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■春足(5)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-10-16
 
その日、青山広紀は、フリルたっぷりの可愛い白のブラウスに女学生のような紺色のフレア・ワンピースを重ね着し可愛くメイクした。
 
「おお、可愛い可愛い」
と母が喜んでいる。父親は何も言わなかったものの明らかにドキッとした様子である。自分の娘(息子?)に一瞬欲情したとは、口が裂けても言えない。
 
やがて上等のメンズスーツを着た藤尾歩がRX-8で迎えに来てくれた。歩は広紀の両親に挨拶して広紀を連れ出した。
 
歩との交際は双方の両親が認めている。歩はすっかり広紀の兄たちと仲良くなり青山家に泊まっていく時は、彼らと結構飲みながらスポーツの話とか猥談!?とかまでしているようである。一方、広紀も歩の両親には気に入られてる。
 
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「この子、お嫁さんには行ってくれなさそうと思ってたけど、広紀ちゃんとはお似合いね」
 
などと言っている。ただ結婚した後、子供を産むのは歩なのか広紀なのかが双方の両親も不確かなようだ!
 

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ふたりはまず病院に行った。
 
この日は3回目の精子採取をして冷凍してもらった。
 
「これでいつでも去勢していいよ。何なら今から手術受けに行く?」
「今から?」
「だってヒロも25歳になっちゃったからさ。早く玉は取らないと、男っほくなっちゃうよ」
 
正直、広紀はふらふらと去勢手術を受けてしまわないか、自分が不安である。
 
「僕男っぽくなっちゃいけないんだっけ?」
「ヒロは可愛い女の子になれると思うよ。なんなら一気に性転換手術しちゃう」
「え〜!?」
 

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歩が運転する車の助手席で、唐突に変なことを妄想してしまう。
 
「ヒロはもう潔く女の子になりなさい」
「やめてー助けて」
「私はヒロにちんちん無くても大丈夫だよ」
「フィアンセさんもこう言ってるなら、諦めて女の子になるといいね」
などと女医さんが言っている。
 
「手術はちんちんとタマタマを取って、代わりに卵巣と子宮と膣を埋め込むだけの簡単な手術だから。1時間もあれば終わりますよ」
「ちんちん取りたくないよぉ」
「ちんちんの代わりにちゃんと割れ目ちゃんも作ってあげるから」
「子宮もできるなら、私の赤ちゃん産んでもらおうかな」
「ああ、ちゃんと産めるから大丈夫ですよ」
「そんなの嫌だよぉ」
 
「だってこんなに可愛いんだから、女の子になるべきですよねー」
「普段からもう女の子の格好してるんでしょ?だったら本当の女の子になってもいいじゃない」
「僕は男の子だよー」
「だから女の子になるんでしょ?」
「ヒロが女の子になってくれたら、温泉にも一緒に入れるし」
「あら、それいいわね」
 
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「では先生お願いします」
と歩が言う。
 
「分かりました。じゃ君、これから手術して立派な女の子にしてあげるね」
と女医さんは言うと、広紀に麻酔の注射を打った。
 
「目が覚めた時はもう女の子になってるよ」
という声を聞きながら広紀は意識が薄れていった。
 

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「どうしたの?本当に性転換手術してくれる病院に連れていこうか?」
 
少し考え事をしていたふうの広紀に歩が言った。
 
「僕、本当に女の子になりたい気持ちとか無いんだけど」
「何を今更。恥ずかしがることないんだからね。女の子になるのは別に悪いことじゃないんだから。お母さんも認めてくれてるじゃん」
「母ちゃん、僕のこと誤解してる」
「理解してるんだと思うな。だって女の子の服を着るとこんなに可愛くなるし」
「僕、女の子の服を着たい気持ちもないんだけど」
「それはさすがにジョークが過ぎる」
と笑ってから、歩は言った。
 
「でも取り敢えず去勢しようよ」
「うーん・・・」
 
「来年の4月か5月に結婚するとして3月くらいまでには性転換だな」
「ひぃー」
 
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示野のイオンタウンに行き、空いている所に車を駐める。マスクをして建物の中に入ろうとした時。
 
広紀は突然転んでしまった。
 
「大丈夫?」
と言って、歩が手を取ってくれる。
 
「ありがとう。結構痛かった」
などと言っていたら、27-28歳の女性が近づいてくる。
 
「大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫・・・・」
と言いかけて、広紀はその女性を認識し、穴があったら隠れたい気分になった。
 
