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■夏の日の想い出・やまと(7)

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「桃香が私の精液で妊娠したことによって、私を母親とする子供だけではなく私を父親とする子供も生まれることになった。正直自分が父親になることが辛い」
と千里は涙を拭いてから言う。
 
「千里の卵子ってどうやって作ったの? 小学4年生の時に移植された卵巣が作ったもの?」
「それでは私の卵子にならない」
「確かに」
 
「私のIPS細胞から作ったものだよ」
「IPS細胞を卵子に変化させたわけ?」
「IPS細胞から卵巣・子宮・膣を育てて、それを私の身体に移植した」
「それいつしたのさ?」
「私が小学4年生の時に体細胞を採取されてIPS細胞が作られた。それを培養して卵巣・子宮・膣が一体のものとして作られて、中学1年の時に移植された。その時、小学4年の時に移植した卵巣は元の人に戻した。10歳半の時から育て始めているから、胎内にあった時間相当を差し引くと私の卵巣や子宮の年齢は私自身の年齢より11歳若い。京平を妊娠した時は26歳だったけど、卵巣や子宮はまだ15歳だった。妊娠を維持できる最低くらいの年齢だったんだよ」
 
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「・・・・」
 
「なんて話を信じる人はいないよね?」
と言って千里は笑う。
 
「私は中学生になった頃から女性ホルモンを注射や錠剤で摂っていた。そして高校1年の夏休みに性転換手術を受けた。これがもっとも常識的な私に関する物語。もっとも本当に性転換手術を受けにタイに行ったのは21歳の時2012年なんだけど、実際に私が手術を受けたのは15歳の時2006年なんだよね〜」
と千里はあらためてこれまで普通に語っていた方の話をする。
 
彼女は2007年以降女子選手として活動しているし、その前提として性別検査を受けて女性と判定されているので、2006年までには性転換手術を受けていないと、矛盾してしまう。
 
「いや、そういう常識的な話よりさっきの話の方を信じたい。でも26歳って、京平君の出産は去年の6月だから24歳では?」
 
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「私の1年は465日あるから」
「そんなこと言っていたね!」
 

「私と青葉と冬は生理があるけどさ」
「うん」
 
「生理があるということは、最低でも卵巣と子宮があるということなんだよ」
「まさか」
 
「だから青葉も妊娠可能だし、冬はそのうち、冬を母親とする子供を作ることになると思う」
 
「・・・・」
 
「私は自分を母親とする子供2人と、自分を父親とする子供1人ができるはず。青葉は彪志君との間に子供をひとり作る。和実は既に遺伝子上の母になったけど、あと1人産む。冬は冬を父親とする子供3人と、母親とする子供1人を作る」
 
「それ予言?」
 
千里はにこっと笑った。
 
「私今すごいこと言ったね」
 
「ああ。受信しちゃったのか」
「そうそう」
 
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「でも、私と千里と和実と青葉は子供産めるって、京平君妊娠中に、みんなで集まった時に奈緒だかも言ってたな」
「妊娠検査薬って凄いよね。私は本当にあの時期妊娠していたから」
 
「あの後、千里と和実が実際に子供産んだんだから奈緒も凄いね」」
 

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「冬は5年生の時にGIDと診断されて、女性ホルモンを処方してもらったとか言ってたけど、それ以前から女性ホルモンは摂ってるでしょ?」
 
と千里は料理に箸を付けながら私の方を見ずに訊いた。
 
「私の睾丸は元々遊走睾丸だったんだよ。でも自分でも意図的に体内に押し込んでおくことが多かった。それは『ついてない』状態にしておきたかったからなんだけど。結果的にはそれが睾丸の発達を遅らせたと思う」
 
「それは私もやってた。私は遊走睾丸ではなかったけど」
 
「あとね。これ他の人には言ったことないけど、実は、4年生の頃からあるルートで女性ホルモンを入手して飲んでいた。でもあまり大量には入手できなくて、それで声変わりの兆候が来たからやばいと思っていた所で、津田先生に出会って、それで正規の医療を受けることができたんだよ」
 
