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■夏の日の想い出・男の子女の子(7)

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1時に初狩PAに集合厳守だったのだが、実際には0:45には全員集まった。
 
私が運転するカローラフィールダーに上島先生・下川先生・水上先生。
山根先生が運転する(雨宮先生の)フェラーリFFに、雨宮先生・海原先生・三宅先生。
加藤課長が運転するブルーバード・シルフィに田代夫妻と長野松枝。
千里が運転するインプレッサに佐々木川南・白浜夏恋・龍虎・長野支香。
 
最後に到着したのが加藤課長の車で
「ごめーん。遅くなった」
と課長は言ったが、
「まだ集合時刻15分前だよ」
と上島先生が言っていた。
 
加藤さんとそちらの同乗者がトイレに行って来て0:55頃、出発する。私の車は下川先生が運転してくださって、私はその間仮眠していた。千里のインプは三宅先生が運転してくださって、その間千里はフェラーリに移って仮眠していた。フェラーリは海原先生が運転した。シルフィは田代父が運転した。
 
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途中のPAで休憩して、再度ドライバー交代する。私、千里、加藤課長、雨宮先生の運転で、事故現場の先にあるSAに辿り着いたのが1/3 4:40くらいであった。全員でSAの端まで歩いて行き、龍虎が花束を置く。そして加藤課長の「4時51分」という声で全員合掌する。海原先生が般若心経を暗誦する。全員合掌したまま、目を瞑ってその心経を聞いていた。うろ覚えの上島先生と雨宮先生もそれに合わせて声を出していた。
 
その後、龍虎の求めに応じて千里が龍笛で『アクア・ヴィタエ』を演奏した。全員その美しい音色に浸っている。曲のクライマックスで落雷があったが、千里によると事故現場のカーブの所に寄ってきた龍たちが落としてくれたらしい。
 

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全員喪服を着てきているのだが、龍虎は可愛いティアードスカートの喪服で、髪には黒いカチューシャまで付けている。この喪服は実は川崎ゆりこが買ってあげたものらしいが、川南にうまいこと乗せられ、着せられてしまったようであった。
 
更にこの可愛い格好を見た夏恋が
「君の学校の女子制服を私が買ってあげるよ」
などと言い出す。
 
アクアは表面的には「え〜!?」などと、嫌がるような言葉を発していたものの、表情を見ると、むしろ喜んでいる風にも見えた。この子、マジで女装にハマッているみたいだなと私は思った。きっとセーラー服を本当に着たいのだろう。
 
「アクアちゃん、年末の番組のあと、友だちから何か言われなかった?」
と三宅先生から訊かれている。
 
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「可愛すぎる。このまま女の子になっちゃおうよ、とかだいぶ言われました」
とアクア。
 
「写真集とビデオが1日に出たけど」
 
「早速何人か買ったらしいんですよ。まだ入手できない子もいるみたいですが」
 
写真集は30万部、ビデオDVDは10万枚、と物凄く強気のプレスをしたのだが、それが1月1日だけで全部売り切れてしまい、§§プロでは「正月明けから頑張って増刷するので、しばらく待って下さい」というアナウンスを出す羽目になった。当然入手できなかったファンが大量に居た。Amazonにも大量の注文が入っていた。
 
「それで結局入手できた子の所に集まって、みんなで見たらしいですけど、写真集の最後に入ってたセーラー服の写真とか、ビデオのボーナストラック『お着替え200発』に入っていた写真とか見て、ぜひ3学期からはセーラー服で出ておいでよと言われました。僕がそんなの持ってないと言うと、洗い替えを持っている子が貸してあげようかとか言って」
 
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「それはぜひセーラー服で出て行かなければ」
と川南。
 
「女子制服は特急で作ってもらわねば」
と夏恋。
 
「勘弁してくださいよぉ」
と本人は言っているものの、やはり嬉しそうにしている。この子、マジでセーラー服で通学し始めるのではと少し心配になってきた。
 

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ちなみに、アクアの§§プロとの契約書の中には「26歳まで恋愛禁止」という条項とともに「30歳まで性転換禁止」という条項が入っているらしい。性転換を禁止する条項が入った契約書というのは、私も初めて聞いた。本人は「僕は別に女の子にはなりたくないから問題無いです」と言ったらしいが。
 
ちなみに契約で女装やお化粧、去勢、ホルモン摂取などは禁止されてないらしい!それどころか紅川さんからは
 
「もし去勢手術受けるなら、スケジュールの都合があるから、デビュー前に受けといて」
 
と言われたらしいが
 
「去勢したくないです!」
と本人は言ったらしい。
 
また契約書に「声変わり禁止」という条項を入れようかという話もあったらしいが(さすがにジョークだろうが)、アクアは「それは困ります!」と言ったものの、そう発言するまで数秒間考えていたとも聞いた。
 
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追悼が終わった後でSAの施設内に入り、みんなで朝食を取る。私と千里、川南・夏恋、それに龍虎の5人で料理や飲み物を全員に配った。
 
「お料理来てない人います?」
「みんなあるみたいね」
「じゃ私たちも席につこう」
 
「龍、飲み物ここに置くね」
と川南が言っていた。
「ありがとう」
と龍虎。
 

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それでこの日は加藤課長や雨宮先生などが積極的に話題を振って2001年春から2003年末に至るワンティスの活動時期のことをたくさん話題にした。龍虎もそのあたりの話は興味深そうに聞いていた。
 
「まあ高岡って妥協を知らない奴だったね」
と懐かしそうに海原先生が言う。
 
「この歌詞は意味不明だから変えようと言っても聞かない」
「ここはアルトサックスよりフルートがいいと思うと言っても譲らない」
「かなり険悪になったこともあったなあ」
 