「青山君!?」
と皆山幸花は驚いたように声をあげた。
 

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パンと飲み物を買ってきて、幸花のMazda3 の中で少し話した。
 
「でも青山君、女の子の格好すると凄く可愛くなるねー」
と幸花。
「可愛いでしょ。だからいつもこういう服を着せちゃうんですよ」
と歩。
 
「でもさっき転んだのは、やはりスカートにまだあまり慣れてないから?」
と幸子が訊くと
「そんな訳無いです。この子、毎日スカートで勤務してますから」
と歩が言う。
 
「え〜!そうなの?」
 

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それで双方名刺を交換した。
 
「こちら僕のフィアンセの藤尾歩(あゆみ)です」
「こちら僕が大学時代にテレビ局でバイトしてた時の同僚で皆山幸花さん」
 
と広紀が双方を紹介する。
 
「青山君の名刺が物凄く可愛い」
「私や広紀が所属している部署は女子のみで構成しているんですよ」
「じゃ、青山君は女子社員になっちゃったんだ?」
 
「社員証見せなよ」
「あ、うん」
 
彼が見せてくれた社員証では、女装の可愛い写真が貼ってあるし、性別も女と印刷されている。
 
「ついでに免許証も」
 
それで青山君が見せてくれた免許証もちゃんとお化粧した写真が入っている。
 
「もしかして、その髪は自毛?」
「そうですよ」
 
青山は胸くらいまであるロングの髪の毛にふわっとパーマを掛けている。
 
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「でもゴールドなのね」
「うん。大学1年の時に免許取ったから、3年後の大学4年の時に更新してブルーになって、3年後の今年ゴールドになった」
 
「ゴールド維持は偉い」
「免許証がゴールドになったから、お股のゴールドは無くてもいいじゃん、取ろうよと言ってるんです」
「ああ、まだ去勢してないんだ?」
 
「うちの部署、男の娘が何人かいますけど、広紀以外は全員去勢してるんですよ。広紀もさっさと去勢すればいいのに」
 
「取りたくないよぉ」
「だって、タマタマがあったら、その内男っぽくなっちゃうじゃないですか」
「ああ、確かに玉は取った方がいいかもね。もったいないもん。こんな可愛いのに」
 
「ほら、元先輩も言ってくださってる(*3)。今から病院に行ってタマタマは取ろう」
「今からなの〜?」
 
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(*3)実際は幸花と広紀は同学年。
 

「来年の4月か5月には多分もうコロナも落ち着いてるだろうし、そのあたりで結婚式あげようと言ってるんですけど、結婚式では私がタキシード着るから、広紀にはウェディングドレス着なよと言ってるんですよ」
と歩が言うと
「え〜〜!?」
と広紀は言うが、幸花も
「おお、それは良い。青山君のウェディングドレス姿ぜひ見たい」
などと言っている。
 

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「でもスカートに慣れてるならさっき転んだのは?」
「あれ突然誰かに足首つかまれたような気がしたんですよ」
 
幸花がピクッとする。
 
「スカート穿いた女の足首をつかむなんて痴漢だから思いっきり蹴り上げるか踏んづければ良かったのに」
と歩。
 
「いやいきなりだから、蹴ったり踏む時間は無かったと思う」
と広紀。
 
幸花は一瞬“妖怪足つかみ”への対処法があったかと思ったが、確かに蹴ったり踏んだりする時間は無さそうだ。
 
「ね、ね、今『北陸霊界探訪』で“妖怪足つかみ”を追いかけてるのよ、さっきの転ぶところを再現ドラマにしたいんだけど、もう一度転んでくれない?」
 
「え〜?」
「妖怪鍋つかみ?」
「鍋つかみじゃなくて足つかみね」
 
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青山は女装している所を映されるのは恥ずかしいと言ったのだが、歩が
「日常的にその格好で仕事してるんだから、今更恥ずかしがる必要ない」
と言い、結局彼(彼女?)は再度さっきのを思い出すようにして転んでくれた。それを幸花がいつも持ち歩いているLumixで撮影した。
 
なお、建物の玄関でやるとお店からクレームが来るかも知れないということで、駐車場で撮影は行った、
 
「これ結構痛いんだけど」
「万一それで地面に衝突してちんちんが折れても、ちゃんと結婚してあげるから」
 
「ちんちん折れたら痛そう」
と広紀。
 

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「痛かったら、もう根元から切っちゃえばいいね」
 
「藤尾さんは彼にちんちんなくてもいいの?」
「全く問題無いです。セックスでは私が男役だし」
「なるほど。だったらちんちん無くてもいいね」
 
「結婚式までに全部取っちゃえばいいとも言ってるんですけどね。せっかくウェディングドレス着るなら、中身も立派な女の子になっておけばいいですよね」
 
(もうウェディングドレスを着ることが確定?)
 
