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■少女たちの卒業(6)

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そしてその日の夕方のことである。家の前に車の停まる音がする。ピンポンが鳴るので出ると、神崎さんの奥さんである。千里は
 
「こんばんは。お世話になっております。なんか中学の制服を頂けるということでありがとうございます」
と挨拶した。
 
人が来た時に、母ではなく、千里が出るのは、NHKとかが来た時に
「今、お母さん居ないので分かりませーん」
と言えるようにするためである!
 

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「中学に入るのって、あんただよね?」
「あ、はい」
「やはり。だったら、こっちで良かった」
と言って、紙袋を千里に手渡す。
 
あれ?卒業式の後じゃないの??
 
「いや、うちの父ちゃんがさ、村山さんの息子さんが中学に入るから、仁志の着てる学生服を卒業したら譲ってやってよと言うもんだからさ。でも村山さんとこは、ふたりとも娘さんだったと思って。あんた女の子だよね?」
 
「一応女のつもりですが」
 
「良かった良かった。父ちゃん勘違いしてるよ。これ美加が着てた制服だけど、あんたウェスト細いけど、アジャスター詰めればなんとかなるかもしれないしあげるね」
 
「ありがとうございます!」
 
「だいたい、仁志の服があんたに着られるわけない。加護亜依が KONISHIKI の服を着るような状態になるよ」
 
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なんか、安室奈美恵→渡辺徹より、グレードアップしてる!?
 
「どうしてもあんたが着るなら、あんたが3人必要だね」
「あはは、三つ子だったら、何とかなったかも?」
 
それどうやって歩くんだ!?
 
千里は紙袋から取り出してみたが、S中の女子制服が、夏服・冬服ともに上下入っている。千里はじわっと涙が出て来た。
 
「ほんとに助かります。うち貧乏だから」
「まあ貧乏はお互い様だけど、助け合える所は助け合っていこうね」
「はい、本当にありがとうございました」
 
それで神崎さんは帰って行った。
 

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「結局セーラー服をもらったんだ!」
と、最後まで顔を出さなかった母が言う。
 
「着てみようかな」
「うん」
 
それで着てみると、胸とか、お尻にも余裕があったが、ウェストがかなり余る。でもアジャスターをいちばん短くしたら、何とかなった。
 
「じゃ私この服で通う」
「分かった」
「ふーん、姉貴やはりセーラー服で中学に行くのか」
「当然」
 
「でも夏冬もらっちゃったから、7万くらい助かった。だったら体操服と通学用の靴は私が買ってあげるね」
と母は言った。
 
待て。それは母としては私が出すことになっていたのか!?
 

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母は「でも父ちゃんにあんたが学生服着てる所の写真見せなきゃ」と言って、ネットで女子用学生服!?(コスプレ用??)を注文していた。なんと上下3000円である。それ1度着ただけで破れたりして。布じゃなくて不織布とかではないよね?
 
神崎さんから美加さんの着ていたセーラー服を頂いたのが2月3日(月)だが、通販で頼んだ学生服が届いたのは2月13日(木)になった。千里は不本意ながら、その“女子用学生服”を着て写真に写った。一応布でできてるけど薄い!!こんなの冬には着られないぞ。学生服の下には、こないだの日曜日に買ったブラウスを着ている(千里の身体に合うワイシャツは存在しないと思う)。
 
「物凄い違和感がある」
と玲羅が言っていた。
 
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「まあ私には男装は無理だね」
と千里は言った。
 

しかし2月14日(金)に帰港して、学生服姿の千里の写真を見た父は満足していた。
 
「あれ?息子さんはもう卒業したんだっけ?」
と父が言っているので、母が
「もう受験準備であまり授業無いんじゃないの?」
と言うと納得していた。
 
(いくら授業が少なくてもふつうは卒業式で着るはず!)
 
