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■夏の日の想い出・点と線(3)

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「よくない」
と若葉は言った。
 
8月末のアクアライブが行われた翌日のことであった。
 
「どうしたの?」
「アクアが小さすぎる」
「へ?」
 
「昨日のライブで私最後尾の席からステージを見てみたけど、全然見えないじゃん」
と若葉。
 
「多くの観客が双眼鏡持ってたね」
となぜかここに居るキャロル前田。
 
彼(彼女?)は一般枠で運良くチケットを確保してライブを見たらしい。彼なら直接アクアかコスモスに頼めば関係者枠で取れたろうに。ちなみに彼は今日は珍しくスカート姿である。去勢していることを公表した後、一時はテレビなどから消えていた彼も、バラエティ番組などへの出演を軸に美事に復活。かつての“美少年アイドル”時代ほどのファンは居ないものの、3000人クラスのライブ会場なら満杯にできるまで復活してきた。ロックミュージシャンとしての評価は比較的高い。海外のメディアに "Japanese Jayne County" と紹介されたことがあるが、本人は「そんな凄い人と比較しないで」と恥ずかしがっていた。もっとも彼は Jayne County (元Wayne County) とは違い、まだ?性転換手術はしていない。たぶん。
 
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彼はテレビに出る時は一時期は女装が多かったものの最近は逆に男装が多くなっており、性別意識が揺れているのかな?と私は思っている。ライブではだいたい前半女装・後半男装で登場するのがお約束になっている。ちなみに放送局のトイレは「男子トイレ使ったら苦情が来たので」と言って女子トイレを使用しているらしい。また下着は女物しか持っていないという話だった。バストは本物で、去勢していることを公表した頃から女性ホルモンを積極的に飲み始めて、現在Cカップらしい。
 

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「実際、双眼鏡が用意していた1万個、完売しました」
と原田友恵が言う。
 
「20種類くらいの双眼鏡をテストした上で、ちゃんとステージ上のアクアの表情まで確認できて、視野が明るく、比較的手ぶれしにくい双眼鏡を用意して売ったので、かなり好評でした。私は1000個も用意すればいいのではと思ったのですが、山村さんが余ったら自分が買い取るから1万個用意してと言ったんですよ。メーカーは特需です。持参の双眼鏡では見えないと思った人たちが、会場で用意した双眼鏡を試してみて「これなら見える」と言って買ってくれたんです。おかげでそれだけで6000万円の売上げです」
と原田。
 
「ボクも買ったけど、目立たない所にアクアのロゴマーク(波模様)を入れたのが良かったね」
とキャロル前田。
 
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「たぶんアクアのロゴマークが入っているので買った人もいるだろうね」
と私は言う。
 
「でもキャロルさんがおっしゃるように目立たない所に入れたのが良かったみたいです。あれなら、他のアーティストのライブに持って行ってもいいから」
と原田。
 
「まあそういう訳でシアターは改造しようと思う」
と若葉は言った。
 
「え〜〜!?」
 

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「どう改造するの?」
と私は訊いた。
 
「ステージはシアターとアリーナの中間に置く。それに合わせてシアターのスロープを逆向きにする。つまり180度回転させる」
 
「それって作り直しなのでは?」
「単に回転させるだけだよ。播磨工務店さんに見積もり取ったらほんの10億円程度ででできると言われたよ」
 
「10億円が“ほんの”なのか」
とキャロル前田も呆れている。
 
「それとシアターの音響に不満があったのよね」
と若葉は言う。
「PAの白金さんに訊いてみたら、やはり末広がりの形が良くないというからさ、長方形に変更する」
 
「待って、末広がりの形って音響に良くないんだっけ?」
と私は焦って尋ねた。
 
「音響設計では常識だと白金さんは言ってたよ。斜めに広がる形は音が複雑に反射するから、結果的に壁の反射を布などを垂らして吸収しないとまともな音にならないって」
 
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「私、末広がりの形がいちばん音響にいいと思ってた!」
と私は言った。
 
