広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス
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■春動(23)

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1人ずつ部屋番号が印刷された紙のカードキー(磁気ストライプ付き)をもらう。峰代が714, 邦生が715, さくらが716だった。それで一緒に7階に登り、714, 715, 716 が並んでいる所で
 
「じゃお互いがんばろう」
と言って別れ、カードキーで各々のドアを開けて部屋に入った。
 
キーを室内の差し込み口に差し込むと灯りが点く。
 
邦生は荷物からパソコンを出すと、電源とイーサーケーブルを繋いだ。
 
講習は全てLAN経由で行われる。講習テキスト表紙に書かれているアドレスを打ち込むと、出席確認の画面が出るので、そこで自分のidを入力し、出席のクリックを入れておく。出席確認はこの後、抜き打ちで行われるので、10分以内にクリックしないと、どこかに行っている、あるいは寝ているとみなされるので、結構気が抜けない。10分というのはトイレに入っていた場合の考慮である。
 
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なお食事はお弁当が朝昼晩、部屋の前に置き配されることになっている。邦生たちが到着してまもなくお昼がデリバーされたので、それを食べ、13時から研修は始まった。
 
主催者の挨拶の後、この日は講演が2つあった。最初の講演では最初に出欠確認があったのですぐクリックしたが、2つ目の講演は途中で出欠確認があった。邦生は完璧に寝ていたが、峰代からショートメールがあり、それで目を覚ましてクリックした。峰代・邦生・さくらの間では、出欠確認があったらショートメールでお互い連絡しようということにしている。
 
講習が終わった後の夕食は、峰代の部屋に、邦生とさくらが自分のお弁当を持って集まり、3人でおしゃべりしながら食べた。一応4人以上の会食は禁止という通達が出ているのだが、H銀行金沢支店組は3人なので、問題無しである。
 
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「でもここは個室にバストイレが付いてるから安心」
と、さくらが言っている。
 
「お風呂はまだいいとして、トイレが別なのは凄く困るよね」
「さくらちゃんの場合は、女子トイレでも、女湯の脱衣室でも悲鳴をあげられるという意味ね」
「そうなのよ!私、小学校でも中学校でも修学旅行の時に女湯からつまみ出された」
「たいへんねー」
「それで男湯に入った?」
「さすがに無理だから、女の先生に付き添ってもらって確かにこの子は女ですと言ってもらって、仲居さんの前で裸になって、やっと納得してもらった」
 
性別が誤解されやすい子は大変だなあ、などと邦生は思っていた。
 

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この日は御飯が終わった後、おやつを食べながら21時頃までおしゃべりをし
 
「あまり遅くなると明日に響くから」
ということで解散。各自の部屋に帰って寝た。
 
邦生は真珠と1時間ほどLINEで話してから寝た。
 
1日目の講習は2件で、企業の創業者と2代目さんで、会社を育てて来た経緯、またカリスマ経営者だった父が死んだ後、会社をどうシスマティックにして行ったか、などという話だった。結構興味深い話だった(でも寝てた)。
 
2日目は午前中に1件、午後から3件の講習があった。コンプライアンスの話、個人情報保護の話、知的所有権の話、労働法規の話など、実務的な話が並んだ。邦生はまた峰代のメールで目を覚まして出欠のクリックをした。
 
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3日目は、午前中1件と午後1件だった。B/S(貸借対照表), P/L(損益計算書), 決算報告書などの見方や経営状態を数値で捉える手法の話、人間関係について心理学者の立場 からの話で、2日目の話よりはまだ眠くなりにくかった。これで3日間の研修 は終わり、夕方研修所を出た。
 

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3人は高山市内でラーメンを食べた後、交替で運転して金沢に戻る。帰りは前半をさくら、後半を邦生が運転した。ただし、金沢市内で、まず邦生のマンション前で邦生が降り、その後、さくらが運転して自分のアパート前で降り、最後は峰代が運転して自宅に戻った。
 