「しかしお前のこの長い髪は気持ち悪い。俺がバリカンで刈ってやる」
などと言っていたが
「入学式前に髪切りに行くよぉ」
と千里は言っておいた。
 
しかし父が寝てから母は言った。
「あんた、女子としてもその髪の長さは違反」
 
「うん。入学式前に美容院に行って違反にならない程度まで切ってもらうよ」
と千里は言った。でもロングヘアをもう3年くらい続けていたので、寂しいなあと思った。まあ男子の長さまで切らずに済んだのは良かったけど。
 
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2月10日(月).
 
S中学校・校長名で、入学案内が送られてきた。
 
下記の日程で入学式を執り行います。都合により式に出られない場合はできるだけ3日前まで、病気などで急な場合は当日午前中までにS中学校にご連絡下さい。
 
入学式日時 平成15年4月7日13:00
場所 留萌市立S中学校体育館
氏名 村山千里(むらやま・ちさと)
生年月日 平成3年3月3日
性別 女
 
当日は制服着用の上、内履きと体育館シューズを持参し、この入学案内を受付にご提示下さい。
 

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千里は入学案内にちゃんと「性別・女」と記されているのを見て、じわっと涙が出て来た。
 
母はまた溜息をついていた!
 
翌日の2月11日(火・祝)。母は指定店に千里を連れて行き、千里の今のサイズより少し余裕がある女子用体操服上下(取り敢えず冬用)を買ってくれた。
 
この時期になったのは入学案内を待っていたのと、“カードの締め切り”を過ぎてからにしたかったのがあったようである。
 
体操服の男子用・女子用は外見は変わらないのだが、女子用は胸に余裕があるのと、その胸の部分の下着が透けにくいようになっている。男子用よりやや値段が高めなのに母はぶつぶつ言っていた。制服にしても、女子はどうしてもお金が掛かるようになっている。
 
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なお、靴や通学用のカバンは「華美でなく常識的なものなら」自由ということだったので、千里があとで自分で買うと言った。
 
NGなものの例:−
 
・パンプス
・サンダル・ミュール
・スリッパ
・木靴
・ガラスの靴
・かんじき(積雪の多い日を除く)
・スキー靴(通学にスキーが必要だった場合を除く)
・スケート靴
・スパイクシューズ
・靴底に金属製の板や鋲で補強がされている靴
・草履・下駄
・地下足袋
・安全靴・安全長靴
 
・高級ブランドバッグ
・風呂敷
・ランドセル・幼稚園カバン
・魚籠(びく)
・ジュラルミンケース
・海外旅行用大型トロリーバッグ
 
なんか半分はジョークで書いてるのでは?という気がした。ガラスの靴とか絶対ふざけてる!
 
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2月12日(水).
 
「今日はブラジャーの日らしいよ」
と言っている子がいた。
 
「212がブラジャーの形に見えるから?」
「アメリカだかフランスのマリーさんだかキャロルさんだかという人がブラジャーの特許をとった日らしい」(*2)
「語呂合わせ系ではなかったのか」
 
「でもさすがにうちのクラスも、ノーブラ女子は居なくなったかな」
「まだジュニアブラの子が多いけどね」
 
そんな話をしていたら、沙苗がじっとこちらを見ているのに数人が気付く。
 
「沙苗(さなえ)ちゃんも女の子なら、ちゃんとブラジャーつけないとダメだよ」
「えーっと・・・」
 
「沙苗(さなえ)はブラ着けてるよ」
と玖美子がバラしてしまう。
 
「何〜!?」
と言って、数人が沙苗の胸に触る。
 
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「ほんとに着けてる!」
と言われて、彼(彼女?)は真っ赤になっている。
 
「これサイズは?」
「A80。ジュニアブラは入らなかった」
「ああ。アンダーが足りないよね」
 
「待て。“入らなかった”って試着したのか?」
「試着はしてない。売場のお姉さんに測ってもらった」
「おお、ちゃんと測ってもらって買ったんだ?」
 
「沙苗、体育や部活の時、女子と一緒に着替えない?」
と言われると、また彼(彼女?)は顔を真っ赤にして俯いている。
 
最近、沙苗は体育の時間や部活で着替える時、移動黒板の裏で、他の男子には見えない所で着替えているらしい(沙苗なら女子更衣室に来ても“検査の上”容認されると思う:彼(彼女?)は足のむだ毛は剃ってきれいにしてるし、ショーツ姿になっても変な形は出ない←どう処理しているのかは不明)。
 
