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■春虎(11)

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19時頃青葉は目を覚ます。青葉が起きると千里姉も起きる。続いて明恵も起きるが真珠は眠っているので、とりあえず寝せておく。千里が“暖かい”お弁当を配る。今更この程度では驚かないからね!明恵は恐らく千里が眷属に買って来させたのだろうと推察しているようだが、初海は「あれ?」という顔をしていた。
 
「そろそろ出掛けようか」
と20時頃、青葉は言った。
 
それで真珠を起こす。千里姉が“暖かい”ハンバーガーを渡すので食べていた。それで初海はお留守番(寝ている)をして、明恵・真珠・千里・青葉の4人で出掛けた。
 

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コロナが(一時的に?)落ち着いているので、商店街も人が多い。多くはどこかのスナックで飲んで帰る客、あるいはこれから更に飲む客か。
 
青葉・千里・明恵の3人が歩いている所を真珠が撮影している。
 
バッタリと遙佳およびお父さん?に遭遇する。
 
「取材ですか?」
と遙佳が声を掛ける。
「うん。君も来る?」
と真珠が言う。
「行きたーい」
と言って父親を見る。
 
「テレビ局の方ですか?」
とお父さんが訊く。
「はい、そうです。帰りは御自宅まで送り届けますよ」
と言って、真珠が
《〒〒テレビ アシスタント・ディレクター 伊勢真珠》
の名刺を渡した。
 
「じゃ10時までなら」
「やった」
「ではお預かりします」
 
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「お店を手伝ってたの?」
と真珠が訊く。
 
「はい。パートさんが休んで手が足りないからと言われて。時給500円で」
「最低賃金以下だ」
「ですよねー。レストランは“妹”のほうが興味あるみたいで、土日はよくお手伝いしてるんですけど、この時間帯に中学生は使えないからと言われて」
 
「まあ中学生以下はそもそも仕事をさせてはいけないのだけどね」
 

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「何すんだ?放せ」
という大きな声がする。
 
見ると50歳くらいの男性が暴れていて、警官2人に取り押さえられている。
 
「ああ、大虎だ」
 
見て居る内に、男はパトカーに乗せられて運ばれて行った。
 
「警察も毎晩虎狩りたいへんだなあ」
と遙佳。
 
「あれ?『インドの虎狩り』とかいう曲無かったですか?」
と明恵が訊く。
 
「なんか聞いたことのある曲名だね。ブラームスか誰かだっけ?」
などと青葉が言っている。
 
「違うよ。それは『セロ弾きのゴーシュ』の中で出て来た架空の曲名だよ」
と千里。
 
「え〜〜〜!?」
「そうか。あの曲か」
 
明恵が真珠に気付く。
「もしかして今の撮してた?」
「当然。このまま放送に流すね」
「うっそー!?」
 
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「金沢ドイルさんが楽しい人だというのが分かる」
などと真珠は言っている。
 

「ただ、本来は架空の曲名だったんだけど、この話に刺激されて、何人もの作曲家が実際に『インドの虎狩り』という曲を書いている」
と千里は楽しそうに言う。
 
「じゃ何曲もあるんですか」
と遙佳が尋ねる。
 
「そう。多分10曲くらいはあると思う。全部まとめたアルバムでも作って欲しいね」
「へー」
「ここで大宮万葉さんも1曲書いてみよう」
「やだ」
 
「でも何で酔っ払いのことを虎というんですかね」
と明恵は訊いた。
 
「まあ立てなくなって四つ足で歩くし、手を付けられないし」
「猛獣ということですか」
 
「姿勢が定まらなくて首を振るようにする様子が張り子の虎に似ているという説もある」
「確かに張り子の虎かも知れない。偉そうにしてるけど大したことない」
 
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「他に、お酒のこと“ささ”とも言うでしょ。虎が居るのは竹林だよ」
と千里は言った。
 
「結局ダジャレか」
と青葉。
 
「そうそう。世の中の25%はダジャレで出来ている」
「そうかも」

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千里による“虎”の語源説明まで撮影してから更に歩いて行く。
 
それで青葉・千里が先を行き、明恵と遙佳がそれに続く様子を真珠が撮影する。
 
青葉がある交差点で立ち止まった。
 
「ここに居たね」
「うん。30分くらい前かな」
 
と青葉と千里が会話している。むろん、その会話も真珠は撮影している。明恵や遙佳には分からないようだ。恐らく気配が凄く小さいのだろう。
 
「どっちから来てどっちに行ったと思う?」
「こっちから、あっちへかな」
と青葉が指さす。
 
「どっちに行く?」
「もちろん来た方角」
 
ということで、青葉と千里はある方角へ進む。
 
交差点に来る度に青葉は少し考えるものの、だいたい2〜3秒見回すとひとつの方角に進んでいく。千里もその方角が分かるようで、2人はほぼ同時に歩き出す。明恵と遙佳がそれに付いていき、真珠がそんな4人の様子を撮影する。
 
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遙佳が虎に遭遇した交差点にも来た。ここは虎さんの散歩道なのかも知れない。青葉と千里が進んだ方向は、あの時、明恵が見ていた方向だと真珠は思った。きっとあの時点では明恵も確信が持てなかったのだろう。
 
5人の行程は10分ほど続いた(そもそもあまり広い街ではない)。
 

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青葉と千里はある店の前で停まった。
 
「ここだね」
「うん。ここだ」
と2人は言っている。
 
「ここは・・・・・」
と明恵が驚いたような顔をしている。撮影している真珠も驚いている。
 
「知ってるお店?」
「『いしかわ・いこかな』のプロデューサーを退任して退職した桜坂さんのお店です。亡くなったお父さんが経営していたもので、改装して4月中にリニューアルオープンするとかで、今改装工事中なんですよ」
 
