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■夏の日の想い出・天下の回り物(12)

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「それで何の楽器を演奏すればいいんですか?」
とアクアは事前に電話で私に尋ねてきた。
 
「ピアノ、リコーダー、フルート、クラリネット、トロンボーン、ヴァイオリン、チェロ、ギター、ドラムス」
 
「たくさんありますね!」
「デビュー前にハワイでビデオを撮影したとき、ピアノ、ギター、サックス、フルートは吹いているところを見た。ヴァイオリンもレッスンに通っていたよね」
 
「はい。今ケイさんがおっしゃった楽器は大丈夫ですが、クラリネット、トロンボーン、チェロ、ドラムスが経験ありません」
 
「ヴァイオリンは上手いと聞いたし、それならチェロはすぐ弾けるようになると思う。今思ったけどサックスが吹けるなら、トロンボーンをサックスに変更して、クラリネットの代わりにEWI(イーウィー)でもいいかも」
「イーウィー?」
「ウィンドシンセサイザね。要するに電子サックスだよ」
「だったら行けるかも」
「じゃEWIは楽器1個プレゼントするから、移動中の車の中ででも練習してもらえば」
「分かりました」
「残りはドラムスだけど、アクアちゃん運動神経がいいから多分半日も練習すれば打てるようになると思う」
「分かりました。練習しておきます」
 
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それで当日、祐天寺のXスタジオの一室に、私とアクア、千里(千里2)、山村マネージャーの4人が揃った。麻布先生に言って今日から3日間、この祐天寺店全体を貸切り、スタジオにはスタッフを含めて誰も近づかないようにしてもらっている(ここの鍵は私が預かっている)。
 
「まあそういう訳でですね。山村さん」
「うん?」
「この撮影をアクアMとアクアFでやりたいんですよ」
と私が言った。
 
アクアは口に手をやって
「え〜〜〜!?」
と言っている。
 
「なるほどねぇ。だからこの4人だけな訳だ」
と山村は楽しそうな表情で言う。
 
「でも機器の操作は?」
「私は音響技術者の資格を持っていますよ。ここの常務の弟子なんです」
「ほほぉ。撮影は?」
「山村さんにお願いできますか?」
 
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「いいよ。カメラの扱いは割と自信ある。それに千里には撮影なんて無理だからな」
と山村は千里を見ながら言った。
 
「私は何すればいいの?」
と千里が訊く。
 
「ディレクター。私が機器の操作するから、私はアクアの演技までは見てあげられない」
 
「了解〜」
 
「要するに千里がいちばん偉い人だな」
と山村。
 
「まあ、私はこの3人の誰にも負けないよ」
と千里は言っている。
 
負けないって、何の勝負なんだ!?
 

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それで千里の指揮のもとで、まずは練習を始める。
 
山村は他の2人のアクアを呼び出した。すぐにその2人はやってくる。恐らく近くに待機させておいたのだろう。彼らは3人とも、事前に私が送っておいたEWI5000は完全に吹きこなしていた。
 
「さすがだね」
「タッチするだけで音が出るので最初戸惑いましたけど、慣れるとサックスとほぼ同じ感覚で吹けました」
「そうそう。最初そこに戸惑うよね」
 
チェロはまだ道半ばという感じだったので、千里がアクアFにチェロを教え、一方ドラムスは私がアクアMに指導した。その間アクアNはフェイとヒロシで撮ったPVの映像を見ながら全体的な練習をしていた。
 
3人は誰かひとりが覚えたものは他の2人も覚えているのだという。それでシナリオも他の人の3倍の速度で覚えてしまうらしい。
 
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だからあんなに仕事をこなせるのかと私は納得した。しかし逆に言うと、アクアは3人に分裂していなかったら、あまりの多忙さで身体を壊していたのではと私は思った。
 
一方山村はカメラでその練習の様子も撮影し、カメラワークの練習も兼ねていたようである。もっとも山村は練習中のアクアは、絶対に同時に2人以上顔が映らないように、気をつけていた。
 

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初日は個々の楽器練習で終わってしまい、2日目から通しの練習になった。
 
