【夏の日の想い出・いろはに金平糖】(7)

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その日、門脇真悠(大崎忍)の北区のマンションに妹(元弟)の瀬那が訪ねてきた。
 
「どうしたの?」
「ちょっと相談したいことがあって」
「うん」
と言って、部屋に上げる。
 
「お姉ちゃん、ぼくのお股を見て欲しいんだけど」
「は?」
「最近ちんちんが見付からなくて」
「はぁ?」
 
それで瀬那はスカートをめくり、パンティを脱いで、お股を露出した。
 
「うーん・・・・・」
 
真悠は
「ちょっと触るね」
と言って、使い捨てのビニール手袋を付けると、瀬那のお股を触った。
 
2〜3分触っていたが、やがて真悠は言った。
 
「ちんちんは無くなってる気がする」
「やはり」
「皮膚の中に埋没して外に出る部分が無くなってしまったんだと思う」
「そんな気がしてた」
「おしっこはどうしてるの?」
「自分でもよく分からないけど、この付近からにじみ出てくるから、おしっこした後、拭くのが結構大変で。どうしても拭きもれが起きるからパンティライナーが欠かせない」
「ああ」
 
「これどうしよう?」
「実害が無ければそのまま放置しててもいいけど、夏休みくらいに病院で手術してもらったら?」
「手術してどうするの?」
「ちゃんと大陰唇・小陰唇作ってもらえばいいんだよ。そして尿道口はその中に開口させる。そしたらおしっこの後拭くのも楽になる」
 
「そこまでしたらもうほとんど女の子という気が」
「というか、お前既に女の子になってしまってると思うけど」
 
「え〜!?」
「もう既に女の子になっているから、女の子として不完全な部分をきちんと整形するだけの手術だよ」
 
「ちょっと心の準備が」
「高校進学前に手術しちゃったら?手術代くらい出してあげるからさ」
 
瀬那は4月から中学3年生になる。既に2年近く、女生徒として学校に通っている。
 
「どうしよう?」
と瀬那はまだ迷っているようであった。
 

青葉は1月24日に高岡に戻るつもりだったのだが、そこに『ミュージシャン・アルバム』という新たな仕事が発生して3日間、留め置かれた。更に
 
「大宮先生、ぜひお願いしたいことがあるんですけど」
とコスモスから言われた。しかし青葉は
 
「向こうのテレビ局にも顔を出さないといけないので」
と言って、やや強引に1月27日(木)、Honda-Jetで能登空港に飛んだ。
 
能登空港には母が迎えに来てくれることになっていたのだが、来ていたのは真珠である!
 
「助かった。青葉さん、お帰りなさい。お待ちしてました。霊界探訪の3月放送分を何とかしないといけないんです。取り敢えずテレビ局に来て下さい」
と言われ、そのまま金沢の〒〒テレビに連行された!
 
そして「これなら浦和に居たほうが良かったかも」と思うことになるのである!
 

2月12日(土).
 
月乃梓(月乃岬=東雲はるこの姉)は、受験していた金沢市内G大学の合格発表があるので、大学のサイトにつないでみた。受験番号を入力すると自分の氏名と「合格」の表示がある。国立の試験はこれからではあるが、あまり合格できる気がしないので、ここでいいかなあと思った。
 
妹に「G大学合格したぁ。学費頼める?」とメールしたら、夕方くらいになって「取り敢えず郵便局の口座に250万送った」というメールが来ている。スマホで口座を確認すると残高が凄い金額になっているので「目の保養」と思い、取り敢えずスクリーンショットを撮った!
 
月曜日に母に郵便局まで付いてきてもらい、大学から送られてくる筈の納付書を使って納入することにした。
 

2月12日(土).
 
地方信濃町ガールズの本部生への昇格試験を実施した。
 
最初に辞めると言い出した太田芳絵は結局活動を続けることになったものの、2月頭時点で、3月いっぱいでの退団を申し出ている子がA契約の3名とB契約の4名で合計7名おり、何人かは撤回するかも知れないが、半分くらいは本当に退団するかも知れない。現時点でもかなり人手不足になっていることを考えて、今回は8名程度昇格させる方針で臨んだ。
 
秋の臨時昇格オーディションで即昇格とはしなかった3名は本人が希望すれば無審査で昇格させることにし、各々に連絡してみた。すると3人の内2人が昇格を希望した。もう1人は別の事務所のオーディションを受けて合格したらしい。事務連絡をしていた佐々木春夏は「おめでとう。頑張ってね」と励ましておいた。
 
これで2人昇格するので、残り6名程度を一般試験で昇格させることになる。
 
昇格試験の受験資格は、小6〜中3の女子(2006.4.2-2010.4.1生、つまり4月から中1〜高1になる女子)で、日本語を使えること!、と日本で労働する資格を有する人(外国人の場合は実際問題として永住資格が必要)という条件である。事前に親権者の芸能活動許可証の提出が必要である。
 
事前に提出してもらったビデオによる予備審査を通過したのは下記13名である。
 
北海道1・東北1・関東3・北陸1・東海1・関西2・中国1・四国1・九州1・沖縄1
 
私たちはビデオ審査の段階で、地方ガールズの水準が非常に高くなっていることを感じた。こちらで期待していた水準に到達している子は20名以上居たのだが、6名程度しか昇格させないのにたくさん呼んでも仕方ないので、ビデオ審査段階で昇格予定人数の倍程度まで絞ったのである。ただし各支部から最低1名は呼ぶことにした(全員“最低水準”は越えている)。これは中央のレベルを各支部に伝えて欲しいからである。
 

受験生は、2/10 木曜日の夜までに、親権者を必ず含む家族または友人(1人につき最大2名)と一緒に最寄りの空港まで来てもらい、感染検査の上で近くのホテルに泊めた。そして2月11日(金祝)、各地に飛行機を飛ばして熊谷に連れて来た。
 
Tiger 稚内→庄内→熊谷
silver 出雲→小松→熊谷
Yellow 徳島→小牧→熊谷
Blue 那覇→宮崎→熊谷
Red 小浜→熊谷
 
(Orangeは常滑舞音が使用中!)
 