「ああ、それもいいんじゃない」
「ちんちんは取りたくない」
「使ってないくせに。だってトイレは女子トイレだし、セックスの時も別に射精しないし」
「入れられてるとドライで逝くんだよぉ」
「じゃ無くてもいいね」
「僕が男役できなくなる」
「男役では私の中で逝けないじゃん」
「オナニーができなくなるよう」
「女の子オナニーを覚えればいいね。性転換した**君(*4)は女の子オナニーの方が男の子オナニーより10倍気持ちいいと言ってたよ」
 
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幸花はこんなに赤裸々(死語?)にふたりの性生活の話を聞いていいのか?と思った。
 
(*4) 広紀たちの事務所には、男の娘が広紀も含めて6人いたが、内1人が昨年性転換手術を受け、戸籍上も女性になって男の娘社員は5人に減った。なおこの事務所では性転換手術を受けた場合3ヶ月〜半年は休職できて、その間は通常給与の8割がもらえる。手術代も半額が補助される。女子の場合も妊娠した場合出産予定日の3ヶ月前から出産後半年は休職できて、やはり給与の8割がもらえるし、出産費用の半額が補助される。
 

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彼らとは1時間ほど話してから別れたのだが、ひょっとしたら、その日の内に青山君の睾丸は消滅したかも知れない、と幸花は思った。
 

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今年のあけぼのテレビ秋の企画・アニメ付き朗読劇だが、次の4本が制作された。
 
9月04日(土)『どんぐりと山猫』(常滑舞音・白鳥リズム)
10月03日(日)『鶴の恩返し』(ラピスラズリ)
10月31日(日)『あべこべ物語』(水森ビーナ)
11月23日(祝)『不思議の国のアリス』(姫路スピカ)
 
『どんぐりと山猫』は舞音が熊谷でアルバム制作中だった8月14日に、白鳥リズムやリセエンヌ・ドオ、長浜夢夜、それに信濃町ガールズ関東のピックアップメンバーが熊谷に集まり、収録している。
 
このシリーズは基本的には先に朗読劇を収録し、それにあわせてアニメを制作する方針だったのだが、舞音の時間がなかなか取れず放送半月前になったので、この作品だけはアニメ先行になった。
 
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『鶴の恩返し』は『どんぐりと山猫』の翌日に大田区サテライトで収録された。ラピスラズリの他には出演者は西宮ネオン(おじいさん役)と夢島きらら(商人役)のみで、4人だけで収録している。§§ミュージックには戸籍上男子のタレントは何人もいても男声の出る子が少ないので、きらら(弘原如月)は貴重な戦力である。
 
きららは、本当は女の子になりたいので、女声の練習をしているものの、なかなかうまく出せないと言っていた。今回の収録にも女子制服姿でやってきて(クロムに乗せられたらしい)、「可愛いじゃん」と町田朱美に言われて照れていた。
 
彼女は朗読劇ではバリトンボイスを使っていたが、普段の会話では同じ男声でもオクターブ上の声で話すので、女子制服を着ていたら、多くの人は普通に女子高生と思う。更にこの夏喉仏を削ってしまったので、見た目だけでは男とバレることは、まず無い。
 
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『あべこべ物語』は水森ビーナ主演なのだが、彼は本当に忙しい。彼の8月以降の主なスケジュールを見るとこうなっている。
 
6-8月 毎週土曜は『シンドルバッド』の撮影
7/19-8/10 常滑真音の音源制作に付き合う
8/12(木) ビーナ自身のデビューシングル音源制作
8/15-16(日月) 小浜でアクアのネットライブの司会
8/28-29(土日) 仙台で高崎ひろかのネットライブのゲスト(シンドルバッドの撮影終了後に移動)
8/31(火) ネットフェスで山本コリン・水谷姉妹とセットで歌う。
9/03-11 『青い鳥』撮影。(ミチル役)
9/04 熊谷でガラスの家CM制作
9/13-25 『ピーターパン』撮影。(ジョン役)
 
といった感じである。結局この朗読劇『あべこべ物語』の収録は、ΛΛテレビの『ピーターパン』の撮影が終わった後、9月26日(日)に大田区サテライトで行われた。
 
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