が・・・1発でうまく行ってしまった。
 
「今の撮影してた?」
と千里が訊く。
 
「もちろん」
と山村。
 
バックに予め録音しているストリングスのサウンド(私と鷹野さんで弾いたもの)が流れる中、アクアMとFはピアノの連弾に始まり、リコーダーの合奏、フルートの合奏、ウィンドシンセの合奏、アルトサックスの合奏、ヴァイオリンの合奏、チェロの合奏、ギターの合奏ときて、最後は1つのドラムスセットを2人で一緒に叩く。
 
これが全て1発でうまく行ってしまったのである。
 
「ひとつのドラムスを2人で叩くのはさすがに自信無かったんですけど、今のはうまく行きましたね」
 
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「よし。念のためもう1度撮影しよう」
 
それでもう一度やるが、アクアたちは美事に全ての楽器を弾きこなすし、ふたりはひじょうに息の合った演奏を見せた。ストリングスのサウンドが流れているので、楽器から楽器へと移動する時間も限られているのだが、それを全部リアルタイムで間に合わせてしまった。
 
「ほんとに君たちは凄い」
と私も千里も褒めたのだが、アクアたちは顔を見合わせている。
 
「どうしたの?」
 
「私たち3人になった時、これバレたらきっと3人分のお仕事させられるようになると言ったんです」
「なんかそれが現実になりつつある気がします」
 
「ああ。北里ナナちゃんが誘拐される所をNとFで撮ったんでしょ?」
「普段の倍たいへんでした」
 
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「まあこういう撮影はめったにないから大丈夫だよ」
「本当ですか〜?」
 
あまりこちらを信用していない感じだ。まあ分裂を知っているのはここにいるメンバーくらいだから、大丈夫であろう。
 
多分。
 

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なお、今回使った楽器であるが。
 
ピアノの連弾はスタジオ備品のSteinway D-274 "Concert Grand Piano" を使った。またドラムスもスタジオ備品のドラムスセット Yamaha "RYDEEN" RDP0F5 を使用した。
 
リコーダーはアクアが小学校の時に使っていたヤマハのリコーダー(ABS樹脂製)を持っているのでそれでいいかと言っていたので、同じ製品をもうひとつ用意しておき、2人に吹かせた。ウィンドシンセはEWI1500を予め1本渡しておいたのだが、同型機をもう1本渡した。
 
「EWI(イーウィー)は2本ともプレゼントね」
と私。
「ありがとうございます。これホントに合奏して遊ぼう」
とアクアF.
 
「もう1本あれば3人で合奏できるけどね」
と(恐らく何気なく)アクアNが言った。
 
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「ん?」
 
「だったら後でもう1本そちらに届けさせるよ」
「わっ、すみません!」
 

アルトサックスはアクアは Yamaha YAS62 を所有している。これはマウスピースだけ用意してもらって、サマーガールズ出版の備品の Yamaha YAS875EX をFに吹いてもらった。
 
「これいい音が出ますね!」
と言っている。
 
「いや。いい楽器を使ったら即いい音を出せるアクアが凄い」
と千里が言っている。
「うん。普通はその楽器の能力を引き出すのにある程度の日数が必要」
と私。
「まあ数ヶ月、どうかすると数年かかるよね」
「そうそう」
 
「やはりこの子は天才だよ」
と山村も言っている。
 

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ヴァイオリンはアクアが自己所有しているのは Yamaha 'Artida' YVN500S である。同じ型のヴァイオリンをマリが所有しているので、私が勝手に持って来た。自分のヴァイオリンをアクアが弾くなんて聞いたら、絶対自分も見に行くと言い出すに決まっている。それでこっそり持って来たのである。
 
しかしアクアの楽器は上島先生が買い与えていたものだと思うが、どうも先生はYamahaが好みのようである。ほぼヤマハの製品で揃っている。
 
なお、アクアの実家(田代家)にはヤマハのグランドピアノ S6A があるが、これは上島先生が買ってくれたものではなく、音楽の先生をしているお母さんが長期ローンで買ったものである。なおアクアが現在住んでいる自宅マンションにはクラビノーバ CLP-685PE が置かれている。グランドピアノの鍵盤システムを採用した製品である。
 
