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■夏の日の想い出・やまと(19)

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私の姉一家や両親は1泊して翌14日に戻ったが、私は忙しいので千里と一緒に13日の最終便(北九州21:05-22:40羽田)で東京に戻った。千里に私は京平君に毎日会っていることについて訊いてみた。
 
「まあ現実的な解釈としては夢の中で会っているとでも思っておいて」
と千里は苦笑いしながら言った。
 
「千里の話はリアルとそうでないものとが交錯している」
「時々思うことある。私、そもそも生きているんだろうかってね」
 
私は少し考えてから言った。
 
「それを凄く強く不安がっていたのは和実だね。あの子、震災の時にたくさんの人と一緒に逃げていたのに、ふと振り返ると後ろに誰も居なかったって。つまり和実より後ろを走っていた人は、みんな津波に呑み込まれてしまった。それで彼女自身、本当に自分は助かったのか。実は自分も津波に呑み込まれて死んだのでは、ってかなり悩んでいたみたい」
 
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「うん。それを青葉が随分ヒーリングしていたね。あの子は凄く運が強いんだよ」
 
「それは言えてると思う」
 
「ところで昨夜は、チームと一緒に大分の方で泊まったの?」
「試合が終わった後、貴司たちが泊まっている博多に移動したから・・・・京平と一緒に寝たよ」
と千里はニヤって笑って言った。
 
「つまり・・・貴司さんと同じ部屋に泊まったんだ?」
「セックスはしないし、現在ある理由で、風俗レベルのサービスも停止中」
「あぁ・・・」
 
「だから昨夜は私と京平が同じベッドで寝て、貴司は床で寝たよ」
 
私は笑いをこらえることができなかった。
 

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11月23日(水)の夕方、司法修習もそろそろ最後の段階になっているはずの正望が突然来訪した。インターホンから声を掛けてきたので鍵を開けて中に入れる。
 
「どうしたの?突然」
「今夜は泊めてくれ」
「いいけど、私忙しいからセックスできないよ」
 
実はお正月に実施するローズ+リリーのツアーに合わせて、ツアー用のスコアを作成しているのである。一方で和泉からは「そちらのアルバム終わったら、こちらをよろしく」と言って6本作曲依頼が入っている。
 
「それは問題無い。こちらも試験中だからセックスとかしてられない。でも晩ご飯とか食べてもいい?」
 
「いいけど、自分で作って」
「OKOK」
 
そこで政子が「私が作ろうか?」と言い出すが、正望は過去に何度か政子の作った料理を食べて懲りているので「大丈夫、大丈夫。ぼくが政子ちゃんの分まで作ろうか?」と言う。
 
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「あ、じゃよろしくー」
と政子が言ったので、正望は大きな中華鍋に山盛りのスパゲティ・ミートソースを作り、それでふたりで夕食を取っていた。
 

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「でも正望さん、何かあったの?」
と政子が凄い勢いでスパゲティを食べながら訊く。
 
「今試験中なんだよ。でも明日の朝、雪で電車が停まりそうだから今夜は都内に泊めてもらおうと思って」
 
「あ、試験やってんだ?明日だけ?」
「明日は4日目。18日が検察、21日が民事弁護、昨日が民事裁判、明日が刑事弁護、25日が刑事裁判。5日間で終了。毎日朝9:30-17:50の長丁場」
「すごーい。私なら途中で眠りそう。何の試験なの?」
 
「司法修習生考試。通称“二回試験”。要するに司法修習生の卒業試験だよ。これに合格しないと、弁護士や裁判官にはなれない」
「へー。大変なんだね。それ落としたらどうなるの?」
「翌年再受験する」
「それでも落ちたら?」
「そのまた翌年再受験する」
「それでも落ちたら?」
「そんな人は法曹になる適性が無いんだと思うけど、実際3回落ちたらアウト。もう受験できない」
 
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「司法試験から受け直すの?」
「そういうことをした人は多分居ないとは思うけど、二回試験を三振している人は司法試験を再度受けても落とされるのではないかという説」
 
「確かにそういう人を合格させても無駄という気はするよ」
「でしょ?」
「じゃ頑張らなきゃ」
「うん。頑張る」
 

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それで正望はその晩も夜遅くまで勉強して0時頃寝たようであった。
 
翌24日朝は本当に雪が積もっていた。試験は9時半からということだったので、私は正望を7時に起こして御飯を食べさせ、お弁当も渡して、リーフに乗せ、和光市の司法研修所まで送っていった。カーナビは35分で着くという表示にはなっていたが、雪道で慎重に走ったので、50分ほど掛かり、現地に着いたのは8:20頃であった。
 
正望は車内でもずっと勉強していた。そして私にキスしてから「じゃ頑張ってくるね」と言って降りて行った。
 

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24日の夕方、ローキューツの愛沢国香主将、原口揚羽副主将、歌子薫アシスタントコーチ(選手兼任)の3人がうちに来た。
 
