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■夏の日の想い出・天下の回り物(23)

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チケットはこういう連絡になっている。
 
東京6:32(はやぶさ1)10:57新函館北斗11:09(スーパー北斗9)14:41札幌15:00(ライラック23)16:25旭川
 
10時間掛けての旅である。のんびり行くかと思い、私はお弁当を開け、お茶を一口飲んでから、お弁当を食べながらタブレットにヘッドホンを接続し、指定の動画を再生した。
 
これは・・・・
 
私は息を呑んだ。
 
KARIONの楽屋の様子が映っているのだが、日時も表示されている。2018/09/15 9:00という表示だ。これはKARION大宮公演の時の映像だ。私はこの日佐良さんの車に乗って自宅を出たものの、そこから先の記憶が途切れている。佐良さんによると私はちゃんとKARIONの会場に入り、そこで歌って、また佐良さんの車でローズ+リリーの会場に入って「寝る」と言って寝ていたらしい。
 
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しかし私の記憶は車に乗った所で途切れていて、ローズ+リリーの楽屋で目が覚めるまで5時間ほどの記憶が無いのである。
 
そしてこのビデオは私が記憶を失っていた間のKARIONの楽屋の様子が映っているようなのである。
 
これは私の位置から撮影しているようで、和泉・小風・美空が映っている。多分、アクセサリーなどに偽装した小型カメラによる隠し撮りなのだろう。トラベリングベルズのメンツや、夢美や保津美(エルシー)たち追加伴奏者の姿も見える。私の声も聞こえる!おそらく過去に何度か代理してもらった、私のそっくりさんなのだろうが、声もそっくりである。
 
ビデオはその後KARIONのライブの様子となるが、全て蘭子の視線から撮影されている。ビデオは曲の演奏途中を飛ばして、曲と曲の間のおしゃべりなどを収録している。かなりの手間を掛けて編集してあるようだ。それで2時間のライブを楽屋の様子の分まで入れて1時間ほどで全部見ることができた。
 
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この日のビデオが終わると次は2018/09/16日付のビデオが始まる。この日のビデオは昨日のビデオよりかなりハショられている。特にライブの部分は短い。おそらく前日と同じような話をした所を省略したのだろう。
 
それで結局私は新幹線、そしてスーパー北斗の車内でここまで11回分のKARIONライブの楽屋とステージ、そして途中何度かあった打ち上げの様子まで見ることができたのである。
 
つまりこれで今日和泉たちと会って話が合わせられるということか!
 

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夕方、旭川駅で降りた私はタクシーに乗って前泊するホテルに向かった。
 
(午後の飛行機1400->1540で東京から飛んできた)和泉たちと合流し、食事をしながら明日のライブについて打合せするが、私は新幹線やその後乗り継いだ特急の車内で見たビデオのおかげで、彼女たちと話を合わせることができた。14日の東京国際パティオの公演で起きた小さなトラブルに関しても、ちゃんと対策を話し合うことができた。
 
話がだいたいまとまった所で小風が言った。
 
「今日の冬は冬子Cみたいね」
「へ!?」
 
「冬子って5人くらい居るんでしょ?私たちは取り敢えずローズ+リリーのライブに出ていた冬子を冬子B、KARIONのここまでのライブに出ていた冬子を冬子Cと呼ぶことにした」
 
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「AとかBとかCって、私はひとりしか居ないけど」
 
「うんうん。そういうことにしておいていいよ」
「前から冬って数人居るよなあとは思っていたんだよね」
 
「でも今回のダブルツアーで少なくとも3人以上居ることは分かった」
「KARIONのライブに出ていた冬子は凄く元気だった」
「ローズ+リリーに出ていた冬子は少し疲れていた。世間ではさすがに1日に2つのライブに出たら後の方はきついよなと言ってたみたいね」
「え〜〜!?」
 
「でも苗場で見た冬子よりはまだ元気だった」
 
「だから苗場に出たのがA、今回ローズ+リリーのツアーをしたのがB、KARIONのツアーをしたのがC」
 
「実際、私がローズ+リリーの楽屋でそれとなく振った話題への反応からこの冬子はKARIONのライブに出た冬子とは別人だと確信したし」
と美空が言っている。
 
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あ・・・それは多分モスバーガーのどれが好きかという話だと、今なら分かる。
 
「えっと・・・」
と私がどう答えるべきか悩んでいると
 
「まあいいよ、いいよ。冬子って3人くらい居ないとどう考えても作曲量とかがあり得ないしね」
と小風が言う。
 
「でも今年の作曲ペースを考えると、やはり冬子は10人居ないとありえないという気もしている」
 
「あはは・・・」
 
「私たちはどの冬子ともお友だちだからね」
 
えーん。私、これどう言い訳すればいいんだろう?
 