関西の2人は舞鶴(京都府)と丹波市(兵庫県)で、いづれも伊丹より小浜が近かったので、そちらから連れてきた。実はこの2人は昨年8月16日のアクアライブにも参加していた。あの時は大阪に緊急事態宣言、京都・兵庫にまん延防止等重点措置(16日付けで緊急事態宣言に切り換え)が発令されていたこともあり、近畿圏からは呼ばない方針だったのだが、小浜にごく近い地域に住んでいるメンバー5人を特別に呼んでいた。実は福井と山陰のメンバーだけではレベルに少し問題があったためである。一応政府の要請に従い、簡易検査キットではなくPCR検査で陰性確認している。その時の5人の内の2人が今回予備審査にパスして本選に参加することになった。
 
関東の3名は車で連れてくるつもりだったが、実際には3人とも保護者の車で熊谷までやってきた。
 
この13名+家族等はホテル赤城に泊め、土曜日の朝、再度感染検査をして陰性確認してから試験に参加してもらった。
 

今回の昇格試験では、様々な才能を確認するため、秋の臨時昇格試験に準じて次のようなテストを課した。
 
・クイズ大会!
・朗読テスト
・トークテスト
・演技テスト
・ダンステスト
・歌唱テスト
 
例によって、クイズ大会(司会:川崎ゆりこ、アシスタント:三田雪代)は「正しくなくてもいいから面白い回答をする」ことを要求した。これはみんな試験だということを忘れて楽しんでいた。
 
朗読テストは、その場で渡した原稿(近代小説の一部)を朗読する。感情を込めて自然に聞こえるように読めることを第一とした(棒読みはアウト)。多少の読み間違いや噛むのは、減点はするものの大きな問題とはしない。読めない漢字の所などで詰まって止まってしまうのや、やり直しは(やり直したのが余程うまくない限り)アウトである。読めない漢字は適当に読んでしまうのが推奨。実際ニュース原稿を読む時に、停まってしまっては困るのである。
 
鼻濁音については、使っても使わなくてもよい!NHKのアナウンサーは鼻濁音が発音できないとアウトらしいが、§§ミュージックでは鼻濁音は東日本方言にすぎないと考えている。実際、参加者中で鼻濁音を使ったのは2名にすぎなかった。(元々厳格な鼻濁音使用の規則を持っていたはずの東京方言でも、若い人の中には使わない人が増えているという報告もある)
 
トークテストでは、与えられた2つのテーマを含んだ話を即興で作って指定された時間のトークをする。Aで始まってBで終わるのが理想だが、面白い話をしていれば良しとした。
 
演技テストは「オリンピックで転んだけど金メダルを取った」とか「彼氏にアタックしたけど玉砕した」とか「先生に叱られて残されたが偶然帰りが彼氏と一緒になった」などといった、指定されたシチュエーションをパントマイムで演じるというもの。
 
この3つは各々個室に呼んで行う。審査員を3部屋に分けて流れ作業方式で行った。
 
この後、昼食タイムとなり、各自の部屋でお弁当を食べるが、例によってこれを隠しカメラでモニターし、“審査員の見ていない所で”変な言動をしている子は悪いが落とさせてもらう。そういう子を合格させると他の子への影響も甚大である。今回はそういう問題のある子は居なかった。
 
食事後少し休憩をとってからダンステストになる。
 
ロックギャルコンテストでやっていたのと同様、レオタードになってもらい、ひとつのフロアに全員を入れて先生(ジュン広多)のお手本を見せ、練習時間を少し与えた後で、再度先生が踊るのに合わせて踊るというものである。
 
歌唱テストは、未発表の楽曲の譜面を渡して、みんなが見ている前で初見歌唱するものである。前の人が歌い出した所で譜面を渡され、その人が歌っている間に譜読みし、前の人が歌い終わったらすぐステージに立って歌わなければならない。最初に花咲ロンドが1曲歌い、最初の受験生はロンドが歌い始めた所で譜面が渡される。伴奏は信濃町バンドのピアニストとキーボーディストを2人ずつ連れてきており、交替で伴奏した。キーボードがフルート音でメロディーを弾くので、音程が怪しい時は、それに合わせることができる。
 
生伴奏なので、テンポは歌唱者に合わせてくれるが、歌い出しのタイミングなどはある程度譜面が読めてないと分からない可能性がある。実際例年これで歌い出しが分からなくて失敗する子がいる。今回も出だしに失敗した子が1人いた。一方、譜面と全く違ったメロディーで堂々と最後まで自信ありげに歌った子が居て、多くの審査員がハイスコアを付けた。
 

審査の間、全員を別室で待機させた。そして上位の人から呼び出して6名まで合格を告げ、その場で契約書にサインしてもらうことにする。上位6人は下記であった。
 
1.東海林椿希 山形県酒田市 中2
2.長岡飛鳥 島根県雲南市 中2
3.藤真理奈 宮崎県都城市 中3
4.鳴田あゆな 愛知県碧南市 中1
5.杉本ひかり 兵庫県丹波市 小6
6.糸川穂美 福井県越前町 中1
 
最初に山形県の東海林椿希(とうかいりん・つばき)ちゃんを呼び出す。
 
「“しょうじ”じゃなくて“とうかいりん”なのね」
と川崎ゆりこが確認する。
 
「そうなんです。東海林クレアさんとか、東海林愛美さんとか“しょうじ”と読む有名人がいるから、この苗字見ると『しょうじさんでしょ?難しい読み方するよね』と言われるんですけど、この苗字の本家筋は、そのまま“とうかいりん”と読むんですよ。“しょうじ”は秋田から広まった傍系なんですよね」
と本人は言っている。
 
この子はひじょうに歌がうまく、将来の歌手デビュー候補生だと思った。家族は下に弟と妹が1人ずついるらしい。付き添いはお母さんと叔母さんであったが、電話でお父さんとも連絡を取った上で、お母さんが契約書にサインした。
 

次に呼び出したのが島根県から来た長岡飛鳥(ながおか・あすか)ちゃんである。彼女は秋に信濃町ガールズに入ったばかりである。カウントダウンライブにも参加していたが、ちょっと目立つ子だなと思っていた。存在感の大きな子である。歌はそこそこだが、ダンスが物凄く上手い。演技や朗読もうまかったし、トークも面白い話を組み立ててくれた。機転のきく子だなと思った。
 
あけぼのテレビの運用中心に使いたいと考えていると言ったが、本人はぜひやりたいと言い、付いてきている両親も承諾した。それでサインした。
 
「そういえぱ“飛鳥(あすか)”という名前には何かいわれはあるんですか」
と私は何気なく訊いた。
 
お父さんが答える。
「私は視力が落ちて地上勤務になってしまいましたが、20年ほど航空自衛隊のパイロットをしていて、この子にもできたらパイロットになって欲しいなあと思って、大空を飛び回る鳥のように逞しい男になってほしいと思って飛鳥と付けたんですよ」
 
