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■夏の日の想い出・男の子女の子(2)

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12月7日の夜、佐野と麻央は愛車の青いインプレッサで深夜のドライブデートを楽しんでいた。運転している内に、麻央が佐野のあの付近を悪戯すると、佐野も気分が昂揚してくる。
 
「ね、ね、そのあたりに駐めようか?」
「いいよ」
 
などという会話を経て、佐野は安全に駐められそうな場所を探していたのだが、やがて右手に「道の駅」の看板を見る。
 
「よし、あそこに入れよう」
と言って佐野は対向車がいないのを見て道を横断し、その道の駅の看板のある所に車を進入させた。
 
「駐車場はどこだろう?」
「暗くてよく分からないね」
「うん。街灯とかでもあれば分かるんだけど。もっと内側かな」
 
と言って佐野が車をゆっくりと内側に進めた時のことであった。
 
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ガシャッ!
 
という、いや〜〜〜な音がする。
 
「うっ」
「前方に何か障害物あった?」
 
その音は車の前方からしたのである。
 
降りて懐中電灯で照らしてみる。
 
「うっそー!?」
「なんでこんな所に階段があるのさ!?」
 
「要するに、道路から入ってすぐのそのあたりが駐車場だったんだな」
 
「ああ。確かに消えかけた線で駐車枠が書かれている」
「これ見えなかった」
 
この道の駅は道路から入ってすぐの所に横一列の駐車場があり、そこで車を降りて石の階段を登ると、少し広場があり、その先にトイレを含む施設の建物があるという、不思議な構造になっていたのである。
 
「せめて街灯があれば気付いたのになあ」
「トシ、これヘッドライトが左右とも損傷してる」
 
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「つーことは朝までここから動けないか」
「取り敢えず車を少しバックさせようよ」
「よし」
 
それで麻央は外に立ったまま、佐野が車に乗り込んでバックさせようとしたのだが・・・・
 
「どうしたの?」
と麻央は車内の佐野に尋ねる。
 
「エンジンが掛からん」
「うそ!?」
 
「ほら」
と言って佐野はキーを回してみせるが、シュルルルというセルモーターの音はするものの、エンジンが掛からないのである。
 
「今の衝突のショックでエンジンが壊れた?」
「エンジンが壊れるほど強くぶつけたつもりは無いけど。配線が切れたかな?」
 
「JAF呼ぶ?」
「明るくなったら、エンジンルーム見て修理できると思うんだけどなあ」
「でも寒いよ。雪も降ってるし」
「だよなあ」
 
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それで佐野は結局JAFを呼んだが、JAFの人にもエンジンをスタートさせることはできず、結局レッカー移動ということになる。
 
「あちゃあ。お金が・・・」
「でもここに放置する訳にはいかないし」
 

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2014年の12月は慌ただしく過ぎていった。
 
11月末までにローズ+リリー『雪月花』の海外版に関する私とマリ側の作業も全て終了したので、12月上旬はKARIONの『四十二二十四』制作の追い込みに集中した。
 
『雪月花』(の日本語版)は12月10日に発売され、予約で80万枚、初動が120万枚に達し、アルバム4連続ミリオン(『Rose+Lily the time reborn, 100時間』、『RPL投票計画』『Flower Garden』に続く)となった。
 
その翌日12月11日、政子が運転免許を取得。そしてその翌日12月12日からはローズ+リリーの全国ツアーが始まった。私たちは11日夕方の飛行機で初日の公演がある沖縄に飛ぶ。
 
今回の沖縄公演に出演するのは、スターキッズ&フレンズ、ヴァイオリン奏者4人、ゲストの小野寺イルザ、そしてアクアとAYAのゆみである。
 
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実際にはスターキッズとヴァイオリン奏者は前日に沖縄入りをしている。また小野寺イルザは実は13日に沖縄公演があり、その日程のついでにこちらに出てくれることになっており、12日の午前中に沖縄入りすることになっている。また風花、氷川さん・加藤課長、窓香の4人も前日に沖縄入りしている。
 
それで結局私たちと同行したのが、アクアとゆみであった。
 

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政子が出がけにおやつに買ったチロルチョコが無いと言い出し、探し始めたのを「空港で何か買ってあげるから」と言って説得し、何とかマンションを出る。本来乗る予定だった1つ後の電車になってしまったので、空港で落ち合うことにしていたコスモスに連絡を入れた。
 
