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■春足(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-10-15
 
東京オリンピックの競泳は7月24日から8月1日まで行われた(津幡組が出場する種目は7/31までに終了した:最終日に行われたのは男女50m決勝, 男子1500m決勝,男女400mメドレーリレー決勝の5種目)。
 
津幡組の長距離女子はこのようにエントリーしていた。
 
幡山 400m 800m 1500m
川上 400im 800m 1500m
南野 400im 400m
金堂 400im 800m
竹下 400m 1500m
 
(im=individual medley 個人メドレー)
 
金堂は春の日本選手権では200imにも出場したのだが、彼女は本来中距離選手なのでスピード勝負の200では分が悪い(とは言っても日本記録保持者)。更に春はまだ一時の不調から完全回復していなかった。日本選手権では五輪派遣記録は超えたものの3位で五輪切符を逃した(本来五輪に出られるのは日本選手権2位まで。今回の長距離陣が3位まで出られたのは幡山・川上・金堂が世界水泳でメダルを取っていることから来た特例)
 
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ところが7月25日のことである。東京北区のJISSで練習していた、200im女子代表(日本選手権2位)の広嘴さんが泳ぎ終わって離水し、更衣室に行こうとしていて、突然転んだ。
 
びっくりして周囲の人が歩み寄る。
「広嘴さん!」
 
今から泳ごうとしていた200m平泳ぎ代表の那珂さんが起こしてあげる。
「大丈夫?」
 
「突然足首を掴まれたような気がして」
「何か引っかかるようなものある?」
と言って数人が見渡すが、それらしきものは見当たらない。
 
広嘴さんは立ち上がろうとしたが
「痛っ」
と言って座り込んでしまった。
 
「足首が・・・」
「ひねるか何かした?」
「すごく痛い」
 
「動かしちゃだめ!」
「担架持って来て!」
それで担架が持って来られ、コーチ2人で医務室に運んだ。
 
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医師は患部を見て言った。
 
「骨折してますね」
「え〜〜〜!?」
 

監督か飛んできて医師と話す。彼女が所属するスイミングクラブの代表者も来た。
 
本人は泳ぎたいと言う。オリンピックは4年に一度だ。しかも今回は1年延期され、やっと掴んだ代表の座である。彼女は日本選手権で2位になったのは初めてだ。しかも25歳という年齢は3年後のパリを狙うのは厳しい。
 
医師はこの状態で試合に出たら、歩けなくなるかも知れないと言う。そもそもこの状態では、まともにキックができず、記録も出ないと思うと言う。
 
監督たちは本人に辞退するよう説得した。本人はかなり抵抗したのだが、現実問題として歩くのもままならない状況では出場不可能ということで、彼女も泣く泣く辞退することを受け入れたのである。
 
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夜21時過ぎ。深川アリーナのサブプールで練習していた金堂多江は、水連からの電話を受けた。強化部長なのでびっくりする。
 
「え〜!?広嘴さんが怪我したんですか」
「骨折で全治2ヶ月らしい」
「いったい何してて骨折とか」
「JISSのプールサイドで転んだらしいんだよ。今JISSのプールは一時閉鎖して業者に徹底的に清掃させている」
 
「うーん・・・」
「それで急で申し訳ないんだけど、明日の200m個人メドレー予選に出場してくれない?」
「やります」
と金堂は即答した。
 

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それでこの日400imで金メダルを取り、次は29日の800m予選までずっと練習しているつもりでいた金堂は急遽200imにも出場することになり、彼女は連日のようにアクアティクス・センターに出て行くことになるのである。
 
24日 400iM Heats
25日 400iM Final
26日 200iM Heats
27日 200iM Semi-Final
28日 200iM Final
29日 800 Heats
30日
31日 800 Final
 

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金堂はこの繰り上げ出場した200imでも金メダルを取り、400imと合わせて個人メドレー2冠となる。彼女は更に800m自由形でも銀メダルを取り、今回のオリンピックの中距離女王と呼ばれることになる。
 
今回の津幡組のメダル
 
金堂 200im(G) 400im(G) 800(S)
川上 800(G) 1500(G) 400im(B)
竹下 400(B) 1500(B)
筒石 400(G) 800(B)
 