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(*2) アメリカの Mary Phelps Jacob が1913.2.12にブラジャーの特許を出願した(1914.11.3成立)。ブラジャー(brassiere)というのは古いフランス語で、上腕部を意味する単語であったらしい。この単語自体はこの特許出願より少し前から使用されていたが、初期のものはむしろ現在のキャミソールに似たものであった。ジェイコブが特許を取ったものはハンカチ・ブラのようなものであったが、これはあまり受け入れられず、ブラジャーが広まったのは、1920年代になって、コルセットの上部のみ切り取ったタイプが女性たちの間で広まってからである。
 
第一次世界大戦で、金属を軍需物資の生産に優先的に回した結果、コルセットの生産が困難になった。また、戦争に男性が取られて、それを補う形で女性が社会進出したが、仕事をする女性にコルセットは辛かったことから、いわば略式のコルセットであるブラジャーが受け入れられたのである。
 
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つまりブラジャーの普及は第一次世界大戦と密接に関わっている。
 

2月13日(木).
 
照絵は、龍虎を1歳半健診に連れて行った。最近、龍虎を外出させると、たいていちんちんが紛失(?)しているので、この日は開き直って、女の子の服を着せて連れて出た。
 
実際問題として、龍虎の前に男の子の服と女の子の服を並べて
「どっち着る?」
と訊いたら、
「こっち」
と言って、キティちゃんのロンパースを選んだ。それでそちらを着せて出て来たのである。おんぶ紐でしっかりとおんぶし、自転車で保健所まで行く(駐車場が狭いので車で行くと駐め場所に困る)。
 
市から来た案内状を見せて中に入り、問診票を提出。身長・体重などを測定する。更に聴覚・視覚の検査(音や光に反応するか)、言葉の出具合なども検査する。
 
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保健師さんが
「この人は誰?」
と照絵を指すと、龍虎はハッキリとした発音で
「ママ」
と言ったので、照絵は涙が出る思いだった。他に、色々な絵を見せると龍虎は
 
「わんわん」
「にゃんにゃん」
「ぱんら」
「ぶーぶー」(自動車)
「ちんちん」(電車!)
 
などとちゃんと答えるので、
 
「言葉はわりとしっかりしてますね」
 
と言われる。更に龍虎は
 
「ぴあの」
「ぎたぁ」
「どらむ」
「ばいりん」
「ふると」
 
などと楽器の名前を言えた(ボールとかバットとかは言えなかった)ので
「音楽環境がいいみたいですね」
と言われる。
 
「私も夫も音楽家なので。よく家にある電子ピアノとか触ってるんですよ。色々な音が出るから楽しいみたい」
と答えると
 
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「いい環境で育ってるみたいですね。きっとこの子も音楽家になりますよ」
と保健師さんは笑顔で言った。
 

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服を脱がせて裸にし、背骨が曲がってないか、足腰の発達状態、などを目視する。それから、性器の発達状況も見るが、ここで保健師さんは言った。
 
「あら、この子男の子だったんですね。キティちゃん着てるし凄く可愛い顔してるから、女の子かと思った」
 
ん?と思って龍虎のお股を見ると、今日は、ちんちんがある!
 
もうどっちでもいいや!と照絵は思った。
 
「すみませーん。この子、可愛いのが好きみたいだから」
「こんな可愛かったら、むしろこういう服のほうが似合いますよね」
「本人が女の子になりたいと言ったら、認めてあげてもいいし」
「ああ、むしろ女の子にしてあげたいくらい可愛いですね」
 
などと保健師さんとは会話した。(今日の龍虎は嫌そうな顔をした)
 
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少女たちの卒業(6)

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