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■少女たちのBA(13)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-11-27
 
学習発表会の劇だが、演目が『オズの魔法使い』と決まってから、我妻先生が、ベースになる小学校用の劇台本を元に、原作本も見ながら1週間で書き上げ、学校のプリンタで印刷して7月末に児童全員の家に送り届けていた。それでみんな夏休みの間に結構セリフも覚えていた。仲の良い子同士集まって読み合せなどもしている。千里は絵梨(ドロシー)・蓮菜(西の魔女)・美那(緑の少女)・穂花(語り手)と読み合わせした。千里はこの4人以外の全てのセリフを覚えてしまった(この4人のセリフも覚えた)。
 
「千里って算数や理科の公式とかは全然覚えないのにこういうのは得意だよね」
「うん、私は算数とかは苦手〜」
 

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北海道や東北の学校の夏休みはだいたい8月20日までである。それで千里たちの学校も8月21日(水)に始業式が行われ、2学期が始まった。
 
学校が再開されると週2回の学活の時間に、学習発表会の練習が行われた。我妻先生はこういう指導には熱心だし、みんな結構頑張った。
 
我妻先生は文章はうまいのだが、話し言葉については強烈な方言の話し手なので慣れてない子には先生の話す言葉は分かりにくく!今年帯広から転校してきた絵梨はしばしば分からなくて「今先生、何て言った?」と隣の子に聞いている!そういう訳でこの練習も、先生の指導をクラス委員の蓮菜が通訳!して進める形で行われた(でないと絵梨以外にも今一意味がちゃんと取れない子がいる)。
 
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その週の金曜日には水泳大会があったが、女子水着を着ている千里を見て、麦美が
「女の子にしか見えない!」
と感心していた。
 
「フェイク、フェイク」
「胸があるように見えるんだけど」
「パッドなんだよ。シリコン製だから本物みたいだよ。ほら触ってみて」
「本物としか思えない」
「精巧だよね〜」
「ちんちん付いてないように見えるんだけど」
「ちょっと取り外してロッカーに置いて来た」
「取り外せるの〜?」
 
水泳大会は、5-6年生の場合、男子は25m, 50m, 100m, 200mの自由形、25mの平泳ぎ・背泳、女子は15m, 25m, 50m, 100mの自由形と、25mの平泳ぎ・背泳の他、15mも泳げない子のために泳げる所まで泳ぐ“距離測定”というのもある(距離測定は男子でも25m泳げない子は出てよい)。
 
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なお全ての種目で飛び込みは禁止で、水の中に入ってのスタートである。これは小学校の浅いプールで飛び込みは危険だからである。
 
千里は(女子)自由形25mに出場して、25mを泳ぎきったものの美事に最下位だった。でも泳ぎ切ったのを桜井先生に褒められた。留実子はいちばん長い距離の(男子)200mに(女子水着で)出場して断トツの1位だった。
 
「村山は男子水着じゃないんですか」
「社会的な不都合があるから」
「花和は男子水着じゃないんですか」
「医学的な不都合があるから」
 
「よく分からん」
 
修学旅行で千里が女湯に入ったことは、ごく一部の女生徒とごく一部の先生にしか知られておらず、千里は男湯に入ったことにしている(誰も信じていない)。
 
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8月24日(土).
 
千里たち、N小・合唱サークルは、今年の合唱コンクール地区大会(留萌・上川・宗谷の三支庁合同予選)に出るため、旭川市に出た。6月のフェスティバル同様、路線バスを予約し増車してもらっている。付き添いも前回同様、顧問の馬原先生の他に松下先生である。4年生3人と5年生2人が見学を希望したので、児童35名と先生2人で37人で行くことになり、大型バス(正座席45)を用意してもらっている。
 
この日は雨模様でみんな折りたたみ傘を持って来ていたが、千里たちが旭川に着いた頃はまだ降っておらず、予約していた駅近くの中華料理店でお昼(バイキング形式!)を食べた。前回和食が不評だったので今回は中華にしたらしい。
 
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食べ放題というのでたくさん食べている子もいる。映子など、朝御飯を食べそこねたなどと言って3人分くらい食べていたので、美都から「そんなに食べて大丈夫?」と訊かれ「大丈夫。問題無い」と答えていた。千里は少食なので「それでは元が取れん」と蓮菜から言われるほど少ししか食べていなかった。
 
その後、歩いて会場まで行った。
 
千里は1kmほど歩いて、身体の血の巡りが良くなり、気持ち良くなった気がした。
 
歩いて「疲れたぁ」などと言っていた子もあったが、バイキングで少し食べ過ぎた子は「いい腹ごなしになった」と言っていた。映子も会場まで歩いたので「1食分は消費した」などと言っていた。
 
(体重40kgの人が1kmほど歩いて消費するカロリーは40kcal=0.5単位程度。一方茶碗1杯分のごはんのカロリーは2単位=160kcal程度ある。通常の食事1人分500kcalを消費するには12kmくらい歩く必要がある!)
 