それで京急を降りてから急いで待ち合わせ場所に行く。コスモス、アクア、そしてゆみがいる。
 
「良かった。間に合った。これケイちゃん・マリちゃんのチケット」
と言ってコスモスが私たちにチケットを渡してくれた。
 
「ごめんねー。雑用までさせちゃって」
とコスモスに言っておく。
 
「まあ今回はどっちみち私は裏方だから」
とコスモスは笑っていた。
 
それで荷物を預け5人でセキュリティを通る。私とマリ、コスモス、ゆみと並んでいると結構目立つので、サインを求められたりもしたものの「ごめーん。今時間が無いから」と言って、握手だけで勘弁してもらった。
 
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「AYAさん、活動再開ですか?」
と尋ねてきたファンも居たが
 
「ごめーん。まだ冬眠中。でもそろそろ冬眠の穴から這い出すかも」
とゆみも答える。
 
「ゆっくり待ってますから、無理せずに体調回復させてくださいね」
とそのファンの男性は言っていた。ゆみは彼が離れてから
 
「ありがたいなあ」
とつぶやいた。
 
そしてその様子を見たマリが
「私たちも休業してた頃に、あんな感じでファンに励まされたね」
と言った。
 
ゆみは「あぁ」と当時のことを思い出していたようである。あの時期は私たちが、ゆみに励まされていた。
 

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沖縄公演は幕が開いたら観客が1人もいなかった!というドッキリをテレビ局に仕掛けられたものの、20分後に満員の観客で仕切り直し。私たちは2時間半ほどのライブで熱唱した。
 
『雪を割る鈴』で登場したアクアは実は芸能人として一般の人の前に姿を露出させたのは、これが初めてであり、ある意味これがデビューでもあった。
 
どう見ても女の子にしか見えないアクアが出てきて鈴割り役をし、私が“彼”と言及するので会場がざわめく(モニターで映しているのでアクアの顔を会場の後ろのほうにいる人たちもしっかり見ることができた)。
 
「アクア君は間違いなく男の子です。女の子ではありません」
と私が言うと
 
「えーーー!?」
という観客の声。
 
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アクアはこれで1000人以上のファンをいきなり獲得した感じであった。
 
ゆみも『スーパースター』の演奏途中で登場して、しっかり6年前に出した自分のメジャーデビュー曲を歌った。私はゆみの歌を聞いてて、先日の『Step by Step』の収録の時より上手くなっている気がした。やはり練習をしているのだろうか。
 

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公演が終わった後、加藤課長がまずゆみに尋ねた。
 
「ゆみちゃんさ、だいぶ感覚が戻ってきているみたいだね」
「すみません。色々ご迷惑掛けております」
「いや。今は無理することないからね。でも沖縄だけのつもりだったけど、もう1回くらいどこかで登場しない?」
 
「そうだなあ。じゃ、もう1回だけ」
「どこか日程の希望ある?」
「私、今予定が空白だから、どこでもいいですよ」
「分かった」
 
と言ってから、加藤さんは、コスモスに尋ねる。
 
「アクアちゃんの方も、どこかでもう1回くらい出ない?年内に」
「ちょっと待って下さい」
と言ってコスモスはスマホでコスモスのスケジュールを確認しているようだ。
 
「12月21日(日)は午前中で雑誌のインタビューが終わるので、その後富山に向かえば公演に間に合います」
 
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「じゃ、その日お願い」
「分かりました」
と言ってコスモスは予定を入力している。
 
「じゃ、ゆみちゃん、良かったら21日の富山公演でも顔出してもらえない?僕も来るから」
と加藤さんが言う。
 
「いいですよー」
とゆみも答えた。
 
それで12月21日の富山公演でも、今回の沖縄公演同様、アクアとゆみが出演することになった。
 

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佐野と麻央は12月9日(火)、中古車屋さんに来ていた。
 
先日道の駅で階段にぶつけて動かなくなったインプレッサはJAFの契約工場まで運んでもらって調べてもらったものの予想外にダメージが大きく「修理するとしたら最低でも50-60万掛かる」と言われ、廃車にすることにした。
 
それで代わりの車を買おうというのである。
 
「こんなことなら、冬子が100万払うと言った時、素直にもらっておけばよかったかな」
「いや、さすがに1週間尾行しただけで100万円はもらいすぎ」
「それでも50万資金があれば、けっこうまともな車が買えるよね」
「まあ、あのインプレッサは8万で買ったからなあ。でもやはり結婚資金に最低30万はキープしておきたいよ」
「じゃ予算は20万以内かな」
「できたら10万以下」
 
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そんなことを言いながらふたりが車を見ていたら、中古車屋さんのスタッフが寄ってくる。
 
