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■少女たちの晩餐(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-12-03
 
P神社では、10月15日の七五三に向けて縁起物作りが忙しかった。
 
(北海道では七五三は10月15日に行われる)
 
千里・蓮菜・恵香・美那も放課後、結構神社に行き、工作をしていた。時には穂花、玖美子などまで動員されることもある。なおこういう作業に、不器用で荒っぽい留実子は呼ばれない!
 
「あっそうそう。蓮菜、これもらってくれない?」
と言って千里は蓮菜に“箱”を渡す。
 
「なぜ唐突にこういうものが」
「夏休みに彼とデートした時にさあ、うちの母ちゃんが心配して持たせてくれたんだよ。でも私は当面使う予定無いから」
 
「じゃもらっておく」
「ごめんねー。学校では渡せないからここで渡した」
「学校でこんなの渡してたら、仰天されるよね」
「みんな興味持って避妊具配布大会になって、家に帰ってお母ちゃんに見つかる子が出て、PTAの臨時会議が開かれる騒動になるかも」
「なんて恐い」
 
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「だけど千里のお母ちゃんって千里の妊娠を心配するんだ?」
と恵香が言う。
 
「妊娠しないだろうと油断するのがいちばん危ない」
と千里が言うと
「それうちの母ちゃんからも言われた」
と蓮菜は言った。
 
「でも千里とか沙苗とか鞠古君とか妊娠しそうな顔してるよ」
「鞠古君はほんとにるみちゃんの赤ちゃん産むかも」
 
「るみちゃん精子持ってるかも知れないよね」
「あの子、ちんちん付いてる気がしてならない」
「修学旅行の時女湯に入ってたよ」
「みんな千里のお股には注意してたけど、るみちゃんのお股は見てないもん。うまく隠して入ったかもしれん」
 
 

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縁起物作りは、近所の女子中生、純代さんと広海さんも手伝ってくれた。
 
「そうだ。広海ちゃん、秋祭りの巫女さんもしてくれない?」
「何するんでしたっけ?」
「色々あるけど、姫奉燈を先導する役割が最も重要」
と小春は言う。
 
「私も去年から参加してるけど、あれは神秘的で震える」
と純代さん。
 
「去年は誰々でやったっけ?」
と蓮菜が尋ねる。
 
「一昨年が、美輪子さん、守恵さん、私と朱理さん。去年は私が抜けて純代ちゃんに入ってもらった。今年は朱理さんが札幌行っちゃって戻ってこれないし、美輪子さんは就職しちゃったから参加できない。だから欠員が2名出てるのよ」
と小春は説明する。
 
1999 洋子(L)、守恵、美輪子、小春
2000 守恵(L)、朱理、美輪子、小春
2001 朱理(L)、純代、守恵、美輪子
2002 純代、守恵、?、?
 
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L:扇を持ち、姫奉燈の前を歩く係(露払い?)
 
(小春は1994-2000, 美輪子は1995-2001, 守恵は1997-2006?)
 
「その1人を私ですか。もう1人は?」
「本当は中学生以上なんだけど、千里か恵香ちゃんか美那ちゃんにお願いしたい」
「蓮菜は候補じゃないの?」
と恵香が尋ねると
「これ処女でないと務められないので」
と小春は言った。
「なるほどー!」
と千里・恵香・美那。
 
「じゃ千里だな」
と恵香と美那が言う。
 
「なんで〜?」
「男の子とセックスする可能性がいちばん低い」
「彼氏は旭川でなかなか会えないからね」
「ふむふむ」
「処“女”かどうかは微妙に疑問があるが」
「お風呂の中で見た限りは間違いなく女だったし」
 
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ということで、今年は、守恵(高3)、純代(中3)、広海(中2)、千里(小6)の4人で姫奉燈を先導することになった。
 
「この4人組は守恵さんが就職するまで5年間続けられる気がする」
「守恵さんは大学どこ行くの?」
「H教育大旭川校を受けると言ってた。滑り止めで旭川A大学」
「じゃ、どっちみち旭川に残るんだ?」
「まあお父さんが札幌には出してくれないみたいよ」
「ああ。女子はそのあたりで親との戦いがある」
 
そういえば従姉の吉子さん(高2:津気子の姉の娘)も、早稲田だか慶應を受けたいと言って両親と戦闘中と言ってたなあ、と千里は思った。
 

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10月3日(木).
 