「逞しい男?」
とコスモスが戸惑うように言う。
 
川崎ゆりこが噴き出している。
 
「でもこいつ運動がからきし苦手で。運動会はいつもビリだし。野球のグローブ買ってやっても全く使わないし。結局ダンスならと言うからダンス教室に通わせていたんですが、そのダンス注目してもらえるとは思わなかった」
 
私は頭を抱えた。
 
「あのお、飛鳥さんってお嬢さんですよね?」
「え?男ですけど。ああ、でもこいつよく女に間違われるんですよ。背が低いからだと思うんですけど」
 
「あのぉ、これは女の子のタレント候補生を選ぶオーディションなんですけど」
「え〜〜〜!?」
 

私たちは、応募要項を示して、応募資格は小6から中3までの女子であったことを説明した。お父さんは気付かなかった!と言っていたが、どうも本人は確信犯(誤用)っぽい。それにカウントダウンの時はスカート穿いてたじゃん!今穿いてるボトムもキュロットに見えるんだけど!?
 
「そしたらどうしましょうか?性転換させる訳にもいかないし」
「うちは若干、男の子のタレント候補生もいますし、ダンスの上手さ、それにトークや演技の上手さは際立っています。もしよかったら、このまま男の子のタレント候補生ということにしましょうか」
と私は言った。
 
「ああ、男でもいいんでしたら、ぜひお願いします」
とお父さんが言うので、そのまま契約を活かすことにした。
 
契約書に「結婚するまではできるだけ妊娠しないようにすること」「妊娠したらすぐ報せること」という文面があるけど・・・まあいいよね!
 
お母さんは少し考えていたようだったが、やがて言った。
 
「それともあんた性転換して女の子タレントを目指す?」
「性転換もいいなあ。ぼく小さい頃、よく男の子にするのもったいないとか言われてたし」
と本人。
 
ああ、やはりそちら系統の子か。
 
「女の子の友だちとばかり遊んでたしね」
「ぼくが好きな遊びが女の子の遊びだっただけだけどね」
 
「まあ、お前ならいっそ女になってもいいかも知れんな」
 
とお父さんも言っているので、どうもこの子は振袖着て成人式をあげることになりそうだなと私は思った。だいたい中学2年の3学期の時点で、まだ声変わりしてないというのは、女性ホルモンを飲んでいる疑いがある。東京に出て来て一人暮らし始めたら、きっとほぼ女装生活になるかも。
 

飛鳥ちゃんたちが退出した後、私たちは話し合い、男の子が1人混じっていたので7位の子まで合格させることにした。
 
飛鳥ちゃんの次に呼び出したのは宮崎から来た藤真理奈ちゃんである。今回の合格者の中で唯一の中3である。中3ということは、4月からは高校生ということであり、教育時間がほとんど取れない。しかし彼女は総合力の高い即戦力タイプだった。
 
歌もお芝居もトークもうまい。ダンスがやや劣るものの、§§ミュージックではダンスは必ずしも重視しないので大きな問題は無い。彼女はパンツルックである。事前にスカートではなくパンツで参加したいという希望があり、私たちは事情を聞いて許可していた。
 
実は、小学生の時に交通事故に遭って足にわりと目立つ傷が残っているらしい。
 
「でもアクアさんが堂々とお腹の手術跡を曝しているので勇気が持てました」
と言っていた。
 
川崎ゆりこは
「信濃町ガールズの制服にはスカートだけじゃなくてパンツもあるし、君は信濃町ガールズに入っても、ロングパンツ穿いてていいよ」
と言ったので、ホッとしているようだった。
 
(普通の芸能事務所だと適当な理由を付けて落とされるかも)
 
彼女も当面、あけぼのテレビ中心に使いたいと言い、それで契約した。
 

4位の鳴田あゆなちゃんは特に大きな問題も無くスムーズに契約した。この子は歌自体はうまかったが、楽譜が読めないらしい。それで歌唱テストでは独自のメロディーで歌ったということだった。しかしその独自のメロディーで歌った歌がとても上手かったので彼女は合格とした。
 
楽譜の読み方については今後勉強しますと言っていた。
 
そして5位の杉本ひかりちゃん(小6)なのだが・・・
 
この子も男の子であったことが判明した!
 
「え!?君男の子なの!?」
「そうですけど」
「このオーディションの参加資格は小6から中3までの女子だったんだけど」
「え〜〜!?」
と本人も両親も驚いていた。
 
「夏のビデオガールコンテストは女子だけだけど、昇格試験は男子も応募できると思い込んでました」
と本人は言っている。
 
川崎ゆりこが超楽しそうである。
 
「それに、信濃町ガールズ本部生には結構男子もいるし、立山煌君が先月デビューしたし」
と本人。
 
「そうだよね。もう今度から昇格試験は男の子でもいいことにしようよ」
と川崎ゆりこは、おかしさをこらえきれないように言っている。
 
むろん彼も男子のタレント候補生として受け入れることにした。
 
「でも今穿いてるの、それキュロットなのでは?」
「え?これショートパンツですけど」
 
そうか?ショートパンツにしては裙が広がりすぎてる気がするけど。
 
「それに君、8月のアクアライブに参加した時はスカートのユニフォーム着てなかったっけ?」
 
「あれみんなに乗せられちゃってスカート穿いたんですよね〜」
 
ああ。その手の話は信濃町ガールズではよくある話だ!
 
