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■夏の日の想い出・点と線(1)

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(C) Eriki Kawaguchi 2020-01-05
 
KARIONのレコード会社の担当は、初期の頃は不定で、様々な人に担当してもらっていたのを、2008.07に山村美喜さんが固定担当になる(専任ではない)。彼女は私たちの良き理解者で、この時代は円満な制作が出来ていた。
 
しかし彼女が2011年6月に退職した後、担当になった滝口史苑さんとは完全に対立した。彼女のやり方に納得できないと言って、小風が脱退届を書いて、それをみんなでなだめたほどであった。結局滝口さんの方針で作ったCDが悲惨な売れ行きでファンからも非難囂々であったことから彼女は妥協し、CD制作についてはこちらの意見を入れてくれるようになったが、結果的には、KARIONは自主制作に近い状態になり、レコード会社の支援が無いに等しい状態になる。
 
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滝口さんは2014年7月に村上専務(当時)直属の戦略的音楽開発室の室長に転じ、KARIONの担当は滝口さんの後輩・土居有華さんになる。彼女は滝口さんよりは随分マシで、KARIONの世界を理解はしないものの受容してくれたので、私たちも随分活動しやすくなった。滝口さんとは挨拶もしなかった小風が土居さんとは割と話していた。しかしこちらとしてはやはり色々不満があった。
 
今年6月の株主総会でのクーデターで村上社長や佐田副社長の一派が経営陣から排除され、その派閥から大量の退職者が出た。滝口さんや土居さんは村上社長の派閥に属するので一緒に退職して新設のMMレコードに移籍した。それでKARIONの担当が空席になったので、一時的に今里蓮枝さんの担当ということになるものの、制作部は大量の退職者が出たののフォローに追われており、ほとんど名前だけであった。2019年10月にリリースしたアルバム『天体観測』なども、実際問題として発売記者会見に同席してくれただけ程度の関わりである。
 
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それが社内が落ち着き始めた2019年11月になって、やっとKARIONの新担当が決まったのである。それが鷲尾海帆さんであった。
 

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実は鷲尾さんは、KARIONのデビュー記者会見に同席してくれた人である。初期の頃の制作現場にも結構顔を出してくれて、KARIONの路線が固まっていく過程にも関与している。
 
彼女はその後多数のシンガーソングライターの制作に関わった後、関連会社に出向していたのだが、今回の経営陣交代に伴う大量退職者の穴埋め要員として本社に呼び戻された。その彼女が11月中旬になってからKARIONの新担当になることが決まったのであった。
 

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鷲尾さんは私たち4人とゆっくり話したいと言った。
 
しかし私はローズ+リリーのアルバム『十二月』の制作で手一杯で“KARIONの頭に切り換える”のは無理だった。いったんそちらに切り替えるとローズ+リリーの頭に戻すのに数日かかり、制作に支障がでる。半日打ち合わせるので半日の時間を空ければいいという問題ではないのである(音楽と無関係のことをするのは問題無いので§§ミュージックの経営については日々コスモスと話をしている)。
 
和泉はアクアの制作で多忙である。アクアの名目上のプロデューサーは青葉で、和泉はディレクターの肩書きなのだが、実際には青葉は富山県に住んでいて、しかも現在オリンピックの代表候補になっているので大会とか合宿とかで多大な時間が取られており、とても余裕が無い。それで実際には和泉がアクアに関する全ての指揮をしている。
 
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そして美空は最近ずっとゴールデンシックスに入り浸りである。ゴールデンシックスはローズ+リリーと“ツアー日程”を交換したので、11月23日から12月29日まで全国ツアーをやり、その後年末は単独のカウントダウンライブもすることになっている。更にはアルバム制作の予定もある。それで美空は年明けまでは全く時間が取れないのである
 
そういう訳で、他の3人が全く手が空かないので、鷲尾さんは小風と話し合った。小風は、8年ぶりにまともな担当者になったと言って喜んだ。しかし鷲尾さんは小風から現在のKARIONの各メンバーの状況を聞き、どうしたものかと腕を組み、目を瞑って考え込んだ。
 

