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■春足(14)

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青葉は10月19日、千里1、千里の助手・服園帯夜さんと一緒に千里のG450に乗り、高岡に帰還した。この飛行機に、優子一家の4人が同乗した。
 
この時、優子たちと話していて、青葉は思わぬことを聞くことになるのだが、それは少し先で述べる。
 
最初に筒石さんのマンションの件を朋子から聞いて、びっくりする。
 
「青葉、あのマンションの運気を見たんでしょ?こんな事故が起きる予兆とかは分からなかったの?」
と母が訊いたが
 
「私はその家の霊的な環境とかは分かるけど、予言者じゃないから、ダンプが突っ込んでくるのまでは分からない」
と青葉は答えた。
 
ちー姉は分かるみたいだけどね、と青葉は心の中で思った。
 

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この日は先日青葉が買った土地の引き渡し日である。
 
青葉は気を取り直して、朋子・千里および司法書士の霧川さんと一緒に不動産屋さんに行き、書類を受け取った。すぐにそのまま法務局に行き、登記を済ませた。
 
その後、霧川さんを事務所まで送り、母を自宅に置いて、代わりに自宅で待機していた服園さんが乗り、千里・青葉と3人で買った土地に行く。
 
「軽い結界を作るね」
と言って、千里と服園さんとで土地の四隅に何か筒を埋めていた。
 
4つ埋め終わると、確かにブーンという音(青葉や千里にしか聞こえない)がして、本当に軽い結界が掛かったようである。
 
「何を埋めたの?龍の像か何か?」
「女の子のパンティだけど」
「え〜〜〜!?」
と声を挙げたが、確かにそれは強力な呪具になる。あまり使う人はいないけど。
 
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「夜中に掘り出さないように」
「そんな変態じゃないよぉ」
「播磨工務店の連中はあぶない気がします」
「掘りだそうとした奴を人柱にしちゃおうか」
「あまり血なまぐさいことはしないで〜」
「1日分の食料と水にお経を渡して円筒形の“棺桶”の中に入れて、埋めるだけだよ」
「勘弁して〜」
 

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それで千里と服園さんはそのままG450で熊谷に帰還した。青葉は南田さんに登記の移転が終わったことをメールで連絡した。夕方くらいに、
「では工事は来週くらいから始めます」
という連絡が来ていた。
 
“来週くらい”という曖昧な表現が南田さんらしいと思った。あの時決めた設計図より、部屋が2〜3個多くなってたりして!?
 
その時、青葉は工事代金を聞いていないことに気付いた。でもたぶん3〜4億かなと思ったので、値段を聞いてから払えばいいやと思った。
 

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信次の墓参りのため10/14に関東に出て来た優子一家だが、優子の母が
 
・ディズニーランドに行ったことが無い
・スカイツリーをまだ見てない
・アクアラインとか“ほたるの光”(*12)を見てない
 
などと言う。
 
(*12)きっと“海ほたる”のこと。
 
それで10/15はスカイツリーに連れて行き、浅草寺にお参りしたら感激していた。浅草寺に来たのは高校生の時に修学旅行で来て以来らしい。雷門の前でも記念写真を撮った(完璧にお上りさん)。もんじゃ焼きを食べてから、両国の相撲博物館に行った。
 
「すごい。ここ住所が墨田区横綱(よこづな)なのね」
「みんなそう読むけど、実は横網(よこあみ)なんだよね」
 
お母さんは、眼鏡を拭いてから住所表示をじーっと見ていたが
「ほんとだ!“あみ”だ」
と声を挙げた。
 
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ちょうどそこに偶然にもお相撲さん(大銀杏をしていた:つまり十両以上)が通り掛かる。母が
 
「大ファンなんです」
と言って、エア握手してもらっていた。向こうもファンと言われて笑顔である。
 
「何て名前の関取?」
と後から母に訊いたが
「知らん」
と言っていた!!
 