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このコンクールは毎年参加校が減ってきており、一昨年は12校、昨年は10校だったが、今年は8校である。来年はもしかしたら予選の地区合併があるかも知れないという話だった(実はこの年が底で翌年からは増加に転じる)。
 
N小はこの地区大会を一昨年・昨年と連覇しているが、昨年は10校中8番目の演奏で、N小の後で、上位常連のF女学園・Y女学院が歌った。しかし今年はN小がラストになっていた。実は昨年、金賞が取れなかったY女学院が銅賞を取っていたのに授賞式の途中で帰ってしまい、合唱連盟から厳重注意をくらうという事件があって長年務めた理事校も辞任した。代わって理事校になったF女学園が「前年の成績順にすべき」と言って、この順序になったらしい。そういう訳で8校の演奏順序はこのようであった。
 
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旭川市立T小学校(2000銅賞)
士別市立M小学校(1999-2000銅賞)
旭川市立S小学校(2001銅賞)
上川町立K小学校(1999-2001銅賞)
Y女学院初等科(2001銅,2000銀,1989-1999連覇)
稚内市立H小学校(2001銀賞・2000銅賞)
F女学園小学校(1996-2001銀賞)
留萌市立N小学校(2000-2001連覇)
 
なんと参加校8校はみんな2年以内に銅賞以上を取った学校ばかりである。少子化で子供の数が少なくなっていてコーラスに必要な人数を確保しづらくなっていること、地区が合併されたことで、交通費がかかるようになり、その予算が出ない所なども増えているのがあるのではと松下先生は言っていた。賞を取っていると、学校からも比較的予算が出やすい。
 
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最初に人数が20人に満たず審査対象外の“参考参加”になる学校が4校歌った。これは旭川市内の小学校が3校と、富良野市内の小学校1校である。富良野から出てくるというのは熱心だ(できも良かったので特別賞をもらった。ここは翌年からは何とか人数を揃えて正式参加するようになる)。
 
その後、通常参加の学校8校の演奏が始まる。しかし思えば一昨年はN小は一部のメンバーが高速道路上で事故による通行止めに遭って演奏に間に合わず見学に来ていた子を壇上に頭数合わせで並べた。昨年は演奏直前にコンクールの看板が落下して騒然となった。まあ色々事故は起きるもんだと千里は思った。そもそも千里はサークルには入っていなかったのに、4年の時に頭数合わせで壇上に立ち「スカートの制服着たいでしょ?」と言われて、なしくずしにサークルに参加することになったのである。
 
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しかし今年は、看板が落ちてくることも天井が崩壊することもなく!?順調に演奏は進んでいった。
 
Y女学院は課題曲の後、自由曲ではフェスティバルでも歌った『ユルリの春』を歌った。一応調性はあるが転調の多い曲である。フェスティバルで歌ったもうひとつの曲、無伴奏・無調の『少年の嘆き』は「完成しなかったのかもね」と馬原先生は言っていた。無伴奏で無調の曲を歌うには、絶対音感を持つ子がかなり入っていないと事実上不可能である。それで結局断念したのかも知れない。
 

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稚内のH小学校は、一昨年銅賞で去年が銀賞である。今年は金賞取るぞ!と燃えていたようである。かなりの難曲で挑戦していたが、千里の耳にも未完成に聞こえた。一応音は合っているが単にその音で歌っているだけだ。歌い込み不足が明らか。もっと易しい曲の方が良かったのではという気がした。
 
昨年まで6年連続銀賞のF女学園は、まさにその“易しい曲をしっかり完成させる”という路線で歌った。馬原先生も「凄い。完璧だ」と言った。つまりここを上回るには、もっと難しい曲を完璧に歌う必要がある。
 
そのF女学園の演奏が終わり「さあ行くよ」と言って、F女の子たちが退場するのを待っていた時のことである。
 
「先生、花崎(映子)さんがいません」
という声がある。
 
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「え?どこに行ったの?」
「さっきトイレに行くと言ってましたけど」
 
「私が呼んで来る」
と松下先生が言うが、馬原先生はそれを停めた。
 
「待って。それより篠笛が」
 
映子は自由曲『キツネの恋の物語』で篠笛の担当なのである。
 
「横川(由衣)さん、篠笛持ってる?」
 
由衣はバックアップの篠笛奏者である。
 
「バッグに入れて座席に」
「松下先生、それを取ってきて」
「どんなバッグ?」
「ピンクのベビーシナモン(*7)の絵が入っているバッグです」
「行ってくる」
と言って、松下先生は走って行った。
 
