広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・分離(12)

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「じゃそろそろ曲行きましょう。男の娘をテーマにした曲、『コーンフレークの花』」
 
「ケイは男の娘じゃなくて女の子みたいだけどね」
 
それで前奏が始まる。そして私たちは歌い出すが、振袖を着た青葉と七美花が出てくるので歓声があがる。
 
この曲はサンバのリズムになっているのだが、ふたりの踊りは日本舞踊である!しかしそのサンバで日本舞踊というのが、妙にうまくハマっていて、楽しい雰囲気を出していた。
 
曲が進む。青葉と七美花の踊りは続く。観客はふたりが途中で振袖を脱いでドレスか何かに変わるのではと期待したようであるが、ふたりは服を脱ぐ様子は無い。それで客席では隣同士でささやき合うような姿も結構見られた。
 
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やがて終曲となるが、青葉と七美花は最後まで服を脱がなかった。
 
私はふたりを紹介する。
「踊ってくれた人、若山流民謡名取りの若山鶴海さんと、作曲家の大宮万葉さんでした!」
 
拍手がある。
 
「ちなみにふたりはまだ高校生なので、彼女たちに服を脱がせたら私が警察に捕まるので、脱ぐのは無しね」
 
と私が説明すると、爆笑があった上でまた大きな拍手が贈られていた。
 

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この後、そのまま青葉にサックス、七美花にトランペットを吹いてもらって『摩天楼』を演奏する。『ダブル』でもそうだが、青葉と七星さんは同じピンクのヤナギサワ製サックスを使っているので、見た目にも綺麗だし、音の調和性も良いようである。
 
そして七美花のトランペットは格好良い。良い意味で黒人ジャズプレイヤーが吹いているかのような味がある。高校生で人生経験もまだそんなに無いだろうに、これだけ吹ける七美花は末恐ろしいと私は思った。この子は本当に管楽器の天才である。
 
曲目は更に『仮想表面』『Flying Singer』『ハイウェイデート』『モバイル・ガールズ』『ペパーミントキャンディ』と今年出した曲の中から元気な曲を演奏していく。『ペパーミントキャンディ』では、今日は進行役だけでなく幕間での歌唱までしてくれた品川ありさが、彼女も学校の体操服を着てサッカーボールを蹴って出てくると、リフティングを始めた。
 
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このパフォーマンスに会場は「おぉっ!」という声があがり、彼女に対する声援も凄い。彼女は中学時代サッカー部に所属していて、リフティングは得意である。『ペパーミントキャンディ』のPVの中では男装してこの技を披露してくれたのだが、今日は普通に女子の体操服姿でしている。
 
そして彼女はこの歌を私たちが歌い終えるまで1度も落とさずにリフティングし続けたのである。これは私も凄いと思った。歌が終わった後の拍手も凄かった。
 

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「それでは最後の歌になりました」
と私が言うと
「え〜〜!?」
という反応が返ってくる。
 
「ローズ+リリーのライブをやる時は必ずこの曲を入れますと約束している曲」
とまで私が言うと
「ピンザンティン!」
という声が客席から返ってきて、既にお玉を取り出して振っている人たちが多数いる。
 
「はい、では行きましょう。食の讃歌『ピンザンティン』」
 
氷川さんがお玉を2つ持って出てきて私たちに渡してくれる。アスカのヴァイオリンがこの曲のサビの部分のメロディー「ドファソラーシ・レドシラ・ソミラ、レレレミ・ファファミレド」を2回演奏し、それに続けてスターキッズの伴奏も始まる。そして私たちは歌い出した。
 
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「太陽の力だよ、アスパラ、トマト」
「土の中から、ニンジン・タマネギ」
 
