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■夏の日の想い出・星導きし恋人(19)

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そんな話をしている時に、今日の午後から生中継で放送されるパレエ公演に出演するプリマの赤迫理奈さんとバレエ団主宰の島原須美子さんが来る。
 
「おはようございます、島原さん、赤迫さん」
「おはようございます、ってきゃー、アクアちゃん!」
と赤迫さんが黄色い声を出している。
 
結局、アクアと赤迫さんでお互いのサイン色紙を交換した。
 
「バレエ団の公演いいですね。なかなかリアルでは見られないのでタイムシフト視聴で見させてもらっています」
 
「わぁ、見てくれるんだ?」
「私も中学1年の時までバレエしてたから。でもなかなか劇場までは見に行く時間が無くて」
 
「そうよね。忙しいもん」
「だから、タイムシフトでも見られるあけぼのテレビの放送は期待してたんですよ」
「やはり、そういう人がいるよね!」
「特に今はコロナ下で、劇場まで行って見るのも恐いですしね」
「そういう意見が結構あったのよ」
 
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島原さんたちが来ているのを見て、他の人と打ち合わせしていたコスモスもこちらに来た。
 
「お早うございます、お嬢様方」
「おはようございます。コスモスちゃん。でもここにはお嬢様より奥方の方が多い気がする。お嬢様は理奈ちゃんとアクアちゃんだけじゃないかな」
と島原さん。
 
やはりボクはお嬢さんなのか。
 
「夫のそばに居る時以外は“お嬢様”でいいですよ」
とコスモスが言うので、少し離れた席で田船智史と打ち合わせていた木取道雄が「え〜!?」といった顔をしている。
 
「じゃ全員お嬢様で」
とアルト社長も笑いながら言う。
 
「そういえばアクアちゃん、以前、黒鳥の32回転やってるの見たことあるけど今でもできる?」
と島原さんが訊く。
 
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「こないだ2月にもやらされてたね」
とアルト。
 
「##放送さんの『風林鍛冶屋愚愚』でやらされました」
「ここだけの話、いつも練習してるでしょ?」
とコスモス。
 
「できなくなったら悔しいから、基本的な練習は常にしてますよ」
「すごーい」
「さっすが。やはり売れてる人は努力してるのね」
 
「でも島原バレエ団さんのハッピーエンドの『白鳥湖』(*1)良かったですね」
「ああ、ちゃんと見てくれてる」
「ロシア流だとハッピーエンドなんでしょ?」
「そうなのよね。西側では悲劇的結末が好まれたんだけど、ソビエト体制では、悲劇的結末にするのをきっとスターリンが許さなかったんだと思う」
「でもボクもああいう幸福な結末が好きですよ」
とアクアは言った。
 
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(*1)『白鳥の湖(はくちょうのみずうみ)』のことをバレエ関係者はわりと『白鳥湖(はくちょうこ)』と呼ぶ。
 
この物語の結末は実に様々である。
 
(1)1877年のチャイコフスキー初版では、ジークフリートがオデットを殺して自分も死ぬ(無理心中)。あまりにも酷い終わり方なのでこのパターンはその後上演されていない。
 
(2)1895年のマリウス・プティパ版では、チャイコフスキーの弟さんなどとも話し合いながら、全体的に大胆な改訂が加えられた。最後はオデットが自殺してジークフリートも後を追うという形になった。それ以降の上演は多かれ少なかれこのプティパ版を下敷きにしている。
 
(3)不確実情報だが1930年代にレニングラード(現サンクトペテルブルク)のキーロフバレエ(現マリインスキー・バレエ)がハッピーエンド版を上演したという情報がある。その後、モスクワのボリショイバレエでもハッピーエンド版が上演されたようである(どちらが先かはよく分からない)。
 
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この問題に関する詳細な調査内容は↓
j.pl/swanlake/05/sma
 
現在行われている多数の上演では
 
a) ふたりが死んであの世で結ばれる(西欧系)
b) ジークフリートがロットバルトを倒して魔法が解け、現世でふたりは結ばれる(ソ連系)
c) ロットバルトを倒しても魔法が解けず結局ジークフリートとオデットも死んでしまう
d) ジークトリートとロットバルトが相打ちになり双方死ぬが魔法は解けてオデットは人間に戻る
e) ジークフリートがロットバルトに敗れて死に、それを悲しんだオデットも自殺する
 
などといったパターンがあるようである。他にもあるかも。
 
島原バレエ団は、島原さん自身が若い頃ソ連に留学してマリインスキー・バレエ学校で学んだ経験もあることから、ソ連系のハッピーエンド版を採用している。多分日本国内では少数派に属すと思われる。
 