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津幡組は念のため五輪期間中は熊谷で待機し(白雪姫の“録音”をしていたのだが、青葉たちは気付かなかった)、8月9日にほとんどのメンバーが熊谷からA318で能登空港に帰還した。青葉はひとり残り、8/16-17に内容も知らされないまま“オーディション”に参加して、トップ合格してしまった。合格した後で、1年間アメリカに行って日食観測用の特殊な飛行機に乗る訓練を受けると聞かされ、嫌だ!アメリカに1年とか行きたくない!と思う。
 
すると翌日、水連から呼び出しがあり、鈴木大地会長自ら、青葉に現役継続の説得をされた。それで青葉は、現役継続すれば、日食観測の訓練の方は辞退できるという気持ちもあり、現役を継続することにした。
 
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結果的に青葉のアナウンサー業は実質休業が続き、この春に辞表を提出していた青葉と同期のアナウンサー・森本メイは来年春まで仕事を続けることになる(体力がもたないと言って辞表を出していたのだが)。
 

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さて、8月9日に北陸に帰還した津幡組であるが、筒石君康はジャネに
「オリンピックが終わったから結婚して欲しい」
と言った。
 
ジャネは7月31日に引退を表明したので、断る理由が無い。それで
「まあいいよ」
と言った。自分が結婚するんじゃないし!!
 
幡山ジャネ(≒水渓一二六:“みずたに・まそ” (*1))本人は君康と結婚生活などする気は無い。百万石スイミングクラブのコーチをしながら、水泳の練習自体は続けて小さな大会などに出場していくつもりでいる。君康と結婚するのは“幽霊の”マラ(水渓一六四“みずたに・まら” (*1))である。
 
(*1)マラもマソも“マラソン”から来た名前。42.195kmを尺貫法に変換すると十里二十六町四十七間一尺五寸になる。そこで上の方の数字を採り一二六で“マソ”と読んだ。マソが一度死んでから木倒サトギの身体に“うっかり”入ってしまった後は“マラ”を名乗り不本意にオカマさんをすることになるが、この時漢字は少しずらして一六四を使用した。仏教用語の魔羅とも、ブランドのマックスマーラとも無関係。ジャネはマソの生まれ変わりである。詳しい話は↓以下付近
j.pl/aoba5/57/_hr009
 
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ジャネ自身は結婚には全く興味がないので、結婚式その他の話は両親に投げてしまった。君康の方も、水泳以外の事は全然分からない人なので、結局そちらも彼の両親が進めることにする。
 
かくして双方の親同士で話し合った結果、結婚式は8/21(土・友引)に行うことにした。話が決まってから急だが、両親としては、ジャネの気まぐれを知っているので、気が変わらない内にさっさと結婚させてしまおうという魂胆である。
 
それで場所は金沢市内のAホテルで、ネット形式で結婚式・披露宴をすることになったのである。青葉は19日に津幡に戻ってきて、明後日結婚式だと聞いてびっくりする。むろんネット結婚式・披露宴だから、服装とかも気にする必要がない。適当なドレス着ればいいかなと思った。御祝儀が分からない。素直に母に訊く。
 
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「津幡組の幡山さんと筒石さんが結婚するんだけど、御祝儀いくらくらい包めばいいかなあ。200万くらい?」
 
「あんた、芸能界の習慣にハマって、一般的な相場が分からなくなってる。お友達なら3万も包めばいいと思うよ」
 
「そんなに少なくていいんだっけ?」
「ほんとあんた感覚がおかしくなってる」
 

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それで青葉は指定の口座に3万円振り込んだのであった。ドレスは朋子に選んでもらい、当日メイクも朋子にしてもらった!
 
