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■夏の日の想い出・男の子女の子(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-01-14
 
さてその★★レコードさんが私たちを心配して付けてくれたドライバーさんの初仕事は1/31-2/01の小田原市での関東クラブバスケット選手権になった。これに千里がオーナー兼選手の40 minutesと、私がオーナーのローキューツが出場するので、私と千里は道具関係を新車のエルグランドに積んで、ドライバーの矢鳴さんに同乗してもらい、小田原に向かった。
 
その間、佐良さんの方は実はリーフに乗って、政子の運転の練習に付き合ってくれていた。
 
なおこのエルグランドには、なぜか雨宮先生まで乗っていた。
 
大会の結果は、1位40minutes 2.江戸娘 3.ローキューツで、3チームとも3月の全日本クラブバスケット選手権に出場が決まった。それでこの3チーム合同で打ち上げをしたが、雨宮先生に言われてこの打ち上げ費用は全額私が出すことになった。更に雨宮先生は、江戸娘にスポンサーが居ないという話を聞き、それなら上島先生に資金提供させるよ、と勝手に決めてしまった!
 
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千里は2月1日(日)に小田原での関東クラブ選手権を終えると、2日(月)から就職が決まったJソフトウェアに勤務し始めた。
 
。。。ということだったのだが、2月3日夕方、アクアのデビューCD制作の録音最終日になるということで私が新宿のスタジオに行っていたら、千里がやって来るので私は驚いた。
 
彼女はジーンズにセーターという軽装で、パソコンと(楽器の)キーボードの入ったトートバッグにスポーツバッグを持っていた。メイクはしていない。
 
「今日はもう仕事終わったの?」
と尋ねる。時刻はまだ17時前で、通常の会社が終わる時刻より前だ。
 
この日は平日なのだが、アクアの日程が詰まっているので、学校が終わった後アクアにスタジオに入ってもらい、最終的な歌唱収録をしたのである。
 
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「ああ、会社はサボっているから大丈夫」
「昨日から勤務だったんでしょ?早々にサボっていい訳〜?」
「首にされたらされたでいいし」
「まあ、そうだろうけどね」
 
と言いつつも、千里にしては随分無責任だなと私は思った。
 
「今日は午前中に作曲作業、午後にバスケ練習して、その後こちらに来た」
「へー!」
 

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今回制作しているアクアのデビューCDは『白い情熱Nursesrun』という両A面の作品で、『白い情熱』は霧島鮎子作詩・上島雷太作曲、『Nurses run』はゆきみすず作詩・東郷誠一作曲である。
 
ただし『Nurses run』は実際には葵照子/醍醐春海で書いたものである。葵照子は2月7-9日の医師国家試験を前に忙しい時期だったのだが、アクアの写真やビデオを見て
 
「可愛い!この子には絶対看護婦役をさせなよ」
 
などと言って、アクアがナース服で病院内を走り回っている所を想像してあの歌詞を書いたらしい。
 
「回文曲」にしたのは、彼女が試験勉強をしている時に椅子からひっくり返りそうになり、身体が逆さまになった状態で作詩ノートを見たのがきっかけで思いついたらしいが、千里は「無茶言いやがって」などとぶつぶつ文句を言いながら曲を書いたと言っていた。
 
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この日は私が来た後、上島先生も来たのだが、例によって上島先生は制作にはほとんど口を出さない。私や千里、伴奏音源の制作を主導したGolden Sixのカノン、それに“総責任者”のコスモスが色々指示をして制作は進んでいく。判断が微妙な所や意見が別れた所はコスモスが決めるのだが、コスモスって「耳の音感」は割といいじゃんと私は思った。そういえば彼女はピアノは得意だと、以前紅川さんも言っていたのである。
 
やはり彼女は聴く音は正しく認識できても、その音を自分の声で出せないタイプの音痴なのだろうか。
 
もっとも「どっちの和音がいいか?」みたいな話の時はコスモスには分からないようで、私に決めてと言ってきた。
 
1ヶ所、ここは伴奏を変えた方がいいということになり、千里とカノンが楽器を演奏する場面もあった。千里はドラムスとベース、フルートを吹けるし、カノンもキーボードを弾けるが、本来のギター担当のリノンは(制作の疲労でダウンしているということで)来ていないので、結局私がギターを弾いた。
 