(*7)この年5月にデビューしたばかりのキャラで、翌年“シナモロール”と改名された。売上がジリ貧になっていたサンリオを再生させる救世主となったキャラクターである。
 
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それで少し足もとが浮ついた状態でN小のメンバーは出て行ったが、ここで児童が並び終わった所で、舞台袖から歩いて指揮台の所まで行く馬原先生が電気のコードに引っかかって転んでしまった。
 
スリットの大きなスカートを穿いていたので一瞬パンティまで見えた。マイメロのパンティだったので部員たちが一瞬顔を見合わせる。
 
「大丈夫ですか?」
と部長の穂花が飛び出して先生の所に行く。
 
「大丈夫、大丈夫。みんなごめーん」
と言って先生は立ち上がる。運営の人まで出て来て「大丈夫ですか?」と訊いた。先生は「すみません。大丈夫です」と言って、指揮台に就いたが恥ずかしそうな顔をしている。
 
しかし映子が居ないというので、一時浮ついた感じになったメンバーが先生が転んだので今度は気持ちが引き締まった。
 
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部長の穂花が「行くよ」とみんなに声を掛けると、みんな気持ちを集中する。先生も気を引き締め直し、ピアニストの美那とアイコンタクトする。指揮棒が振られると同時にピアノの前奏が始まる。課題曲『おさんぽぽいぽい』を歌う。
 
『魔女の宅急便』の原作者・角野栄子さんの作詞、多数の合唱曲を書いている新実徳英さんの作曲である。
 
先頭・真ん中・最後に無音部分があり、ここをどう歌うかは歌唱者に任されている。Y女学院は独自のメロディーを付けて歌った。H小は叫ぶように歌った、というかほんとに叫んだ。F女学園は抑揚を付けて話すように歌った。ここはほんとにその学校の個性が出る所だろう。N小の場合は、F女学園と同様に抑揚を付けて話すように歌った。ただイントネーションはF女学園とは異なる。
 
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全体的に童謡のような感じで楽しい歌である。昨年の課題曲『ロボット』は解釈に悩んだのだが、今年の課題曲は無音部分以外の歌い方についてはみんなあまり悩まなかったのではないかと思った。純粋に歌唱力の勝負である。
 
気持ちが集中できたことで、N小はこの曲をうまく歌うことができた。
 

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自由曲になる。篠笛を持った松下先生が袖から歩いて出て来る。篠笛を吹く由衣がソプラノの列から出て、前に出て来る。彼女はかなり緊張した顔であった。やばいなと部長の穂花は思った。充分な練習はしているのだが、何しろ本番直前に言われた。彼女は4年生でコンクールの舞台自体が初めてである。それでなくても緊張するのに、突然の大役だ。
 
そして由衣は篠笛を受け取ろうとしたのだが・・・・
 
躓いてしまった!
 
後でスタッフがその付近の床を調べたものの、躓きそうなものは何もなく、なぜ彼女が躓いたのかは謎である。
 
しかし由衣は躓き、そのまま前転でもするかのようにして、ステージ下まで転がっていった。
 

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「横川さん!」
と馬原先生が声を挙げる。松下先生が馬原先生を手で制し、篠笛を馬原先生に渡してからステージ下に飛び降り、由衣を介抱する。
 
「大丈夫です」
と本人は言っているが、部長の穂花は篠笛は誰か代わった方がいいと思った。それで穂花は叫んだ。
 
「深草さん、篠笛代わって!」
「します」
と言って、小春はソプラノの最後列から飛び出すと、馬原先生から篠笛を受け取った。
 
松下先生が由衣を介抱しているが、大丈夫そうなので、馬原先生が美那とアイコンタクトを取り、ピアノ前奏が始まる。由衣のことは心配だが、すぐ演奏を開始しないと時間制限をオーバーしてしまう。
 
ピアノ前奏の後、小春の吹く篠笛が4小節入って歌が始まる。由衣が転落した時はみんなざわっとしたが、小春の篠笛を聴いてみんな緊張感を取り戻した。美那は時間制限をオーバーしないよう、念のためややアップテンポにピアノを弾いたが、これも結果的には曲調を明るい感じにした(道大会以降もこのテンポで行くことになる)。
 
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アルトの呼びかけに対してソプラノが応えるという、会話のような感じで曲は進行していく。それに時折、篠笛の音が入る。篠笛は低音と高音を吹き分けるわりと難しい演奏なのだが、篠笛の達人・小春はそれをとても美しく吹いた。その演奏でみんな気持ち良く歌って行く。
 
クライマックスで希望のアルトソロが8小節入り、その後、穂花のソプラノソロが8小節入る。そして4小節の篠笛の後、最後はきれいなハーモニーで終止する。
 

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少女たちのBA(13)

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