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■夏の日の想い出・分離(11)

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笙は七美花(交通費は母親の友見が出してくれている)に吹いてもらっているので、高校生コンビになったが、このふたりが笙と龍笛を吹くと、まあ物が壊れること壊れること。
 
近藤さんのギターの弦がいきなり全部切れて「ぎゃっ」と近藤さんが声をあげる。
 
「しまった。弦の予備が無い」
と近藤さんが言ったが
「ケイに言われて用意していました」
と言って、風花が予備の弦を出す。
 
「切れること予想してたの?」
「ギターの弦もベースの弦も5組ずつ用意しています」
「ああ・・・」
 
「いや、この笙にこの龍笛なら、このくらいのことは起きても不思議じゃない」
と酒向さんが言っていた。
 
「でもライブ中に切れたらどうしよう?」
 
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「予備のギターとベース、予備のサックスにキーボードも持って来ています。お好みのものではないかも知れませんが」
と風花は言った。
 
「観客のスマホが壊れたりして」
「電源の落ちているスマホやICレコーダにまでは影響出ませんよ」
と青葉が言うと
 
「ほほぉ」
と感心したような声が上がった。
 
「違法録音防止効果があるな」
 

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政子は11時くらいに起きて「アクアのステージが始まっちゃう!」と騒ぎ、ご飯も食べずに仁恵とふたりで会場に向かったらしい。どうもアクアのことはご飯より優先のようだ。
 
「今日はアクアちゃん、どんな可愛い衣装を着るのかなあ」
 
などと言っていたらしいが、今日のアクアのステージ衣装はダンディ路線であったようだ。前半背広にズボンというビジネスマン風?の服で、西宮ネオンのゲストコーナーをはさんで、後半はサファリルックで野性的な演出をした。最近、アクアの路線が当初の予定を越えて「男の娘疑惑」が出るほど可愛い系に振れすぎたので、このあたりで少し揺り戻しておこうという秋風コスモス社長の指示だったらしい。
 
それでも会場は黄色い声にあふれていて物凄く盛り上がったということであった。幸いにも警備員が苦労するほどの騒ぎは起きなかったものの、あまりにも興奮しすぎて裸になってしまった女の子(さすがに2月の福島の野外は寒いと思う)や、他の客に抱きついたりしていた女の子、感極まったのか泣きわめいていた女の子、走り回っていた女の子など30人ほどが拘束されて会場外に連れ出されたらしかった。
 
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また違法録音対策チームがスマホやアクセサリーに偽装した録音装置などで演奏を録音していた客を20人も捕まえて、データ消去の上念書を書かせたらしい。
 

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15時にスターキッズや伴奏者たちと私、それに風花や氷川さんなどのスタッフと一緒に専用のバスで会場入りする。政子と仁恵、加藤課長や町添部長などとも合流する。
 
「氷川から聞いてるけど、ケイちゃん今回はかなり気合い入っているみたいね」
 
「それですが、今回は直前に交通事情の悪い場所に行くスケジュールを入れてしまって申し訳ありませんでした」
と私は部長に謝っておいた。
 
「うん。まあ間に合ったからOK。あとはステージで全ての答えを出せばいい」
「はい」
 

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30分前、今日のステージ衣装に着替え、メイクをする。伴奏者さんたちや氷川さん、進行役の品川ありさちゃんなどと軽いおしゃべりをしながら気持ちを集中させていく。マリがおやつを食べていないので珍しいなと思ったら、既に★★レコードの奥村照枝さんからドクターストップが掛かっていたらしい。
 
5分前、スターキッズおよび何人かの追加伴奏者がステージに出ていくと歓声があがる。
 
「七星さーん!」
「繁樹さーん!」
などといった声も掛かるので観客席に向かって手を振っている。
 
1分前、進行役の品川ありさが舞台下手端に姿を現すと、その姿を認めたファンから「ありりーん」と声が掛かるので品川ありさは手を振ってから
 
「それではこれより東日本大震災復興支援ライブ《鳥》の部を始めます。ローズ+リリーの登場です!」
 
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拍手と歓声の中、私たちは出て行く。が、私たちの姿を見た観客の中にざわめきが起きる。しかしそのざわめきを消すように『振袖』の前奏が始まるので、それを聞いてみんな手拍子を始めてくれる。
 