「ああ。国香ちゃん、結婚するんだ?」
「まだまだ自由にしていたいんですけどね〜。子供産むこと考えると、そろそろ、結婚しておかないとやばいかなと思って。それでうまく口説かれて、エンゲージリング受け取っちゃったんですよ」
と国香は言う。彼女は1989年度生まれなので、来年度は28歳になる。
 
「わあ、それはおめでとう!」
 
「それで1年しか主将を務めてないのに申し訳ないんですけど、3月いっぱいで退団させてもらおうと思って」
「相手はどこの人?」
「帯広出身なんですが、大学に入るのに東京に出てきたまま居座っているんですよ。本人も帯広に戻るつもりはないみたいだから、ずっと東京近辺にいるのなら結婚してもいいよ、と言いました」
「なるほど〜」
 
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「北海道に戻ると言ったら離婚です」
「ああ」
 
「まあ、それで私の後任の主将なんですけど」
と国香が言うので
「揚羽ちゃんの昇格でいいんでしょ?」
と私が言うと
 
「やはりほら、冬子さんもそういう意見だ」
と薫が言っている。
 
「やはり私なんですか〜?」
「揚羽ちゃん、主将時代にウィンターカップ準優勝してるし、インターハイ3回、ウィンターカップ2回、オールジャパン2回出場は物凄い成績。今週末の関東総合で優勝すれば3回目のオールジャパンだよ」
 
「そうそう。それ冬子さんからも言われてる」
と国香。
 
「うーん。。。結局私か」
「揚羽ちゃん、もっと自信持てばいいんだよ」
と私は言う。
 
「揚羽が主将なら、副主将は風谷翠花がいいかなと思っているのですが」
と薫。
 
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「ああ。いいんじゃない?揚羽ちゃんの妹の紫ちゃんが日本代表経験者で推す人もあるかも知れないけど、姉妹で主将・副主将というのは、揚羽ちゃんも紫ちゃんもやりにくいだろうし、主将がN高校出身で副主将はL女子高出身というのも、いいかもね」
 
「やはり、冬子さんはチームの状況をしっかり把握しておられる」
 
そういうことで、来季は国香が退団して、揚羽が主将に昇格することとなった。
 
「でもいいなあ。私は赤ちゃん産みたいから退団するという言い訳が使えない」
などと薫が言っている。
 
「薫はまだ10年は選手兼任でいいな」
と国香。
 
「でも最近、男の娘が子供を産んだ話を3件聞いているんだけど」
と私が言うと
 
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「嘘!?」
とみんな驚いていた。
 
3人というのは、千里、和実、桃川春美だが、フェイも入れたら4人になるなあ、と私は思っていた。
 

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正望は25日の夕方、二回試験の日程が終わると、またうちに寄った。
 
「試験終わったんだ?お疲れ様〜!」
と言って政子が歓迎する。
 
ちなみに私はKARIONのアルバム用の楽曲のまとめ、ローズ+リリーのツアー用のスコア調整などで大忙しなので
 
「ごめーん。何か適当に作って食べて」
と言って作業のほうを進める。
 
結局、政子が焼肉を食べたいなどというので、お肉を1kg解凍し、あり合わせの野菜を正望が切ってくれて、ホットプレートで焼き始める。正望は少し焼けると小皿に取って、私のワーキングデスクにも少し持って来てくれた。
 
「さんきゅ、さんきゅ」
 

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そんなことをしていたら、桃香が来訪する。
 
「千里と電話がつながらないんでここに来た」
などと言っている。
 
「どうかしたの?」
と私はCubaseと取っ組み合いながら彼女にも声を掛ける。
 
「首になった」
と桃香は言った。
 
「あぁ」
 
やはりね〜と私は思った。
 
「それどういう状況?」
と正望が尋ねる。
 
「産休が欲しいと言っただけなんだが」
と桃香がいうので、正望の顔が険しくなる。
 
「妊娠した女性が産休を取ろうとしたのに解雇するというのは、男女雇用機会均等法第九条3の違反で、その解雇は同条4により無効だよ。ぼくはまだ弁護士登録していないけど、先輩の弁護士さん紹介しようか?」
 
と正望は言うが
 
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「いや、何というか。売り言葉に買い言葉になったからなあ」
などと桃香はかえって恐縮している。
 
「最初課長は私が妊娠したからには結婚するものと思ったらしい。ところが私は結婚するつもりは無いからシングルマザーになるつもりだと言ったら、相手とは不倫か何かかと訊かれて、そんなこと話す必要無いでしょうとか、そのあたりから、だんだん喧嘩腰になってきて」
 
「ああ」
 
「私と課長が言い争いになっているのを係長が仲裁に入ってくれたんだけど、こちらも少し興奮していたもんで、ちょっとした言葉に切れてしまって、つい係長を殴ってしまって」
 
「殴った!?」
 
「何かもう会社に入って以来のいろんな不満を全部ぶちまけたら、そんなにうちの会社が気に入らないのなら、勤めてくれなくてもいい、ああこんな会社辞めます、というので、退職届その場で書いて、投げつけてきた」
 
