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■お気に召すまま2022(18)

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ここにフレデリック(光山明剛)が単身でやってきた。(*95)
 
「兄上殿、お久しゅうございます」
「お前どうしたのだ?」
「私は悔い改めたのです。公爵の地位は兄上殿にお返しします。これまでのこと、とても許してはいただけないと思いますが、もし公爵様がお許し頂けたら私は世捨て人になりたいと思います」
 
「一体何があったのだ?」
 
「私は公爵様やドゥボア家の兄弟がみんなアーデンの森に集まっていると聞き、反乱でも起こすつもりかと思い、兵士たちを連れて森の近くまで参りました。しかしそこで1人の老牧師(*97) に出会ったのです」
 
映画では、武装したフレデリックが法衣を着た牧師(アウグスト・ジールマン社長!)と座って話しているシーンが映る。
 
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「そして老牧師と話している内に、私はこれまでのことを全て悔い改めました。それで兵士たちはレイダー将軍に預けて都に戻し、私は武器も捨て、公爵の地位も捨てて、公爵様にお許しを願いたいと思ってここに参りました」
 
公爵は言った、
「私は別にお前に憎しみも何も持っていない。お前が正しい道に戻ったのであればそれは良いことだ。この森で一緒に暮らそう。ここは良い所だぞ(*96)」
 

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(*95) 原作ではこの場面にフレデリックは登場せず、お使いとしてドゥボア家の次男が来て、フレデリックが公爵の地位を返すと言ったことを伝える。しかし謝罪するなら本人が来るべきだし、フレデリックがここに来てくれないとシーリアの結婚を許可する人がいない。それでこの映画では本人が来ることにした。
 
なお“ドゥボア家の次男”というのは、原作では前半にオリバーとオーランドの会話でだけ言及されており、実際の登場はここのみである。
 
実はこの次男役には江藤レナが当初アサインされていたのだが、あまりに出番が少なくて申し訳ないので、次男の登場シーンをカットし、江藤レナにはアルジャン卿の役に回ってもらった。それに長男と三男をドイツ人が演じているのに次男を日本人が演じるのは不自然であった(日本在住のドイツ人を起用する案もあった)。
 
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(*96) この物語では対立していた人たぢが皆、許し合い和解しており、この物語は“許しの物語”である、という論評がある。
 

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(*97) 原文は old religious man. これをどう取るかは難しい所である。
 
当時修道院は解体されていたのでこの時点では修道士というものが存在しない。しかしフレデリックがこの人の言葉に耳を傾ける気になったのは、その人が宗教家であることが分かるような服装をしていたからであろう。
 
修道院が解散された時、修道士・修道女には年金が支給されることになった。高齢あるいは障碍を持つ修道士・修道女には特に手厚い年金が支給された。また修道士も修道女もいったん(貞潔、清貧、従順の)誓願を捨てさせ結婚して生きる道が与えられた。中には国王に忠誠を誓い、国教会の牧師に転身した者も多かった。ごく一部は共同で家を買ってそこで小規模の修道生活を続けた者もいたが、国王に忠誠を誓わない者はヘンリー8世時代にかなり処刑されている。
 
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この付近を強引に進めたのが前出トーマス・クロムウェルである。もっとも彼自身も後にヘンリー8世の信頼を失い、斬首場の露と消えることになる。
 
(国王と関わるということは処刑されるということである!)
 
修道院が解散させられた原因は2つ。1つは当時の修道院が堕落しきっていて、聖痕などを見世物にして金儲けしたりして、清貧の誓いどころか贅沢な生活を送り、住民たちから顰蹙を買っていたこと。もうひとつは彼らがローマ教皇庁に忠誠を誓い、宗教改革に反対していたからである。最初は堕落の酷かった小規模の修道院のみに解散命令が出たが、反発した修道士たちによる反乱が起きたので国は強硬策に転じ、国教会に移行したごく一部の大規模修道院を除き、ほぼ全ての修道院が解散させられた。
 