曲はAメロのあとBメロを経てやがてサビに入る。
 
「サラダを〜作ろう、ピンザンティン、素敵なサラダを」
「サラダを〜食べよう、ピンザンティン、美味しいサラダを」
 
私がマイクを客席に向けながら歌うと客席からも大きな声でこの歌に唱和してくれた。お玉を振りながら歌ってくれる。
 
そしてまたAメロに戻り、Bメロ、サビと行って、サビをリピートして終了。
 

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物凄い歓声と拍手の中、私たちも伴奏者もステージから退場する。
 
会場の拍手はすぐにアンコールを求めるゆっくりしたリズムの拍手に変わる。私は甘いコーヒーを1杯飲んで喉の調子を整える、マリは凍天(しみてん)を1個ほおばっている。2分ほどの拍手の後、私たちはまた体操服のままステージに出て行く。
 
アンコールの拍手が普通の拍手に変わる。声援もある。
 
「アンコールありがとうございます」
拍手がある。
「人生、悩むこともあります。後ろを見て悔やむこともあるし、自分には別の生き方があったのかもと思う時もあります。あの時ああしていればと思うこともあります。でも私たちは過去には戻れません。未来に向かって進むことしかできないのです。そんな気持ちを歌った鴨乃清見先生の曲『門出』」
 
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大きな拍手がある。青葉も入って来て龍笛を構える。
 
私の歌唱力をギリギリまで酷使するような曲だ。声域もいちばん下からいちばん上まで使っている。この曲を歌えなくなったりしないように自分は日々研鑽をしていかなければと思わせる。マリに割り当てられたパートはそんなに難しくないものの、私のパートでは通常ありえないような音の進行をする所があり、伴奏者が音を出す前にこちらが歌い出す所もあるので、かなりしっかりした音感を持っていないと音を出し間違える。伴奏者にもヘビーな演奏を強いていて、ギターにもサックスにも、そして龍笛にも超絶プレイを要求している。とんでもない難曲だが、聴いている分には圧倒されるような感覚がある、と氷川さんは言っていた(氷川さんはお世辞を言う人ではない)。ネットでも「なんつー曲だ!」と半ば呆れるような書き込みが多かった。
 
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今日の観衆も手拍子を打つのも忘れて聴いてくれている。
 
そして終わるのと同時に物凄い拍手があった。今日のライブで最高の拍手をもらった感じがした。
 
私たちは笑顔でお辞儀をすると、スターキッズや青葉とともにステージ下手に下がった。
 

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再びアンコールの拍手がある。私はコーラを一口飲む。マリはまた凍天を1個食べている!「これ売ってる所教えてください」などと言っている。どうもかなり気に入ったようだ。
 
今度は私とマリのふたりだけで出て行く。
 
「再度アンコールありがとうございます」
拍手がある。
 
男性スタッフが2人入って来てクラビノーバをステージ中央に設置する。
 
「まだまだ復興には遠いですけど、やがては福島や宮城・岩手が日本でいちばん活力にあふれた地域になるといいですね」
と言ってから私は最後の曲名を告げる。
 
「それでは本当にこれが最後の曲です。愛し合っているのに別れてしまった恋人が長い年月を経て再会し今度こそは結ばれるという歌『Long Vacation』」
 
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拍手がある。私がクラビノーバの前に座り、マリはいつものように私の左側に立つ。私の弾く前奏に続いてふたりで一緒に歌い出す。
 
この曲は小夜子とあきらの恋を歌った曲ではあるのだが、発表した当時は、ローズ+リリーの休養が終わって活動再開するという宣言ではないかと随分言われた。そして実際にその後、半年ほどで私たちは完全に活動を再開した。実際にはそんなこと考えてなかったんだけどね!
 