「ただいまあ」
と言って、邦生はマンションに帰り着くと、疲れが出て、リビングの床に寝転がった。
 
「おかえり。お疲れ」
と言って、真珠は邦生にキスをした。
 
「御飯できるまで時間が掛かるから少し寝てるといいよ」
「そうする」
と言って、邦生は起き上がると、トイレに行ってから、寝室に入り、布団に潜り込んだ。
 
真珠は邦生が放置していった資料を見る。
 
「うーん・・・」
 
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“銀行協会・女性幹部候補生研修会”と書かれている。
 
「やはり、くーにんは女子扱いなんだな」
とあらためて思うと同時に、真珠は疑問を感じた。
 
「果たして、くーにんは女性講習会であることを意識して参加したのか、あるいは女性向けの講習会であることに全く気付かなかったのか」
 
もちろん後者!!!
 
真珠は『ぼくレスビアンの勉強した方がいいかなあ』などと考えていた。
 

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2月14日(月・友引・なる).
 
夕方、金沢市内のホテルで、藤尾歩と青山広紀は結婚式を挙げた。広紀の妊娠が判明したことで、早めに式を挙げようということになり、この日の挙式となったのである。コロナの折、式はお互いの家族のみ。祝賀会もネット形式となった。結婚式は人前式で、ふたりはともにウェディングドレスを着て、式に臨んだ。
 
なお婚姻届はこの日の日中に金沢市役所に提出した。男と女の婚姻届なので、何の問題もなく受け付けられた。なお苗字は事実上の夫(法律上は妻)の苗字、藤尾を使用する。
 
祝賀会には、神谷内・幸花・邦生も、広紀の友人としてネット参加している。青葉も“某所”からネット参加した。
 
そしてこの様子は当然『北陸霊界探訪』でも60秒ほども時間を取って紹介された!!(盆栽よりよほど長い)
 
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岡山市内。
 
武石満彦は自分のおっぱいに吸い付いている令菜(2020.6.20生)の背中を撫でていた。
 
「令菜は、私のおっぱいより、みっちゃんのおっぱいが好きだね」
と紗希が嫉妬するように言う。
 
「だって、さっちゃんのおっぱいは“出ない”けど、ぼくのおっぱいは“出る”からね」
と“母親のゆとり”で満彦は言う。
 
「まあいいや。次の子は私が産むよ」
「よろしくー。妊娠出産はほんと大変だったよ」
「まあ頑張ったね」
 
「身体も男に戻ったし。おっぱいだけはそのままだけど」
「そりゃおっばいが消えたら、令菜が困る」
 
「でも完全な女のままで居たかったんじゃないの?」
「ぼくの性別意識が揺れてるのは認めるけど、ぼくはやはり女として生きていくだけの覚悟は無いよ。ほんと一時はどうなることかと思った」
 
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「そうかなあ。みっちゃんは女として立派に生きていけると思うけど」
「まあ男に戻れたし」
「レスビアンもいいと思っていたのに残念だ」
「ちんちんも立つし」
「もう長らく立たなくなってたね」
「立ったの見た時は、男に戻れたぁって感動した」
「がっかりしたんじゃないの?」
「取り敢えず胸があるからいいや」
「やはり女の子になりたいのね。女性ホルモンの注射してあげようか?」
「さっちゃんが妊娠してからにする」
「OKOK。私が妊娠したら、みっちゃんは去勢して女性ホルモン投与ね」
「去勢するの〜〜!?」
「邪魔でしょ?」
 

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武石満彦と紗希は、2019年9月28日(誰かさんのせいで)突然2人とも性転換してしまった。そして紗希は翌日女に戻ったものの、満彦は女のままで、やがて妊娠が判明する。
 
要するに妊娠してしまったため、赤ちゃん保護のために性別回帰が保留されてしまったのである。満彦はそのまま妊娠生活を送り、2020年6月20日、令菜を出産した。
 
そして満彦はそのまま令菜の母親を1年間した後、出産の1年後、2021年6月20日、唐突に股間の形だけ、男に戻ったし、女性ホルモンの摂取を始めて以来勃起しなくなっていた陰茎の久々の勃起も経験した(挿入と射精もちゃんとできた)。
 