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修道院の跡地は都市や地方の新興市民層が買い取り、いわゆる“カントリーハウス”に転用した。『お気に召すまま』の初演に使われたウィルトン・ハウスなどは火事などによって壊れて再建されたりもしているが、現在残る建物が3階建てで、12500ft2≒350坪ほどの建坪を持つ。充分立派なお城である。東京ディズニーランドのシンデレラ城が建坪150坪弱なのであれの倍以上ある。
 
また修道院が運営していた病院は、これらの新興富裕層が再建した。想像だが恐らく近代的な病院の看護婦に転身した元修道女もかなり居たのではないかと思う。でないと昔は女性が結婚せずに自分で食って行く道というのはとても少ない。
 
そういう訳でこの時代のイングランドには修道士が存在しない。そこでこの物語に出てくる old religious man は牧師と解釈することにして、老牧師と訳することにした。それでジールマン社長はチュニカではなく法衣を着ることにした。
 
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「お許し頂きありがとうございます。でも私が公爵を辞めますので、兄上殿には都に戻って公爵の地位に復帰して頂きたいのですが」
とフレデリックは言った。
 
「え〜!?ここが暮らしやすいのに」
などと公爵は言っている。
 
「そうだ。ロザリンド、お前が公爵の地位を継げ(*98)」
「え〜!?」
「お前は充分しっかりしている。女公爵としてちゃんとやっていける」
「そんなあ」
 
「男装して男公爵を装ってもいいが」
「あはは」
「でもそしたらオーランド様は?」
「女装して公爵の妻ということで」
「え〜〜〜!?」
 
「ロザリンド様の男装は様(さま)になっていましたが、オーランドの女装は無理がありすぎます。暴動が起きます」
とオリバー。
 
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(照ノ富士あたりの女装を想像してもらえば少し近いかも?)
 

「(貴族たちに)お前たちロザリンドと一緒に都に戻ってロザリンドを支えてやってくれ」
と公爵は言ったが
 
「私は都に戻りたくない。森の生活がいい」
とジェイクズ (Linus Richter).
「私もここで気楽に歌を歌っていたい」
とアミアン(中山洋介)。
 
ルブラン(松田理史)は困ったような顔をしたが言った。
 
「私もここの生活が好きだから森に残りたいけど、ロザリンド様には支えが必要だと思います。私は都に戻ることにします。アルジャン、ニコラス、君たちも来てほしい」
 
「分かった」
とアルジャン(江藤レナ)、ニコラス(西宮ネオン)も同意した。
 
語り手「結局、アミアンが都と森の間を定期的に行き来してメッセンジャーを務めることになりました」
 
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(*98) 原作では、公爵と貴族たちは都に戻るが、ジェイクズだけが戻りたくないと言い、フレデリックが森に住むなら自分はその傍に居ると宣言する。
 
しかしその展開は明らかに揉め事の火種を残すので、ここでは公爵は都に戻らない展開にした。フレデリックと一緒に居ることで彼の変心を防ぐことができる。それに公爵の子供はロザリンドしか居ないのだから、ロザリンドは、いづれは女公爵にならなければならなかった。
 

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「そうだ。フレデリック。ここにお前の娘のシーリアがいるのだが、ドゥボア家の長男と結婚したいと言っている。認めてやれ」
 
「弟のほうではなく兄のほうと結婚するのですか!」
とフレデリックは驚いている。
 
「弟は私がもらった」
とロザリンド。
 
「なんか分からなくなって来たぞ。でも結婚は認める」
 
「ということで、結婚式をするのは、私とオーランド殿、シーリアとオリバー殿、フィービーとシルヴィアス、オードリーとタッチストーン」
とロザリンドが言う。
 
「タッチストーン!?あ、道化までこんな所にいる!」
とフレデリック。
 
「どうもどうも、お久しゅうございます」
とタッチストーン。
 
語り手「オリバーは田舎生活をする決心をしていたもののロザリンド新公爵を支えるため、シーリアとともに都に戻ることにしました。タッチストーンはオードリーと一緒にロザリンドの家に住み、地主代理として、田舎生活を続けることにしました。なおルボー卿やシャンジュなどは処刑されるのを恐れたのか失踪し、その行方は誰も知りませんでした」
 
