広告:國崎出雲の事情 4 (少年サンデーコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■春動(11)

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 
前頁 次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

五反野の研修室でのアクア制作会議が終わった後、一同は秋に竣工して早速使用している女子寮2号館を見学した。
 
「1号館よりかなり広くなりましたね」
と空き部屋を見て、みんなが言う。
 
「旧館は6畳サイズ洋部屋の1Kでしたが、新館は8畳サイズ洋部屋の1DKになっています。他に各フロアに2DKがひとつずつあります」
 
「それは姉妹用?」
「そうです。結構姉妹がいるんですよね。カップルでもいいことにしています」
「男を女子寮に入れるの!?」
「女同士のカップルでしたら」
「なるほどー」
 
「男の娘と女の娘のカップルなら?」
と千里が茶々を入れる。
 
「個別審査で」
とコスモスは言っていた。
 
「あれ?こちらベランダかと思ったら、こちらにも廊下がある」
と和泉が“部屋の奥”のドアを開けてみて驚いている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「廊下は表裏にありますから、非常時はどちらからでも脱出できます」
「それはいいね」
 
「それに運気の問題もあるんだよ。個人個人で、玄関がどちらにある方が運気いいかが違う。だから、自分がしっくりする方から出入りしなさいと言っている」
「なるほどー」
 
「隣の住人と顔合わせたくなくて隣の人と反対から出入りしてたりして」
「それもいいんじゃない?お互い嫌な思いしなくて済む。どうしても相性の悪い人はいるから」
 
確かにそれもありだと青葉は思った。
 
「水の流れを作っているのは、湿度調整か何かですか?」
「うん。それと冷暖房費の節約というのもある。特に猛暑の夏は冷房だけでは冷やしきれないんですよね。でも水を流すと結構冷やせる」
「いいね、これ」
 
↓ ↑ Bottom Top

「それとクマネズミ対策もあるんです。高層ビルにクマネズミはつきものだけど、駆除が困難。ところが水路があると、ここにドブネズミがやってくる。ドブネズミはクマネズミの天敵」
 
「ドブネズミは居てもいいの?」
「別に人間に害はもたらさないので」
「へー」
 
「ネズミ対策なら、おキツネさんを住まわせてもいいかもね」
などと千里が言い出す。
 
「おぉ!」
「元々、稲荷神社でキツネが大事にされるようになったのは、大切なお米を食べてしまうネズミをキツネが食べてくれるから」
「なるほどー!」
 
「命婦(みょうぶ)たちと女の子たちが共生している女子寮というのも面白いかも」
「うむむ」
 
「ここに舞音ちゃんがいたら、それ猫でもいいですよねとか言い出しそう」
「言いそう!言いそう!」
 
↓ ↑ Bottom Top

「やはり困った無断生活者がいたら、その天敵を導入すればいいんだな」
と和泉も楽しそうに言っていた。
 
「合鴨農法と同じだね」
と三田原さんが言っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

通常は施錠している屋上にも案内する。
 
「この太陽光パネルは壮観だね」
「何枚あるの?」
「200枚ですね」
 
うちの倍か、と青葉は思った。
 
「これで一般家庭30軒分くらいの電気を生み出すから、東電の電気の使用量が劇的に減ったんですよ」
「30軒分か・・・」
 
ということは、私の家って一般家庭15軒分くらいの電気使ってるの?きゃーと青葉は思った。
 
「施錠してるのは自殺防止のため?」
「そうそう。寮の廊下の窓もはめ殺しですよ」
「やはり親元から離れて暮らしてると、精神的に疲れて、ふらっと死にたくなることもあるよね」
「それたいていは一時的な気の迷いですから、自殺する手段がなかったら、わりと諦めるんですよ」
「確かに確かに」
 
