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■夏の日の想い出・分離(7)

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「そうだ神主さんに挨拶しとかなくちゃ」
と言って、孝郎さんの車は村の神社に向かう。
 
明日の「百日祭」はここの宮司さんが斎主をしてくれるのである。
 
孝郎さんが降りるので私たち5人も何となく付いて行く。社務所に入り、宮司の奥さんがお茶を出してくれたので頂いた。
 
「今宮司は御旅所の方に行っているんですよ。すぐ戻って来ると思いますから」
「奥様は巫女さんもなさるんですか?」
「若い頃はしてたけど、結婚する時に引退したんですよ。祭礼では村の小中学生に巫女さんをお願いしてるんですよ」
「なるほどー」
 
お菓子まで頂いておしゃべりしていたら、10分ほどで宮司さんが戻って来た。作務衣姿なので、何か純粋な作業をしに行っていたのであろう。
 
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「ああ、お待たせしました」
と言って部屋に入ってきたが驚いたような顔をして
 
「あんた何者?」
と言った。
 

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宮司さんの視線の先は千里である。
 
「お邪魔しております。相沢さんがなさっているバンドの関係者です」
と千里は笑顔で答える。
「あんた、凄い巫女だね」
「越谷市のF神社の副巫女長を拝命しております。昨年春までは千葉市L神社の巫女をしておりました。一応巫女歴は12年ほどあります」
 
「さすが。あんたが男だったら、あんたに斎主をしてもらいたいくらいだよ」
「私はただの関係者ですので遠慮しておきます。宮司さま、斎主よろしくお願いします。それに私は今夜発つ予定ですし」
 
「分かった。あれ?あんた最近、子供を産んだよね」
「ええ。それもあって神事はしばらく休ませて頂いているのですが」
 
その会話に和泉と小風が「へ?」という顔をしているが美空はニヤニヤしている。
 
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「でもあんたは子供を産んでもまるで処女のような巫女のパワーを保っている。凄いな」
 
「私が駆け出しの頃、指導してくださった留萌Q神社の巫女長さんは3人の子持ちですが、強い力を持っておられました」
 
「うん。時々、そういう凄い人がいる。うちのとか最初の妊娠できれいにその方面のチャンネルは閉じられてしまったみたいだけどね」
 
「ああ。そういえば私、幽霊見なくなった」
と奥さんは言っていた。
 

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八川集落と奥八川温泉の間の細い道を車は走って旅館に戻る。車内で千里はどこかにメールをしていた。表情から見て彼氏では無さそうなので、桃香にでも連絡しているのかなと私は思った。
 
「なんか雪が強くなってきましたね」
と小風が言う。
 
「うん。天気予報でも今夜大雪と言っていたから明日の朝、除雪が大変かも知れん」
と孝郎さん。
 
「この道の除雪はどうするんですか?」
「旅館で除雪車持ってるから、それでやるよ。作業やってくれる若い衆を念のため今日中にこちらの集落から呼んでおく」
 
「へー」
 
「蘭子ちゃん、何時のに乗るんだっけ?」
「明日27日のお昼すぎにこちらを出て橋本を16:05の電車に乗って関空から飛ぶつもりです」
「この天候なら飛行機飛ばないかも知れないよ」
「その場合は新幹線乗り継ぎでも辿り着けます」
「どっちみち早めに出た方がいいかも知れないなあ」
「そうですね」
 
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「醍醐さんも秋田に行かなければいけないのでは?」
と和泉が心配する。
 
「うん。今矢鳴さんとメール交換していたんだけど、五條市とこちらの間の道路が今一時通行止めになっているらしい」
 
「嘘!?」
 
「警察の人に訊いてみると今日はもう無理だと言われたって。除雪作業は明日の朝からするって」
「え〜〜!?」
 
「仕方ないからとにかく道路が開通するのを待つしかない。矢鳴さんには五條市内で泊まってもらうことにした。私もチームの方に道路通行止めで動けないので、ひょっとしたら明日の試合に間に合わないかも知れないと連絡した」
 