「じゃふだんはスカート穿いたりしないの?」
「時々穿いてますよ」
「女の子になりたい男の子だっけ?」
「別に女の子になりたい気持ちは無いです」
「でもスカートは穿くんだ?」
 
「上が姉2人なんで、姉たちと同じような服装がしたくて、小さい頃からよくスカート穿いてました。だから今でもスカート穿くことには抵抗ないし、実際自分用のスカート何着か持ってますけど、ぼく自身としては、スカートは女の子だけのものという意識があまり無いんです。普通の普段着という感じですね。夏の間はわりと穿いてます。冬は寒いからパンツだけど。学校にスカートで行くこともあるけど、ぼくは普通の男の子のつもりです。友だちも男の子・女の子、半々くらいですね」
 
「君恋愛対象は?」
「女の子が好きですよ。女の子からバレンタインもらっちゃったりするし」
 
この子なら、バレンタインたくさん来そうだ、と私は思った。
 
彼は
「応募要項ちゃんと読んでなくてごめんなさい」
と謝っていた。
 

ひかりちゃんたちが退出した後で私たちは今回の合格人数について再度話し合ったが、さすがに8人合格させるのは多すぎるので7人までにしようということにした。
 
また、私たちは本気で、今後昇格試験では男の子でもいいことにしようかと少し話し合った(次回までの検討課題とする)。
 
そして残り2人を呼び出して合格を告げた。
 
6位の糸川穂美ちゃんと、7位の隅田可愛ちゃんである。糸川ちゃんは昨年のアクアライブで、バックダンサーのリーダーを務めた子である。彼女のダンスをジュン広多さんは絶賛していた。
 
隅田ちゃんは、上位に男子の合格者がいたことから繰り上げ合格となった形だが、こういう子が意外と伸びるかもよ、とジュン広多さんは言った。千里も頷いていたので、ひょっとするとひょっとするかも知れない。
 

7位までの子と契約した後、残りの6人も呼び出して、残念ながら不合格であったことを伝えるとともに、どこに問題があったかを丁寧に説明して、再起を促し励ました。多くの子が泣いていたものの、「また頑張ります」と言ってくれた。恐らくこの子たちは夏のビデオガール・コンテストにも出てくるだろう。
 
そういう訳で今回合格者は下記9名であった(*は秋の昇格試験で見送りになっていた子)。
 
1.東海林椿希 山形県酒田市 中2
2.長岡飛鳥 島根県雲南市 中2
3.藤真理奈 宮崎県都城市 中3
4.鳴田あゆな 愛知県碧南市 中1
5.杉本ひかり 兵庫県丹波市 小6
6.糸川穂美 福井県越前町 中1
7.隅田可愛 東京都豊島区 小6
 
*小野寺雪 北海道北斗市 中1
*石田一絵 佐賀県有田町 中1
 
彼女たちは原則として、今年度の3学期が終わった所で女子寮に引っ越して来てもらい学校も転校してもらうことになる。小6の2人は進学先の中学が変わるので、至急各々の学校と調整してもらうことになった。
 
制服をすぐにも注文しなければならないので、佐々木春夏に頼んで、2人とも即採寸し、足立区の公立中学の制服を作っている業者に特急で注文を入れた(2人とも卒業式で着たいだろうから)。他の7人の制服も4月には間に合うようにする。
 

受け入れ先だが、男子の2人は男子寮に、残りの7人は女子寮のA棟3階に入れることにした。
 
11月の大移動でA棟の2-3Fは完全に空けてある。そして昇格試験の合格者のためにA3階の8部屋には既に机・本棚・洗濯機・冷蔵庫・テレビ・電子レンジといった大物の家具・家電品は入れてある。
 
合格者の中で、豊島区の隅田可愛ちゃんは、女子寮から現在の小学校に通学が可能なので、いつでも引っ越して来ていいよと言ったら
 
「今日引っ越してもいいですか?」
と本人が言うので、許可することにした。それで本人は今日、女子寮に入居することになった。コスモスは花ちゃんに連絡して部屋の準備をしてもらうことにした。花ちゃんは
 
「既にA3階は全部屋とも机や本棚に冷蔵庫・洗濯機なども入れてありますから、寝具とかだけ運び込ませますね」
 
と答えた。ちょうどうまい具合に研修所に来ていたセレン・クロム・さくらの3人に、電気ケトル・オーブントースター・掃除機などに寝具も搬入してもらった。電源コードとアースもクロムが繋いでくれたので、もう即入れる状態になる。
 

実際、隅田さんは夕方には両親および2人のお姉さんと一緒に女子寮に来て、着換えや食器・おやつ!に教科書・ノートなどの類いを部屋に入れた。
 
「きれいにしてるし、わりと広いですね」
とお父さんは感心していた。
 
「建ててから6年経ってるんですけどね。まあ女の子たちはあまり部屋を汚さないから」
と花ちゃんは言う。
 
「ああ、男の子だとわりと破壊されますよね」
「知り合いに男の子3人の家がありますけど、破壊力が凄いみたいです」
「何となく想像が付く」
 
それで、細かい雑貨とかを100円ショップやホームセンターで買ってこようと言って、家族と一緒に1階まで降りて車の方に行こうとしていたら、そこに太田芳絵と斎藤恵梨香が外から戻ってきた。
 
「あら、隅田可愛ちゃんだったね」
と太田芳絵が声を掛ける
 
「おはようございます、太田先輩、斎藤先輩。本日の昇格試験に合格して信濃町ガールズ本部生に入れてもらうことになりました」
 
「おめでとう!よかったね!」
「はい。先輩にサイン書いて頂いたおかげです」
 

恵梨香が首を傾げているので、芳絵は先日偶然路上で遭遇してサインを渡したということを説明した。恵梨香はそれを聞いて、芳絵が退団を思い留まったのは、この子のお陰かもと思った。
 
自分を応援してくれる人のメッセージは私たちの心の支えだ。
 
「でも可愛ちゃん、信濃町ガールズでは“先輩”とか“後輩”は無いんだよ。信濃町ガールズは1番・2番とは数えない。1人・2人と数える。だから入った順序とか年齢とか関係無く、全員“ちゃん”で呼び合う」
と恵梨香は言う。
 
「だから私たちも“可愛ちゃん”と呼ぶから、可愛ちゃんも私たちのことは、芳絵ちゃん・恵梨香ちゃん、あるいは本名の望美ちゃん・光子ちゃんで」
 
「分かりました!恵梨香先輩、じゃなくて恵梨香ちゃん」
「そうそう」
 
恵梨香はこの子と話してて、1年後にはこの子に私も芳絵も抜かれそうだなあという気がした。でもまあ信濃町ガールズしてること自体が楽しいから、私は25歳くらいまでは続けたいけどね。
 

2月16日(水).
 