和楽器をフィーチャーした曲である。今日は笙を今田七美花、龍笛は青葉が吹いてくれている。
 
そして演奏を始めて1分もしないうちに会場のあちこちで「きゃっ」という小さな悲鳴が起きたようである。それが全員「電源を入れていたスマホ」だったようで、ルール違反ということで全員スタッフ・エリアにご同行願い事情を聞かせてもらった。
 

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さて、ステージ上の私たちは『振袖』の演奏が終わった所で
 
「こんにちはー!ローズ+リリーです」
とふたりで一緒に挨拶する。会場から「こんにちはー」という返事が返ってくる。
 
「今日の衣装、驚かれたと思うのですが」
と私が言うと
 
「高校生になったの?」
という声が会場から響いてくる。
 
私たちは実は私と政子が3年間通った◆◆高校の女子制服(冬服)を着て来ているのである(学校の承認済み)。
 
「普段のコンサートでは毎回衣装を新調しているのですが、今回はその費用も寄付しちゃおうかという話になりまして。衣装をいつも作ってくれているデザイナーさんには悪かったのですが、既存の服で歌おうということにしました。でも過去のステージで使った服は、再利用すると色々問題があるんですよね。大人の事情というか。でも本当の普段着だと、震災で亡くなった方に失礼かなと思い、それで高校の制服を着てみました」
 
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「大学には制服が無かったからね」
とマリが言う。
 
「うん。そうだね。大学の制服があったらそれでも良かったよね」
 
「だけどその女子制服の内側に、唐本というネームが入っていることに私は突っ込みたい」
とマリ。
 
「どうして?私の苗字は唐本だから、そういうネームが入っているのは当然。マリの制服にもちゃんと中田というネームが入っている」
 
「私はこの制服で3年間通学したからね。でもケイも自分の名前が入った制服を持っていたということは、やはり3年間女子制服で通学していたのね?」
 
「私が男子制服で3年間通学したのはマリが見てるでしょ?」
「女子制服の夏服を着ているのは見たことあるんだよねー」
 
「ああ、けいおん!した時だよね」
「でもちゃんと冬服も持っていたということは、やはりいつも女子制服だったんだ?」
「まさか」
「後でケイのお友達に訊いて調査してみよう」
 
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「それでは次の曲は『ダブル』。実はこの曲は某男の子アイドルが某テレビ番組でダブルロール(一人二役)をしているようだな、というので書いた曲だったんですよね」
 
と言うと、大きなざわめきが起きていた。
 
「それ男の子アイドルではなく、男の娘アイドルということは?」
とマリが突っ込んでくる。
 
「いや多分あの子は男の娘ではなくふつうの男の子」
「いや、絶対に普通ではない。あんなに振袖やミニスカが似合う普通の男の子なんてあり得ない」
「まあいいや。では演奏を始めます」
 
多数の楽器を二重化した曲だが、今回は参加者の関係で多少省略している。
 
アコスティックギター:近藤&宮本、ウッドベース:鷹野&酒向、ピアノ:美野里、オルガン:夢美、マリンバ:月丘、フルート:風花&七美花、ヴァイオリン:アスカ&真知子、サックス:七星&青葉。
 
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つまり、ピアノ・オルガン・マリンバを1人にしている。交通費自腹でギャラ無しというのをやってもらえる、ごく身内で、かつ経済的にも余力のある人で固めたのである。実際には真知子ちゃんの交通費宿泊費はアスカが出してあげている。
 

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広い会場に優しいアコスティック楽器の音が響いていくと、観客は手拍子も打たずに聞き惚れてくれていたようである。そして手拍子を打たなかった分、終わった後の拍手は最初の曲の1.5倍くらいあった気がした。
 
