ」
と言って、自分が触る前に梨志に触られた!
 
「でもこのちんちん、おしっこの出る穴が空いてない」
「ほんとだ」
「おしっこはどこから出るの?」
「待って。確認してくる」
 
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それでトイレに入ってみたら、おしっこは、割れ目ちゃんの中から出ることを確認した。それを梨志たちに言うと
「要するに、このちんちんって大きなクリちゃんだと思う」
と梨志は言った。
 
「そうなのかも」
「だからやはり、ツクりんはもう女の子なんだよ」
 

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津久美は説明を続け
「こういう形に変化したのなら、もしかしたら生理も来るかもと思って買っておいたんです」
と言った。
 
「なるほどね」
 
ここで母も呼ばれる。それで津久美にはMRIで見た所、卵巣・子宮・膣があること、血液検査でも女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)が“思春期の女子の標準値”、男性ホルモンも“思春期の‘女子’の標準値”の範囲であることが説明される。そして既に生理も来ていることも話す。母は驚いていた。
 
「生理が来たのなら言いなさい」
「ごめーん。なんか恥ずかしくて」
 
先生は津久美のバストもチェックして、確かにこれは胸の膨らみ始めだと言った。ジュニアブラを着けた方がいいと言い、母にそれを買ってあげてと言った。
 
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「診断書とかはまた精神科の方に言って相談すればいいのでしょうか?」
と母は訊いたが、婦人科の先生は否定した。
 
「あなたは精神科の患者ではありません。婦人科の患者です」
「そうなると」
「こちらで診断書はお出しします。今日出ますよ」
「そうなんですか。性同一障害の診断書って3〜4回通院しないと出ないと聞いていたものですから」
「お父さんもいらしてます?」
「はい」
「では一緒に聞いていただけますか?」
 
父は婦人科の診察室に入るのを恥ずかしがっていたが、何とか入ってきた。
 

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医師は父もいる場でここまでの説明を繰り返した。父はかなり驚いていた。医師は両親にMRIの写真も見せ、津久美に卵巣・子宮・膣があることを明確に示した。そして医師は言った。
 
「お嬢さんは性同一性障害ではありません」
「そうなんですか?」
「お嬢さんは完全な女性です」
「え〜〜〜!?」
 
「現在、お嬢さんのお股の形状はかなり女性に近いものになっています。以前はまるで男の子のような形だったということですが、これは時々あることなんですよ。元々女の子だったのが、何らかのトラブルで、まるで男の子のような形で生まれてしまうことはあります。でも多くは思春期頃に本来の性別の体型に変化して行くんですよ」
 
「そんなことがあるんですか」
 
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「わりと多い事例に、5α(ファイブ・アルファ)還元酵素欠乏症 (5α-reductase deficiency : 5-ARD) というのがあります。これは産まれた時は女の子のような形なのに、思春期になるとそれまでクリトリスと思っていたものが急速に成長してペニスに変化し、完全に男の子になってしまうものです」
 
「ちんちんが生えてくるんですか」
「まさにそういう病気でこれはとても多いんですよ」
「へー!」
 
「逆に21-水酸化酵素欠乏症 (21-hydroxylase deficiency) というのは本来は女の子のはずが、クリトリスがペニス状に発達した状態で生まれてくるので、多くは男の子と誤認されます。しかし実際は女の子なので、思春期になるとバストが発達してくるんですよ」
 
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「ほほお」
 
「他にも完全な男児なのにマイクロペニスと尿道下裂を併発していて見た目が女児にしか見えない子もあります。女児として育てられていたりしますが、実際は男の子なんですね。この手の病気は何種類か知られていて、だいたい数百人に1人はこの手の異常は発生すると言われています」
 
「割と多いんですね」
 
「お嬢さんの場合も、本来は女の子だったので、精神的にも女の子として発達したのだと思います。だから身体の性と心の性が一致しない性同一性障害ではなく本来の性と身体の外見上の性に混乱がある、性分化疾患になります」
 
「それって何か治療とかが必要なのでしようか?」
 

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そこで医師は津久美を見て言った。
 
「この手の病気は、乳幼児健診で見つかることもわりとあって、その場合はまだ物心つく前に、女の子らしいお股の形に変えてあげるんですよ。でもある程度育ってから発見された場合は、本人の性別意識が既に確立しているから、本人の希望に沿った治療を行います」
 
と言って医師はいったん言葉を切った。
 
「君が男の子として生きていきたいなら、卵巣を摘出して女性化が進まないようにし、擬似的な睾丸・陰嚢を作り、男の子同様に、ちんちんの先から排尿できるようにすることは可能。そして男性ホルモンを投与して男性的な身体の発達を促す。人工的な治療を望まない場合は、敢えて性別曖昧なままの形で生きていく選択をする人もある。そして君が女の子として生きていきたいなら、ちんちんに見えるクリトリスを縮小して、普通の女の子のサイズにする手術をする選択もある」
 
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「つまり、ちんちん切ってもらえるんですか」
「そういうことになる」
 
「ちんちん切って下さい。私、完全な女の子になりたい」
と津久美は明快に言った、
 
「お父さん、お母さん、それでいいですか?」
「この子は物心ついたころから凄く女の子らしかったんです。本来は女の子だったのだと言われたら、まさにそうだと思います。手術、お願いします」
と母は言った。
「こいつは女でいいと思う。ちんこ切って女にしてやって下さい」
と父も言った。
 
「では・・・」
と医師はカレンダーを見ながら言う。
 
「冬休みに手術しましょうか。一週間くらいは入院することになりますし」
「はい」
「その前に12月の上旬くらいにでも一度ご来院頂けますか?手術の詳細について打ち合わせましょう」
「分かりました。参ります」
 
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「だったら診断書は、その手術が終わってからになります?」
「今日お出ししますよ。2部書きます。1部は学校に提出して学籍簿上の性別を変更してもらってください。1部は家庭裁判所に提出して戸籍上の性別を訂正してもらってください」
 
「戸籍の性別が変えられるんですか!?」
「出生時に性別を誤認していたということになりますので。間違っていたのなら訂正できるんです」
 
津久美も両親も法的な性別を変えられるとは思ってもいなかったので驚いた。
 
「家庭裁判所に行くんですか」
「こういうのに慣れている弁護士の方に頼んだ方がいいかも」
「それ紹介してもらえません?」
「だったら医療相談室で」
 

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それで医療相談室で相談すると、半陰陽の当事者の支援団体を紹介してもらったので、連絡してそちらに行くと慣れている弁護士さんを紹介してもらった。それでその弁護士さんの所に行くと、すぐに性別訂正の申立書を書いてくれた。
 
「これを、留萌なら・・・旭川家庭裁判所に提出して下さい」
「分かりました。ありがとうございます!」
「たぶん1度呼び出されて色々質問されると思いますが、正直に答えれば大丈夫ですよ。特にお嬢さんの場合は、女の子にしか見えないから問題無く通ると思いますよ」
と弁護士さんは言っていた。
 
「やはり見た目って関係あるんですか」
「そうですね。武蔵丸みたいな人が来て自分は女ですと主張しても、裁判官の心証はよくないですね」
 
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「はあ」
と答えながら、津久美は武蔵丸に似たおばちゃんが近所に居るぞと思っていた。
 
 
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少女たちの晩餐(12)

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