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「うーん・・・・」
と正望が悩んでいる。
 
「どうする?弁護士さんに依頼してみる?」
と私は笑いをこらえながら桃香に訊いた。
 
「いや、正直あの会社は、女にはまともな仕事をくれないし、たまにくれても全く評価してくれないので、不満が大きかったんだよ。だから弁護士さん入れる必要は無いよ。愛想が尽きたから辞めることにするから」
 
と桃香は言った。
 
「最初の内は良かったんだけどね。凄くやりがいのある会社だと思った。でもそれ、私が男と誤認されていたからだったんだよね」
 
正望は吹き出しそうになってギリギリ我慢した。
 
「女と分かってからは、突然まともな仕事をさせてもらえなくなった。女性差別がここまであからさまな会社もないと思ったよ」
と桃香。
 
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「まあそういう会社は多いよ」
と私は言う。
 
「退職金はもらえた?」
と正望が訊く。
 
「自己都合退職ということで、規定通りに計算して今月分の給料と一緒に振り込むと言われた。概算で15万円くらいもらえるみたいだから、まあいいかなと。係長を殴ったことは、私もちゃんと謝ったけど、係長自身はこのくらい気にしないと言ってくれた」
 
「1年半勤めただけで、そんなに退職金くれるってのは、さすが大手だね」
と私は作業しながら言った。
 
「しかしどうせ辞めるなら、あと半月我慢して、ボーナスもらってからにすれば良かった」
と桃香。
 
「ああ。それはちょっともったいなかったね」
と政子。
 
正望は腕を組んだまま、まだ悩んでいた。
 
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桃香は結局夜中過ぎまでお酒を飲みながら、色々会社に対する不満を政子や正望相手に言い、正望も「そういう会社多いんだよねぇ」と言いながら、お酒にも付き合い、グチの聞き役に徹してくれていた。
 
むろん私はひたすらCubaseでスコアの調整をしていた!
 

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11月26-27日の土日。
 
この週末に行われるローキューツの関東総合選手権(武蔵野市)も気になったのだが、これは政子と、お目付役の琴絵に代わりに行ってもらい、私はアクアの次期CDの制作に参加した。
 
この週のアクアはドラマの撮影もなく、他の予定は動かせたので動かして、無理矢理この2日間を空けたものである。制作に参加するのは、アクア本人、バックバンドのエレメントガード(Gt.ヤコ B.エミ KB.ハル Dr.レイ)、サポートミュージシャンとしてサックスの長谷部広紀さん、フルートの黒浜由佳さん、ヴァイオリンの三谷幸司さん、といったメンツが来ていたが、このサポートの3人は全員私と顔見知りである。
 
「ピコちゃん、お久〜」
などと三谷さんは言っている。三谷さんと私は松原珠妃の初期のバックバンドメンバー仲間である(元々は三谷さんが珠妃の初代ヴァイオリニストだが、怪我したあと、私がしばらくその後任を務めた。それで私は珠妃の2代目ヴァイオリニストとしてカウントされている)。
 
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「醍醐先生は今日は川崎で試合があっているので、それが終わってから夕方くらいにいらっしゃるそうです」
とレコード会社の担当・鮫川さんが言っている。実際昨日は夕方から試合だったので桃香と連絡が付かなかったようである。今日は14時からの試合なので、夕方には解放されるらしい。
 
「じゃケイ先生の『モエレ山の一夜』から始めましょう」
と秋風コスモスが言い、作業は始まる。
 
スコアは下川工房のアレンジャーさんが編曲しており、それに沿って午前中いっぱい各自練習をし、お昼を経て、午後からそれを合わせてみることにする。
 
「それで、ケイ先生お願いがあるんですが」
とコスモスが言う。
 
「何だろう?この場でお願いって凄く恐いんだけど」
 
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しかも彼女は普段は私を「ケイちゃん」と呼ぶのに、今日は「ケイ先生」である(伴奏者の手前もあるのだろうが)。
 
「それが毛利先生がどうも三つ葉と山森水絵で手一杯みたいで」
「ああ」
 
これまでのアクアの制作にはいつも毛利五郎さんが来て、音楽面の統括をしていたのであるが、確かに今日は来ていない。
 
「売れてるアーティスト3つはさすがに無理だよね」
「今後アクアの制作体制をどうするか、実は悩んでいるんですよ」
「うーん・・・誰か手の空いてる人は居ないかなあ・・・」
「それで今回はケイ先生も醍醐先生も来られるみたいなので、今回の制作では、お二人に全体的な監修をお願いできないかと思って。むろんちゃんとその分の報酬は払いますので」
 
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「まあ、今回だけならいいよ」
「じゃお願いします」
「うん」
 
などという会話をしたのだが、後でアクアCD監修料ということで、私と千里に500万ずつ振り込まれてきたので、私も千里もびっくりした。
 

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夏の日の想い出・やまと(19)

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