広告:ボクの初体験 1 (集英社文庫―コミック版)
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■夏の日の想い出・ホームワーク(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-01-09
 
その日、恵真はいつものように女子制服で学校に登校し、授業を受けて4時頃下校した。
 
恵真が少し悩むような顔で自宅への道を歩いていたら、車が停まりクラクションが鳴った。
「あ、仮名Mさん!」
「今帰る所?」
「はい、そうなんです」
「自宅まで送っていこうか?」
「でも近くですから」
と言って断ろうとして、ふと恵真は“この人に相談してみようかな”と思った。
 
「あの、ちょっと相談したいことがあるんですが、いいですか」
「いいけど。じゃ、ちょっとドライブしようか。それからおうちに送っていくよ」
「はい。すみません」
 
それで恵真はMさんの車(ライオンが歩いているようなマークが付いている)の助手席に乗り込んだ。
 
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「何か悩み事?」
とMさんは運転しながら尋ねる。
 
「ええ。ちょっと」
「お仕事が辛いとか?」
「いえ、とっても楽しいです」
 
恵真は自分が半月ほど後には“仕事が辛い”と思うハメになることをまだ知らない。
 
「ボク、7月に突然Aさんに道で呼び止められて女の子の格好することになって、写真とかも撮って、女の子歌手としてデビューすることになって音源制作とかもして、学校には女子制服で通うようになっちゃったんですけど」
 
「うん」
 
「自分は男の子なのに、こんなことしてていいのかなと悩んじゃって」
「性転換手術受けたら?」
「やはりそれがいいですかね?ボク、内緒にしてたけど、女の子であったらいいなと小さい頃から思ってたんです」
 
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「まあそういう子は多いよ。手術受けたいなら病院紹介するよ。行けば今夜でも手術してくれる所知ってるけど」
「今夜ですか!?」
 
「まだ気持ちの整理つかない?でも法的な性別は変えることにしたんじゃないの?」
「はい。それは変えさせてもらおうと思って、裁判所に申請書出して面談も受けましたし」
 
「法的に女の子になるなら、肉体的にも女の子になればいいんじゃないの?」
「やはりそうですよね・・・」
「それとも取り敢えず睾丸だけ取る?それなら30分くらいで済むし、入院の必要も無いよ」
「性転換手術だとやはり入院が必要ですか?」
「最低1週間は入院が必要。その後3ヶ月くらい自宅療養」
「大変なんですね!」
「大手術だからね」
「そっかー」
と言ってから恵真は、尋ねた。
 
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「睾丸を取るだけなら簡単なんですか?」
「うん。多少は痛いけど、数日で痛みも消えるよ。取っちゃう?」
 
「・・・取っちゃおうかな」
「よし。じゃ今から手術してくれる病院に連れて行ってあげるよ」
「今からですか!?」
「嫌?」
「いいです。連れて行ってください」
と恵真は言った。
 
睾丸が無ければ、自分が男の子なのに女の子していることへの罪悪感は小さくなる気がした。睾丸を取ること自体は、特に抵抗感は無い。まだちんちんまで取るのはちょっと怖いけど(取りたくない訳ではないけどちょっと怖い)。
 
「あ、でも料金はいくらくらいするんですか?」
「30万円くらいだけど、大丈夫だよ。Aさんに付けとくから」
「Aさんなら、そのくらい多分大したことないですよね?」
「うん。そのくらい自分のカードから引かれていても全然気付かない」
 
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それで恵真は“仮名M”さんに連れられて病院に行ったのである。
 
手続きなどはMさんにしてもらった。
 
心電図などの検査を受けてから、女性の看護師さんに剃毛してもらう、剃毛されながら、ああ、ボクその内、このちんちんも取っちゃうのかなあ、などと考えていた。
 
やがて手術室に運び込まれ、部分麻酔を打たれる。
 
お医者さんが
「本当に取ってもいいですね?もう戻せませんよ」
というのにハッキリと
「はい。取ってください」
と答えた。
 
それで先生は恵真の陰嚢にメスを入れ、睾丸を2個とも摘出した。
 
「持ち帰りますか?」
と訊かれたが
「要りません!」
と言ったら、睾丸はゴミ箱に捨てられちゃった!
 