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作業が終わったのはもう夜10時半であった。
 
本当はこんな時間まで中学生を働かせてはいけないのだが、スケジュールに余裕が無いのでやむを得ない。
 
「アクアの写真も撮ろうと思っていたけど、今日は疲れているから明日にしよう。明日も悪いけど授業終わったら出てきて」
 
と自分自身がかなり疲労しているような顔のコスモスが言った。
 
「分かりました。お手数お掛けしますが、よろしくお願いします」
とアクアも頭を下げて言った。
 
「まあアイドルの音源製作でここまでこだわる制作者は少ないとは思うんだけどね」
とカノン。
「アクアがあまりにも歌がうまいから、かえって適当なものは作れないという気になる」
と千里。
 
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「ああ、適当なもの作るといえば、私のCD」
などとコスモスは言っている。
 
「昔、一緒にコスモスのCD作ったね」
と私は当時を懐かしく思い出しながら言った。
 
「ケイちゃんに色々指導されながら歌っても私の歌はどうにもならなかったね。だからここ数年は、私はどうせ練習たくさんしても改善不能だからと言われて一発録りというパターンが定着してる」
 
「ああ」
 
「その代わり伴奏音源の制作は1曲1週間掛ける。私のCDの価値の80%はオフボーカルバージョンだから」
 
とコスモスは自虐的に言っていたが、ファンの意見もだいたいそうである!
 
「普通CDをmp3プレイヤーやカーナビに取り込んでBGMで聞く人はCDのオフボーカルバージョンを削除して歌の入っている側を残すんだけど、私のCD買ってくれた人は歌の入っているのを削除してオフボーカル版を残すんだよ。エルミ(川崎ゆりこ)もそうしてるって」
 
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とコスモスがやや不快そうに言うと、私も千里も笑いをこらえきれなかった。
 

アクアは上島先生が付き添ってタクシーで帰る。千里とコスモス、カノンは電車で帰るということで新宿駅に向かった。私は夜の町を散歩しながら帰ろうと明治通りを南に下っていった。
 
普通に歩けば1時間ちょっとで着くのだが、時々立ち止まっては思い浮かんだメロディーの断片や詩などを書き留めていくので、結構時間が掛かる。
 
それで渋谷駅の近くまで来た時のことであった。
 
目の前を疲れたような顔の千里が通るのでギョッとする。
 
彼女はメイクして(但し少し崩れている)女性用ビジネススーツを着ており、アタッシェケースを持って、(男性用)ビジネススーツを着て色違い同型のアタッシェケースを持った35-36歳くらいの男性と一緒であった。聞こえてきた声では、ふたりはこんなことを言っていた。
 
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「さすがに疲れたね。まだ2日目なのにこういうのに付き合わせて御免ね」
「いえ大丈夫です。でも10時間連続の打合せはトイレが辛かったです」
「ああ、女性は男より辛いよね。でもトイレに行きたくなったら遠慮無く中座していいからね」
「今度からそうします」
 
「でも、村山君がオンライン・トランザクション処理のメカニズムを詳しく説明してくれたので、向こうさんもこちらをかなり信頼してくれた感じだよ」
 
「たまたまそのあたりは勉強していたので」
「まるで開発経験があるみたいだった」
「ハッタリです」
「そのハッタリが、君は凄いね!」
 
千里・・・だよな?と私は思う。男性が「村山君」と言っていたし。
 
向こうはこちらに気付いていない感じで、そのまま渋谷駅の中に入っていった。
 
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あれが千里だとすると、彼女はどうも今の時間まで客先でシステムの打合せをしていたような雰囲気である。
 
さっきのスタジオでの作業を終えてから行った?
 