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「今回も多分タイムシフトで、後で見させて頂きますね」
と言ってアクアは島原さんたちに会釈して制作室を出ようとした。
 
その時「キャー!」という悲鳴とドスンという音をほぼ同時に聞いたのである。
 
振り返る。
 
「赤迫さん!」
「理奈ちゃん!」
という声がしている。アクアも駆け寄る。
 
「どうしたんです?」
 
見ると赤迫さんが座り込んで足首を手で押さえている。
 
「私転んじゃって」
「何かに引っかかったのかしら」
「誰かに足首つかまれたような気がしたけど、きっと気のせい」
と赤迫さん。
 
「大丈夫?」
 
「見せて」
と言って寄ってきたのは、男子寮のキュアルームに詰めている海老原看護師だ。偶然こちらに来ていたのだろうか。
 
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「これ捻挫だと思う。患部を何かで冷やして足首を固定して、そのまま病院へ」
と海老原さんが言う。
 
「私これからバレエの出番があるんですけど」
「バレエなんて無理です。これ動かしたら筋を痛めてバレエ踊れなくなりますよ」
 
「病院に連れて行ってあげてください」
と島原さんが決断したように言う。
「でも公演は・・・」
「何とかするから」
 
それで冷蔵庫にあった保冷剤を患部に当て、あり合わせの板で彼女の足首を固定し、腕力のある男性が彼女を抱えて車に乗せ、海老原さんも付いて整形外科に連れて行った(プリマは体重が軽い)。
 

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「海老原さん、今日は戻られませんかね?」
などと言ってこちらに来るのは、男子信濃町ガールズの**君である。
 
「ああ。海老原さんと話してたんだ」
「個人的な相談事?」
「ええ、ちょっと。他の寮生にはあまり聞かれたくなかったので」
 
「性転換手術受けたいとかなら、行けば即手術してくれる病院に今から連れてってあげようか?」
「性転換手術を今から即ですか?まだちょっと心の準備が」
「どうせ切るなら早い方がいいのに」
 
彼 (今の所まだ彼女ではない)にはいったん寮に帰るように言い、ドライバーを呼んで送らせた。
 

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「14時からの放送はどうする?」
と飛んできたタイムキーパーの里中さんが訊く。
 
「どなたか赤迫さんの代わりにオデットを踊れる人は?」
とアルト社長が島原さんに尋ねる。
 
「緑川さんは踊れるけど、彼女が本編のオデットを踊ると、誰かがオデットの人間体を踊らないといけない。オデットの人間体を踊れるのは・・・」
 
「玉突きになってかなり配役が変わってしまうんですね」
「公演の30分前にそういう配役変えをするとかなり混乱するな」
「島原さんはオデット踊れないんですか?」
「こんなおばあちゃんが出て行ったら石投げられるわよ。それに32回転はさすがに無理」
と言ってから、島原さんが
「あっ」
と言った。
 

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「アクアちゃん、オデットを踊れない?そしたら配役変えなくて済むし」
「そんな踊ったこともないのに無理ですよ」
とアクアは慌てて言う。
 
「いや。アクアは中学1年の時にオデットを踊っている」
とコスモスが言う。ちょっとぉ、コスモス社長まで私に踊らせる気〜?
 
「でも振付が違うし、ラストも違うし」
「島原バレエ団の4月の公演は見たんだよね?」
「タイムシフトで見ました」
「アクアは見ていたら踊れるはず」
「だったらお願いしたいわ。振付は多少異なってもいいから。他の子が何とかそれに合わせていく」
 
うっそー!?みんなでよってたかって、私にオデット・オディールを踊らせようとしている!
 
「あるいは予定を変更してアクアのワンマンショーを2時間流そうか?」
「エレメントガードが今招集しても14時に間に合わない」
「でも突然私みたいな素人が主役を踊るといったら、劇団員さんたちが怒りません?」
「わりと客演プリマの公演というのはあるし」
「むしろ主役の客演は難しくない。道化師とか王妃みたいな役が客演だと調子くるうけど」
「四羽の白鳥の1人が客演とかも無理」
「それは絶対無理でしょうね!」
「ということでアクアちゃんやってみよう」
「踊ってくれたら特別ボーナスと3日間の特別休暇もあげるから」
 
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えーん!(でも3日間の特別休暇は欲しいかも)
 