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「だからこういう企画を今度しない?」
などと和泉が言う。
 
「ずっと昔言ったこともあったけどさ、冬がピアノとヴァイオリンを弾きながら私たちと一緒に歌うのよ」
 
「ピアノを弾いているのは水沢歌月で、ヴァイオリンを弾いているのは唐本冬子で、歌うのが蘭子だね」
 
「今度の曲のPVでやらない?他の冬子を呼んできて一緒に合奏」
「無理だよぉ、私ひとりしか居ないのに」
 
「今更隠さなくてもいいのに」
 

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しかしこの日、久々に私はKARIONのメンバーとして2時間の歌唱をし、とても充実した気分だった。
 
確かに1人で毎日2回公演していたら身体がもたなかったよなという気はして、お膳立てしてくれた人(やはり丸花さん?)に私は感謝した。
 

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旭川から戻ってきた10月21日、私は政子から信じがたい話を聞いた。
 
「和実がね。妊娠したんだって」
「へ?和実って、淳と結婚している和実?」
「もちろん」
「妊娠ってどういう意味よ?」
「赤ちゃんができたんじゃないの?和実の子宮の中に」
「和実、子宮があるの〜〜〜?」
 
それで電話で淳と話したのだが、淳の話はさっぱり要領を得なかった。それで和実に直接電話をしたのだが、和実の話は何だか難しすぎて、さっばり理解できなかった!
 
千里2が解説してくれた。
 
「要するに和実は完備ハイティング代数的に妊娠しているんだよ」
「意味が分からないんだけど。ハイティ??」
 
「ブール代数は分かるでしょ?」
「高校時代に習った気はする。排他的論理和とかドモルガンの法則とか」
 
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「ブール代数は、全てが真か偽か確定する、神のような世界の論理なんだよ。でも人間の世界では真か偽かさっぱり分からないものが多いじゃん」
 
「確かに」
「そういう論理を数学的に理論化したのがハイティング代数」
「それが和実の妊娠とどう関わっている訳?」
 
「排中律というのがあるんだけど、これがその全ての物事は真か偽かであってどちらでもないということは無いっていう公理」
「うん」
 
「でも現代では真とも偽とも決定できない命題が存在することが証明されていて、排中律は否定されている」
「それはそうだという気がするよ」
「ハイティング代数の世界は、そもそも排中律なんて成立しない。人間の論理だから、人知で決定できないことがたくさんある」
「まあ神様には分かっても人間には分からないことは多いだろうね」
 
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「ところがハイティング代数の世界では『真か偽かである』という命題の真理値は1になってしまうんだな。『真である』、『偽である』という命題の真理値はどちらも1ではないのに」
 
「ごめん。意味が全く分からないんだけど」
 

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私は和実が曖昧な状態で妊娠しているのなら、ファジーのようなものかと尋ねたのだが、ファジーは真理値が[0,1] = {x|0<=x & x<=1}という実数区間を取る論理で、それに対して完備ハイティング代数(cHa)は完備ブール代数(cBa)から少し仮定を減らしたものなのだと言っていた。
 
結局よく分からなかった!
 
しかし順調にいけば来年5月くらいには和実は出産することになるらしい。
 
男の娘だったのに!
 
(但しフェイの時のように8ヶ月で帝王切開して取り出す可能性もあると言っていた。もっともフェイの場合は普通の女性の子宮の半分サイズの子宮だったのでそういう処置をとったのだが、和実は子宮そのものが無いはずなのに!?)
 
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どうやって和実が妊娠したのかもよく分からないのだが、淳が性転換手術を受ける前夜、ふたりは避妊具をつけずにセックスしたらしい。そのたった1度のセックスで和実は妊娠したようだということのようである。
 
性転換直前のセックスで妊娠って・・・政子のお腹の中にいる赤ちゃんと同じじゃんと私は思った。もっとも、今政子のお腹の中にいる赤ちゃんは、私が去勢手術の前夜にたった1度だけ政子とセックスした時の精液を、政子が自分のヴァギナの中からスポイトで吸い上げて、冷凍保存しておいたものを、今年6月に人工授精であらためて膣内に投入した結果妊娠したものらしいが(*1).
 
