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■女子中学生たちの出席番号(4)

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「実は1年生の原田さんのことなんですが、ご本人および親権者から、女子生徒として通学したいという申し出がありまして、現在詳細について詰めている所なのですが、基本的には受け入れる方向です」
と教頭は言った。
 
千里と玖美子は笑顔で顔を見合わせ、
「それ賛成です」
と言った。
 
「原田さんの性別に関しては、小学校の時の担任の先生にも少し話をお聞きして、私自身も御本人と直接会って少しお話をしたのですが、性同一性障害に相当すると判断しました。あ、性同一性障害って分かりますかね」
 
「はい、分かります」
と千里と玖美子は答えたが、千里は私の処理はどうなってるのかなあと疑問を感じた。
 
「御本人および御両親には、性同一性障害あるいは類似の診断名の診断書を取ることをお勧めしています。ただこれは取得に時間がかかるので、学校としては、その取得の方向で動いているということで、先取りして受け入れることにしました。更に、原田さんは改名なさったんですよ」
 
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「改名したんですか!」
と千里も玖美子も驚いた。
 
「裁判所に申請中ですか?」
「いや。それが、名前を変える場合、漢字を変更するには家庭裁判所の許可が必要なのですが、読み方を変える場合は、市役所に届けるだけでいいらしいのです」
 
「へー!!」
と千里と玖美子は驚いたが
 
「私たちもそれさっき初めて知った」
と藤田さんが言う。教頭先生まで
 
「実は私も初めて知ったんですけどね」
と言った。
 

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沙苗の名前は元々は「まさなわ」と読んだ。
 
“沙”の字には、すな/まさご/すなはら/よなぐ/いさ/さ/いさご、などの読み方がある。“苗”には、なえ/え/なわ/たね/なり/みつ、などの読み方がある。
 
彼女の名前は“沙”を「まさご」から「まさ」、“苗”を「なわ」と読み、“まさなわ”と読むものだった。苗を「なわ」と読むのは、猪苗代湖などの例がある。両親はこの名前を付けた時、この名前が「さなえ」と読めることに全く気付かなかったらしい。
 
沙苗が初めて神社の境内にきて、みんなと一緒に遊ぶようになった時、彼女は自分の名前「まさなわ」がちゃんと言えず、「さなあ」くらいに聞こえた。本人が女の子の服を着ていることもあり、みんなは勝手に「さなえ」というのが、うまく言えなかったのではと解釈した。それでみんな「さなえちゃん」と呼んだし、本人も女の子のような名前で呼ばれることを嬉しがった。
 
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彼女は神社境内で遊ぶグループに加わった頃から“女の子の服を着ている時に限り”「さなえちゃん」と呼ばれていた。男装時には「はらだくん」と苗字で呼ばれたが、実際には男装で神社に来ることはほとんど無かったので「はらだくん」というのは学校のみでの呼ばれ方である。実は母親でさえ「さっちゃん」と呼んであげていた。
 
そして彼女は小学3年の頃、自分の名前“沙苗”がそもそも“さなえ”とも読めることに気付いてしまったのである。それで、彼女は積極的に、沙苗の字で“さなえ”と読むことにしてしまった。
 
しかし本日4月14日(月)に沙苗の両親は市役所に「名前の読み」の変更届けを提出し、彼女は今日付けで、正式に“さなえ”になったということであった。
 
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「それに原田さんは既に男性機能も喪失しているらしいんですよ」
と教頭が言うので、千里と玖美子は素早く視線を交わした。
 
「それで女子として受け入れるのに障害はないと判断しましたし、改名をなさったということで、後戻りできない道に入っていることを尊重しまして、女子生徒としての受け入れを決めました」
と教頭が言うので、千里たちは頷いた。
 
「彼女は小学校の時にも剣道部に入っていたので、ぜひ剣道は続けようと御両親も言っておられて、本人も受け入れ態勢次第では、やりたいということだったんです」
と教頭。
 
「その件に付いて、僕もこの手の話が不勉強で、土日の2日掛けて少し勉強させてもらって、今日、清原先生と話しあって大体の線を固めたんだよ」
と剣道部顧問の岩永先生が言う。
 
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「原田さんに関しては、女子の剣道部に入ってもらうことになる。ただ彼女は医学的には男性なので、中体連と剣道連盟にも確認したんだけど、大会では男子の部に出てもらうしかない」
と岩永先生は説明した。
 
「性別がクロスするのは構わないんですね」
「うん。彼女は小学校の時、スポーツ少年団・剣道留萌地区の、N小分団に男子として登録されていたので、そのままS中分団に移動させる。彼女はスポーツ少年団では男子扱いだから、そのまま中体連の大会にも男子として出てもらう。でも普段の練習には、女子として参加する」
 