↓ ↑ Bottom Top

「寮母さんが毎日朝夕、寮の玄関の所で『いってらっしゃい』『おかえり』と声を掛けてるから、悩んでる子にも気付きやすいです」
 
「それが寮母の最大の役割か」
「最初は御飯を作ってもらうために雇ったのですが、個人で作れる量ではなくなりました」
「凄い人数だもんね!」
 

↓ ↑ Bottom Top

「そういえばラピスラズリが独立して寮を出るんでしょ?」
と和泉。
 
「はい。今都内某所に家を建てているのて3月頭に引越予定です」
とコスモス。
 
「寮から女子タレントが独立するのは、アクア以来だよね(*7)」
などと千里が言うと、和泉が不快そうな顔をする。
 
ちー姉も、アクアが本当に女の子になっちゃった時のための地盤固めしてるよなあと青葉は思う。
 
「やはりコロナがあったんで、感染対策の問題もあって、抑制してたんですよ。昔はデビューしたら寮を出るということになってたんですけどね」
とコスモスは言う。
 
「だよね!」
 
「でも実際デビューしたての新人の報酬では、マンションの家賃払えないよね?」
と三田原さん。
 
↓ ↑ Bottom Top

「東京は家賃高いですから」
とケイも言っていた。
 
(*7) 実際にはアクアの後で、山下ルンバ・桜木ワルツも独立しているが、ルンバ(花ちゃん)はタレント以外で、作曲家としての収入があったし、ワルツ(和紗)もアクア・葉月のスタッフ兼任で、そちらの収入が大きかった。
 
また高崎ひろかは独立しようとして「いい物件あるよ」と言われたら、女子寮の寮母住宅だった!
 
桜野レイアは、姉の桜野みちるがローンで買ったマンションに住んでいる。残ローンは実質事務所が払ってくれた。姉に家賃を払う約束だったが、実際には全く払っていない!
 
三田原が言っていたように、実際問題としてデビューしたてのタレントの収入ではとても都心のマンションとかは借りられないので、仕事に支障をきたす可能性もある。ワルツは板橋区の結構不便な場所の安アパートに住んでいた。ラピスは江戸川区の不便な場所に家を建てているが、ドライバーがいるからこそ、できることである。ラピスは家政婦兼雑用係も雇う予定である。
 
↓ ↑ Bottom Top

(ラピスの2人にはとても食事まで作る余力は無いし、アクア同様自分でATMでお金を下ろしたりすることはとてもできない:サインを求める行列ができる)
 

↓ ↑ Bottom Top

ラピスラズリの新居で必要になる、家政婦について、青葉はある人物をコスモスに紹介した。
 
「篠崎希(しのざき・のぞみ)ちゃんです」
と青葉は彼女(?)を紹介する。
 
「1999年度の生まれで現在は都内の音楽系私立大学の邦楽コースに在籍していて、3月に卒業する予定ですが、もう授業はやってないので、卒業式に出るだけだそうです」
 
「邦楽なんだ?」
「お母さんが琵琶の師範さん、というより一派のリーダーなんですよ。そちらはこの子のお姉さんが後継候補になっているのですが、彼女はそのお姉さんより琵琶が上手いということで」
 
「それは凄い!でも君の方が上手いのに、お姉さんが継ぐ予定というのは、やはり生まれ順?」
「いえ。うちの琵琶は女琵琶なので、女しか後を継げないので」
「へ?」
 
↓ ↑ Bottom Top

「すみません。最初に言い忘れましたが、この子、戸籍上は男子なんです」
と青葉が言うと、コスモスは
 
「うっそー!?」
と驚いていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

「この子、高校時代から、もう女子制服で通学していたんですよ。親にカムアウトした時は、かなり大騒動だったんですけどね。その時点で既に男性機能は無くなっていると言うと、お父さんも渋々彼女の女子制服通学を認めてくれたらしいです」
 
「優しいお父さんで良かったじゃん」
「結構恐かったですけど、微かに膨らんでいる胸を見せたら諦めてくれました」
「ああ、女性ホルモン飲んでたのね」
「はい。中学3年の時から飲み始めました。飲み始めた時期が遅かったから、声変わりは来てしまってたんですけど、その後、川上さんにもアドバイスしてもらって、女声の練習をして、大学に入る頃にはこの声が出せるようになりました」
 