しかし考えてみれば代理母さんに産んでもらった希望美ちゃんも、和実の卵子と淳の精子の掛け合わせで受精卵を作ったのだから、元々和実は妊娠する能力があったのかも知れないと私は思った。
 
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(*1)政子の説明が適当すぎるのでこの時点では私はそう思っていたのだが、実際には人工授精ではなく体外受精であったことを後から知ることになる。
 

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今年のローズ+リリーのカウントダウン・ライブは9月8日に発表して、翌週末9月15日に抽選発売したのだが、締め切りとした9月24日(振)までに9万席分の申し込みがあり、抽選で5万席分を当選として通知した。
 
(今回は会場のキャパ自体には余裕があるので全員当選にしても良かったのだが、それだとセットにする旅館が確保できないのである。宿泊を考えると5万人が限界だった)
 
やはり最初は動きが鈍かったものの、動画サイトに転載されたミニアルバム発売記者会見でのマリの立体映像が、とても映像には見えないくらいリアルっぽかったこと、ローズ+リリーのライブ幕間でのKARION立体映像も良い出来であったことから、結構楽しめるかもということで、申し込み受付期間の後半に申し込み数が伸びた感じであった。結果的には倍率1.8倍である。
 
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会場となる小浜市郊外の特設会場は、作曲家《夢紗蒼依》を運営しているAI-Museが所有することになった施設である。
 
昨年の秋から準備を進めて2018年春に運用開始されたAI-Museのシステムは電気を大量に使用することから、南九州の原子力発電所のある某市にあった4haの廃工場跡を買い取り、その工場の床を強化してスーパーコンピューターのラック74台を並べたものである。夏にはスーパーコンピュータの2号機が完成して、ラックは150台になり、凄まじい電力を消費しながら平均1日4曲の作品を生み出している。
 
しかし私たち(私・千里2・若葉・丸山アイ)は危惧したのである。
 
現在の日本の原子力発電の事情では、いつここの発電機が停止するか分からない。また市長や知事の交代で発電所の操業が困難になるリスクもある。そうなった場合、こんな大量の電気を食うプロジェクトは運用が厳しい。
 
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そこで全く別の場所に第二生産工場を建設することにしたのである。
 
場所としては多数の原発が稼働している福井県の若狭湾沿岸地域が良いだろうということになり、土地を探してもらった所、小浜市に工場を建てようとして計画頓挫した10haの土地があり、所有している地元の不動産会社と交渉した所、即現金でもらえるのなら15億円で売っていいということだったので、買っちゃったのである。ここは都市計画は無指定なので、何を建ててもよい。
 
ただ住宅地に近いので深夜にあまり騒音を立てることができない。それで検討した所、スーパーコンピューターと空調システムは地下に作ってしまうことにした。地下といっても元々斜面の土地なので、斜面の下の方を少しだけ掘って壁を作り込んでしまい、そこを埋めてしまえば結果的に地下になる。
 
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「スーパーコンピューターって物凄い熱が出るんでしょ?」
と若葉が言った。
 
「うん。だから空冷では無理だから水冷したり液体窒素とかで冷やす」
と私は説明する。
 
「だったらその熱でスーパー銭湯とか作れる?」
「スーパー銭湯〜〜!?」
 
「だって10haって少し土地がありすぎだもん」
「まあ確かにスーパーコンピューター自体は1セット200平米、2セットでも400平米あれば充分なんだよ」
「それも地下だし」
 
「そうなんだよねぇ」
「スーパー銭湯って営業許可取るの簡単だよね?」
「まあ温泉よりは遙かにハードルが低い」
 
「じゃ作っちゃっていいよね?」
「アイちゃんにも声掛けておいてね。千里は大丈夫だろうけど」
「千里は言っておいても忘れてるし」
「まあ確かにあの子はそういう子だ」
 
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「そうだ。10haもあったら、10万人コンサートとかできない?」
「誰が10万人も観客を集めきれるのさ」
「アクアなら行ける」
「行けるだろうね」
「ローズ+リリーも今年までは行ける」
「でもマリが妊娠中で。秋のツアーの時期もやや微妙なんだよ。今から計画立ててたらどうしても12月くらいになっちゃうし」
 
「だからカウントダウン・ライブをやればいいんだよ」
「マリが無理」
 
「マリちゃんはホログラフィで」
「へ!?」
 
「あのスーパーコンピュータがあれば、そのくらいできるんじゃないの?」
「待って。それアイちゃんと山鳩さんと一緒に会議してみよう」
 

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夏の日の想い出・天下の回り物(23)

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