手術が終わって、しばらく安静にしておくのに病室に入った恵真は
 
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「とうとうボク男の子やめちゃった」
と独り言を言った。
 
「でも睾丸を取っちゃったことはお母ちゃんには内緒にしておこうかな」
 
母が「恵真は既に女の子の身体になっている」と認識していることを恵真は認識していない!母はきっとAさんにうまく乗せられて性転換手術しちゃったのだろうと思い込んでいる。
 
医師の検査を受けてから退院する。
 
帰りはMさんの車で自宅そば(自宅へ行く路地の入口)まで送ってもらい、よくよくお礼を言って別れた。
 
自宅でお風呂に入ってあの辺を洗おうとしたら“既にタックされている”ようでお股の形が女の子みたいな状態になっていたので、
 
「あれ?看護師さんがタックしてくれたのかな?」
と思った。
 
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看護師はそんな“親切”までしない!
 
そもそもタックして造った“割れ目”ちゃんは開いたりできる訳がないのに、恵真は、なーんにも考えずに、割れ目ちゃんを右手の指で開いて“中”を優しく左手の指で洗っている。
 
恵真は数日前に3度目の生理が来ていて、今日も念のためパンティライナーを付けていたのだが、もう経血は残っていないようであった。
 

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2020年のアクアは3本の主演映画を撮っている。
 
2020.01 『気球に乗って5日間』
2020.07-08 『ヒカルの碁2』
2020.10 『君はダイヤモンド』
 
この他に6月に写真集を撮影したし、春と秋にアルバム(六星座・宝石箱)を制作しているし『ヒカルの碁』の撮影が終わった後すぐに朗読劇『星の銀貨』の収録をしている。今年は『ほのぼの奉行所物語』が最初の2回くらい分を撮影した所でキャンセルになってしまったものの、8月は映画の撮影をしながらライブの準備もしていた。
 
まさに“身体が2つ無いと手が回らない”状況であった。
 
11月1日に『君はダイヤモンド』がクランクアップしたが、12月には『少年探偵団IV』の撮影が始まる予定である(普段の年は11月から始めるが、出演者の予定が詰まっていて、開始が遅れてしまった)。
 
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「じゃ11月2日から11月29日までは“空いて”いるな」
と山村マネージャーは言った。
 
「は!?」
とアクアは、来年3月までほとんど余白の無いスケジュール表を見ながら声を挙げた。
 
「よし、今年も時代劇スペシャルを撮るぞ」
「え〜〜〜!?」
とアクアが悲鳴をあげたのは『君はダイヤモンド』の制作が決まった10月頭のことだった。
 

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実を言うと3月くらいの段階で、今年は『とりかへばや物語』をしようということで、脚本の執筆は発注されていた。
 
元々は平安時代末期に(今の形に)整備された物語だが、これを近年川口英理子さん!が翻案した『男の娘とりかへばや物語』をベースにして、片瀬紗友里さんに脚本を書いてもらっていた。片瀬さんは過去にテレビで放映された『竹取物語』の脚本を書いたことがあり、平安時代の時代考証に強いことから依頼された。片瀬さんは最近はアニメの脚本を多く書いていたのだが、久しぶりの平安ドラマの依頼に張り切っていた。
 
撮影用のオープンセットも建築することになり、郷愁村の余っている?土地200m×200mほどの領域に、平安京の後宮や大臣邸・二条御殿などを再現することにした。ほとんどの部分がユニット工法で、建てたのは下記↓17個の邸宅・殿である。
 
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内裏(6)
宣耀殿(尚侍)・麗景殿・昭陽舎(梨壺:女東宮)・清涼殿・紫宸殿・温明殿
この他に“ハリボテ”の弘徽殿・常寧殿・藤壺・梅壺も建てておく。
 
一般邸宅(9)
左大臣宅:寝殿・東対・西対
右大臣宅:桐対(寝殿は左大臣宅を共用)
二条御殿:寝殿・北対(東対・西対は省略)
吉野宮
宇治邸/左大臣別宅(共用)
六条辺りの家/四の君の乳母の家(共用)
松尾神社:参集殿・風祈社
 
建築は9月には完成している。
 
建築費は合計4億円掛かっている。これ以外に多数の牛車、神輿なども制作し、大量の平安衣装も製作した。それも含めると大道具・衣装で6億円掛かっているが、この費用はムーラン・リゾートが出しており、§§ミュージックはムーランからこれらの建築物その他を半額の3億円で借りて撮影に使用した。残りの費用は、2021年以降、郷愁リゾート“平安村”として観光客に開放して回収すると若葉は言っていた。実際には本人は別に赤でもいいと思っている。ただし番組放送で黒字が出た場合は、ムーランにその一部を配分する約束である(建築費より多くなる可能性もある)。
 
