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■少女たちの卒業(11)

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そこからは麻酔を打たれたので記憶が途切れている。目を覚ましたら、心配そうな顔で自分を見ている両親の顔があった。
 
「ああ、目を覚ましたね。悪い所は全部取ったからもう大丈夫って」
「ほんと?よかった」
 
知佐が意識を回復したので、母がナースコールして、医師を呼んだ。10分ほどで医師がやってきて、
「痛みは無い?」
と訊く。
「はい。大丈夫です」
「悪い所は全部取ったから、もう安心だからね」
「ありがとうございました」
「ちょっと傷の具合を見ようかな」
 
と言って、医師は知佐の病院着のズボンを下ろす。するとズボンの下に自分が見慣れないパンツを穿いていることに気付く。肌にピッタリ付いているのはブリーフっぽいが、前の開きが無い。前身頃は1枚布である。そして前身頃の下部は水平になっていて、別の布と縫い合わせてある。
 
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知佐は、これまるで女の子のショーツみたいと思った。
 
医師はその女の子のショーツのようなパンツも脱がせる。包帯が巻かれている。医師はその包帯をほどいた。その付近が露出する。
 
え!?
 
「ペニスが・・・・」
「腫瘍が大きかったから、ペニスごと切除せざるを得なかったんだよ。ペニスが無くなって少し不便かも知れないけど我慢してね」
 
それって“少し不便”の範囲なのか!?
 
「それでペニスを切除した結果、そのままだと、睾丸があって性欲が出るのに、ペニスが無いとその性欲を解消できずに精神的に崩壊するから、それを防止するために睾丸も除去したから」
 
それは確かに気がおかしくなるかも知れない気はした。でもそれじゃ、俺、棒も玉も無くなってしまったの?
 
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しかしこの形はまるで・・・
 
「それてペニスがなくて身体から直接おしっこが出る状態になるんだけど、その場合、尿道口が身体の表面にあると、炎症が起きやすくて、その場合ペニスがあった時と違って尿道が短いから膀胱炎を起こしやすいんだよ。それで炎症が起きにくくするために、女性の陰唇と似た形にして、その中に尿道口を開口させるようにしたから」
 
女性の陰唇と似た形って、これ完全に女の子の形に見えるんですけど!?
 
父が言った。
「知佐、ちんこ無くなったのはショックだろうけど、お前の命を救うためにはやむを得なかったんだよ」
 
それはそうかも知れないけど、ショックだよぉ。
 
「それで、あんたちんちん無くなっちゃったから、男物パンツだと、パンツと身体との間が空(あ)きすぎて、身体によくないからさ。これからは女物のショーツを穿いてね」
と母が言った。
 
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これやはり、女の子ショーツなのか!?
 

最初の3日間は導尿していたのだが、4日目にカテーテルは外された。でもその目は
 
「今日1日はポータブルトイレで」
と言われた。
 
それでちんちんが無くなってから初めてのトイレをしたのだが、物凄く変な感じだった。これまでおしっこは「出す」感覚だったが、ちんちんが無いと「出す」ことができず、勝手に「出る」感覚なのである。ちんちんがあれば、おしっこは前に飛ぶが、無いとおしっこは真下に落ちていく。
 
でもちんちん無くなっちゃった以上、これからはずっとこういうおしっこの仕方をしないといけないのかな、と知佐は思った。
 
5日目からトイレに行ってしてくださいと言われる。それでトイレに行き、最初小便器の前に立つが
「あ、そうか。ちんちん無いとできないや」
と思う。それで個室に入ろうとするが、個室がふさがっている。
 
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いつまでも空かない。
 
それで同じフロアの少し離れた所にあるトイレまで行く。
 
ここも個室がふさがっている!
 