「でも大きなマスクしてたね」
「普通のマスクではお相撲さんには小さいよ」
 

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ディズニーランドは土日は混むので月曜日に行くことにする。16日(土)は一緒に皇居の見学に行った。両親はふたりとも初めてだったらしく、いたく感動していた。その後、神保町に連れて行ったら、父が夢中で古本を買っていた。この日だけで100冊くらい買ったのではないかと思う(何度も駐車場と往復した)。
 
「ここに住みたい」
と父は言っていた。
 
ここに住んでたら破産しそうだけど。
 
夕方は六本木の瀬里奈に連れて行ったら、ここでまた感動していた。
 
「凄い。美味しい。死んでもいい」
「まだ死なないでよね。私、子供抱えて生きていけなくなるから」
 
とは言ったものの、優子は奏音が小学生くらいになったらパートに出ないといけないかなあと思った。
 
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信次名義での養育費送金は続いているが、これは実際には2019年の話し合いで、康子さんが信次の名義で送金してくれることになったものである。しかも康子さんはそれまで信次が送金してくれた額の倍の20万をこちらに送金してくれており、府中家の家計は現在、ほとんどこの送金に支えられている。
 
優子の父は2015年に保証かぶりで450万円の借金を抱え、住宅ローンの返済をしながらそれも返済しており、給料は返済金を払うと光熱費程度しか残らない。残高がまだ100万くらい残っている。恐らく完済は父が退職する頃になるだろう。優子自身も実は大学時代の奨学金の返済をしている。
 
しかし康子さんにいつまでも負担は掛けられない。うちの父も2年後には定年だし、再就職しても収入はかなり減るだろう。いづれ父母の健康問題も出てくる。
 
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奏音をちゃんと高校に行かせてあげる自信が無い。大学に行きたいと言ったらどうしようか。
 

10月17日(日)、優子の両親は2人だけで、東京湾1周(結果的にアクアラインを通る)してくるということだった。最初は優子たちも一緒にと言っていたのだが、子供には体力的に辛いと思ったので、優子は奏音と一緒にホテルでお留守番にした。
 
お昼前、お腹が空いたなと思う。奏音も「マクドたべたい」などと言っている。
 
「じゃちょっと出掛けてくるか」
と言って、奏音を連れて、ホテルから出掛ける。
 
この時は曇模様だったので、優子は奏音と手を繋いで、そのまま歩いて出掛けた。歩いて1kmほどの大型スーパーまで行き、その中にあるマクドナルドで、奏音にチーズ月見を食べさせ、優子も“濃厚とろ〜り月見”を食べる。食べながら、これは奏音に食べさせると、服が悲惨になったかも知れないと思った。
 
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マクドナルドを出てから、おやつにガーナチョコの大袋、奏音が好きなビスコの大袋、ミニクロワッサン10個入り、薄皮あんぱん(5個入り)、骨付きのフライドチキン3本に骨なしチキン1本、飲み物に2Lの烏龍茶とミルクティーを買い、更に父が飲むかもと思いキリンラガービールの6本セットを買った。
 
そして普段の買物の感覚で駐車場に行こうとして
「しまった!歩いて来たんだった」
と思い出す。
 
車が無いと分かると荷物が重く感じる。だいたい飲み物だけでも6kgくらいある。
 
しかも困ったことに雨まで降ってきた。自分はまだしも奏音を濡らすわけにはいかない。タクシーを呼ぼうかと思ったが、こんな近い距離、乗せてくれるだろうかと不安になる。その時。
 
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「可愛いお嬢さんですね」
と声を掛けてきた女性が居る。見た感じ、40歳くらいだろうか。女性だし、子供を褒められたので、優子も警戒心を緩める。
 
「子供って可愛く感じますよねー」
と優子は答える。
 
「なんか音楽でもしそうな顔をしている」
「この子の名前、“かなで”と言うんですよ」
「すごーい、きっとピアニストかフルーティストになりますよ」
と彼女は言った。
 
“ピアニスト”という言葉は誰でも知っているが、“フルーティスト”という言葉は、音楽をやる人でないと知らないかも知れない。この人音楽するのかなと思った。
 
「音楽なさいます?」
と尋ねてみる。
 
「私、楽器メーカーに勤めているんですよ。オルガンが専門なんですけどね。音楽教室とかも運営してますが」
 
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優子は顔をしかめる。まさか営業か?電子オルガン教室とかの?
 

しかし彼女は優子の表情に気付いたようである。
 
「ああ、勧誘とかじゃないですよ。私はオルガンの制作とか修理が専門なんです」
 
制作・修理?
 