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チェロはサマーガールズ出版が所有するカールへフナーのチェロを2点持ってきている。今回アクアは昨日初めてチェロという楽器に触ったのだが、やはり普段からヴァイオリンを弾いているせいか(忙しくて疲れた時に弾くと疲れが取れる、などと本人は言っている)、わりと早く弾きこなした。
 
フルートはアクアが自己所有していたものは
Yamaha "Ideal" YFL-877: offset ringkeys E-mechanism "all sterling silver" soldered であった。
 
「それ何代目?」
と私は尋ねたのだが
 
「小学4年生の時に上島さんに買ってもらったんです」
などと本人は言っている。
 
「まさかそれが1本目」
「はい。これ以外には持っていません」
 
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普通なら数年のキャリアがあり、かなり腕が上がってきた人が買うようなプロ仕様の製品である。こんなものをいきなり買い与えたのが上島先生らしい。もっともお金に充分な余裕があるのなら最初から良い楽器を使った方が良いことは良い。
 
「でもオフセットを使っているのならインラインも試してごらんよ」
と言って私は同じクラスのインライン型を買ってきた。
 
Yamaha "Ideal" YFL-897: inline ringkeys E-mechanism "all sterling silver" soldered
 
「それあげる」
と私は言ったのだが、アクアNが私を見ている。
 
「んじゃもう1本、サンキョウのNew E-mecha のフルートでも適当に見繕って送ってあげるよ」
 
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「やった!ケイ先生大好きです」
「はいはい」
 

そしてギターはアクアはヤマハのLS-56を持って来ていたのだが、私は彼らにギブソンのJ-185を渡した。
 
「わあ、ギブソン触るのは初めてですー」
などと言っている。
 
J-185は結構大きいのでそれをアクアMが弾き、自身のギターLS-56はアクアFが弾くことにしたようだ。
 
しかし例によってアクアはこの高級ギターを簡単に弾きこなしてしまった。
 
それで収録が終わった後で彼は訊いた。
 
「このギターはかなり使い込まれている感じですね。どなたかの愛用品ですか?」
 
それで私は答えた。
「それ、お父さんが使っていたギター」
 
「・・・」
 
アクアは驚いたような顔をしていたが、やがて訊いた。
 
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「高岡猛獅ですか?」
「もちろん」
 
するとアクアはボロボロと涙を流して泣き出してしまった。最初に泣き出したのはJ-185を抱えているMだが、すぐにFとNにも伝染して3人とも泣き出す。
 
この子たち“長期記憶”を共有すると言っていたけど、ひょっとして感情も共有してないか?と思う。
 
「高岡さんがワンティスを結成して最初の曲『無法音楽宣言』が大ヒットして、入ってきた莫大な印税で買ったものらしい。このGibson J-185というモデルは1951年から1958年までのごく短期間しか生産されていない。ギタリストの間では伝説的なヴィンテージ品。当時100万円以上したみたいね」
 
スターキッズの近藤さんもJ-185の愛用者だが、たまたま楽器店で見かけたものを七星さんからお金を借りて買ったらしい。
 
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「ボク最初の印税で何も買ってない」
「まあお金を使う暇も無かったしね」
「そうなんですよ!」
 
「お祖父さん、高岡猛獅のお父さんから預かってきた。猛獅の息子が弾いてくれたら供養になるだろうしって」
 
「はい」
 
(お祖父さんは「猛獅の息子が弾いてくれたら」と言ってから「息子でいいんだよね?娘じゃないよね?」と私に訊いて確認した)
 
「だからそれあげるということだから」
と私は言う。
「分かりました。大切にします」
とアクア。
 
「お父さんが使っていた楽器、他にも色々あるからさ。いつでも好きなものを持っていっていいと言っていたよ」
 
「でもそれ、もっと大きくなってからにします」
「そうだね。何か辛いこととかあった時に、おじいさんちに行って何か1つもらってくるのでもいいかもね」
 
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「そうですね」
と言ってアクアは3人とも泣いていた。
 
 
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夏の日の想い出・天下の回り物(12)

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