「千里が出場しなかったらやばいんじゃないの?スリーポイント女王でしょ?」
「私は試合には出ないんだよ」
「え?そうなの?」
「チームの一員として同行するだけ。試合に出るためには毎年5月の時点で選手登録されていないといけないから。私は3月まではあくまで40 minutesの選手だよ」
 
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「なるほど」
 
「でも道路が不通なら蘭子もやばいのでは?」
「明日の昼までには開通しますよね?」
「それを祈るしかない。最終連絡は?」
と相沢さんが訊く。
 
「一応28日の朝1番の便に乗れば間に合うことは間に合います」
「27日中には何とか復旧するんじゃないかなあ」
と相沢さんはやや不確かな感じで言った。
 

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私たちが旅館に着いてみると玄関近くに大きなアンテナを乗せたテレビ中継車が停まっている。何だろう?と思いながら玄関を入って行くと、テレビカメラを持った人たちがいた。私たちを見るとひとりの女性が「あっ」という顔をしてマイクを持って駆け寄ってきた。
 
「済みません。もしかしてKARIONさんですか?」
と質問したのは、私も見たことのある関西ローカルのタレントさんである。名前は・・・何だったっけ!? と思ったら和泉がお返事をした。
 
「はい、そうですよ、西風帆奈美ちゃん、ご無沙汰」
と和泉が笑顔で言う。
 
この時、千里は和泉と私が持っていた荷物をさり気なく手に取るとカメラに映らない所に移動した。
 
「わっ、私を覚えてくださってましたか」
「デビューして間もない頃、帆奈美ちゃんの出ておられる番組に出演させて頂きましたね。4人で」
「そうそう。あの時4人のKARIONさんとお話したのに、その後、3人で活動しておられるみたいだったから、蘭子ちゃん辞めちゃったのかなあと思ってたんですよ」
 
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「すみませーん」
と私は謝る。
 
「ところで、蘭子ちゃんとローズ+リリーのケイちゃんは同一人物なのではという疑惑に関しては?」
と彼女は私に質問してくる。
 
「ケイちゃんと私、よく似てると言われるんですよねー。でも他人の空似ですよ」
と私が答えると、小風が呆れたような顔をしていた。
 

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「こちらはご旅行ですか?」
「この旅館の社長が私たちのバックバンド、トラベリング・ベルズのリーダーなんですよ。その縁で訪れたんです」
 
「おお、バンドマン社長ですか!凄いですね。あれ、もしかしてあなたですか?」
と帆奈美は孝郎にマイクを向けた。
 
「ええ。先月社長になりたてですが。ギターを弾くようなパワーで楽しい旅館にしていきますので、よろしく」
と孝郎も笑顔でカメラに向かって答えた。
 
「ところでこれ生中継じゃないよね?」
「生中継です。スタジオさん、いったんお返しします」
 
私も和泉も「嘘!?」という表情をした。
 

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スタジオと切れた後で、帆奈美ちゃんが説明する。離れていた千里もこちらに戻って来る。帆奈美ちゃんは千里を私たちのマネージャーと思ったかなと私は思った。
 
「いや、実は俳優の片原元祐さんがこちらに来て温泉とお料理を楽しむ所をレポートすることになっていたんですよ」
 
「なんて突然出てくる大物の名前」
 
片原元祐さんというのは、昨年夏に関わった歌手の松居夜詩子さんの息子である。つまり作曲家・本坂伸輔の内縁の妻であった里山美祢子さんの弟にも当たる。一昨年に連続歴史ドラマで主役の武田信玄を演じたことから、今特に注目されている俳優のひとりだ。
 
「もしかしてこの雪で遅れておられるんですか?」
 
「そうなんですよ。ここまであと8kmの表示は出ているそうですが」
「割と近い?」
「でもその8kmが時間掛かるみたいで」
 
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「それ国道168号ですよね?168号は通行止めになってませんでした?」
 