放送局に行く時もメイクはだいたい、母にしてもらうか、放送局にいつもたむろしている明恵や真珠にしてもらっている。
 
青葉の服装センスとメイク技術は全く進歩する気配が無い。
 
青葉が自分で服を選び自分でメイクしたら
「あの変なオカマのおばちゃん誰?」
とか言われかねない。1度青葉のメイクがあまりにも酷いので、読む予定だったニュースを急遽幸花が代わりに読んだこともある。それ以来、明恵と真珠は砂原室長から、「川上君のメイクを頼む」と言われている。
 
「でも何で明恵ちゃんも真珠ちゃんも、そんなにお化粧うまいの?」
「女の子ならできて当然」
「女の子でない、くにちゃんだって、上手いのに」
 
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くにちゃんこと吉田邦生は彼女たちの3年先輩(青葉の同級生)だが、ここではだいたい「吉田」と呼び捨てされるか、“クニちゃん”である。“邦生”は本当は“ほうせい”と読むのだが、だいたい“くにお”と誤読される傾向がある。彼は銀行に勤めているのだが、同僚の女子たちからも“クニちゃん”と呼ばれている。
 
彼は性的にはストレート(本人談)だが、女性から警戒されないタイプなので、彼のアパートにはしばしば女性の同僚たちが泊まっていったりする(むろんHなことはしない)。それどころか彼女たち専用の衣裳ケースまで置かれていたりする。
 
吉田は女子の同僚たちからはゲイなのだろうと勝手に思われているようである。
 

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披露宴のお料理は、青葉は多分出席してくれるだろうというのを見込んで、既に発送されており、前日の20日に到着した。ワイン付きである(シャンパンだと開けきれない人が続出するため)。当日は式の始まる少し前に料理をチンしておけばよい。
 
21日の午前10時から結婚式が行われ、ホテル内のロビーで人前結婚式の形で行われた。たぶん、神前結婚式とかにしてお祓いとかすると、マラ自身が祓われてしまう!からかもと青葉は思った。ジャネ(マソ)の方は、朝からプライベートプールに来て泳いでいるのを、青葉の眷属・笹竹が報告してくれている。
 
「大胆だなあ。火牛ホテルの自分の部屋でおとなしくしてればいいのに」
などと青葉は思った。
 
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11:30からネット中継で披露宴が始まる。
 
披露宴の出席者だが、津幡組は全員参加している。高校生の竹下リルには参加費は無料でいいからと言ったらしいが、結局リルのお父さんが「せめて1万円は出しなさい」と言い、お金をくれたので、それを振り込んだらしい。彼女の所にはワインの代わりにサイダーが送られてきたという。未成年の金堂もサイダーである。
 
他には、百万石スイミングクラブの関係者、“スートラ”の玉梨乙子・桜アキナ!(青葉は彼女(?)たちの顔を見て頭が痛くなったが、声さえ出さなきゃ、普通のおばちゃんと出席者は思ってくれるだろう)、筒石が所属している会社の社長さん(東京からの接続)、彼が現在出向しているKS工業の社員さん数人、またK大学の関係者(角光先生、筒石と同期の猿田さん、圭織さん、そして吉田邦生!)、あとは双方の親族だが、結構遠方からの参加も多かったようである。
 
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ジャネのお母さんが頼んだ司会者・前川瞳さん(元〒〒テレビアナウンサー)の「新郎新婦の入場です」の声とともに、桜池布恋のエレクトーン演奏でAKB48の『ヘビーローテーション』の音楽とともに新郎新婦が腕を組んで入場してくる。青葉は正直“マラはカメラに映るのか?”というのを心配していたのだが、どうもちゃんと見えているようである。
 
そして2人がメインテーブルに就こうとした時。
 
マラが転んじゃった!
 
びっくりして、新郎が助け起こす。
 
「すみませーん。突然足首を掴まれた気がしたんですが、きっと気のせいです」
とマラは言って、カメラに向かってお詫びに頭を数回下げてからメインテーブルに就いた。
 
多くの人がジャネは義足を使っているので、その問題で躓いたのだろうと思ったようだが、青葉は腕を組んだ。
 
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マラは義足など使っていないのである。
 
すると金堂さんがオープンメッセージで書き込んだ。
 
「私は広嘴さんが怪我して繰り上げで五輪の200m個人メドレーに出たんだけど、その広嘴さんも“足首を誰かに掴まれた気がした”と言ってたんですよねー。ジャネさん、彼女みたいに骨折とかしなくて良かった」
 
まあ幽霊は骨折しないかもね!
 
しかし青葉はこの時、金堂さんの言葉を聞き流していた。
 

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