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そういった準備は進めていたものの、コロナの影響で、テレビの番組収録が軒並み中止・延期になる中で、今年本当に時代劇スペシャルを制作できるのか、§§ミュージック側でも分からない状況になっていた。それでも昨年放送したΛΛテレビが「ぜひ今年も」と言ってきていたし、昨年のドラマの制作資金を提供してくれて、高い視聴率が取れご機嫌だった松芝電機も「ぜひ今年もやりましょう」と言ってきていた。放送局が今年提示した放送料が格安だったし、松芝電機が提示したスポンサー料も昨年の倍で、制作すれば今年はほぼ確実に黒字が出ると思われた。
 
ただ、問題はアクアのスケジュールが空くか?という問題だったのである。
 

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「とりかへばや物語って、どんなお話なんですか?」
とアクアは訊いた。それで山村は簡単に説明した。
 
「時は平安前期、10世紀半ばの物語なんだ。時期的には藤原兼家とか安倍晴明くらいの時代。劇中に左大臣と右大臣の兄弟というのが出て来るけど、藤原兼通・兼家兄弟が政権の中枢にあった時代をかなり意識していると思う。中国で唐が907年に滅亡しているけど、その唐の滅亡から間もない時期というのが時代背景になっている」
 
と山村は最初にだいたいの時代情勢を説明した。
 
「12世紀に書かれたと言いました?」
と西湖が質問する。
 
「そう。だからこれは当時“時代劇”として書かれたもの」
「へー!!」
 
「物語では、右大臣家には跡継ぎの息子がおらず女の子4人だけだった。一方、左大臣家には男の子と女の子がいたのだけど、この女の子が活発な性格で、昭和時代のことばでいえば“お転婆(おてんば)”。本来なら大臣家の御令嬢なんて、深窓で静かに純粋培養されているべきなんだけど、この娘はまず部屋に居ないんだな。男の子たちと一緒に飛び回っている。一方で息子の方は身体を動かすのが苦手で、いつもお付きの侍女と貝合せとか、囲碁や双六とかして遊んでいる」
 
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「ああ、何となく見えた」
 
「それで入れ替わるんですか?」
 
「そういうこと、そういうこと」
 
「ここで大事なことはだな。娘の方は活発な性格だから、男みたいに活躍したいと思っているし、なれるものなら男になりたいと思っている。でも息子の方は、別に女の子になりたい訳ではない。妹が自分の振りをして、矢比べとか乗馬とかに出かけてしまうので、仕方なくその代理をさせられて妹の服を着て、お嬢様の振りをしているだけ。だから消極的に女装するハメになっているだけで女性指向は無いんだよ。でも周囲は、いつも女の子の格好をしているから、女の子になりたいのだろうと思っている」
 
と山村が説明すると
 
「僕みたい」
とアクアが言った。
 
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「まあ、お前の場合と似ているかも知れないな。お前は女の子になりたいんだろうけど」
「なりたくないです!」
「無理しなくてもいいのに」
 

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「まあそういう訳で、妹は男として元服して宮中に仕え、中納言まで出世してしまう。これは今の時代なら省庁の長官クラスの重職だ。そして妹の身代わりをさせられている兄の方は女として成人することになり、尚侍(ないしのかみ)という役職までもらい、女皇太子の遊び相手として宮中にあがるハメになる」
 
「皇太子が女なんですか?」
「うん。先帝のひとり娘なんだよ。先帝にはその子しか子はおらず、今上(きんじょう)は先帝の弟で、今上には男の子も女の子もまだ無い。だから先帝の一人娘が皇太子になった」
 
「それで2人が男女入れ替わって宮中に勤めていて、性別がバレないかとハラハラ・ドキドキの物語ですか?」
 
「まあ基本的にはそういうこと」
 
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「それで僕の役柄は・・・?」
「左大臣の娘と息子、一人二役だな」
「やはり・・・」
 
「当然のことながら、これには本格的にボディダブルが必要になる。男の衣装、女の衣装、同じものを2つ用意するから、アクアMと西湖Mが女の衣装を着け、アクアFと西湖Fが男の衣装を着けてスタンバイしておき、適時交代しながら撮影をおこなう」
 
「僕が女の衣装なの!?」
「あ、まちがった。逆だ」
「ボクは男の衣装でもいいけど」
 

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夏の日の想い出・ホームワーク(1)

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