「君の容姿でその声なら、誰も性別に疑問は感じないだろうね。ちなみにできたら教えて欲しいんだけど、去勢は?」
「大学に入ってから、バイトでお金を貯めて大学2年の時に去勢手術を受けました」
「了解」
 
↓ ↑ Bottom Top

「この子、いつかお嫁さんになれる日を夢見て、小さい頃から料理をしていたから、料理はうまいんですよ」
 
「男の娘さんにはそういう人が多い」
とコスモスは言っている。
 
「運転免許は?」
「普通免許、自動二輪免許を取っています」
 
「じゃ取り敢えず、女子寮の調理班に参加してもらえない?それで見極めて良さそうだったら“あの目的”に採用ということで」
 
「ありがとうございます!」
 

↓ ↑ Bottom Top

1月15日(土).
 
コスモスはその日、代々木のマンションにアクアを訪ねた。
 
この日、“アクア”はドラマの撮影に出ている。だから撮影中のはずの“アクア”が、代々木のマンションで休んでいるなんて、誰も思わない。
 
「私今撮影中なんですけど」
「分かってる、分かってる。だから内緒の話をしよ」
とコスモスは笑顔で言った。
 
これは“よくない傾向”だな、とアクアMは思った。
 
この日は休日なので彩佳が来ているが、彩佳はコスモスとアクアにお茶を出しただけで、自分の部屋に引っ込んだ。
 
「今年もアクア主演の映画を撮るから」
「4月から7月のスケジュールが空いてるから、多分その手の大きな話が入ってくるんだろうと思ってました」
 
↓ ↑ Bottom Top

「また日独合作で」
「へー」
「監督はまた河村さん」
「河村監督なら安心感があります」
 
「それで、アクアの相手役はこの人」
と言って、写真を見せてくれる。
 
男性だ!
 
しかもかなりの肉体派っぽい。筋肉が美しい。これはスポーツで鍛えた筋肉である。体操?柔道?レスリング?なんかその系統のスポーツで鍛えた身体だという気がした。
 
「ステファン・シュメルツァーさんと言って、人気のアクションスター。高校時代はレスリングをしていた。でも柔道も二段の腕前」
 
「ああ、やはりその系統ですか」
 
しかし、相手役が男性であるということ、そして社長は“自分”に会いに来た、ということから、想像できることはひとつ!
 
↓ ↑ Bottom Top

要するに女役をやってということなのだろう。
 
予防線を張る。
 
「私は女役は受けませんよ。和泉先生だって認めないと思います」
 
和泉はMにとって、最も重要な防衛線である。
 
「女役じゃないよ」
「そうなんですか?だったら男同士の友情物語か何かですか?」
「そんなのが売れる訳無い。アクアを使うなら当然ラブロマンスだよ」
「男の人とラブなんですかぁ〜〜!?」
 
「この映画の最大の見せ場は彼がアクアに熱い愛の言葉を語る場面」
「ごめんなさい。何なら女役してもいいから、ゲイの役は勘弁して下さい」
 
女役をするのは今更だから、正直な所やってもいいけど、ゲイの役はしたくない。ボクみたいなストレートの役者がゲイの人の役をするのは、ゲイの人たちに失礼だ。
 
↓ ↑ Bottom Top

「もちろん観客は、男のステファンが、女のアクアに愛を語るシーンと思って見てくれる」
 
「意味が分かりません。まさか男装女子ですか?シンデレラみたいに」
「女役男装女子を演じる男の子の役」
 
アクアはコスモスの言葉が頭の上を飛んで行く感じがした。
 
「済みません。意味が分かりません」
 
「でも女役はしていいのね?」
「もしかして2役ですか」
「もちろん。MちゃんにもFちゃんにも参加してもらわなきゃ」
 

↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁目次

[*前p 0目次 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 
春動(11)

広告:放浪息子(6)-BEAM-COMIX-志村貴子