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■お気に召すまま2022(17)

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広瀬みづほが「公爵の洞窟前」と書かれた板を持っている(原作第5幕第4場)。
 
公爵・貴族たち・オーランド・オリバーが洞窟から出てくる。
 
公爵がオーランドに訊く。
「ほんとにその若者が言う通りのことが起きるのかね」
 
オーランドは答える。
「私も半信半疑で、全て解決するかもとも思えるし不安にもなります(*89)」
 

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(*89) このシーン冒頭の公爵とオーランドの会話はもっと長いのだが、映画では短く詰めた。ここの原文を読むと、オーランドはギャニミードがロザリンドであることに全く気付いてないかのようにも取れる。しかしオーランドはギャニミードとの疑似デートでは明らかに相手は本物のロザリンドだと気付いている雰囲気があるし、またオリバーから「あの青年は女ではないか」というのも聞いているはずである。
 
だからここに至るまでギャニミードの正体に気付いていないとは思えない。あるいは公爵の前なので気付かないふりをしたのか。あるいはシェイクスピア自身がロザリンド登場まで気付かない設定だったのを途中で気付く設定に変える途中だったのか。あるいはお偉いさんとかに「最後まで気付かない設定にしろ」と言われて面従腹背した結果か。
 
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画面右手からギャニミード(ロザリンド)とエイリーナ(シーリア)が来る。画面左手からフィービーとシルヴィアスが来る。いづれも
 
「おはようございます」
と挨拶する。
 
ギャニミードとエイリーナは公爵の前に跪き、
 
「公爵様、ご機嫌麗しゅうございます」
と挨拶した。
 
「うん。ごきげんよう。そなたたち、顔に見覚えがある気がする。どこかで会ったことがあったろうか」
 
「さあどうでしょぅか。世の中には似た人が3人は居ると申しますし」
「確かに」
 
エイリーナとフィービーは結婚式をあげるためにドレスを着ている。フィービーは赤、エイリーナは黄色のドレスである(*91).
 

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ダブレット姿のギャニミード(ロザリンド)はカメラの近くまで寄ってきて
「(男声で)皆様、しばしお待ちください。要点を急ぎ確認したいと思います(*90)」
と言う。
 
「(公爵に)公爵様。ここにロザリンド様が現れたら、オーランド殿との結婚を認めてくださるということでよろしかったですね?」
とギャニミード(ロザリンド)。
 
「もちろん。可能な限りの持参金も付けて」
と公爵。
 
「(オーランドに)で、あなたはロザリンドが来たら結婚する?」
「もちろん。それで何かの責任が生じたとしても」
とオーランド。
 
「(フィービーに)もしあなたはぼくがそう望めばぼくと結婚する?」
「もちろん。1時間後に死ぬことになったとしても」
とフィービー。
「でもあなたが自分からぼくとの結婚をあきらめたらシルヴィアスと結婚する?」
「まあそれでもいいよ」
 
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「(シルヴィアスに)あなたは、フィービーが望めば彼女と結婚する?」
「はい。たとえ死んでも」
とシルヴィアス。
 

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ギャニミード(ロザリンド)は画面中央に立って言った。
 
「私はこれらのことを全て解決すると約束しました。公爵はロザリンド様とオーランド殿の結婚を認めて下さい。オーランド殿はロザリンド様と結婚して下さい。フィービーはぼくと結婚するか、それを自分で諦めた場合はシルヴィアスと結婚して。シルヴィアスはフィービーと結婚して」
 
そしてギャニミード(ロザリンド)は言った。
 
「ではここにロザリンド様を連れて参りましょう」
 
(ここまでは男声を使用している)
 

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(*90) 原文は Patience once more, whiles our compact is urged: である。compactはまとめること。それがurged 緊急に必要とされる、ということで、ここでは「要点を急ぎ確認する」と意訳した。
 

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(*91) 婚礼の時の女性の衣裳は伝統的には白だったが、中世から近世に掛けては様々な華やかな色のドレスが好まれた。しかし1840年に結婚したヴィクトリア女王が結婚式で白を着たので、再度白が流行して現在に至っている。
 
エリザベス朝の時代は、女性を嫁がせる家はその財力を示すため創意工夫した様々なドレスを用意し、金銀宝石を鏤めたりもした。
 
フィービーはわりと裕福そうなので赤を着たことにした。婚礼衣装に白を使うのはそれがフォーマルとしても転用できるからで、それ以外の色は婚礼専用になるので財力のある人にしか用意できない。当時赤の染料として(有毒なもの以外では)は、紅花や茜(あかね)があったが、紅花は高価なので、恐らくフィービーなら茜染めか。
 