「ここは音楽理論的にこの和音でないといけないと言っても、そんなの理論が間違っているとか言って、なかなか譲らない」
 
「ああ。参ったね。あの時は」
「仕方ないから、高岡の書いた通りの演奏と、音楽理論に添った演奏とやって録音したのを聞き比べてみた」
 
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「それで『あ、ごめーん。君たちの意見が正しい』とか」
 
「その手のことをひとつずつ確認しながらやっていかないといけないから、音源製作が進まないこと進まないこと」
 
「あれでキャンペーンの話が消えて違約金取られたこともあったからね」
と水上先生。
 
「でも加藤さんが担当になってからは、そのあたりのトラブルも減りましたよ」
と下川先生が言う。
 
「まあ僕は学生時代の部活で、わがままな部長の下の副部長をずっとやってたから、あの手の説得作業には慣れていたんだよ」
と加藤さんは言う。
 
「何の部活だったんですか?」
「軽演劇部だったんだけどね」
「おっ、凄い」
「部長が凄い人だったけど、凄すぎてみんなが付いていけない。だから僕は緩衝材であり、またあまりに高尚で難解すぎるものを観客が見て分かるものに軟着陸させるのが役割だった」
 
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「まさに高岡タイプだったんだ?」
「マリが言っていましたよ。高岡さんの詩って凄いけど、完璧すぎて付いていける人が少ない。夕香さんの詩は悪く言えば平凡だけど、わかりやすくて共感を呼びやすいって」
と私は言う。
 
「うん。実はそれだから、ふたりが亡くなった後、僕らもこの詩はどっちが書いたものかというのを判別することができた」
と水上先生が言っている。
 
「高岡が書いた詩を夕香が清書することもあったから、筆跡だけでは判別できなかったんだよね」
 
「時計色の空に誓うとか、まるでアノマロカリスのように君が好きとかいった、理解不能な言葉が入っているのは間違い無く高岡」
 
「詩を見てて、推敲したくなってくるのが夕香」
 
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「ああいう詩を書いた夕香さんって、別の意味での天才だとうちのマリは言ってました」
と私が言うと
 
「ああ。それは霧島鮎子さんも似たようなこと言っていた」
と上島先生が言った。
 
私は上島先生が霧島鮎子さんと面識があるのか、と意外に思った。
 

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私たちの会話は1時間ほど続いたが
 
「そろそろ出ないと午後から用事のある人もいるし」
「人が増えてくると、これだけのメンツが集まっているのは目立つし」
 
といった声も出てきたので解散することにする。
 
龍虎は自分の前に置かれた飲み物にまだ手を付けていなかったことに気づきそれを一気に飲み干した。
 
が・・・変な顔をする。
 
「カルピスかと思ったら違った」
などと言っている。
 
「ああ。それは***製薬のエストロパワーだよ」
と川南が言う。
 
「へー。ガーリックパワーとかのシリーズの新製品?」
「これは結構前からあるらしいよ」
「あ、そうなの?知らなかった」
「ガーリックパワーは医薬部外品だけど、エストロパワーは第1類医薬品で薬剤師しか販売できないんだよ。親しい薬剤師さんがいる薬屋さんで買ってきた」
と川南は言っている。
 
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ここで千里が川南に尋ねた。
「そのドリンクの主成分は?」
「エチニルエストラジオールだけど」
「ああ、やはり」
 
龍虎はキョトンとしている。意味が分かってないようである。
 
「まあ要するに女性ホルモンだね」
と千里が言うと
「え〜〜!?」
と龍虎は驚いていたが、私も上島先生も苦笑している。
 
「龍ちゃん、川南からそれしょっちゅうやられてのに、気付かないというのは実は女性ホルモン摂りたいんだとしか思えん」
などと夏恋は言っていた。
 
「女性ホルモンはやめてくださいよ〜」
「じゃ男性ホルモン摂りたいの?」
「それはちょっと・・・」
「やはり女性ホルモンがいいんだ?」
「違いますよぉ」
 
「先月は女性ホルモンの注射しちゃったね」
などと川南は言っている。
 
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「ボク、女の子みたいな身体になっちゃったらどうしよう?」
「既に女の子みたいになっているから問題無い」
「デビュー前にちんちんも取っちゃおうよ」
「それは契約違反です」
 
と言いながら龍虎がちょっと焦ったような顔をしたので私は何だろう?と思った。
 
「言わなきゃバレないって。ケイだって大学2年生で性転換手術したと言っているけど、実際は小学生の内に済ませてるし」
などと千里が言っているので、私は千里はどうなんだ?と突っ込みたくなった。
 

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「しかし今日はアクア君は女子トイレを使ってるね」
と海原先生が言う。
 
「まあその服で男子トイレに入れば痴漢で捕まる」
と雨宮先生。
 
「捕まるんですか〜?」
 
「だいたい龍虎、お前男子トイレに入っても個室にしか入らないし」
と田代父が言う。
 
田代父は龍虎と一緒に男子トイレに入ったりする数少ない人のひとりだ。女子トイレに龍虎を連れ込む子はたくさん居る!
 
「座ってする方が落ち着いていいし」
などと龍虎は言っている。
 
「龍虎が立っておしっこをしている所は誰も見たことが無いという説もある」
などと川南が言っている。
 
「立ってすることもあるよぉ」
と川南に対しては口をとがらせて文句を言う。
 
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「じゃここにいる男の人の誰かと一緒に男子トイレ行って、立ってしてみせる?」
「この服じゃ無理です」
 
「まあ確かにその服では立ってするのは不可能だ」
 
「でも実は立ってするために必要な器官が存在しないから、立ってしないのではという説もある」
などと川南は更に言う。
 
「存在してるよ〜」
と龍虎。
 
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夏の日の想い出・男の子女の子(7)

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