えーん。困るよぉ。
 

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ナースステーションで
「どこか個室のたくさんあるトイレありませんか?」
と尋ねた。
「ああ、あなた、ペニスを切った患者さんね」
「はい。それで小便器が使えないから」
「だったら女子トイレを使いなさいよ」
「えー!?」
「大丈夫。緊急の際は、女子トイレに入ってもいいのよ。緊急避難と言って」
 
それでも不安だったので、結局看護婦さんに付いてきてもらって女子トイレに入り、やっとおしっこをすることができた。
 
ちんちん無いって、何て不便なんだと思った。
 
しかし知佐は入院中、ずっと女子トイレを使うはめになってしまった。
 

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知佐は半月ほど入院してから退院したが、退院する時、母から
「これ穿いてね」
と言ってスカートを渡された。
 
「僕、スカート穿くの?」
「だって、あんたちんちん無くなっちゃったから、男子トイレが使えないでしょ。入院中はずっと女子トイレを使っていたし」
 
男子トイレを使えないというか、なぜか行きたい時に個室がふさがっているから、やむを得ず女子トイレに入っていたんだけど。
 
「それならスカート穿いてれば、女の子と思ってもらえるから、堂々と女子トイレに入れるよ」
 
そうかなぁ。病院内だからいいけど、外では痴漢として通報されないかなあと不安になる。
 
でもこの日は母親に言われた通り、スカートを穿いて退院した。
 
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「あんたスカート穿いて歩けるのね」
「僕、小学3年生頃まで、けっこうスカート穿いてたし」
「そういえばそうだったね」
「しばらく穿いてなかったけどね」
「じゃ学校にもスカート穿いてこうね」
「え〜〜〜!?」
 

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知佐は母親に連れられて、ジャスコの制服コーナーに来た。
 
「S中学のセーラー服、今から頼んでも入学式に間に合いますか?」
と母が訊く。
「今日ならギリギリ間に合いますよ。でも遅くなったんですね」
「ええ。転校してきたものですから」
「ああ。なるほどですね」
 
(転校じゃなくては転換だったりして!?)
 
それで知佐はサイズを計られた。
 
「バスト70、ウェスト63、ヒップ82、肩幅37、袖丈57、身丈58、スカート丈74かな。お嬢さん、身体は細いけど背丈があるからスカート丈も長めの方がいいですよね」
 
「そうですね」
 
(千佐は実はわりと女性体型である。小学生時代は結構ガールズのズボンを穿いていた:小便器が使えないけど!ヒップが大きいので、2月に買った学生服のズボンもウェスト75のズボンを買って、母が裁縫しウェストを詰めてくれた。せっかく母が手間掛けてズボンの補正をしてくれたのに、それを穿かずにスカートを穿くことになって、お母ちゃんに悪いな、と千佐は思った)
 
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しかし知佐は自分が“お嬢さん”と呼ばれたことでドキドキした。思えば小さい頃は結構スカート穿いて出歩いていると「お嬢ちゃん」と呼ばれていたよなあと思い出していた。そういえばあの頃はわりと平気で女子トイレも使ってたし。
 
それでセーラー服は入学式の前日4月6日に仕上がるということだった。
 

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入学式までの数日間、知佐は姉と一緒にあちこちお出かけし、出先でずっと女子トイレを使った。最初は抵抗があったものの、すぐ慣れてしまい、平気で女子トイレに入って列に並ぶことができるようになった(小2の頃まで普通に女子トイレも使っていたからだと思う)。
 
入学式前日、知佐は母親に連れられて美容院に行った。
 
「女子中学生っぽい髪型にしてください」
 
と母親が言う。それで知佐はどんな髪型にされるのかドキドキしていたが、仕上がったのを見る。
 
前髪はジャスト・オン眉でカットされ、いわゆるボブカットになっている。なんか凄く女の子っぽい。こんなに女の子っぽくしていいのかなと思う。
 
「三つ編みにしたり、お団子作るのも可愛いですよ」
などと美容師さんは言っていた。
 
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美容院の後、ジャスコに行き、出来上がったセーラー服を受け取る。その場で試着したが、鏡に映った自分の姿が女の子にしか見えなくて、ドキドキした。
 
僕・・・いっそ女の子になっちゃってもいいかなあ。
 

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翌日、S中学の入学式にセーラー服を着て出て行く。
 
「嘘!?なんでセーラー服なの?」
「髪も女の子みたいな髪型だし」
とみんなから言われる。
 
「病気でちんちん切っちゃったんだよ。それで男子トイレ使えなくなったから、それなら女子トイレ使えるように、いっそスカート穿いて女の子みたいな格好してればいいと言われて」
 