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シーリアはもっと豪華なドレスも用意できるだろうが、田舎娘を装っているので、田舎にしては充分贅沢な黄色にした。黄色の染料としては、超高価なサフランのほか、サフランの代用品としてよく使われるターメリック(鬱金“うこん”)、ヨーロッパでは一般的であったレゼダ・ルテオラ(Reseda luteola)などがある。サフランやターメリックの染め物は聖職者の服というイメージがあるので、シーリアがもし黄色いドレスを着たならレゼダ・ルテオラ染めを使ったと思われる。
 
レゼダ・ルテオラは日本名“穂先木犀草”。香りが金木犀(きんもくせい)などと似ているためこう呼ぶが木犀とは無関係である。金木犀やオリーブはキク類シソ目、レゼダ・ルテオラなどのモクセイソウはバラ類アブラナ目である。
 
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この花は染料として使うためにヨーロッパでは大量に栽培されていたが、アジアでは黄色の染料は藤黄(洋名ガンボジ gamboge)や黄檗(きはだ)が使われており、レゼダ・ルテオラは、知られていなかった。yellow weed (直訳すると“黄草”)という通称もある。
 
天然には緑色に染める染料が存在しないため(緑色の葉っぱで染めても緑色にはならない)、緑色の服も昔は藍などで青く染めてから、レゼダ・ルテオラなどで黄色を乗せて緑色にしていた。
 

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ロザリンドは画面中央に立つと、まず髪を留めていたピンを外し、服の中に隠していた長い髪を露出させる。髪は腰付近まである(*93).
 
「え?」
という声。
 
介添役の少女Aが渡してくれたお酒を染み込ませた布で顔を拭くと、りりしく太い眉は細い眉に変わり、顔もやや白くなる。
 
「お前は!」
と公爵。
「やっと女に戻ったか」
とオーランド。
 
介添役の少女Bがロザリンドの背後に寄って背中の糸を1本切ると、ダブレットが左右に別れるのでそれを介添役の少女2人(水谷姉妹)が左右に引っ張って脱がせる。ロザリンドはその下に目が醒めるような青いドレス(*92) を着ていた。
 
「え〜〜〜!?」
とあちこちから声があがる。
 
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介添役の少女たちがロザリンドのズボンも脱がせる。靴もブルーの婦人靴に履き替える。
 
「うっそー!?」
とフィービーが声をあげた。
 
「お前がロザリンドだったのか!?」
と公爵。
 
「(女声で)リアも顔を拭きなよ」
とロザリンドが言うとシーリアのそばに付いている介添役の少女(松島ふうか)が、さっきロザリンドが使ったのと同じ、お酒を染み込ませた布をシーリアに渡し、シーリアはそれで顔を拭く。日焼けしたような肌に見えていたのが、真っ白な肌に変わる。
 
「お前はシーリアではないか!」
と公爵。
 
オリバーも驚いている。
 
ロザリンドはフィービーに言った。
「(女声で)ごめんね。私、女の子だったの」
 
ここでアクアは挿入歌『ごめんね。私女の子だったの』(夢倉香緒梨作詞作曲)を歌った。
 
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(*92) 青い服は安価なものは藍で染めるが、ここは主役の婚礼衣装ということからアズライト彩色という設定にして、実際にアズライトで彩色したものを撮影でも使用した。
 
ウルトラマリン(“海を越えて運ばれてきたもの”という意味)と呼ばれるラピスラズリだと、1gが等量の金より高い1万円くらい(今のお金にして)だが、昔から代用品として使用されてきたアズライトなら 1g=1000円 程度(同じく今のお金にして)で 1/10 くらいの予算で行けた。さすがにウルトラマリンを使っていいのは王妃・王女クラスであり、公爵の娘がそんな超絶高価なドレスを着るのは顰蹙を買いかねない。
 
昔の絵画では青い部分の大半をマウンテンブルーで塗り、表面に少しだけ高価なウルトラマリンを載せるという手法もよく使われた。
 
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アズライトはブルーマラカイトとも言い、日本語では藍銅鉱(らんどうこう)と言う。“ブルーマラカイト”の名の通り、マラカイト(孔雀石)と混じって採れる鉱物である。比率的には藍銅鉱のほうがずっと少ないので孔雀石より高価である。また時間を置くと孔雀石に変化してしまうことがある。
 
