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■春足(2)

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その後は、司会者による新郎新婦の紹介が行われ、マラが五輪入賞の賞状、筒石がオリンピックで取ったメダルを見せると歓声があがっていた。
 
筒石の会社の社長の音頭で乾杯が行われる。BGMは『Everyday、カチューシャ』だ。今日はAKBで攻めるつもりなのだろうか。
 
ケーキの入刀だが、司会者が『いつもの共同作業を』というと、出席者がみんな大笑いする。2人はもう3年も同棲していたので、今更『初めての共同作業』は白々しいと言って、ジャネ側からそういうセリフにしてと言ったらしい。
 
ここの音楽は『フライングゲット』なので、この音楽でも、くすくすと忍び笑いがある。
 
この後は、余興の時間となり、出席者がカラオケで歌う。ここでカラオケはネットでダイレクトに中継されて、出演者がネットで歌う。その歌と伴奏がネット全体に流れる。
 
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こういう仕組みにしないと、たとえば伴奏をネット全体に流してそれに合わせて出席者が歌ったら、通信のタイムラグのために、他の人には伴奏と歌がずれて聞こえてしまう。
 
このあたりは結構難しいのである。多数のネット披露宴をやっているホテルだから、こういう問題もちゃんと理解している。
 
青葉はアクアが6月に出した『英光に向かって泳げ』あります?と訊くと「ありますよー」ということだったので、それを歌った。
 
みんなの出し物が1時間ほど続いた所で両親への花束贈呈となる。布恋が弾くBGMは、いきものがかりの『ありがとう』である。AKBばかりじゃないんだなと思う。ジャネの両親は本当に泣いていた。彼女が1年間意識不明でずっと病院に入っていたことを考えると、今日の日は、ほんとうに涙が出てくるだろう。
 
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そして新郎新婦がメンデルスゾーンの『結婚行進曲』に乗せて退場し、披露宴は終わった。
 
今夜は2人はこのホテルに泊まるが、新婚旅行はしないらしい。ご時世的にあまり旅行ができる状態でもないし、そもそも筒石は来年の世界水泳に向けて、ひたすら練習を積みたいところだろう。
 

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青葉はネット披露宴が終わると、すぐに愛車のマーチ・ニスモ(赤いアクアは東京で明日香が借りっぱなし)で津幡に行く。プライベートプールに行くと、ジャネはひたすら泳いでいる。
 
「披露宴終わりましたよ」
「そっか。披露宴の間は誰も来ないだろうと思ってずっと泳いでいたんだけど、今日は上がるかな」
「誰かが泳ぎに来たら、変に思うでしょうしね」
 
それでジャネは
「またね」
と言ってあがる。
 

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「青葉いつまでこちらに居る?」
とジャネが尋ねた。
 
「分かりませんけど、もしかしたら月末にまた東京に行くかも」
「あんたも忙しいね!」
「結局現役続けることにしたし、おかげで当面金沢のテレビ局にはほとんど出なくていいみたいです」
「福岡(世界水泳)では金メダル6個くらい取れよ」
「そんなに種目がありません!」
 
「男子の種目にも出るとか」
「すみません。女になってしまったので」
「それは残念、マラは男子の出場資格あるかなあ」
「幽霊には出場資格ない気がする」
「そうかもね」
などとジャネは言っていたが
 
「そうだ。筒石が結婚を機に家を建てたいと言ってるんだよ。こちらに居る間に、場所とかを見てあげてくれない?筒石が選んだら。絶対やばい土地とやばい工務店を選ぶからさ」
「でしょうね。世界水泳どころじゃなくなりかねません」
「見料30万くらい払うからさ」
「いいですよ」
 
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土地の鑑定は“実費”が結構かかることが多いのである。土地鑑定は最低100万円と言う占い師さんもいる。青葉はお金の無い人からは3万程度しか取らないが、まあジャネからなら30万くらい受け取ってもいいかなと思った。
 

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それで結婚式の翌日(8/22)、青葉はジャネと落ち合い、ジャネが下調べしていた、場所をまずは地図上で確認する。
 
この際、筒石は臨席させない!青葉とジャネだけで決めてしまおうという魂胆である。
 
「広さはどのくらいにするんですか?」
「子供はできないし、夫婦だけだから、そんなに面積は要らないと思うんだよね」
 
“子供ができない”というのは、“生身”のジャネは筒石とセックスする気は毛頭無いということだろう。幽霊のマラはたぶん子供を産むことはないだろう。そもそもマラ(の身体)は元男なので、生きていたとしても妊娠能力が無い。
 
「夫婦だけなら2DKもあればいいのかなあ。それともプール付きの家を建てます?」
「それいいかも知れない」
とジャネは“プール付き”の家に興味を持ったようである。
 
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「50mプール作ります?」
「さすがに大きすぎる。25mプールで」
「だったら長辺が35m欲しいですね」
「必要だろうね」
 