その後、再び青葉の龍笛をフィーチャーして『たまご』、七星さん・鷹野さん・宮本さん・夢見もヴァイオリンを持ってヴァイオリン6重奏にして『花園の君』、同じくヴァイオリン6重奏と七美花の篠笛をフィーチャーした『灯海』、ヴァイオリンはアスカ・真知子・夢見の「ハイレベル」な3人に減らして『花の女王』(鷹野さんもかなりハイレベルだがベースの方を弾いてもらった)、そしてやはりアコスティックな世界で『時を戻せるなら』『カントリーソング』、『神様お願い』と演奏すると、『カントリーソング』や『神様お願い』では涙を浮かべている観客がかなり見かけられた。
 
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『カントリーソング』は双葉町で農業をしていた若い夫婦の話に刺激されて書いた作品である。彼らは望郷の思いを胸に秘めながら現在岩手県内に移住して土地を買ってリンゴやブルーベリーなどを生産している。この曲を出した時は震災の半年ほど前に偶然にもUTPの須藤さんが撮影していた双葉町の映像をPVに使用したので、かなりの反響があった曲だ。
 
『神様お願い』は震災の復興を祈るような曲だとして凄まじいダウンロードのあった曲である(実際には沖縄の難病の少女の回復を祈って書いた曲)。震災に絡んでよく取り上げられる曲で、現在でも毎月1000カウント以上のダウンロードがある。ローズ+リリー最大のヒット曲だが、今後もこれ以上のヒット曲は出ないだろう。
 
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ここでいったん私とマリ、伴奏者は下がる。そして今日の進行役をしてくれている品川ありさが自身出てきて、カラオケで自分の持ち歌を歌う。彼女まで自分が通っている高校の制服(もちろん女子制服)を着て出てきたので
 
「可愛い〜!」
という声が掛かっていた。
 
(私やマリには「可愛い」という声は掛かっていなかった!さすがに16歳にはかなわない!)
 

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品川ありさが歌い終わって下がると、それと交代に私とマリ、スターキッズが一緒に出て行き各々の位置に就く。
 
「すごーい!」
という声が掛かる。実は後半、私たちは高校の時の体操服上下で出て行ったのである。
 
「ところでケイ、突っ込みたいことがある」
「何だろう?マリ」
 
「うちの高校の体操服ってほとんど男女共通だよね」
「うん、そうだったね」
「でも2つ男女で違う所があるんだよね」
「そうだったっけ?」
 
「ひとつは今冬用にズボン穿いているから分かりにくいけど、ズボンの下にケイは黒いハーフパンツを穿いたよね」
「うん。マリもハーフパンツを穿いた」
 
「そこが1つの問題で、女子はハーフパンツだけど、男子はショートパンツだったんだよね」
「そうだったっけ?」
 
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「ケイ、高校時代ハーフパンツ穿いてた?」
「うん」
「やはりケイって女子生徒だったんだ?」
「一応高校までは男子生徒してたけどなあ」
「やはりケイが男子高校生だったというのは嘘だという気がしてきた」
「そんなことないと思うけど」
 
「もうひとつ、ネームの刺繍が入っているよね」
「うん」
「ケイの体操服には紺色の糸で唐本というネームが入っている」
「マリの体操服にも紺色で中田というネームが入っているよね」
 
「これ女子は紺色の糸で刺繍が入っていたけど、男子は黒だったんだよね」
「そうだっけ?」
 
「黒色刺繍のネームの入った体操服でショートパンツの男子の中に、紺色刺繍のネームが入った体操服でハーフパンツのケイが1人いたら、随分浮いて見えたはず」
 
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「あ、私、他人から浮いて見えるのは全然気にしないから」
 
「ケイ、高校時代、バスケとかラグビーとかした?」
「バスケはしたけど、ラグビーとサッカーではゴールキーパーしろと言われた」
「ラグビーにゴールキーパーは無いよ!」
「そうだったっけ?」
 
「やはりケイは女子高生しかしていなかったという証拠がどんどん出てくる」
 
こういう話をしている間、会場ではあちこちで苦笑が漏れていた。
 

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夏の日の想い出・分離(11)

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