「音響的に理想なのは、シューズボックス型といって、天井の高さも、左右の壁の幅も14mのものなんだって。音が天井と床、あるいは左右の壁を往復するのに掛かる時間が 28m÷340m/秒 = 0.08秒になって、この音の反射が作る残響が凄く耳心地がいいらしい。でもこれでは大きな観客を入れることができないから、様々な形の大会場が生まれたと。末広がりの形は演劇をするにはいいらしいのよ。多くの人が間近でステージ見られるから。だからアクアのライブには良かったのかもね。長方形の会場なら、音の反射が規則的だから、ずっと音響の処理がしやすい。一番酷いのは楕円形とか波形の壁を持つ会場で設計者を殴りたくなると言っていた。音が聞こえないポイントが大量に発生するらしい」
 
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「私、白金さんに殴られるかも!」
と私は言った。
 

若葉は速攻で(Muse-3に計算させて)構造設計書を作り、小浜市側に打診した。市側は驚いたものの、費用は全て若葉が出すので市の腹は痛まないし、シアターは巨大ライブ以外では使い道がない。アリーナの方は普通に中高生などの部活で使えるということであったので、短期間で承認してくれた。
 
そういう訳で、9月下旬から播磨工務店の手により、ミューズシアターの改造が始まってしまったのである。そしてこの夏アクアのライブが行われた会場は1回使われただけで姿を変えることになった。
 
播磨工務店は金沢で青葉が作るスポーツセンターの工事も手がけているのだが、そちらは本格的な建設に入るのは11月頃だという。それで播磨工務店はその前にこちらの改造工事をするということであった。私は本当に年末のライブに間に合うのか?と心配したが、播磨工務店の南田社長は絶対に11月末までには完成させると言ったので、私と加藤課長はそれができるという前提で、ローズ+リリーのカウントダウンのチケットを販売することにした。
 
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そしてステージがシアターとアリーナの間に設置されるということは、8月中旬に話し合った内容がひっくり返ってしまったのである。
 
「普通に7万人入れていいよね?」
「シアター席とアリーナ席ということで募集しましょう。シアター側は座って聴いてもらう。アリーナは総立ち」
 
「前後に観客入れる方式は、一度大宮アリーナでやってるから大丈夫だよね?」
と加藤さんが訊いたが
 
「普通のライブとちょっと勝手が違いますけど、カウントダウンはそもそも特別だから問題ないと思います」
と七星さんも言った。
 
なお、両者には少しだけ値段差を付けることにし、シアター席は9350円、アリーナ席は8800円ということにした。少し良い座席に座れるということでの値段差である。また立ちたい人はアリーナ側で申し込んで欲しいと広報することにした。
 
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2019年9月28日(土)夕方。
 
私はネットで“究極の自爆営業”という言葉がキーワードとして急上昇しているのに気付き、何だろうと思い見ていて、青葉が7億円でスポーツセンターを建てかけで放置されていた土地を買ってしまったことを知り、その動画を見て唖然とした。私はすぐ青葉に電話した。
 
「体育館建てるよね?」
「まだ何も考えてないので、これからですが」
 
「体育館建ててさ1万人クラスのライブができるようにしようよ」
「1万人ですか?」
「金沢も富山も大きな箱がなくて、全国ツアーやる時にいつもネックになっていたんだよね。建設費半分、私が出していいからさ」
「半分ですか・・・」
 
「もう売買契約はしたの?」
「9月30日、消費税が上がる前に契約する予定です」
「何なら前金で50億円くらい送ろうか?」
「いえ、設計とか見積もりとかができてからで」
「7億円は払える?」
「はい、そのくらいは大丈夫です」
 
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実際青葉は予定通り9月30日に所有していた銀行との売買契約を済ませた。既に構造設計書その他もできていると聞いて驚いたが、千里2がMuse-3を使って作成させたらしい。最終的な設計書の監修は大手ゼネコンのベテランの設計士にしてもらったらしいが、千里も色々コネを持っているようだ。
 
10月16日に起工式をするというので驚く。早々に着工するようである。何でも青葉が“すぐ使う”暫定プールは11月上旬には完成。春までには体育館も完成予定という。体育館の横には若葉が郷愁村に続く第2の
アクアリゾートを建設するということだった。これもきっと来年の夏までに作ってしまうのだろう。
 