そういう訳で、急遽アクアは『白鳥の湖』を生ライブ全国放送で踊ることになってしまったのである。
 
赤迫さんの方がアクアより体格がいいので、赤迫さんが着るはずだった衣装をアクアは着ることができた(プリマはわりと長身)。
 
それで島原さんが、赤迫さんのトラブルを劇団員たちに報告し、急遽アクアさんが踊ってくださることになったと説明する。
 
「突然言われまして、私この公演は1度見たことがあるだけなので、間違うとは思いますが、できるだけ頑張りますのでよろしくお願いします」
とアクアはみんなに言った。
 
「多少の間違いは何とかカバーするよ。よろしく、アクアさん」
とロマンティック・チュチュを着けている人が言った。この人がたぶん島原さんの言っていたオデットを踊れるもう1人・緑川さんなのだろう。今はロマンティック・チュチュを着けているけど、冒頭で“白鳥に変えられる前”のオデットを演じて、その後、道化師を演じるのだろう。
 
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「誰かが間違うのは日常茶飯事だしね」
と明るく言っている人がいる。悪魔の衣装を付けている。これが島原さんによれば藤岡さんか。
 
「僕の花嫁さんよろしく」
と王子の衣装をつけている男性。これが佐々木さんのはず。
 

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14:00. (2021.6.13 Sun 14:00)
 
赤迫さんが怪我してから30分、オデットをやってと言われてから15分、アクアはプロローグに臨む。
 
最初ロマンティックチュチュを着けた緑川さんが出ていき、そこに悪魔のロットバルトが現れ求愛するが、オデットは拒否する。するとロットバルトは怒ってオデットに魔法を掛ける。
 
ロマンティック・チュチュの緑川さんが岩陰に入り、代わりにそこに隠れていたクラシックチュチュを着てティアラを着けたアクアが、白鳥の動きを表すパ・ド・ブレ(細かく足を動かす動作)で踊り出てくる。2人1役による“早変わり”演出で、オデットが人間から白鳥に変わった場面を表現する。
 
アクアは中学生の時に白鳥の湖を踊った時も自分が変身後のオデットを演じたなあと思い出していた。
 
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ここではロマンティック・チュチュは人間、クラシック・チュチュは白鳥を表している。そしてオデットが着けているティアラはオデットの命そのものを表している。(チャイコフスキー版ではジークフリートにこのティアラを奪われることにより死亡する)
 

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第1幕第1場。王宮の庭園。
 
ホリゾント幕に王宮の映像が映されている。
 
明日はジークフリートの19歳の誕生日である。昔の西洋では19歳で成人なので、ジークフリートはこれまでの母による摂政を終えて、自分が国王として政治を執らなければならない。
 
この場面の前半では、自分の責任の重さに憂鬱な気分のジークフリートを、道化(緑川さん:人間体オデットと二役)・家庭教師(藤岡さん:ロットバルトと二役 *2)が元気付ける。そして多数の村人を庭園に入れてどんちゃん騒ぎをする。ここで多数の踊りが披露される。その中に三陸セレンも(当然村娘役で)入っていた。
 
まああの子は女子たちと一緒に着替えても問題ないだろうなとアクアは思った。
 
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(*2)家庭教師とロットバルトは同じ人が踊る。これについては単に同じ役者が2役しているのか、ロットバルトが宴会に潜入しているのか、解釈が分かれる。
 
しかしたいがい乱痴気騒ぎしている所に母(先王の王妃)が登場。騒いでいた連中は逃げていく。母はジークトリートに立場を考えるよう注意するとともに、弓矢を授けて騎士として一人前になるよう言う。そして明日の舞踏会で自分の妻を選ぶように言われた。
 
夕方、ジークフリートは白鳥が多数飛んで行くのを見て、狩りをしようと思い、弓矢を持って王宮を飛び出す。
 

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第1幕第2場。湖。幻想的な場である。
 
ホリゾント幕の映像は夜の湖である。
 
最初、まるで空中を歩くように踊るオデットとジークフリートが出会い、ふたりのグラン・アダージオがある。とても幻想的な場面で、これをアクアとジークトリート役の佐々木さんとで演じた。きれいに息の合った演技になり、ステージ外で見守る劇団員さんたちから拍手が起きていた。
 
「凄い。うちの劇団独自の振付でちゃんと演じていた」
と島原さん。
「こないだ見ましたし」
とアクア。
 
「この子は一度見たものはちゃんと踊れるんですよ」
とコスモス(忙しい筈だが責任上付き添っている)。
 
「それは天才ですね」
と島原さんは感心して言っていた。
 
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この後30人のバレリーナによる圧巻の群舞(ワルツ)、静と動の対比が美しい。それから『二羽の白鳥』、ジークフリートとオデットの踊り(アクアは軽いのでとってもリフトしやすい)、『四羽の白鳥』『三羽の白鳥』と続く。
 
前半の見せ場である。
 
アクアは中学生の時にやった時はこんな人数居なかったけど、ちゃんと人数が剃ろうと迫力だなと、踊りながら思っていた。
 

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夏の日の想い出・星導きし恋人(19)

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