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「私たち、みんな運が良いよね」
と千里は言う。
 
「それは私も思う。20歳くらいになるまで何もできずにどんどん身体が男性化していくのを鬱憤とした気持ちで受け入れざるを得ない子が大半だよ」
 
「親がいちばん理解してくれないし、親と学校がタグを組んで本人を死ぬしかないところに追い込むケースも多い」
 
「それが私たちみたいな子のいちばんの問題なんだよね」
と私は厳しい顔で言った。
 

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「まあそういう訳で、桃香が妊娠に使用した精液は間違い無く、私の睾丸が生成した精液だよ。阿部子さんの卵子に受精させたものほど新鮮じゃないしパワーも弱いけどね」
 
と千里は最後に結論付けるように笑顔で言った。
 
「でも桃香、産休取れると思う?」
「無理でしょ。だいたい労働基準法で保証されている産休は出産予定日の6週前から出産日の8週後まで。前後半年も休ませてくれるのは学校の先生くらい。まあ桃香は会社クビになると思う」
 
「だろうなあ」
 
「でもいいよ。あの子、妊娠中でも無茶しかねないから、しばらくアパートでおとなしくさせておいた方がいいや」
 
「かもね〜」
「さすがに妊娠中は恋人作ったりしないだろうし」
「・・・・」
「どうしたの?」
 
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「千里さあ、どうしてそんなに浮気する人ばかり好きになるのさ?」
 
「私って、きっと、学習能力の無い、ダメ女なんだよ」
「あぁ・・・」
 
「私が万一貴司に愛想が尽きて別の男の恋人作っても、またそいつは浮気性ではないかという気がする」
「分かってるんなら、気をつけなよ〜」
「だよねぇ」
と千里は疲れたようなため息をついた。
 

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三つ葉のメジャーデビューCDは番組の進行より前倒ししたスケジュールで夏休み中に制作が進んでいたこともあり、9月7日(水)に発売されて、初動5万枚で、デイリーランキングおよび週間ランキング1位を取った。
 
他に有力なアーティストの発売が無いのを確認してこの日を選び、それに絶対に間に合うように制作作業を進めていた。実際翌週9月14日に発売されたCats Fiveの3枚目のシングルは18万枚を売ったにもかかわらず3位であった。
 
その日・週に1位を取ったのは10日にフェイが妊娠を発表したRainbow Flute Bandsの新曲で、フェイのことで話題になったため28万枚を売って同バンドとして初のプラチナディスクを達成した。デビューして3年目の初プラチナに、ファンの人たちは喜んでいたものの、実際にはメンバーは複雑な思いで、フェイはメンバー全員に謝ってまわっていたらしい。
 
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なお2位はまさに“伏兵”となったピューリーズで、19万枚を売り、彼女たちにとっては2009年以来7年ぶりのゴールドディスクとなった。
 
「しかしキャッツファイヴは、ここまで来るともう運が悪いとか、そういうレベルを超越している気がする」
「きっとキャッツファイヴは100万枚売っても1位は取れない」
 
などとネットでは書かれていた。
 
キャッツファイヴはデビュー曲は16万枚売ったのにローズ+リリー、福留彰、ラビット4に負けて4位。2枚目のシングルは20万枚売ったのにHanacle, 奈川サフィーに負けて3位であった。
 

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「不運続き」のキャッツファイヴに対して、セールスの枚数ではずっと下ではあるもののランキング1位を取って、順調に滑り出した三つ葉の場合、この“成功”に乗って、番組は10月からリニューアルされることが発表になった。
 
4月から放送開始された『スター発掘し隊』はオーディション番組をうたい、「街角からテレビへ」と「本格的女性歌手オーディション」という2つのオーディションを立ち上げたものの、前者は最初の数回の放送で行われたもののまるで成果が無く、5月中旬以降は後者のみの企画を進める番組になってしまい、「街角」コーナー自体が放送されなくなった。
 
新しい番組のタイトルは『3×3大作戦』である。
 
取り敢えずこの新番組では当面オーディションは行わない!
 