「もしかしてパイプオルガンですか?」
 
「そうです。そうです。そうか。オルガンといったら普通の人は電子オルガンを想像しますよね」
 
いや、確かに音楽の分野では単にオルガンと言ったらパイプオルガンのことである。彼女の言葉の使い方が正しい。
 
「なんか凄いものを作ってますね」
「海外出張も多いです。この春はインドまで行ってきましたけど、もう感染しないかヒヤヒヤでしたよ。知り合いにビオンテックのウィルス開発に関わっている人が居て」
 
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「ウィルス開発??」
 
「ああ、間違い、間違い。ワクチン開発です」
「びっくりしたぁ」
 
「それで治験に参加して去年の内にワクチンを打ってもらっていたから、隔離期間も短くて済んだし、幸いにも感染しませんでしたけどね」
 
「大変ですね!海外出張も。いや実は私も治験に参加してて昨年の内にワクチン打ってもらったんですよ」
 
「へー。結構日本でも治験参加者はいたんですね。でもインドとか若い人に行かせるのは可哀想だから、私たちみたいなのが行くんですよ」
 
「ああ。そういう時は年上の社員は辛いですね」
 

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なとと会話していた時、彼女は優子の持つ荷物に気がついた。
 
「奥さん、それ重たいでしょ。私が持ちますよ」
「え?でも」
「私は学生時代にラクビーしてたし」
と言って、彼女は優子の買物の荷物を持ってくれた。たしかに逞しい腕だ。
 
優子は以前にも似たようなシチュエーションがあったのを思い出しつつあった。でもあいつは男だったし。
 
「でも奥さんも、わりと腕が太いですね」
「私、中学高校で柔道してたから」
「おお、それは頼もしい」
「でも女性でラグビーって珍しいですね」
 
「すみませーん。当時は私男だったから」
「へ!?」
「2年前に唐突に女になってしまって」
 
性別って唐突に変わるものなのか??
 
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「女性ホルモンの作用で筋肉が減ってるから、普通の男ほどの腕力は無いかも知れないけど、普通の女性よりは腕力あると思いますよ」
と彼女は言っている。
 
優子はこの元男?の女性に急に関心を覚えた。
 
「でも性別を変えるにはわりと遅い方かな。20代で変更する人が多いのに」
「お金貯めるのに時間がかかった上に、実は一時期女性と契約結婚していて」
「契約結婚?」
 
「レスビアンの女性で親から言われてどうしても子供を産んでおきたいということで、その子供の父親になって欲しいと言われて」
 
「子供作ってしまったら性別は変更できなくなるのでは?」
「まあそのあたりを話し始めると長くなるのですが」
 
「そしたら、子供を作った上で、性転換したの?」
「そうです。私は自分は女だと思ってたから元々恋愛対象が男性だし、向こうもレスビアンだから、結婚はしていたけどセックスは1度もしてないです。子供も人工授精で作ったんですよ」」
 
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だったら法的な性別は変更してないのかな。でも何か似たような話を某所で聞いたぞと優子は思った。
 
「でもいちばん辛かったのは、自分の遺伝子を引き継ぐ子供がいるのに、私は親とは名乗れないことで」
 
「女の人では父親は名乗れませんね」
「つごう3人の親になりましたけど、子供たちとは私は会えないんです」
「ちょっと辛いかも」
 

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「すみません。つまらない話をしてしまって」
「いえ、もっと詳しく聞きたいくらい」
「そうですか? あ、取り敢えずお荷物運びますよ。奥さんの車はどのあたりですか?」
 
「実は地方から東京に親族の墓参りで出て来ていたんですが。普段の買物のつもりで、うっかり車が無いこと忘れてて」
 
「それは大変だ。足が無いと困りますよね。私の車で送っていきますよ」
「助かるかも」
「ここで待ってて。車をここに回してくるから」
「すみません!だったら、その間は私が荷物持ってます」
と言って荷物をこちらに取る。実は短時間でも持ってもらったので、こちらは腕の筋力が回復している。
 
彼女は傘を差して駐車場の奥に入り、車を出してこちらに回ってきた。ドアを開けてくれるので奏音と一緒に後部座席に乗り込む。運転席の後ろにチャイルドシートが取り付けてあるので、そこに奏音を座らせ、自分はその左、助手席の後に座る。
 
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でも子供と会えないというのにどうしてチャイルドシートがあるんだろう?
 
「じゃ送りますよ。どこのホテルに泊まってます?」
 
「ホテルはこの先の**ホテルなんですけど、私もっとお話ししたいわあ。ちょっと東関東道・圏央道・常磐道から郡山あたりまでループしてきません?ガソリン代・高速代は私が持ちますから」
 
「そうですか?」
 
“ループ”なんて言葉を優子が使ったことで向こうもこちらが車好きだと思ったようである。しかも地方から出てきたというのに、この付近の高速の名前がスラスラ出て来た。東関東道なんて関東以外の人にはあまり有名でない。
 
「私優子です」
「私は夏樹です」
 
それで古庄夏樹は、Mazda MX-30をスタートさせた。
 
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