いや、それはあり得ない。
 
スタジオを出たのは23時前で、今は0時ちょっと過ぎである。あの後どこかを訪問して今打合せが終わって出てきたのなら、打合せの時間は30分も無かったであろう。
 
そもそもふたりは「10時間連続の打合せ」などと言っていた。
 
やはり千里とは別人??
 
千里のそっくりさんで、名前が村山?
 
でも確か「まだ2日目」とも言っていたぞ。やはりあれは千里だとしか思えない。
 
まさか、千里って2人いるんだったりして?? それでひとりは「マジメ」にソフトウェア会社に勤めていて、もうひとりは「会社サボって」作曲したりバスケしたり、アクアの制作に立ち会っていた???
 
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私はしばらくそこで立ち尽くして考えていた。
 

2月5日、私はアクアから個人的に内緒で相談したいことがあると言われ、リーフで出かけていって彼を拾い、モスバーガーのドライブスルーで食べ物をピックアップした上で、それを食べながら車内で話をした。
 
彼は正直に自分は声変わりしたくないのだと言った。
 
ああ、やはり川南に騙されたふりをして結構女性ホルモンを飲んでいたのはそのあたりのせいだったのかなと私は思った。彼はどうもどの程度女性ホルモンを摂れば、身体を女性化させることなく、男性化を止めておけるかの「加減」を知りたくて私に相談してきた雰囲気があった。
 
しかしそういう話なら、お薬で調整するより、青葉に頼んだ方がいいと私は思った。
 
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それで私は紅川さんに電話して、アクアを3月15日(日)のKARION金沢公演にゲスト出演させる話をまとめた。そしてそのついでに青葉のセッションを受けさせようという魂胆なのである。土日の日程が仕事で詰まっているアクアを北陸まで連れて行くには、そこに仕事を入れさせるのが最もスムーズである。普通にプライベートな用事を入れようとしても、仕事優先ということになってしまう。
 

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2月7日(日)。
 
アクアは放送局でクイズ番組の収録に出た後、事務所デスクの田所さんから「見て欲しいものがある」と言われて、倉庫のような所に連れて来られた。
 
「あのぉ、これ何でしょうか?」
「アクアちゃん宛に送られてきたバレンタインのチョコ」
「あははは」
「14日までに、多分この3倍くらいになると思う。チョコ以外にマフラーとかセーターとか、スカートとか、あと、かなりの量の女性ホルモン剤と思われるお薬があるんだけど」
 
「あははははははは」
 
「これどうしたい?」
「今まで先輩たちのクリスマスとかホワイトデーとか誕生日とかのプレゼントはどうしていたんですか?」
 
「基本的に有名菓子店とかメーカー、デパートなどからの直送品は福祉施設などに寄付。手作りと思われるもの、発送状況が確認できないものは全て廃棄。もったいないけど、万一変なものでも混ぜられていたら危険だから」
 
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「じゃ、これもそれに準じて処理していただけませんか?」
「了解。そういうことにするね。一部はもらっておく?」
「じゃ一部」
 
「お洋服とかは?」
「他の方はどうなさってます?」
「高価なブランド物とかは福祉施設への贈り物としてなじまないから衣装としてキープ。実際初期の頃プレゼントしたら入居者間で取り合いの喧嘩になっちゃったことがあって、それ以降高価なものは贈らないことにした。普及品は福祉施設へ。デザインに難があるものは廃棄。手作りのは悪いけど廃棄。高価ではないブランド品とかでサイズが合う物は本人へ」
 
「ではそれに準じて」
 
「OK。じゃ選別してアクアちゃん家(ち)に届けるね」
 
「お手数おかけします」
 
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「ファンクラブの会報とかホームページにも一応そういうポリシーは明記しているし、まあ送る側もそのあたりの事情を察して直送にしてくれる人が多いし、そのファンからの応援の大半を福祉施設に寄付できるから、結果的には社会の循環の一部を担っていることになるんだろうけどね」
 
「ありがたいですね」
 
「ちなみに女性ホルモン剤はどうする?」
「すみません。全部廃棄で」
「一部はもらっておく?」
「要りません!」
 

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