「そうなんです。今新たにこの道には入れません。猿谷ダムから風屋ダムの付近が通れなくなっているらしいんですよ。それで車を順次、こちら方面と五條方面とに誘導しているらしくて」
 
「片原さんの車はどちらにおられるんですか?」
「風屋ダムより少しこちら側になるみたいです。ですから多分今日中にはこちらに辿り着くだろうけど何時になるかは分からないと」
 
「ああ・・・」
 
「それで放送ではひたすら『まだ来ておられません』と言っていた所で、KARIONさんのおかげで、助かりました」
 
「通行止めになっいるんだったら、帆奈美ちゃんたちも泊まり?」
「ええ。それは最初から泊まりの予定で来ました。夕食を頂いておられる所をレポートしないといけないから」
 
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「片原さん、夕食に間に合いますかね?」
「夕食の様子は深夜の番組で流すので、それまでに到着してもらえたら。もしその放送時間までにも間に合わなかったら、KARIONさんの食事風景とか撮影できます?」
 
「いいですけど、私たちはあまり豪華な食事は取りませんけど」
と和泉が言ったが
 
「いや、その時は豪華なのを出すよ」
と孝郎さんが言い
「おっ、楽しみにしておこう」
と美空が言った。
 

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結局片原さんは20時くらいに到着したので、私たちは放送用の「豪華な食事」は食べ損ねたものの、孝郎さんが「これサービスね」と言って神戸牛のすき焼きを差し入れてくれたので、美空が大喜びしていた(これを食べている所も撮影された)。このすき焼きはとっても美味しく、神戸牛でもかなりグレードの高いものかなと私は思った。
 
なお、明日の霊祭を取り仕切ることになる神主さんが孝郎さんたちの両親と一緒に、同じ頃、こちらの旅館に入った。明日、集落との間の道路が一時的に使えなくなる可能性もあるとみて今夜の内にこちらに入っておくことにしたらしい。
 

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翌2月27日朝、私たち(取り敢えず私と千里と和泉と花恋)は6時半頃、目覚めた。空調が切れているようで寒い。スイッチを入れようとしたが点かない。何だか薄暗いので、灯りをつけようとしたものの、それも点かない。
 
「停電かな?」
「ちょっと聞いてきます」
と言って花恋が部屋を出て行く。そして10分ほどで海香と一緒に戻って来た。
 
「すみません。雪のせいで電線が切れてしまったようで全館停電しています」
「あらら」
 
「電話の線も切れているみたいで、携帯もダメみたいですね。今ストーブを用意させている所ですが、電気の復旧までどのくらい掛かるか今の段階では分からないので、できるだけストーブを置く部屋の数を節約したいんです。良かったら、一部屋に集まってもらえないかと思って」
 
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「じゃ私たちが男部屋の方に移動した方がいいね」
「すみません」
 

小風と美空を起こして、取り敢えず身の回りのものだけ持って社長や黒木さんたちが泊まっている部屋に移動する。
 
「でも外を見たら凄い雪ですね」
 
「積雪が1mを越してますね。このあたりでもさすがにこんな雪は久しぶりに見ました」
と海香さん。
 
「時々あるんですか?」
「私が子供の頃以来ですよ」
「きゃー」
 
「テレビとかネットとかも使えないし、ここ電波が弱くてラジオも入らないんですよね。ケーブルテレビ頼りだったんだけど、電気が来てないとそれも話にならなくて。携帯も使えないから情報がよく分からないんですが、ともかくも全国的に凄まじい雪のようです」
 
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「わぁ」
 
「道路はどうですか?」
「放送局のスタッフさんたちが、本局と通信衛星経由で連絡が取れるのでそちらから情報を頂いているのですが、奈良県南部は交通網があちこちで寸断しているようです」
 

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夏の日の想い出・分離(7)

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