「車をお探しですが?」
「ええ。なんか安いの無いかなと思って。MT車で」
 
「MT車ですか?ああ、それでしたら、きっとお客様たちが気に入ってくださるものがありますよ」
と言ってスタッフさんが笑顔で連れていく。
 
「わぁ!」
「これいい!」
とふたりが車を見た途端嬉しい悲鳴をあげたのは、トヨタ86GTである。
 
「これまだ1万2000kmしか走ってないんですよ。それでこのお値段ですからお得でしょう?2000cc 6MT FR 200ps。傷とかは全然無いし、禁煙車ですよ」
 
「うーん・・・」
 
と言って、佐野と麻央は車のフロントガラスに張ってあるお値段を見る。
 
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「19万円ですかね?」
とわざと麻央が訊く。
 
「あ、いえ、190万円なのですが・・・」
とスタッフさん。
 
この車は定価が279万円だったものである。一応2012年モデルで2年経ってはいるので少し安くなっているものの、なかなか上品なお値段だ。
 
「19万円に負かりません?」
「さすがにそれは・・・・」
 
しばらく押し問答したものの、向こうの雰囲気としてはどんなに頑張っても180万円前後という感じだった。
 
「済みません。予算オーバーです」
「予算はどのくらいで?」
「20万くらい。できたら10万円以下」
 
「え〜〜!?」
 
と言ってスタッフさんがしばらく考え込んでいたが、
 
「あ、これはどうですかね?」
と言って、別の車の所に連れて行ってくれる。
 
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「インテグラか!」
「悪くないな」
 
「ちょっと型式が古いんですよ。これ1988年型で。距離も30万km走っているので、このお値段なんですよ。けっこう傷や凹みもありますが、フレームに響くような傷はありません。まあほとんど部品取り用のお値段で車検も付いてませんけど、ちゃんと動きますよ」
 
「少し動かせる?」
「車検切れているので、構内でしたら」
 
それでスタッフさんがキーを持って来てくれて、3人で乗り込み、佐野の運転で構内を少し動かした。
 
「これ結構気に入りました。買います。3万円でしたっけ?」
「5万円なんですけど」
「そこを何とか3万円に」
「無茶言わないでください」
とスタッフさんは言いつつも、こいつら手強いぞという顔をしている。
 
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そのあと、主として麻央とスタッフさんの15分ほどにわたる“バトル”で最後は店長さんまで引き出すことに成功し、ふたりはこの車を諸経費込み19万円で買うことに成功した。
 
「いや、うちのセールスに雇いたいくらいだ」
と店長さんは言っていた。
 
見積書を作ってもらったら、結局車の代金は29,000と記入されていた。そうしないと、辻褄を合わせられなかったようである。
 
「では手続き終わりましたらご連絡します」
「はい、それで取りに来ます」
 
むろん、納車費用もカットしたので、自分たちで取りに来る。
 

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12月12日のローズ+リリー那覇公演が終わった後、私と政子は翌日の公演地である熊本に移動したのだが、ゲスト出演した、ゆみとアクア、それにアクアの付き添いのコスモスの3人は13日の夕方の便で東京に戻った。
 
羽田空港で、ゆみが「ちょっとトイレ」と言って離れる。するとそれに釣られてアクアも「ボクもトイレ行って来ます」と言って離れる。コスモスは2人の背中を見ていたが、ゆみはむろん女子トイレに入るし、アクアはちゃんと男子トイレに入った。
 
それで荷物の番をするような感じでしばらく待つ。
 
お姉ちゃん、あの人と結婚するんだろうなあ。自分はいつ頃結婚することになるんだろう・・・・でも、このままアクアのプロデューサーってことになったら、ずっと結婚できないかも!?まあそれでもいいけどね。。。などと考えていた時、唐突に中年男性の大きな声が聞こえる。
 
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「君、こっちは男子トイレだよ!」
 
あぁぁ、またアクアったら女の子と間違えられたか。どうするかな? と思ってそちらを見ると、その男性に押し出されるような感じで男子トイレから後ずさりで出てきた男の子がいる。最初アクアと思ったのだが服装が違う。
 
あれ?
 
と思って見ていると
「すみません!僕よく間違えられるんですけど男です!」
と明確に《変声済み》の声で男の子が反論している。
 
「あれ?君、確かに男の子の声だね。ごめんごめん」
と男性。
 
そしてちょうどそこに男子トイレからアクアが出てきた。そのアクアを見た男性は「君、ここは男子トイレ・・・だっけ?」と唐突に不安になったようで、男女の表示を探している。
 
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コスモスはとても楽しい気分になって、彼らの方に歩み寄った。
 

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夏の日の想い出・男の子女の子(2)

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