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その日和実はメイドカフェ連合の寄り合いで京都に出かけた。東京のエヴォン、盛岡のショコラ、京都のマベルの各々のオーナーは△△△大学の西洋貴族史講座の先輩後輩で、仙台クレールを設立した和実も(専攻は違うが)△△△大学の出身である。この4つのメイド喫茶はお互いに資本関係は無いものの、風俗店営業ではなく飲食店営業にすること、アルコールは置かないこと、価格を店外に大きな字で表示すること、などポリシーも共通だし、メイドの地位を表すリボンの色も同じである。また、コーヒー豆や器具などの仕入れを共同(ほぼペーパーカンパニーの“ノブリス”という会社を通している)でおこなっており、忙しい時はお互いにメイドの派遣などもしている。そして不定期にどこかにオーナーが集まって会合(親睦会)をしており、今回は京都で行った。
 
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スタッフ交流は、若葉が作ったムーランとの間でも行われており(ムーランの中華料理店で漢服を着るのが楽しみというエヴォンのメイドも居る)、ムーランは実はコーヒー豆をノブリスから仕入れていて、ノブリスの営業成績に大きな寄与をしているのだが、ムーランは巨大資本なので、若葉はこの手の会合への出席を遠慮している。
 
和実は正直に現在の苦境を語ったが
「まあどうしても客が来なかったら、仙台市街地に引っ越せばいい」
と言われて、確かに最後はそういう手段もあるよなと思うと少し気が楽になった。
 
エヴォンだって最初は銀座に作った店が全然客が来なくて神田に移転して成功している(現在は銀座店も復活している)。ショコラも1度移転しており現在のお店は和実が高校時代に勤めていた雑居ビルの2階にあったお店とは違う場所にある。もっと客が来そうな!場所の1階で営業している。
 
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マベルを出てから永井(エヴォン)・神田(ショコラ)と別れ、京都の町を歩いていたら、4-5歳のスカートを穿いた男の子を連れた40歳くらいの女性が居た。スカートを穿いていても男の子だというのがすぐ分かったのは、やはり和実が女装者やMTFの知り合いが多いからである。雰囲気的にも男の子なのできっと単純に普通の服としてスカートを穿いているだけで、女性志向のある子ではないと見た。
 
しかしそれ以上に、和実は2人の関係の判断に迷った。孫かとも思ったがそれにしては女性が若すぎるので、むしろ母子かもと考える。高齢出産だろうか?
 
その子供が持っていた風船を飛ばしてしまったようで、街路樹に引っかかっている。それを取ってと言っているものの、女性が手を伸ばしても紐の端に届かないようである。
 
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「お姉ちゃんが取ってあげるよ」
と和実は言うと、少し屈伸運動をしてから、軽く助走して思いっきりジャンプ。紐の端を指で掴んだ。離さないよう指に力を入れたまま着地する。
 
「はい。どうぞ、坊や」
と言って風船を渡す。
 
「ありがとう!」
と言って嬉しそうに男の子は風船を受け取った。
 
「でもお姉さんはボクを女の子と間違わなかったね」
「そりゃ見れば分かるよ」
「男の子がスカート穿いちゃいけないのかなぁ」
「そんなことないよ。好きな服を着ればいいんだよ」
 
「そうだよね。あ、お姉さん、風船取ってくれたお礼に当たる宝くじを教えてあげる。今すぐ南座前の宝くじ売場に行って年末ジャンボを三連バラで買うと当たるよ」
 
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「そう?ありがとう」
 

和実はその母子?と別れてから、何となく気になったので実際に南座まで行ってみた。確かに宝くじ売場があるが、偶然にも誰も並んでいなかった。三連何とかと言っていたなと思い、窓口に行き
 
「歳末ジャンボありますか?」
と尋ねる。
「はい、年末ジャンボですね。今日からなんですよ」
「三連なんとかってあります?」
「はい、三連バラですね。バラなんだけど各々が3連だから運がいいと1等前後賞が狙えるんですよ」
「じゃそれで」
「はい、9000円です」
 
9000円もするのか!と思った(和実は宝くじを買ったことがない)が、ちゃんと男の子が言った通りの買い方をしないと当たらない気がしたのでそれで1万円札を出し、宝くじの袋とお釣りの1000円をもらった。
 
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その後タクシーで京都駅まで行き、お土産に“おたべさん”を買った。それで新幹線の切符を買おうとしていたら
 