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映像には物乞い!をしているルボーとシャンジュの姿が映る。
 

日暮れになったのかあたりが暗くなるが、そこに画面左手から結婚の神ハイメン(槇原歌音)(*99) が登場する。彼は花柄のドレス(*100)を着て、長い髪の頂上に薔薇の花環を乗せている。背中には白い天使のような翼があり、右手には松明(たいまつ)を持っている。
 
タッチストーンが火の点いてない松明を持って来て、ハイメンの松明から火を分けてもらう。2つの松明は洞窟の入口の所に掲げられた。白いドレス姿の3人の従者がそこから火を取り、周囲に置かれたたくさんの灯明に火を灯す。洞窟前は結構な明るさになる。
 
楽人たちが右手から現れて横になっている木に座り、音楽を演奏する。ここに入るのは下記のメンツである。
 
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リーガル(*104)村山千里
バロックフルート(*103)古城風花・近藤七星・鮎川ゆま
ヴァイオリン(*102)鈴木真知子・伊藤ソナタ・桂城由佳菜
ヴィオール(*101)生方芳雄
指揮:蘭若アスカ
 
楽器はだいたい各人で持って来たが、リーガルだけは重いので、車輪付きの台車に載せて男性2人(ノンクレジットだが、羊飼い衣裳のあけぼのTVスタッフ)で引っ張ってきた。
 
曲は蘭若アスカ作曲『アーデンのカノン』である。3つのヴァイオリン、3つのフルートが追いかけっこをするカノン形式で作られている。
 
指揮をするアスかは指揮棒を持つのではなく、古風に杖を撞きながらリズムとテンポを楽人たちに指示する。楽人たちは(生方以外)全員白のドレスである。
 
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音楽に合わせて、色とりどりの田舎娘の衣装を付けたダンサーたちが踊る。踊っているのは信濃町ガールズの選抜メンバーである。
 
彼女たちの衣裳は、天然染料で染めたものだけを使用している。服にもジッパーは付いておらずボタン留めである。
 

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(*99) ハイメン(Hymen) あるいはヒュメナイオス (Hymenaeus) はギリシャ神話の結婚の神で、アポロンとミューズの中の誰か(カリオペCalliope クレイオーClio テメプシコーラTerpsichore ウラニアUrania の内の誰か)の“息子”である。
 
彼は花環を付け花柄のドレスを着て、松明を持ち、また背中には羽根がある。結婚式にはハイメンが参加していないと幸せは保証されないという言い伝えがあり、古来の結婚式では盛んにハイメンの名前を呼び、誰かがハイメンに扮して参加していた。
 
彼は男性神ではあっても女性的な性格が強く、また女と見紛う美しさを持つ。彼は本来女性しか参加できないエレウシスの秘儀にも参加したという。
 
(エレウシスの秘儀には女装好きで知られる皇帝ネロも女装で参加している)
 
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英語の hymen には結婚神ハイメンの意味と、処女膜という意味がある。実際にはこの2つの系統の hymen は偶然同じスペルと音になっただけで無関係である。しかし処女膜と結婚というのがいかにも関係ありそうに感じるので、処女膜を hymen と呼ぶのは結婚神ハイメンから来たなどという“民間語源”が生まれた。
 
処女膜の hymen はギリシャ語で“膜”を表す υμην (音写すれば ymen) から来たことばである。一方で結婚神のヒュメナイオスは「Hymen o Hymenae, Hymen」という、古代の結婚式の祝い歌にあるリフレインから生まれたことばである。意味不明のはやし言葉が神名と解釈されたのである。
 
処女膜のことを日本では「ヒーメン」ということがあるが、これはドイツ語のHymen から来たものである。医学用語にはドイツ語から来たものが多い。例えばザーメンとかホーデンもドイツ語である。ザーメンは英語ではスパーム(ラテン語でスペルマ)、ホーデンは英語ではテスティクルである。
 
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