プールのサイズに加えて、スタート台0.5m プールサイド2m とすると30mの長さが必要になる。敷地の端から50cm空ける必要があるし、壁の厚さを50cmとして最低32mの幅のある土地が必要という計算になる。35mあれば安心である。それでふたりで、津幡アリーナからあまり遠くない場所で、1辺が35m程度以上の売り地をネットで探してみる。
 
「ちなみに予算はどのくらい?」
「君康の奴、会社に入って以来、給料もボーナスもほとんど使ってないんだよ」
「ああ」
「たから口座残高が5000万ある。それに私も3000万くらいはプラスできるよ」
「8000万の内、2000万円程度を土地代で使っても津幡町ならたぶん200坪の土地が買えます」
「一辺35mなら何坪になるんだっけ?」
「もう一辺を10mとすると90坪ですね」
「その広さでいい気がする。2人だけで暮らすのにそんなにあったら持てあます」
「確かに」
 
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それで探していくと、40m×15m (180坪)の土地で800万という売り地があったのである。この日登録されたばかりである。但し津幡アリーナから10kmほど離れている。
 
「ここ地図で見る限りは問題ないですよ」
「10kmなんて車で10分だよね?」
「お巡りさんに捕まりたくなかったら15分にしましょう」
「それでも許容範囲だと思うなあ」
 
「じゃちょっと見に行ってみましょう」
 

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筒石のボルボで現地に行ってみた(青葉が運転した:ジャネは運転できない。ジャネは一応運転免許を持っているが、それは実はマラが取ったものである)。
 
「ここ風水的にもいいですよ」
と青葉は羅盤で確認しながら言う。
 
「だったら買っちゃう?」
「買っちゃいますか?」
 
それで管理している不動産屋さんを呼び出した。ここは無指定地域だが、住宅を建てることは問題無いらしい。電気ガス水道については、もしかしたら引くのに一部負担が必要かも知れないという話だったが、そのくらいは許容範囲と考えた。家を建てている間に交渉すればいいだろう。千葉の神社でやったように水道管を自分で引いちゃう手もある。不動産屋さんに確認すると、確かに早く引きたい場合はその手が使えるということだった。
 
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それでジャネはここを800万(+消費税80万)で買っちゃったのである。代金は即振り込み、土地譲渡の書類は翌日までに作って届けてくれた。
 

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「青葉、安い工務店知ってるよね?」
「安いけど少し荒っぽいですよ」
「構わない構わない。雨風しのげればいい」
「じゃ見積もり取りますね」
 
すると翌日、8月23日、千里(1番!)が播磨工務店の九重(じゅうちゃん)を連れて、こちらにやってきたのである。実は3人の千里の中で土地問題に関しては1番がいちばん強い。
 
「現地見せて」
と言うので、青葉・千里・九重の3人で見に行った。
 
(ジャネは「青葉に任せた」と言った)
 
「いい所見つけたね!」
と千里が感心している。
 
「こんないい場所はなかなか無いだろうからと思って即買った」
「賢明賢明。今日まで待ってたら昨日の夕方売れちゃってたよ」
「わっ」
 
千里はその場で、九重さんに指示して土地の四隅に何か埋めていた。軽い結界が作動したのを感じた。きっと家を建ててから本式の結界に変えるのだろう。
 
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「んじゃ、筒石さんちに行って打ち合わせようか」
「そうだね」
 
それで3人(青葉・千里・九重)で筒石が借りているマンションに行ったのだが、青葉も千里も絶句した。
 
「何これ〜〜〜!?」
 
「ごめんなさい」
とマラが謝った。
 
借りているマンションが悲惨な状態なのである。
 
「ここ出る時に改装工事が必要だよね?」
「壁も床も天井も交換する必要がありそう」
「だいたい、、なんで襖(ふすま)に穴が空いてるんです?」
「ほんとにごめんなさい」
とマラが消え入りそうにしている。
 
「うちの工務店に改修させるけど、改修費300万円払ってくれない?」
「分かりました。筒石に払わせますので」
と本当にマラは申し訳無さそうにしている。
 
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この日は九重がここの改修に必要な木材・建具などを確認していた。
「今のよりいい木材を使うのはい良いよな?」
「それは構わないと思うよ」
「こんな品質の悪い材木は、うちでは扱ってないから」
「なるほどねー」
 

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という前提が済んだ所で、マラは“マソの方が話が通ると思うし”と言って、マソに交替する。(マラがバイク(*2)で津幡アリーナに行き、そのバイクにマソが乗って戻って来た)
 
(*2)Honda CBR-250RRの改造版。片足が使えなくても運転に支障がないように改造されている。二輪免許もこのバイクで取った。免許を取ったのはジャネだが、マラは元々バイクにも乗れた(ゴールドウィングに乗っていたらしい)。
 
「何これ?どうやったらこんなにメチャクチャにできる訳?」
とマソ(ジャネ)まで呆れている。
 
「ジャネさん、こちらに来てなかったの?」
「来てない。愛の巣に来るほど野暮じゃない。しかしマラが付いててこれは無いなあ」
と彼女も怒っているようだ。
 
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それで青葉が大雑把に書いた“絵”を元に新しい住居とプールの寸法を決めていく。
 