§§ミュージック今年3人目の新人歌手・薬王みなみが
『音楽室の想い出/ブーゲンビリアの伝説』
でCDデビューした。
 
みなみに関しては、ひじょうに歌唱力が高いことから、全国のFM局のナビゲーターさんたちが事前に音源を流してくれていた。それで予約だけで10万枚を越えていた。CDの収録曲は下記である(↓+off vocal版)。
 
『音楽室の想い出』蜂矢仁美作詞・鹿賀カノン作曲
『ブーゲンビリアの伝説』蜂矢仁美作詞・本田慈媛作曲
 
当日は熊谷!の§§ミュージック分室内のスタジオからネット記者会見を行った。
 
出席したのは、薬王みなみ本人、制作責任者の花咲ロンド、タイトル曲作曲者の鹿賀カノンの代理・波斯魔琴(=清原空帆:青葉の高校の同級生)の3人だけで、レコード会社担当者は来ていない(実は決まっていない)。
 
今年デビューした3人の記者会見の出席者は下記である。
 
1/05 美崎ジョナ、川崎ゆりこ、TKR山口、作曲者 Ozma Dreamの2人
 歌唱伴奏:ナイスエンジェルス
1/26 立山煌、山下ルンバ、TKR山口、作曲者・平野鉄郎&峰京子
 歌唱伴奏:原町カペラ(KB)
2/16 薬王みなみ、花咲ロンド、作曲者代理・波斯魔琴
 歌唱伴奏:本人のキーボード弾き語り
 
美崎ジョナの感情に配慮して、第二・第三のデビュー歌手の出席者をランクダウンしている。
 
しかし本人の弾き語りは、かえって彼女の音楽力をアピールする結果ともなった。みなみが歌っていると記者たちの間にざわめきが起きる。zoomのメッセージが飛び交う。
 
「この子、物凄く上手いじゃん」
「先日○○君と『この子はアクア、常滑真音の次に上手い』という話をしてたんだよ」
「確かにそのくらい上手い。中2でこの歌なら将来的にはアクアを抜くかも」
などといった会話が交わされていた。
 

歌が終わってから質疑がある。
 
「花咲ロンドさんのプロデュースというのは初めてですかね?」
「いいえ。実はデビュー未満の子がCM曲とかキャンペーン曲とかの制作をする時に、かなり指導をしていて、プロデュースとしてクレジットされています。でも確かに正式デビューした子のプロデュースは初めてかも知れないですね(*24). でもこの子、凄く上手いですよね。だから私はあまり指導すること無かったんですよ」
とロンドが笑顔で言うと、記者たちは頷いている。
 
(*24)ロンド本人はきれいに忘れているが、昨年出してヒットした原町カペラのアルバムと録り直しシングルはロンドのプロデュース!!それ以前に姫路スピカのシングルのプロデュースをしたこともある。
 

「作曲者代理さんは読み方は“ぺるしゃ・まきん”でよろしかったでしょうか」
と若い記者が訊く。どうもネットで検索して読み方を調べたようである。
 
「はい、その読み方で正しいです。これ読める人ほとんどいません。この字(“波斯”)を書いて“ペルシャ”と読むって知らない人多いし。たいていハシマコトとか読まれちゃうんですよ」
 
「作曲者さんとのご関係は?」
「鹿賀カノンは、松本花子の一部です。私は松本花子のとりまとめ役のひとりなので、お使いということで出て来ました。ちなみに、薬王みなみの音源制作の時も、私が代表を務めていますバンド、ホロウズ(Hollows)が伴奏しました。うちのバンドはこれまで5枚CDを出してますけど、1000枚以上売れたものが無いんですけどね」
と魔琴がおどけたように言うと、記者たちの間で笑いが起きる。
 
「実はカップリング曲の『ブーゲンビリアの伝説』は、うちのバンドで2年前に出した曲なんですけど、100枚も売れませんでした。でもコスモス社長がたまたま耳にして、カバーしていい?と言うので提供しました。もっとも歌詞は中学生が歌うには問題があったので、新たに蜂矢(はちや)さんに書き下ろしてもらいましたが。元々の歌詞は私が書いたものですが、文法が間違ってる、と大宮万葉ちゃんに指摘されました」
と言うので、また笑いが生じているが、結果的に大宮万葉がこの曲に関わっていることを示唆することになり、あちこちで記者が頷いていた。
 
この曲はひじょうに出来がいいのである。
 
(追加プレス分から両A面に変更された)
 
その他、薬王みなみの誕生日や血液型なども尋ねられるのでこれは本人が答えていた。みなみは秋頃から、あけぼのテレビには多数出演しているので、記者会見の席でも全く物怖じしていない。堂々とした記者会見だった。
 

記者会見はTKRのサイト上でも公開されていたが、かなりの接続数があった(TKRの親会社トリプルスターの回線をフルに利用できるので、実はあけぼのテレビよりも混雑に耐えられる)。
 
このCDはダウンロードを含めて初日に15万枚売れた。これは既に昨年の七尾ロマンのデビュー曲の累計売上枚数を上回っている。むろんデイリー・ランキングの1位を取った。この日はホワイトキャッツもCDを出していたが、隙間を狙ったつもりが1位を取れなかった(ホワイトキャッツは本当にいつも間が悪い)。
 

2月22日(火・さだん(定)).
 
江戸川区に建設中であった、落合茜(町田朱美)の家が竣工し、多忙な茜に代わって、女子寮に同居中の姉・翠が受け取りに行った。もっともこの日は受け取っただけで、ここで生活するには、最低限、寝具や衣類、調理器具などを搬入する必要がある。翠は妹から渡された、何か砂の入っている袋を言われた通り、家の中心になる1階LDKの真ん中に置いて(女子寮に)帰ってきた。
 
実家に連絡して話し合った結果、3月1日の翠の卒業式の後で、引越作業はしようということになった。
 

2月22日(火).
 
この日は2/22 ニャーニャーニャーで「猫の日」なので、あけぼのテレビでは夕方19:00から20:00まで『舞音の猫ちゃんパーティー』という特集を生放送(定額放送)した。司会は“仮免キャスター”と自称する松島ふうかが務めた。
 
最初に出演者全員が猫の着ぐるみを着て並んでいる所で、鈴原さくらのピアノ伴奏で、常滑真音と薬王みなみが、『CATS』の『Memory』をデュエットした。
 
この曲は下がG3、上がC6と、2オクターブ半の音域がある難曲だが、2人ともその最高音のC6をきれいに出していたので「すげー」という視聴者の声が相次いだ。
 
司会の松島ふうかのトークが入った後でvend'orのピアノ&管楽器合奏でルロイ・アンダーソンの『The Waltzing Cat』を演奏する。ソミファソ・ミッドーという曲である。この“ミッドー”の部分を猫がニャーオと鳴くかのように演奏する。
 
この演奏に合わせて、舞音・水谷姉妹・ライカ&めぐみの猫のダンスが入った。
 

Gt.山鹿クロム、B.三陸セレン、Dr.薬王みなみ、の3人による伴奏で、原町カペラ・三田雪代・太田芳絵の3人が『CAT'S♥EYE』のテーマを歌う。3人が黒いレオタードを着ているので、男性視聴者がいっせいに画面を見た!?
 