起工式には私も行きたかったが、アルバム制作中で厳しい。するとちょうど来ていた、麻央が
「私が代わりに行って来ようか」
と言った。
 
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「臨月なのに大丈夫?」
「平気平気。万一飛び出して来たら、新幹線生まれの子になるかもね」
 
私は念のため女性看護師さんに付いていってもらうことにした。
 
実際にはこの直前に襲来した台風19号により北陸新幹線は車両基地に停まっていた車両が10編成(全編成の3分の1)も廃車になるなど多大な被害を受け、取り敢えず10月15日は北陸新幹線の運行は無かった。そのため、麻央は若葉の名代で起工式に出席する永井麻衣(若葉や和実が以前勤めていたエヴォンのオーナー永井龍昭の奥さん)及び私が付けた看護師さんと3人で、米原経由で金沢まで行った(さすがに臨月の妊婦を気圧変動する飛行機には乗せたくない)。
 
それで行ってみると、計画は更に拡大していて、室内テニスコート、室内グラウンド・ゴルフ場まで作ることになったらしい。私はこの計画は更に拡大して室内陸上競技場とか、室内スケートリンクとか、ひょっとしてドーム球場とかまでできるのでは?という気がした。
 
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何しろ若葉という、お金が余って困っている人が関わっている!
 

千里1は9月の中旬からお遍路に行っていたのだが、10月19日に完了して、20日には高岡の桃香の実家に報告に行った。ここにしばらく桃香が滞在していたのである。千里1はそのまま月末まで高岡に居たのだが、そこを10月21日、多忙な若葉が訪問した。
 
「ね、ね、千里ちゃん、温泉が出そうな所を探してくれない?」
 
若葉は青葉が買った土地にプールとスパから成る“アクアリゾート”を作る予定なのだが、スパは川の水を取水したものを温めて使用する予定である。つまりただのお風呂である。これを温泉にできないかと若葉は考えたのである。
 
それで若葉が千里を連れて建設予定地に行く。青葉も一緒に付いてきたのだが、3人で歩き回っていて、千里(千里1)は、敷地内のある1点を指さした。
 
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「ここに水脈があるよ。温泉かどうかは分からない」
と言った。
 
「よし掘ってみよう」
 
それで若葉はすぐに試掘許可を取り、11月に実際に試掘をした所、本当にそこから温泉が出たのである。温泉が出たという報せに近隣の他の温泉が緊張した。しかし泉質が他の温泉とは違うものだったので、別の温泉源を掘り当てたようだということで、周囲の温泉はホッとした(ダジャレではない)。
 
しかしそれでも客を取られるのでは?という懸念を持っていたようなので、若葉は元々ここを所有していた銀行を通して話し合い、周囲の温泉と協調するため、津幡アクアリゾートへの資本参加、あるいは共通入浴券の設定などを打診した。その結果、1社が資本参加の意向を表明し、運営会社の3%の株(300万円)を持つことになった。また共通券は価格の問題で難しいものの、お互いに優待券を発行すること、同温泉が津幡アクアリゾートの“奥の湯”を称することで合意した。また他の温泉ともその温泉を通して話し合いを続けたところ、“津幡温泉リーグ”を組み、スタンプラリーなどを設定し、各温泉のポスターを津幡アクアリゾートに張り出すことなどで合意した。
 
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さて、臨月なのに金沢まで往復して起工式に出席してきた麻央は、実際には11月11日(月)に女の子を出産、柚と名付けられた。麻央と佐野君の間の第一子である。佐野君が物凄い喜びようであった。
 

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それより少し前の10月27日(日)、青島リンナと百道大輔は“別々に”報道機関にFAXを送り、離婚すること、子供の夏絵(2018.8.3生)は百道が引き取ること、を発表した。離婚の理由は性格の不一致ということであった。夏絵は実際には百道のお母さんが育てるようである。まだ1歳になったばかりの子供を父親が引き取るというのは珍しいケースだが、百道は「とてもじゃないが、あいつには任せられん」と言い、リンナは「私には子育ては無理」と言ったので、何となく状況は想像できた。確かに芸術家気質のリンナは音楽に夢中になっていたら、子供に御飯をあげるのも忘れそうである(ある意味マリに似ている。マリが子育てしたら、間違い無く、あやめは餓死する)。
 
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夏の日の想い出・点と線(3)

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