それで満彦も1年9ヶ月ぶりに男に戻ったのだが、おっぱいはそのままで、ちゃんとお乳も出るので、令菜はいつも、満彦のおっぱいに吸い付いているのである。むろん1歳をすぎで、令菜はふつうの御飯をもう食べてはいるが、やはりおっぱいに吸い付いていると、安心するようである。
 
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おっぱいは紗希にもあるが、そちらのおっぱいは“出ない”ので、令菜にはお気に召さないようである。
 
このおっぱいがずっとこのままなのか、授乳が終わると消えるのか、それはふたりにも分からない。
 

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その日、&&テレビの取材班は、W神社に何か面白いものができているという情報を掴み、ローカル番組の取材班が訪問してきた。
 
「鉄道ができたんですか」
「はい。社内鉄道です」
と宮司さんは笑顔で語った。
 
境内に大量に人形が並んでいる中、レールの絵が描かれた“線路”が設けられていて、そこを機関車トーマスのパーシーがゆっくりと走っているのである。
 
「ひとつは、あの世へ旅立つ人形たちへの餞(はなむけ)に鉄道模型で楽しんでもらおうということ。ひとつはたくさん人形が並んでいるのが恐いとおっしゃる参拝客さんもおられますので怖さを軽減しようということ。そして、あとひとつは人形たちが勝手に動いたりしないように見ている羊飼い犬、シープドッグの役ですね」
 
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「羊飼い犬ですか!」
 
「羊たちが勝手な動きをしないように羊飼い犬が見張ってますよね。この蒸気機関車はガードマンなんですよ」
「なるほどー。見張りがいたら、勝手に移動したりできないんだ」
「だからこの蒸気機関車は雨や雪が降ったり、風が強い日を除いては夜中もずっと動かし続けます」
「電池持ちます?」
「簡単な電子工作で、30分に一度だけ巡回するようになっていますし、駅にいる間は充電しますので、大丈夫ですよ」
「結構ハイテクな気がします」
「他の局で申し訳無いんですが、実は〒〒テレビの『北陸霊界探訪』のスタッフの女性の中に、この手の電子工作が好きな人が居て作ってくれました」
 
↑少なくとも全員女性に見えた!
 
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「ああ。石川ドイルさんの番組ですか!」
とレポーターは言ったのだが、カメラマンから小声で言われて気付く。
 
「あ、すみません。石川ドイルじゃなくて、金沢ドイルさんだった。〒〒テレビさん、ごめんなさい」
と、その場で訂正していた。
 

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なおこの局の番組のほぼ1ヶ月後に放送された『霊界探訪』(2022.3.18)では、この“社内鉄道”の制作の様子も映っていた。主として工作事をしていたのは、邦生であり、駅も彼が作った(女性スタッフと言われたのは気にしない)真珠と千里が力仕事担当で協力している。線路を専用マットの上に描いたのは真珠である。
 
最初はプラレールを考えたのだが
「風で飛んでいく」
ということになった。
 
神社側は
「台風とかの前に取り入れたり、その後設置したりくらいやりますよ」
 
と言ってくれたが、それをずっとやっていくのはどう考えても大変である。
 
そこで雨風に強い“描いたレールの上を走る”センサー型の汽車を採用した。これなら線路が雨で薄くなったり消えても、描き直すだけで済む。経路を変更するのも簡単である。
 
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機関車は市販の模型機関車にセンサーやタイマーを組み込んで作ったものである。邦生と後藤(後述)は改造方法を文書にまとめ神社さんに渡した。ある程度電子工作と組み込み機器のプログラミング経験のある人なら同様の改造ができるはず、と邦生は言っていた。
 
なお、駅は社務所の建物の軒下で窓の傍にあり、アクリル板で守られているので、出入口のふたを閉めるだけで、雨風から守られる(この部分の工作は真珠がした)。本当に風が酷い時は、窓を開けて駅舎ごと室内に退避させることもできる。
 
この“社内鉄道”の導入後、これを見るために神社に来る人も結構増えたらしい(30分に1度走るので、走るまで待っている)。
 

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