N小合唱サークルに衝撃が走った(でもこれは序ノ口だった)。
 
「転校?」
 
「ごめんなさい。父が急に釧路支店に異動になって、土日に引っ越しするんです」
と6年2組の紗織は本当に申し訳無さそうに言う。
 
「そりゃまた、西から東へと大移動だね」
「しかし急な話だね」
「釧路支店の支店長さんが、交通事故で急死なさったということで」
「それはお気の毒に」
「どっちみち、父は4月から釧路支店の支店長に異動する予定だったらしいです。それで前倒しの異動になったらしくて」
「ああ」
 
そういう訳で全国大会の直前に、アルトソロの予備歌唱者が転校して居なくなってしまったのである。
 
先生もこれが正歌唱者だったら、先生の家に一時的に下宿させるなどの方法で転校を遅らせてもらう手を使ったかも知れないが、予備歌唱者だったので、先生もそこまでの無理はしなかった。
 
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10月5日(土).
 
千里は、蓮菜・恵香・美那と4人で、蓮菜の母・笹代が運転するセドリックに乗り旭川に出た。旭川のE女子中学高校の説明会に出るためである。
 
蓮菜はお医者さん志望なので、高校は札幌か旭川の進学校に行きたいと言っている。しかし進学校の入試は狭き門なので、中高一貫校の中学に入ってしまうのはひとつの手である。
 
お母さんとしては札幌は遠いし、できたら旭川のE女子校かN高校あたりに入ってくれたら、旭川に住む、笹代の姉・竹子(秋祭りの巫女を務めている守恵さんの母)の所に下宿させられるという思いがある。
 
竹子の所は、夫婦と女の子3人だが、5LDK2Sのマンションに入っているので、部屋が3つも空いている。蓮菜はしばしばその空き部屋のひとつに泊まっており、実は半ば蓮菜の部屋のようになっている(結構私物も置いている)。だから蓮菜がここに下宿して旭川市内の中学・高校に通うのは自然である。竹子さんもそれを期待しているし、娘3人も、蓮菜を自分たちの妹のように扱っている。
 
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「ねぇ、今度の週末に旭川の私立中学の説明会に行くのよ。ひとりじゃ不安だから、誰か一緒に来てくれない?」
と蓮菜は神社で縁起物を作りながら言った。
 
「どこ受けるの?」
「行く所としたらE中学高校しかない。札幌は女子が入れる、中高一貫校の私立進学校が無いのよね〜」
 
「**女子校とかは?」
「あそこは、生徒を送り迎えするのにベンツかロールスロイスが必要な学校だよ」
「よく分からん」
 
「だからさあ、恵香か美那か付いてきてくんない?」
「うちは私立なんて行くお金無い」
「私はE中学とか受験する頭は無い」
「じゃ2人まとめて」
「じゃついでに千里も」
 
「え?何?」
 
実は千里は全く話を聞いていなかったのである。
 
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「うーん。千里にはあまり縁は無さそうな気がするが、千里も一緒においでよ」
「まあいいけど」
 
(千里の家には私立に行かせるお金が無い、千里にはE中学の入試に通る頭が無い、ついでに千里は戸籍が男なのでたぶん女子校は入れてくれない!)
 

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それで、千里は何なのかさっぱり分からなかったものの、蓮菜たちに付いて旭川に出たのである。
 
「千里1000円出して」
「1000円?はいはい」
と言って、千里は1000円札を恵香に渡した。高速代かな?と思った。
 
千里の母の車だと高速代をケチって下道を走って1時間40分かかるが、蓮菜の母の車だと沼田ICから、深川留萌自動車道・道央自動車道を走り、1時間も掛けずに到着した(スピードオーバーしてる気がする)。
 
車で構内まで進入して、係員の指示に従って駐車する。千里は敷地が意外に狭いなと思った。晋治が在籍している学校も中高一貫校だが、あそこの7割くらいの広さという気がする。晋治の学校はスポーツで有名な学校で、ここは進学校らしいから、その差かな?という気もした。
 
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4人の名前は事前に予約して登録されているので、エントランスで受付番号を言い、説明会の出席者を示す青いリボンを胸に付けてもらう。資料がどっさり入った紙袋を渡されるが、この紙袋のデザインが格好良い!と千里は思った。
 

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図書館の1階にある視聴覚教室に入る。広いなと思う。たぶん200-300人入るのではなかろうか。
 
「なんか女子が多いね」
と千里は言った。
「だって女子校だもん」
と恵香。
「嘘!?」
「知らなかったの?」
「全然知らなかった。単に私立中学というから」
 
「旭川の私立中学は共学のT中(*1)の他はここと、L女子中、F女学園中、Y女学院中のみ」
 
「蓮菜の目的は進学だから、T中に行って高校をE女子高に行くなら、最初からE女子中に入った方がよい」
 
(*1)晋治が在籍している学校。ここは中等部は共学だが、高等部は男子のみ。T中女子の半分くらいはE女子校に進学する(そこに通りそうにない子はN高校やM高校に行く)。
 