一転して、鈴原さくらのピアノ伴奏で、舞音・水谷姉妹が『黒猫のタンゴ』を可愛く歌う。ライカ&めぐみ、マイコ&リエナが各々組んでタンゴを踊った。
 
夕波もえこがエレクトーンを格好良く弾いて『となりのトトロ』から『ねこバス』を吹奏楽アレンジで演奏する。本当にトランペットやトロンボーンが鳴っているかのような演奏に、注目が集まる。舞音と水谷姉妹が乗ったねこバスが画面を横切っていく。
 
甲斐姉妹が鈴鹿あまめのピアノ伴奏で『サザエさん』の主題歌を歌い、水谷姉妹が古屋あらたのピアノ伴奏で『犬のおまわりさん』を歌う。
 
魚を咥えて逃げて行く猫(舞音!)をサザエさん(夢夜)が追いかけるパフォーマンス、続いて、泣いている猫(石条ぼたん)をなだめる犬のお巡りさん(原町カペラ)というパフォーマンスが行われた。
 

大崎忍が夕波もえこのキーボード伴奏で『何かいいことないか子猫チャン(What's new, pussycat)』を歌う。
 
招き猫のコスプレで登場した舞音と水谷姉妹が招き猫バンドの伴奏で『とことこ、なめなめ、招き猫』、更に『マネの招きマネキン』を歌う。
 
鈴原さくらと長浜夢夜が、セレン・クロムのアコスティック・ギター伴奏でスピッツの『猫になりたい』を歌った(“ニャンコ”じゃなくて“オンニャノコ”になりたいのでは?というツッコミあり)
 
「それでは次は全員で・・・」
と言いかけた司会の松島ふうかに、後ろから猫足で忍び寄ったライカとめぐみが猫の着ぐるみをかぶせるので、ふうかが思わずキャッ!(Cat!?)と叫び声をあげ、マイクが転がる音がする。転がったマイクを拾っためぐみが
「次はニャーケービーだにゃ」と(ジバニャン風に)言った。
 
それで全員が猫の着ぐるみを着て(ふうかも並ぶ)、ニャーKBの『アイドルはウーニャーの件』を合唱(伴奏は招き猫バンド)した。
 
そして常滑真音が『猫ふんじゃった』をピアノで演奏(カメラは舞音の指を映す)し、水谷姉妹と甲斐姉妹が「にゃんこ踏んじゃった、にゃんこ踏んじゃった」と歌って番組は終了した。
 
舞音がたくさん出る番組ということで、最初からフレームレートを落として放送したが、回線キャパぎりぎりで、則竹部長が回線使用量モニターから目を離せない状態で後半は推移したようであった。(無料放送ならダウンしたと思う)
 

2月24日(木).
 
モスクワ時間午前6時(日本時間正午)、ロシアのプーチン大統領はロシア国民向けのテレビ演説を行い、その数分後、ウクライナへのミサイル攻撃を行った。ロシアのウクライナへの侵略の開始であった。
 
私はニュースを聞いて暗澹(あんたん)たる気分になった。超大国ロシアと人口4千万の国ウクライナでは、勝負にならないと思った。軍事力もたぶん10倍くらいの差がある。恐らくあっという間にロシアはウクライナをその支配下に収めるだろう。
 
ウクライナという国が1〜2ヶ月以内に消滅する未来を見た気分になり、私は取り敢えず眠ることにした。
 

夜中、政子に揺り起こされる。
 
「何てことするのよ!?ロシアは」
 
政子は怒っている。
 
「悔しいね。何もできないことが」
「何もできないの?」
「私たちにできることは歌うことだけ」
「何を歌うの?」
「いつも太陽があるように」
「こんな時にロシアの歌を歌うの?」
 
「ロシアの歌だから歌うんだよ。ロシアの国民みんながこの戦争を支持しているわけではない。戦争に反対する人たちも、きっと多い。だからその人たちを応援するためにも、ロシア語で歌うんだよ」
 
「それはいい考えだ」
 
それで私たちは、私がピアノを弾きながら、2人で『いつも太陽があるように』をロシア語で歌った。
 
待って、兵隊さん、聞いて兵隊さん。人々は爆弾で怯えている。千の瞳が空を見上げている。
 
私の唇は断固として言う。
 
プー・フシグター、ブージェット・サンツェ
プー・フシグター、ブージェット・ネーバ
プー・フシグター、ブージェット・マーマ
プー・フシグター、ブードゥー・ヤー
 
(いつも太陽がありますように。いつも空がありますように。いつもママがいますように。いつも僕がいますように)
 
災厄は嫌だ。戦争は嫌だ。少年たちのために立ち上がろう。太陽が永遠であるように。幸福が永遠であるように。それが人々が求めるもの。
 
そして私たちは翌日これを風花に撮影してもらい、動画に日本語の字幕を付けて動画サイトにアップロードしたのであった。
 

2月25日(金).
 
落合翠は東京藝大の二次試験を受けた。聴音、新曲視唱、リズム課題は自分としては完璧にやった。そしてピアノ演奏の実技も、自分としては充分満足する演奏ができた。
 
後は結果待ちだが、この大学を受けるような人なら実技がパーフェクトなのは当たり前なので、結局共通テストの成績次第という気がした。
 
すると全く合格できる気がしない!
 
あとは結果を待つのみである。
 
それで試験が終わった後で藝大のある上野公園から、SCCのドライバーさんに熊谷まで送ってもらい、A318! に乗って能登空港に移動した。本人は熊谷で機体を見て
 
「大きな飛行機ですね。団体さんか何かと一緒?」
と訊いた。
 
「いや落合さん、ひとりだけですよ」
「私ひとりだけで、この飛行機に乗るの〜〜?」
 
100人乗りの大きな機体に1人だけ乗るのは居心地が悪かったようだが、この機体を能登に回送したかったので、そのついでなのである。
 
能登空港で、迎えに来てくれていた母の車に乗り、宇ノ気の自宅に戻った。約半月の東京滞在だった。(着替えや楽譜などは茜の部屋に置きっぱなし!)
 