ブールは2コースで作ることにした。君康とマラが泳げたら充分である。マソも使ってもいいが、マソとマラは同時に姿を表す訳にはいかないからそれでいいだろう。2コースのプールなら、2500万で作れるよと九重は言った。実際千里の浦和の家のプールもそのくらいで出来ている。
 
資金8000万の内、900万で土地を買い、今住んでいるマンションの改修費を300万払って!プールの設置費用を2500万として、残りは4300万ということになる。
 
「2DKなら1500万円、3DKで2000万円くらいかな」
と九重は言った。
 
「ユニット工法だよね?」
「そうそう。若葉ちゃんのおかげで大量にユニットハウス作ってるから、ユニット自体が凄くバリエーションが出来てて、仕上がったの見てもユニット工法に見えない」
 
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九重は実際の施工例を写真で見せてくれた。
 
「これが本当にユニット工法なんですか?」
 
「ユニット工法のメリットは、費用が安い、工事期間が短い、そして地震に強いこと。デメリットはどうしても部屋のレイアウトに自由が利かないことかな」
 
「それは全然問題無い。でも地震に強いんだ?」
「柔構造だからね」
 
「それでいいと思う、念のため3LDKにしてもらおうかな。私もそこで休めるし」
「いいんじゃない?」
 
それでユニット工法の3LDKを作ることにし、詳細を詰めた結果、建築費は2500万円ということになった(その後色々考えて最終的には4LDKにした)。
 
「予算より1800万安い。筒石にほぼ全部出させて私は1200万だけにしよう」
「実際問題として筒石さんの生活費は全部ジャネさんが出してるんでしょ?住宅費くらい出させればいいですよ」
「そうししよう」
 
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ということで商談はまとまったのである。ジャネは筒石の印鑑を勝手に持ち出して契約書に署名捺印した。
 
プールの部品を取り寄せるので、完成は10月になるということだった。不動産屋さんにも10月いっぱいで退去したいと伝えた。
 
なお電気は太陽光パネル(アクアがCMをしているK製作所の“アマテラス”使用)を乗せれば、北電と契約しなくても充分まかなえる計算になった。ガスはプロパンでいいことにする。上下水道だけは引いてもらわないといけないが、水道局に電話した所、本管が近くを通っているので、2ヶ月あれば通せるということだったので、それでお願いした。プールを作ると言うと驚かれたが、使用予定の水量を伝えると「そのくらいは大丈夫です」ということだった。
 
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なお敷地内に降る雨水を利用するシステムを500万円掛けて作ってもらうことにした。これで少しは水道代は節約できるはずである。
 
(プールの表面積が25x5=125m2, 敷地面積が450m2でプール面積の3.6倍なので年間降水量を3000mmとして、年間にプールの水位10.8m分の水が得られることになる。青葉は恐らくプールで使う水の3〜4割を雨水でまかなえるかもと推測した)
 

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青葉が出演した『北陸霊界探訪』は11月に放送された、“熊騒動”の顛末記が最後である。その後は、明恵と真珠でこのような内容のものを構成した。
 
2021.03.19 北陸寺社探訪(加賀編)
2021.06.25 北陸寺社探訪(能登編)
2021.08.27 北陸寺社探訪(越中編)
 
3月の放送では、“忍者寺”妙立寺を取り上げたのが好評だった。6月の放送では七尾市の“七不思議寺”妙観院が結構好評だったので、9月放送予定の越中編では高岡市の“七不思議寺”勝興寺のレポートを放送予定である。
 
「青葉〜、12月放送分の何かネタ無い?」
と皆山幸花“サブディレクター”から言われる。
 
“サブディレクター”ってこれまでの肩書きのアシスタント・ディレクターと何が違うの?と訊いたが、本人もよく分からないと言っている。
 
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「私もオリンピックで精一杯だったし」
と言った時、偶然来ていた、吉田邦生が言った。
 
「こないだ幡山さんの結婚式でさ、幡山さんが派手に転んだじゃん。あの時、誰かに足首掴まれたような気がしたって言ったら、金堂多江ちゃんが、オリンピックの時に、200m個人メドレーの代表だった広嘴さんも、転んで骨折した時、誰かに足首掴まれたような気がしたって言ってたという話だったじゃん。あれってひょっとして妖怪か何かのしわざってことない?」
 
「うーん。そういう妖怪の話は聞いたことないなあ」
と青葉は言う。
 
「それにまるで雲を掴むような話だよ。転ぶ人なんてに日本中に毎日たくさん居るだろうしさ」
 
ということで、この日、この話はそこまでになった。
 
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しかし青葉は放送局を出た後で、唐突に“あの時のこと”を思い出したのである。
 
こないた水連で鈴木会長に会った時、自分は入口で派手に転んだ。思えばあの時、自分も誰かに足首を掴まれたような気がしたぞ、と。
 

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