「へー!」
 
「ねえ、明恵ちゃん、ここのお店の名前は分かる?看板の所にブルーシート掛けてあって、見えないんだけど」
「すみません。私も聞いてません」
と明恵は言った。
 
「明日、出直してこようか。こんな時間に連絡するのも気の毒だし」
と千里が言う。
「そだね」
と青葉も言った。
 
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それでこの日はここで打ち切ろうかと言っていたのである。
 

「あ」
と最初に小さな声を挙げたのは遙佳であった。明恵も何かを見て驚いている。
 
青葉と千里が厳しい目をしている。千里は身構えている。
 
真珠は何も見えないので困っている!
 
「まこ、カメラ貸して」
と言って、明恵がカメラを“それ”に向ける。
 
“白い虎”は、ゆっくりとこの店の駐車場を歩いて行く。明恵はカメラを向けているがライトは点けない。街灯の明かりと星明かりだけで撮している(この日は旧暦2/29で月も出ていない)。明恵はライトを点けてしまうと、虎の姿はライトに負けて消えてしまうと思い、敢えてノーライトで撮影を続けた。
 
虎は一瞬こちらに目を向け、ニコッと笑いかけた気がした。向こうに敵意が無いと判断して、千里は警戒態勢を解いた(結果的に虎は命拾いした)。
 
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そして虎は小走りに店の方へ進むとジャンプして、ブルーシートが掛けられたお店の看板の中に飛び込んだ。それで明恵が持つカメラも最後はそのブルーシートの掛かった看板を撮すことになった。
 
「本物が見られたのは良かった」
と青葉。
 
「これで虎の居場所が間違い無くここだと分かった」
と千里。
 
「何か可愛い虎でしたね。女の子かなあ」
と明恵。
 
「あの子、私に向かって微笑んだ気がした」
と遙佳。
 
「何も見えなかったぁ!」
と真珠。
 
果たしてビデオに映ったかどうかは微妙だなと青葉は思った。
 
これが21時半頃であった。真珠はタクシーを呼び止め、遙佳と2人で乗って彼女の家まで送り届けた。玄関の所まで出て来たお母さんに挨拶して、遙佳を引き渡し、真珠はそのタクシーでホテルに戻った。
 
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ほどなく、青葉たちもホテルに戻って来た。
 

翌日(4/1 Fri)、朝食を食べた後で、朝9時、真珠は桜坂さんに電話して、気になることがあるので、再度お店を取材させてくれないかと頼んだ。桜坂さんは快諾し、9時半にお店の前で待ち合わせた。
 
青葉たちは、車が必要になるかもということで、近距離ではあるがCX-5に乗って現場に入った。桜坂さんは9:25頃にやってきた。
 
「これは金沢ドイルさん!ご無沙汰してます」
「こちらこそご無沙汰してます」
 
青葉は言った。
「桜坂さん、このお店の名前は何ですか?」
「“海鮮割烹・琥珀”です」
 
※この物語はフィクションであり、実在の商店や団体とは無関係です。
 

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青葉と千里が頷いているが、明恵と真珠は分からない。
 
「桜坂さん、恐れ入りますが、そのお店の看板の所に掛けてあるブルーシートを外して頂きませんでしょうか?」
「いいですよ」
 
それで桜坂さんは、従業員の井原さんを呼び出して、2人で長梯子を使って上に登り、ブルーシートを外してくれた。真珠はこれを“撮影しなかった”。ただ、自分の目で見ていたが、井原さんが妙に影が薄い気がした。
 
看板があらわになる。
 
“琥珀”の文字の各左側が脱落していた。

 
“琥珀”の王偏が脱落しているため“虎白”に見えるのである。
 
「桜坂さん、お願いがあるのですが」
と青葉は言った。
 
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「はい」
 
「うちで修理の費用も出しますので、この看板を早急に直して頂けないでしょうか」
「費用もそちらで出すって、何か大事なことなんですか?」
 
「桜坂さんに見て頂きたいビデオがあります」
と言って、真珠が背中にしょっているリュックからパソコンを取り出す。
 
「日なたではよく見えない。どこか日影になる所ないかな」
「でしたらお店の中で」
 
それでお店に中に全員入る。灯りも消してもらう。真珠がパソコンを操作する。
 
「私には見えなかったんですが、ビデオには映っていたんですよ」
と真珠は言って、昨夜明恵が撮影したビデオを再生する。
 
ここで再生しているビデオはオリジナルではなく、昨夜撮影したものから、コントラストを上げたものである。元の状態では暗闇が映っているだけだった。コントラストを上げることで、ざらついた感じにはなったものの“白い物体”が真珠にも見えるようになった。
 
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ここのお店が映っている。カメラが切り替わって道路側を映す。そこに何か白いものが微かに見える。それがこちらに移動してくる。カメラの方を見て一瞬立ち止まる。その後、急に動いて飛び上がり、白い物体はお店のブルーシートが掛けられた看板に飛び込んで消えた。
 
「確かに虎でした」
と青くなっている桜坂さんが言う。
 
真珠や初海には、ただの白い物体にしか見えないのだが、青葉・千里には明確に虎に見えるらしい。明恵や、今朝ホテルまでわざわざやってきた遙佳(現在はホテルで待機中)にも“虎っぽく”見えるらしい。桜坂さんも虎に見えたようである。どうも見え方には個人差があるようだ。
 

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