孔雀石から作る顔料はマウンテン・グリーンと言うが、アズライトから作る顔料はマウンテン・ブルーと言う。15-17世紀には特にこのマウンテンブルーは好まれた。
 
クレオパトラはマウンテングリーンのアイシャドーが好きだったらしい。
 
“群青”とは元々はアズライトから作った絵の具を意味するが、後にもっと高価なウルトラマリンもこの名前で呼ばれることが多くなった。
 
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(*93) 原作ではここでいったんギャニミードとエイリーナが退場して、少ししてからロザリンドとシーリアが出てくる演出になっている。その間をタッチストーンとジェイクズの何やら哲学的?な会話でつなぐ。
 
しかし原作通りにやると、ギャニミードとロザリンドが同一人物であること、エイリーナとシーリアが同一人物であることが(登場人物たちには)分かりにくい。
 
それでこの映画ではその場で、早変わりの要領で変装を解く演出にした。こういう演出をする劇団は存在するようである。シェイクスピアの時代にいったん退出させたのは、早変わりという技術が当時は無かったからかも知れない。日本の歌舞伎でも早変わりが行われるようになったのは18世紀ではないかといわれ、シェイクスピアの時代より100-150年ほど後である。
 
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歌が終わった所でロザリンドはあらためて公爵に尋ねた。以下、ロザリンドは女声で話す。
 
「公爵様、お久しゅうございます。ロザリンドが参上いたしました。私(わたくし)とオーランド殿の結婚を認めてくださいますか?」
「確かにお前は私(わたし)の娘だ。むろん結婚は認める」
 
「(オーランドに)君のロザリンドが来たよ。結婚してくれるよね?」
「もちろん」
 
「(フィービーに)私はどんな女とも結婚しません。相手が君でない限り。でも女同士の結婚は許されないから諦めて」
 
「分かった。諦める。(シルヴィアスに)今までごめんね。結婚しよう」
「うん。嬉しい」
 

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タッチストーン (Martin Grotzer) とオードリー(坂出モナ)が、公爵の3人の従者と一緒にやってくる。タッチストーンは金と銀の菱模様の服、オードリーは金と銀のハート模様が鏤められたドレスである。
 
ふざけた服だが、この日揃ったカップルの中では最も高価な服だったりして?無駄な形でお金を掛けるのがさすが道化である(*94).
 
「あんたたち、遅刻ー!」
とロザリンドが言う。
 
「すまんすまん。こいつらを性転換させていたら手間取った」
「はあ?」
 
3人の従者は白いロングスカートの女の服を着て、髪飾りなども付けている。お化粧までしている。
 
ジェイクズが言った。
「これは大洪水の前触れか?ノアの方舟(はこぶね)に乗るために次々と“つがい”が集まってくるようだ」
 
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「皆様、ごきけんよう」
とタッチストーンはあらためて全員に挨拶した。
 
「あんたたちもここで一緒に結婚式をあげなさい」
とロザリンド。
「もちろんそのつもりでやってきた」
とタッチストーン。
 
(実際一昨日ロザリンドに呼ばれたのはこの日の結婚式の打合せであった)
 

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(*94) タッチストーンとオードリーの服に使用された金銀の金属箔は、実際には金色は黄銅(真鍮:しんちゅう)、銀色は洋銀 (Cupronickel) を使用している。この時代にはまだアルミは使用されていない。アルミニウムが発見されたのは1825年である。
 
洋銀はこの時代は東洋からの輸入品だったのでやや高価である。ドイツで製造法が知られて "German silver" あるいは "Alpaka" の名前で大規模に生産されるようになるのは19世紀である。
 
しかしこの服は金属箔をその形に切って貼り付けているので、制作にものすごく手間が掛かっている。しかも耐久性が無い。練習の時は2人とも白い服に黄色とグレイの塗料をプリントした服を着た。
 
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練習の時はロザリンドも合成染料で青く染めたドレスを着ている。
 
一応タッチストーン用・オードリー用を2着ずつ制作したのだが、このラストの結婚式シーンで万一2回以上NGになると困るところだった。しかし幸いにも一発OKになったので衣裳スタッフはホッとした。結局使わなかった予備の服は後日郷愁村の“お気に召すまま村”に展示された。
 

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