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「私、ここに居ていいんだっけ?」
「何を今更」
 
ということで、千里が若干の不安を持ちながらも、説明会は始まった。
 
参加者は30人くらいである。教室先頭にある壇の所をカメラで撮していて、教室内の多数のモニターテレビに映されるので、奥の方に座っている子もしっかり見ることができる。説明用の資料は教室前面のスクリーンとモニターテレビに映されるし、予め配布されている資料にも印刷されたものが入っている。美那が「パワーポイントだね」と言っていたが、千里は何のことやら分からず、カメラの名前か何かだろうか?と思っていた。
 
(小学校の授業でもPower Pointくらい使っているが、千里は“何か映写機”程度にしか思っていない)
 
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校長先生の挨拶の後、何人かの先生が交代で壇に立ち、この学校のシステムの説明、授業についての説明、高校を卒業した後の進学先に関する説明、また学校の施設・設備の説明などが行われた。部活の紹介はBGM(モー娘。のLOVEマシーン)付きの動画で流れていた。
 
千里は半分眠ってた!!
 
説明会の後、学校の施設紹介ということであちこち見てまわる。
 
まずは視聴覚教室の2階にある図書館、それから化学教室・物理教室・生物教室・地学教室、3つもある音楽室、2つある美術室、書道室、畳教室、4つもある体育館、更に武道場、プール、とかなり歩き回って疲れた!!
 
最後に2つある調理教室、更に被服室まで来た所で
「今日は皆さんに、見学記念に制服を試着して頂きます」
という説明があると歓声があがる。
 
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説明会に付いてきていたお父さんなど男性は食堂に移動して待機してもらい、女子のみとなる。それで10人ずつ制服の試着をして記念写真を撮っていた。
 
千里たち4人は2組目に試着した。千里は中学の女子制服が着られるとあって嬉しくてたまらなかった。
 
「中学の制服を着たらみんなもう女子中生に見えるね」
と蓮菜のお母さんは笑顔で言っている。
 
蓮菜の母と恵香がデジカメを持って来ていたので、蓮菜のお母さんがその2つのカメラで4人並んでいる所、また1人ずつの写真を撮ってあげた。
 

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説明会は12時前に終わったので、食堂でランチを(無料で)頂いた。普通ここの生徒が食べているようなランチという説明だった(この日は学校は休みだが、食堂は特別に開けている)。
 
ランチの内容は、お皿にメンチカツ・スケソウダラのフライ・かぼちゃの天麩羅、ピーマンの肉詰め、スパゲティ、野菜サラダを盛り合わせたもの、ごはん、お味噌汁、沢庵2切れ、それに200ccの牛乳パック、といったものである。ごはんと味噌汁はお代わりOKということだった。
 
「今日は説明会に来てくださった方のために無料で提供していますが、ふだんはこのランチが200円です」
と説明されると
「安い!」
「いいねぇ!」
という声が多数あがっていた。
 
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学校を出たのは13時頃である。
 
「もう帰るの?」
と千里が訊くと
「千里、何も話を聞いていない」
と恵香から言われる。
 
「明日、T中学校の説明会もあるんだよ。だからそれを聞いてから帰る」
「千里はむしろ明日の方が興味あるんじゃない?」
 
千里はドキッとした。夏休みに晋治とデートした時、野球部の先輩に
「君、性転換してうちに入らない?」
なんて言われた。
 
晋治と同じ中学に入る。そしたら、ふたりの関係はまだまだ続いて行くかも知れない。
 
あれ?
 
性転換って、私、男から女に変わればいいんだっけ?女から男に変わらないといけないんだっけ??
 
千里はよく分からなくなった。
 

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「じゃ今夜はどうするの?」
「みんなで蓮菜のおばちゃんちになだれ込み、雑魚寝」
「へー!」
 
「千里、お母ちゃんに電話した方がいいのでは?」
「そうする!」
 
それで千里は持って来ている携帯(実は父のもの)で母に連絡し、今夜は蓮菜の伯母さんの家に泊めてもらい明日帰ることを連絡した。母は女の子たちと一緒に泊まるというのに、少し戸惑うような声をあげたが、いつものことなので気にしないことにしたようだった。
 

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「でも泊めてもらうなら、お土産か何か持ってかなくていい?」
と千里が訊くと
 
「お土産代で今朝1人1000円徴収したじゃん」
と言われる。
「あれお土産代だったんだ!」
「そう言ったはずだが」
「聞いてなかったぁ!」
 
「千里っていつもこうだよね」
「人の話全然聞いてない」
「昨日言ったことも忘れている」
「実は千里は数人いるのではと思いたくなることある」
「あるある」
 
「千里って神出鬼没だしね」
「そうそう。旭川で千里の姿を見てから特急バスに乗ったのに、留萌駅前でまた千里に会ったことある」
「似た人と間違えたのでは?」
 
ということで、蓮菜の伯母の家には夕方くらいに行くことにし、午後は旭川の街を回ることになった(なっていた!)。
 
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