「なるほどー」
 
「女子剣道部の所属だから、大会の時に、女子の更衣室・女子トイレなどを使うのも問題ない。ただ、万一トラブルがあった時のために、学校側からこの選手は女子生徒であるという証明を発行してもらえばいいと、中体連側では言っていた。ちなみに彼女は女子更衣室を使えるんだっけ?」
と岩永先生はむしろこちらに尋ねる。
 
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「私たち、神社のお祭りとかで巫女さんをする時、沙苗ちゃんとは一緒に着替えてますよ。全く問題無いです」
と玖美子は答えた。
 
「じゃ下着姿とかになっても、特に違和感なんかは無いんだ?」
 
「小学校の体育の時間とかでも、女子と一緒に着替えなよと言っていたんですが、本人は叱られないだろうかと怖がっていたようです。でも男子たちが彼女の扱いには困って、なんか黒板の陰で着替えさせてたらしいです」
と玖美子。
 
「大会の時は、ひとりトイレで着替えてたね」
と千里も言う。
 
「だったら、むしろ男子と着替えることに問題があるんだ!」
「あの子、下着は女物を付けてて、ブラジャーも着けてるし、男子の目には曝せませんよ」
と玖美子は言う。
 
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「なるほどね。実はその付近の微妙な所が、僕らも判断をしかねていたんだよ」
と岩永先生は言う。
 
「沙苗はいつ頃から登校できそうですか?」
 
「彼女側の準備、それと学校側の受け入れ態勢とかもあるので、今週の金曜日に初登校にしましょうか、と御両親とは言っています。1日登校してすぐ休みが入るのが、ご本人としても気持ちが楽なのではということで」
 
「そうでしょうね。今までずっと男の振りをしていたのが、本来の女子として登校するって、最初は凄いプレッシャーあるから、1日出たあと休みを入れるのはいいことだと思います」
と玖美子が言うと
 
「実はそういう話をお父さんともしたんですよ」
と教頭は言っていた。
 
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「学級の方での受け入れ態勢については、また担任の先生からお話があると思いますが、出席番号も男子の方の番号を割り当てていたのを欠番にして、新たに女子の後の方に追加で番号を作る方向で調整しています」
と教頭先生は言う。
 
「男女で番号が違うんだっけ?」
と千里は玖美子に訊いた。
 
「そうそう。S中は男女別名簿だから、1組の場合、男子が1から15で、女子は21から32になっている」
「その次の33を作る方向で、下駄箱はもう日曜日に調整したんですけどね」
「ああ、番号は振り直さないんですね」
「番号が変更になったら混乱するからね」
 
「あれ?私、31番だけど」
と千里が言うと
「だって、あんた女子でしょ」
と玖美子は言った。
 
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え〜!?私、女子として出席番号振られてるの?と千里は頭の中が混乱した。
 

話し合いが終わって体育館に戻った後、玖美子と手合わせしたが、玖美子が「マジで来ないと恥ずかしい写真ばらまくぞ」などと言うので、比較的マジで対戦した。
 
でも恥ずかしい写真って何??(心当たりがありすぎる)
 
2人の激しい対戦には、女子の先輩たちだけでなく、男子の方からも
「すげー」
という声があがっていた。
 
17時半くらいに練習を終えて、竹刀などを用具室に置き、女子更衣室に行って千里は玖美子と一緒にセーラー服に着替えた。千里は汗を掻いているので下着も脱いで、小春が持って来たくれた下着に交換した。汗を掻いた下着はビニール袋に入れてスポーツバッグに入れる。千里が裸になって汗を拭いてから下着を着けるのを何人かの女子がじっと見ている気がした。
 
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「千里は汗を掻かなかった時でも、下着から交換するといいね」
と玖美子が言った。
 
「なんで〜〜?」
「女子中学生生活になじむためだよ」
などと玖美子は楽しそうに言っていた。
 

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女子更衣室を出てからいったん教室に戻り、荷物を持つ。
 
「N小は先代の校長先生が先進的だったから男女混合名簿だったけど、まだまだ多くの学校は男女別名簿だよ。座席もきれいに男女に分けられているしね」
と玖美子は千里に言った。
 

 
「あれ?そういえば男子の列と女子の列がある?」
「そそ。千里の前は小春ちゃんで、後は尚子ちゃんでしょ?」
「そういえばそうだった」
「隣は鞠古君で男子。だから千里は女子の列になっている」
「そうだったのか」
「男子の方が数が多いから、香川君と祐川君のところだけ、男同士並んでる」
「へー」
 
「それで祐川君は『まさみちゃん、どうしてセーラー服着てないの?』とかからかわれている」
「あはは、でも私、祐川君のセーラー服姿、1度見てる」
 
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「私も見た。着せられてたね」
「けっこう可愛かったけど」
「うん。このくらいの女子中生は居る気がした」
「したした」
「だいたい本人も、俺性転換しようかなぁとか時々言ってた」
「言ってたよね!」
 