「和実!」
と声を掛ける人がある。見るとローズ+リリーの冬子だった。
 
「お疲れ〜。ライブか何かあったんだっけ?」
「年末のカウントダウンを小浜でするから、下見に行ってきたんだよ」
「ああ!」
「京都から車で往復したから」
「小浜って京都府だったっけ?」
「よく間違えられるけど福井県。隣の舞鶴市は京都府だよ」
「ああ、そのあたりの地理が怪しい」
 
昨年はマベルがカウントダウンに出店したのでクレールからも数人メイドが応援に行ったのだが、和実は現地を確認していなかった。今年もマベルは出店予定で、昨年同様クレールからも3人応援に行くことになっている。
 
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冬子がグリーン券をおごってくれたので、一緒にグリーン席に座って東京までおしゃべりした。
 
「あれ?それは宝くじ?」
「そうなんだよね。実はさ」
 
と言って、和実は木に引っかかっていた風船を取ってあげたら男の子が当たる宝くじを教えてあげると言ったので、何となく気になったから買ってみたと語る。
 
「それって本当に当たるかもよ」
「当たるといいね」
 
と言って和実は中を開けてみた。
 
「なるほどー。こういう仕組みになっているのか」
と和実も冬子も“三連”の仕組みを実物を見て理解した。
 
30枚の籤券は、下一桁は0-9が3回繰り返されているのだが、各々が連番になっているのである。
 
27-242380 27-242381 27-242382
39-153891 39-153892 39-153893
63-171392 63-171393 63-171394
(中略)
98-368249 98-368250 98-368251
 
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「これなら末等の300円は必ず3枚当たって900円は戻って来るし、1等が当たった場合、ひょっとすると前後賞も一緒に当たる可能性がある訳だ」
 
「面白いセットを考えたもんだね」
「うん。バラのセットは前後賞は放棄して10倍楽しむものと思ってたけど、これなら10倍楽しんだ上で前後賞も狙えるわけか」
 
「でもこういう発券の仕方って、コンピュータが無きゃ無理だよね」
「うん。人手でこういう揃え方をするのは絶対無理」
 
「なんかコンピュータ前提のものってのが増えたよね」
 

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「だけど、その男の子のそばに付いていた女性の関係に少し悩んじゃって」
と和実は、その女性が母親なのか祖母なのか悩んだことを言う。
 
「無関係の人だったりして」
「え〜〜!?」
 
(冬子は図らずしも正解を言っている)
 
「『点と線』って知らない?」
「ああ、トリックだけは聞いたことある」
 
「松本清張の名作だよね。ポイントは2つ。ひとつは東京駅の13番ホームにいた目撃者が、15番ホームに停まっていた夜行特急に乗り込む2人の男女を見たというもの。当時の時刻表では、東京駅の13番ホームから15番ホームを見通せるのは4分間しか無かったというもの」
 
「それって日本の国鉄でなきゃ絶対成り立たないトリックだよね」
「そうそう。秒単位で正確に運行される日本の鉄道だから成り立つ。外国じゃ無理」
 
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「もうひとつ。これがタイトルの由来にもなっているんだけど、捜査していた刑事さんが休憩するのにスナックに入っていったら、ちょうど前後してお店に入ってきた女性客と、連れと誤解されたっての」
 
「そこから心中遺体と思われたのが違うのではということに気付くんだったね」
「うん。男女の遺体が並んでいたら、多くの人が心中だろうと思ってしまう」
「一種のゲシュタルトだよね」
「点が2つ並んでいたら、人間は心理的にその間に線を引いてしまう。これがタイトルの意味だったんだよね」
 
「推理小説ファンの某作曲家(実は東郷誠一)さんが、松本清張の作品ではこの『点と線』ともうひとつ『時間の習俗』が凄いと言っていたよ」
 
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「そちらは男女が入れ替わる奴だった?」
「そう。身元不明の男性の遺体があって、一方では事件の鍵を握ると思われる謎の女性の行方が分からない」
 
「それも1960年代だから成り立ったトリックだよね」
「うん。今では女装男子なんて普通だからね。実際1980年代にドラマ化された時はその1番のトリック部分が軽く流されちゃってたらしいよ」
 
「まあ仕方ないね。芸術作品はその時代背景の束縛からは逃れられないものだよ」
と和実は言った。
 

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夏の日の想い出・点と線(1)

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