2月26日(土). ∫∫音大の合格発表があり、落合翠は合格していた。難関の∫∫音大に合格したのは、やはりお正月に大観衆の前でピアノを弾く体験をしたのもあったなと翠は思った。
 
「お陰で実技試験の時に、試験官さんが見ている前であがらずに弾くことができたんですよ」
と彼女は言っていた。
 
正直、ピアノに関しては、東京藝大も∫∫音大も水準はほとんど差が無いと認識しているので、翠は両親とも話し合いの上、東京藝大の結果如何によらず、∫∫音大に進学することにした。
 
それで翠は茜に
「∫∫音大に合格してた。東京藝大はたとえ合格していても進学しないで、∫∫音大に進学したいから、学費、お願いしていい?」
 
とメールした。すると深夜に返信があり
「取り敢えず300万送金した」
ということだった。
 
それで月曜日にも母に郵便局で納入してもらうことにした。
 

2月26日(土).
 
水泳の津幡組とスタッフをA318で能登空港から熊谷の郷愁飛行場に連れて来た。
 
国際大会日本代表選手選考会(3/1-5)に出場するためである。それでA318を迎えに行かせ、そのついでに翠を運んだのである。
 
なおこの中に青葉は含まれていない。青葉はしばらく前から熊谷に滞在中である!
 
津幡組は28日までは熊谷のホテル富士に滞在し、ここの50mプールでたくさん練習する。そして28日夜に、深川アリーナに移動する予定である。
 
今の時期は、深川アリーナはサブ・プール(4レーン)のみ開放しているので、メインプール(8レーン)を選手たちのために開けた。
 

熊谷の§§ミュージック分室。
 
ホワイトデーのプレゼントは、2月20日頃からぼちぼちと来始めていたが、例年の3倍くらいのペースでプレゼントが到着しており、2/14までは暇だった仕分け場のスタッフが一転して忙しくなった。コスモスの指示でバイトさんを増員していたおかげで何とかなっている感じであった。
 
むろん到着しているプレゼントの半数がアクア宛て。舞音宛てもその半分くらいあり、この2人宛で全体の8割程度を占めていた。ホワイトデーが近づくと、更に数が多くなることが予想された。
 
「済みません。人手が足りません。バイトさん増員して下さい」
と内海人事課長は言った。
 
「じゃ今居る人たちにお友達を連れて来てもらうようお願いしてみて」
とコスモスは指示した。
 
こういう時は変な人が入ると困るので信頼できる人で追加したいのである。
 

2月27日(日).
 
あけぼのテレビで今年も「曲水の宴」(きょくすいのうたげ)の特集番組が放送された。参加したのは下記29組56名である(昨年より大幅に人数が増えた)。
 
品川ありさ★、高崎三姉妹(高崎ひろか・松梨詩恩・水森ビーナ)、アクア、西宮ネオン★、今井葉月、姫路スピカ、白鳥リズム★、カペラ&ポルカ、川内みねか、ラピスラズリ(東雲はるこ・町田朱美★)、ヴァンドール(佐藤ゆか・南田容子・山口暢香・高島瑞絵)、大崎忍、七尾ロマン、ルビー★&パール★、常滑真音、甲斐姉妹(波津子・絵代子)、水谷姉妹(康恵★・雪花★)、中村昭恵、坂田由里★、美崎ジョナ、立山煌★、薬王みなみ★、AT3(鈴鹿あまめ★・夕波もえこ★・古屋あらた★)、Flower Sunshine(桜井真理子・安原祥子・立花紀子・竹原比奈子・神谷祐子・山道秋乃・水端百代)、ColdFly5(米本愛心・田倉友利恵・花咲鈴美・栗原リア・木原扇歌)、BunBun(吉沢蕾美・溝口ルカ・中町リサラ・阪口有菜)、坂出モナ★、羽鳥セシル、桜貝(神田あきら・水野雪恵・広沢ラナ)
 
司会:花咲ロンド、判者:川崎ゆりこ、監修:秋風コスモス
演奏:桜野レイア with ignis-ex
 
↑で★を付けた15人が狩衣、他42名(司会のロンドを含む)は五衣唐衣裳(俗称十二単:じゅうにひとえ)を着た。ゆりこは普通の訪問着である。コスモスは画面には映らないので普段着のスーツであった。
 
五衣唐衣裳を着付けできる人が7人しか居らず、着付けには1時間かかるので、順番待ちとなる。基本的に忙しい人は後の方で、暇な人は最初の方に着付けされて4-5時間待つことになった(トイレが大変である)。最後に着た7人は、アクア、舞音、はるこ、ビーナ、セシル、スピカ、詩恩であった(葉月も多忙だが、基本的にアクアより先に解放される)。
 
アクアは「狩衣着ようかな」と言ったが却下されて五衣唐衣裳を着せられた。ビーナは「ぼく狩衣着たい」と言ったが「同じ部屋に入る人は性別統一しないといけないから、あんたも十二単(じゅうにひとえ)着て」と言われて五衣唐衣裳になった。同様の理由で、米本愛心・木原扇歌・佐藤ゆかも狩衣を希望したが、五衣唐衣裳となった。扇歌は「私が十二単とか着たら女装してると言われるんだけど」と言っていたが。彼女は体格がいいし男顔なので、よく「鈴美ちゃんのお兄さんでしたっけ?」と言われる。
 
でも、ラピスラズリは、朱美が狩衣を着て唯一男女セットになった!
 

曲水の宴は、本来は庭園の中に水の流れを作っておいて、そこにお酒を入れた杯を多数流し、各々和歌を詠んで、できた人は杯を取って飲むことができるというお遊びである。
 
しかしコロナの折、このやり方はまずいので、昨年のやり方を少し改訂した、このような方式で行った。
 
参加者29組は、五反野の女子寮・研修所の個室に、組ごとに入る。女子寮に住んでいる子は自室、ユニットの場合はメンバーの中の誰かの部屋に集まる。ネオンと煌は地下の研修所の小スタジオに入っている。
 
各部屋にはコーラと朱塗りの杯が人数分あらかじめ配られている。ここで昨年は2人以上のユニットの場合も杯は1個しか置かれず、飲めるのは1人だけだったが、今年はちゃんと人数分杯が置かれて全員飲めるようになった。
 
司会者の花咲ロンドから、今回の“お題”が提示される。ここで、各自コーラを自分の前に置かれた朱塗りの杯に注ぐ。そして全員出されたお題にそった短い詩を書く。昨年は七七七五と文字数が指定されていたが、今年は8小節で歌える長さであれば、文字数は自由とした。
 