彼の場合はたぶんジョークだと思うけど。
 
「でも沙苗が出て来たら、席の移動が発生するかもね」
「ああ」
 

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帰るのに、通学用リュック、赤いスポーツバッグに、今日渡された教科書まで持つとかなり重い(教科書の半分くらいは通学用リュックに入れた)。
 
「教科書重いね」
「私たちは入学式の時にもらったから、親に持ってもらった子が多かった」
「うちのお母ちゃんなら『重い。あんた持って』とか言いそう」
「あはは。でも千里は教科書持つのは今日は鍛錬だね」
「うん。頑張るしかない」
 
などと言って生徒玄関を出て、バス停に向かっていたら、ちょうど職員室の前で秋田先生に呼び止められた。
 
「村山さん、生徒手帳できたよ」
「わぁ、ありがとうございます!もう出来たんですか?」
「うん。無いと困るだろうというので急いで作ってくれたみたい」
「助かります」
と言って窓越しに受け取る。
 
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「見せて見せて」
と玖美子が言うので見せる。
 
「おお、ちゃんとセーラー服で写ってる」
「うん。今朝、この格好で撮影された」
と千里が言うと、玖美子は一瞬首を傾げたものの、いいことにした!
 
(玖美子は『千里は朝は体操服だったのに』と思ったのだが、玖美子が見たのは別の千里である!“こちらの千里”はセーラー服で登校して秋田先生に写真撮影してもらった。朝、体操服の千里とセーラー服の千里の両方を見たのは小春だけ)
 
「これで千里は立派な女子中学生になったな」
と玖美子は言った。
 

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「ところでさ」
と玖美子は千里に抱きつくようにして(ついでにまた胸に触る!)、左耳に囁き、あることを提案した。
 
「賛成!じゃ、でも今日はこの教科書重いから、明日一緒に買いに行かない?」
「OKOK」
 

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4月14日(千里が初登校した日)の17時すぎ、小町が神社でひとりであれこれやって、目が回る思いでいたら、自転車に乗ったセーラー服姿の千里が来た。黄色い玉の付いた髪ゴムで髪をツインテールにまとめている。
 
「千里〜!私ひとりで心細かったよう。手伝って」
「OKOK。何すればいい?」
「もうすぐお客さんが来るのよ。昇殿して祈祷するから、笛を吹いて欲しい」
「吹けないよぉ」
「千里は何でも一発でできるから、きっと出来る。ちょっとこれ吹いてみて」
と言って、小町は古ぼけた龍笛を千里に差し出した。
 
ハッとする。
 
これは小春が愛用していた品だ。
 
千里は黙ってその龍笛を受け取ると、目を瞑って歌口に唇を当てる。息を吹く。
 
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きれいな音がした。
 
「すごーい。千里、そんなに上手かったんだ?じゃよろしくね」
 

それで千里はすぐ巫女控室に行き、自分のロッカーから巫女衣装を出して着替える。黄色の髪ゴムは外して手首に付ける。そして確かめるように笛を吹いてみた。
 
やがて小町の携帯から千里の携帯に『お願いします』というメッセージが来るので、事務室に行き宮司に声を掛ける。小町が参拝者控室に行き、お客さんを案内して昇殿させる。少し遅れて千里が先導して宮司を拝殿に導く。
 
千里が参拝者の前で大幣(おおぬさ)を振ってお清めをし、更に鈴祓いをする。なんか変なのが憑いてるから、こんな奴、神聖な拝殿に侵入禁止!と思って破壊する!!
 
(大神様が呆れたような表情で千里を見ているが気にしない)
 
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小町が太鼓を叩き、千里が龍笛を吹いて、神職が祝詞をあげる。千里は祈祷の時に龍笛を吹くのは初めてであったが、小春の龍笛はこれまで何百回と聴いているので、同じ曲を演奏した。
 
更に千里の龍笛に合わせて小町が舞いを奉納する。その後、玉串奉奠、宮司のお話で、祈祷は終了する。あとは小町に任せて、宮司を先導して社務所に戻った。
 

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「千里ちゃんも龍笛吹けたんだね」
と宮司から言われる。
 
「何か吹く人が居ないというので、小町があちこち電話掛けまくってて、私の顔見たら『笛を吹けそうな気がする』なんて言うから、吹いてみました」
 
「美しい音色だった。時間の取れる時はぜひ頼むよ」
「いいですよ。私、中学では部活は入らないつもりだし」
 
「ああ、ここで蓮菜ちゃんや恵香ちゃんたちと勉強会するんでしょ?中学だとお勉強大変だろうけど、頑張ってね」
「はい」
 

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↓ネタバレ(次回解説)

 
 
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