あの頃のこと、当時たくさんやった東北方面でのゲリラ・ライブのことなども思い出しながら私はこの歌を歌っていった。なぜか涙が浮かんでしまう。私は感極まりながら歌っていた。
 
そして私は自分が涙を浮かべてしまったことで「やられるかも」と思っていたら案の定、マリは間奏のところで私にキスをした。
 
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「きゃー!」
という悲鳴が観客席からあがるが、私たちのキスに対して悲鳴が上がるのもどうもお約束になりつつあるなと私は思った。
 
私は笑顔でこの曲の後半を弾きながら歌っていく。
 
そして静かに終曲。
 

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拍手が凄い。歓声が凄い。私は立ち上がってマリと手をつないでステージ前面に出て行き、一緒に大きくお辞儀をした。そして両手を斜めにあげてたくさんの歓声に応え、それから再度お辞儀をして下手に下がった。
 
品川ありさが「これにて本日のローズ+リリーのライブは全て終了しました」の口上を述べた。
 

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3月13日(日)、##放送をキー局とする全国ネットで、先月の全国的な大雪被害に関する特集番組が放送された。ここは2014年1月5日に、KARIONが実は最初から4人であったことを「08年組特集」で公開することになった放送局である。そして今回、この番組の前宣伝の中に
 
《KARION,ローズ+リリーのファン必見》
 
という文字が入っていた。この大雪でKARIONと片原元祐さんが奈良県の山奥の温泉宿に数日間閉じ込められてしまったことは当時一緒に閉じ込められてしまった奈良##放送のクルーによるレポートで知られていた。それでこの番組は報道系の番組としては異様な視聴率になった。
 
番組はとってもまじめに作られている。当日の天気図や気象衛星の写真が表示され、気象予報士の人や大学教授などにも取材して、この大雪の原因に関する推測などが語られる。
 
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東北や北信越でも道路の不通や孤立した村のことが報道されたが、奈良県の奥八川温泉については、被害の多かった地域からはずっと南方であったこと、そしてたまたまテレビ撮影のクルーが行っていて、泊まり客などにインタビューした映像があったこと、特にKARIONの4人や片原元祐さんなどという有名人がいたことからけっこうな分数を割いてインタビュー映像が流れていた。
 
停電で2日間も電気が使えなかったことについても相沢孝郎社長が「またこんなことにならないように自家発電設備を発注した。ゴールデンウィークには間に合わせる」とテレビ局の取材に対して答えていたのも好感されたようだった。そもそも彼はKARIONのバックバンドのリーダーとしてある程度顔も知られているので、美空がいかにも美味しそうに旅館の料理を食べている所があらためて流れたのとも相まって、この旅館への予約が随分たくさん入ったようだ。結果的には良い意味での宣伝になったようである。
 
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そして番組の最後の方になってから、27日11:30頃にKARIONの4人が食事している所の映像が映る。カメラは食事が終わった所で蘭子が、他の3人に手を振り、防寒具とサングラス・手袋を身につける様子が映る。
 
このあたりからネットでの書き込みを見てチャンネルを変える人なども出たようで、視聴率が何だか物凄いことになった。
 
そして庭に出て、同様に防寒具とサングラス・手袋をした女性が運転席に座っているスノーモービルのタンデムシートに蘭子が乗り込む所が映ると
 
「これだったのか!!」
「スノーモービルか!!!」
という書き込みがツイッターに大量に書き込まれた。「スノーモービル」という単語がツイッターのトレンドに上がって、それでこの件に気づいた人もかなり出たようである。
 
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12時にスノーモービルで奥八川温泉を出れば大原から車に乗って夕方には五條に辿り着くので、その日の内にJR/近鉄と東海道新幹線を乗り継いで東京まで辿り着くことができる。すると朝一番の東北新幹線で福島に入ると充分朝9時の番組に出演可能なのである。ネットの住人たちの多くはこの連絡が存在することを確認して、それで納得してしまった。「でも福島市内で27日19時半頃、ケイとマリが並んで歩いているのを見たよ」という数件の書き込みは無視された。
 

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蘭子が再度KARIONの他の3人に手を振ってスノーモービルが出発し、雪原の中に消えて行く所で番組は終了した。
 
そういう訳で、この日で私は「らんこ」と「ケイ」は別人と、わざわざ主張するのはやめることにしたのであった。
 
 
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夏の日の想い出・分離(12)

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