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出場者は
 
葉っぱチーム “三つ葉”シレン・コトリ・ヤマト
香炉チーム “スリファーズ” 春奈・彩夏・千秋
子猫チーム “信濃町シスターズ” 桜野みちる・品川ありさ・高崎ひろか
 
という3組で、彼女たちが様々なものにチャレンジして、チーム同士で競い合うというのが趣旨である。番組予告ではこの9人がひたすら走らされているシーンが映った。
 
なお、3人の名前は花山波歌(かやま・しれん)、月嶋優羽(つじま・ことり)、雪丘八島(すすぎ・やまと)というのが、あまりに難読すぎるので、番組上はカタカナで表記されるようになったようである。
 

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「信濃町シスターズってどういう意味ですか?」
と円香が“子猫チーム”のキャプテン・桜野みちるに尋ねる。
 
「うちの事務所が信濃町にあるので」
「なるほどー」
 
「最初は私は頭数に入ってなくて、品川ありさ・西宮ネオン・高崎ひろみ、というラインナップだったんですけど、《シスターズ》と言っておいて、男の子のネオンが入っているのはまずいのではということで、代わりに私が入りました。若い子が多い番組に、申し訳ないんですけど」
と桜野みちるは言っていた。
 
彼女は1994年生まれで、今年22歳になる。品川ありさと高崎ひろかは女子高生、スリファーズの3人は女子大生、三つ葉は中学〜高校である。
 
「男の子でも女装させたら問題ないんじゃない?」
と円香は言うが
 
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「契約の時『男の娘みたいな演出はしない』という約束をしているので」
「だったら、男の娘のアクアを出せばいいじゃん」
「済みません。アクアはスケジュールが鬼畜すぎて」
 
ここではアクアは男の娘ということにされているようだ。
 

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「そういえば、春奈ちゃんは男の娘だったという話でしたが」
と円香はとなりに並んでいるスリファーズの春奈にマイクを向ける。
 
「完全に女の子になりました」
と春奈は笑顔で言う。
 
「性転換手術したんだっけ?」
「それは4年前にしたんですけど、当時は未成年で性別を変更できなかったんですよ。今年の4月で20歳になったので、誕生日が過ぎたらすぐ性別の変更を申請しまして・・・」
 
「で、却下された?」
「申請は認められました。それで私は今年の5月24日付で法的にも女の子になりました」
 
春奈が笑顔でそう言うと、シレンが
 
「わあ、おめでとうございます!」
と言い、それにつられてコトリとヤマトも
「おめでとうございます!」
と言う。
 
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すると信濃町の三人娘も「おめでとうございます」と言って、場は春奈の性別変更を祝うムードになった。
 
しかし円香は
「女なんて大変なのに。よく女になりたいと思うなあ」
などと言っている。
 
「春奈ちゃんが放棄した****を私がもらいたかったな」
「すみませーん。もう4年前の手術なので」
「それどこかに保管してないの?」
「してません!ゴミ箱行きです」
「もったいない」
 
「でも女の子になりたい男の子はたくさんいるから、病院で頼んでおけば、もらえるかもですよ」
とスリファーズの千秋が言う。
 
「じゃ頼んでおこうかなあ。みちるちゃん、アクアはいつ性転換手術するの?」
と今度はアクアと同じ事務所の信濃町シスターズに訊いている。
 
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「本人はぼくは別に女の子になりたい訳では無いと言ってますけど」
「それは嘘でしょ」
「取り敢えず****は取っちゃおうか?おっぱい大きくしたいでしょ?と唆していますから、そのうちふらふらと性転換しちゃうかも」
 
「じゃ性転換することになったら教えて」
「いいですけど」
 

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番組のタイトルについては、1チーム3人が3チームなので3×3という説明がされたが、実は当初3人対3人で3×3(three on three)という企画だったのを、それでは主役の三つ葉に対してスリファーズが“悪者”扱いになりがち、ということで、もう1チーム加えてthree times threeにしたという裏事情がある。
 
司会は引き続きデンチューの2人で、アシスタントは金墨円香という陣営はそのままである。
 
要するに名古尾プロデューサーが得意なバラエティ番組の形に持って行ったというのが真相であるが、昔のASAYANのように次々と新しい歌手を作っても、その全員のフォローはできないという問題もあった。もしこの番組が長く続いていった場合は、2年後くらいに「三つ葉の妹分」を募集するオーディションをすればよいのではという空気もあったようである。
 
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昔のスター誕生のような“入札方式”も、まるで人身売買のようで、今の時代には馴染まないやり方である。10年ほど前にスター誕生の方式を少し改訂した「新人歌手夢のドラフト」という番組が作られたことがあったものの、実際は“ドラフト”は3回行われただけで放送は1クールで終了してしまったし、入賞者たちも2年程度以内に消えてしまっている。
 

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夏の日の想い出・やまと(7)

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