「性転換したんだ!?」
「性転換したわけじゃないよ。ちんちん・たまたまを取って、割れ目ちゃん作っただけ」
「充分性転換だと思う」
 
「僕女子トイレ使ってもいいかなあ」
「まあ、ちんちん無くなったのなら、認めてもいいかなあ」
「下着とかどうしてるの?」
「パンツは女の子ショーツ穿いてる。ちんちん無くなっちゃったから、男物が穿けないんだよ。上もそれに合わせてキャミソール着てる」
「体育の時の着替えは?」
「それ相談したいと思ってた」
 
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女子数人が話し合っている。女子更衣室の使用を認めていいかどうか、どうも意見が分かれているようである。
 

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その時、知佐はこちらに近づいてくる靴音を聞く。
 
振り返ると、怒ったような顔の留実子である。
 
「とも、出直してこい!」
と言って留実子は知佐の顔をゲンコツで力一杯殴った。
 

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そこで目が覚めた!
 
知佐は思わず頬を押さえる。ほんとに留実子に殴られたかのように痛い気がした。
 
しかし長い夢だった。
 
「俺が女みたいな格好してたら、絶対るーに殴られるよな」
と知佐は独りごとを言った。
 
「でも俺、ほんとにこの後、どうなるんだろう・・・」
と知佐は自分の行く先に大きな不安を感じていた。
 

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部屋の壁に掛かっているセーラー服を見る。姉の花江が
 
「とも、私が着てたセーラー服あげるから、女子中学生になりたくなったら、これ着てね♥」
 
などと言って、知佐の部屋に置いていったセーラー服である!
 
(試着させられて、写真も撮られた)
 
知佐の衣裳ケース・衣裳掛けには3割ほど女物があるが、全部姉が押しつけていったものである。知佐は女物を着ることに抵抗が無いが、それで学校に出て行くと留実子に殴られる!から控えている。家の中にいる時は結構スカートを穿いているが、知佐にとってそれは普通の服の一部であり、女装している意識は無い。(このあたりの感覚は龍虎に近い)
 
「マジで俺、セーラー服で通学することにならないよな?」
 
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小学校の卒業式翌日、3月21日(祝)、千里は中学で使う定期券を買うのに、駅前のバス営業所まで行った。むろんセーラー服を着て出て行く。実は小学校の通学定期がこの日で切れるので、その間に買っておきたかったのである。
 
駅は小学校より先にあるが、その分は乗り越し運賃を払って駅まで行く。それで営業所で、通学定期の申込書に記入する。
 
氏名:村山千里(ムラヤマチサト)
生年月日:平成3年3月3日
性別:女
住所:留萌市C町**番***号
電話:0164-**-****
区間:C町→S町
学校名:留萌市立S中学校
種別:学期定期(1学期)
期間:平成15年 4月7日〜7月25日
 
それで料金とともに窓口に提出する。
 
「ああ、新中学生ね」
「はい、そうです」
「期間は4月7日は月曜日で、7月25日は金曜日だけど大丈夫?」
「はい、それでいいです」
「中学校の生徒手帳持ってる」
「まだです。たぶん入学後に渡されると思います」
「あ、そうか。今使ってる定期とかある?」
「はい」
 
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それで千里は小学校の通学定期を見せる。
 
窓口の人は、名前、年齢を見比べているようだ。
 
「あら?」
と声をあげる。
 
「あんた、本人?」
「そうですけど」
 
実は千里が提示した定期券は 11 という年齢の所に何も印が付いていない。これは男性の定期券である。しかし申込書では性別:女になっているし、目の前にいるのは女子にしか見えない。
 
「あんた性別間違って発行されてたみたい」
と言って、係の人はきちんと性別女で定期券を発行してくれた。
 
それで受け取った定期券には "12" という年齢の上に赤いOが付いている。これが女性を示す定期券である。千里は営業所を出てから、この赤い丸が付いた定期券を胸に抱きしめた。
 
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少女たちの卒業(11)

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