番組では画面が6×5に30分割されており、1つのフレームに司会者のロンドが映り(太く赤いフレーム)、残りの29フレーム(細く青いフレーム)に各参加者が映っている。そして詩ができたらボタンを押してコーラを飲むことができる。するとフレームはロンドの直前に移動される。複数入っている所は誰か1人でもボタンを押したら移動される。
 
最初はロンドのフレームが先頭にあり、できた人はどんどんロンドの前に挿入されていき、全員がロンドの前に行って、ロンドのフレームが最後尾に行ったらゲーム終了である。ただし全員できなくても10分経ったらゲーム終了となり、詩ができてない人は、コーラは飲むことができない。
 

今年のお題は『眼鏡』だった。桜とか団子とか卒業・入学などを予測していた子たが「え〜〜〜!?」と声をあげた。
 
提出された短詩は判者の川崎ゆりこが審査する。複数人のところは各自で話しあい、いちばん出来がよいと思うものを提出すれば良い。
 
合格となると、できた順番に桜野レイア&ignis-exの伴奏でそれを歌うことになる。前奏4小節+歌8小節をテンポ100で歌えば所要時間は28.8秒という計算である。「じゃ次は誰々」という司会者の案内も含めて1組40秒で計算すると、29組は19分20秒で演奏完了する計算になる。実際には前後のやりとりを入れて1組1分で計算されている。
 
ゆりこが不合格または放送不適格!とした場合(フレームにX印が付く)は歌うことはできない。昨年は白鳥リズムと坂出モナが放送禁止になった(リズムはお題に沿っておらず、モナは放送禁止用語が入っていたため)。今年は、常滑真音!・薬王みなみ・羽鳥セシル・桜貝がX印を付けられた!
 
最後5分ほど時間が余ったので、レイア with ignis-ex の伴奏で坂出モナが1曲歌って、番組は終了した。
 

2月28日(月).
 
落合翠は、半月ぶりに高校に登校し、担任の先生に♭♭音大・♪♪音大・∫∫音大に合格し、東京藝大の結果はまだ出ていないが、その結果に関係無く、∫∫音大に進学することにしたと報告した。
 
この日は実際には授業は無く、明日の卒業式の予行演習が行われた。
 
翠が学校に行っている間に、母は郵便局で学費の納入をしてきたが、大金を扱うから恐かったぁ!と言っていた。♭♭大の時も似たような金額を納入しているのだが。
 

2月28日(月).
 
この日発表された売上統計で、2月16日発売の薬王みなみのデビューCDが累計26万枚となり、プラチナディスクとなった。§§ミュージック10人目のプラチナ歌手である。
 
↓現在の§§ミュージックのプラチナ歌手
ミリオン:アクア(27+9)、常滑真音(9)、ラピスラズリ(6)
ダブルプラチナ:白鳥リズム(3)、品川ありさ(1)
プラチナ:姫路スピカ(2)、高崎ひろか(1)、エーヨ(1)、水森ビーナ(1)、薬王みなみ(1)
 
アクアの27+9というのは、アクア名義が27枚、北里ナナ名義が9枚。
 
※この他に葉月がアルバムでプラチナを出しているが、彼はシングルでは1度もプラチナを達成していない!
 

2022年3月1日(火).
 
落合翠と月乃梓の高校で卒業式が行われ、翠も梓も無事高校を卒業した。
 
この日、§§ミュージックのタレントや信濃町ガールズたちの通う全ての高校でも卒業式が行われた。この日高校を卒業したの下記のメンバーである。
 
大崎忍・高島瑞江・山口暢香・石川ポルカ・太田芳絵・篠原倉光
 
各々の事情は下記のようであった。
 
大崎忍:これまで住んでいた学校近くのマンションを引き払い、用賀の橘ハイツ寮母住宅に同居する。それで、両親および“妹”と一緒に暮らすことになる。2DKだが、子供は2人とも“女の子”だから、問題無い!2人ともちんちん無いし。
 
芸能活動は、現在3つの番組のレギュラーになっており、単発でバラエティに出たり、レポーターを務めたりすることもある。歌手として三者契約をしていたものの、これまで1枚もCDは出しておらず、レコード会社から契約違反を指摘されていた。とうとうレコード会社との三者契約は解除となり、§§ミュージックとはあらためてCD制作の義務が無い“女優契約”を結んだ。でも事務所から実質放置されてるよなあと思っていた。この件、後述。
 
高島瑞江・山口暢香:リセエンヌ・ドオ改めヴァンドールに所属しているが、このユニットは2020年春に1枚CDを出して以降、事実上活動休止状態にあった。この件も後述する。
 
石川ポルカ:2017年度のロックギャルコンテスト優勝者だが、これまで1枚もヒットした曲が無く、活動は停滞気味である。最近は花咲ロンド・原町カペラと一緒に極めて不本意に!“売れたらいいなシスターズ”(“売れないシスターズ”からカペラの提案により改名)のメンバーになっている。事務所の扱いも適当だなあと感じている。実際収入も信濃町ガールズの忙しい子よりも低い。いっそ信濃町ガールズに戻りたいくらいである。
 
太田芳絵:2019年夏に信濃町ガールズに入り、2年間活動してきたものの、デビューできそうな感じが全くしないことから退団を申し入れていた。ところがそんな時に新しいドラマで重要な役をしてほしいというオファーがあり、退団を撤回して、そのドラマに取り組む気になった所。
 
そういう訳で、今回高校を卒業したメンバーは、篠原君を除くほぼ全員が不遇な日々を送っていたのである(昨年度の高校卒業者とは対照的)。
 
篠原倉光:2019年春に、当時は存在した“信濃町ガールズ本部生募集”のオーディションに合格して信濃町ガールズに入団。彼の場合は“貴重な男の子”として雑用や力仕事にたくさん使われた(報酬はわりと美味しい)。昨年春に舞音のバックバンド“招き猫”に参加して信濃町ガールズは卒業した。今回の高校卒業を機に(バックバンドの人は優先入居できる)社員寮に引越予定。向こうには既に同じ招き猫の木下宏紀が12月に移動済みである。ルーシーと谷口翼も各々アパートを解約して社員寮に入ったので、招き猫バンドは全員が社員寮に入った。
 
ちなみに社員寮は、低層階が男性、高層階が女性になっているが、招き猫バンドのメンバーで、ルーシー(平田留美)のみが高層階、木下・篠原・谷口の3人は低層階に入っている。
 
「ボク男なのに」
とルーシーは言っていたが、当然の処理だと篠原は思った。
 
 
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【夏の日の想い出・いろはに金平糖】(7)