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■夏の日の想い出・浴衣の君は(8)

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伯母さんが待っているレストランの前で政子と別れてからホテルに戻ったら、ちょうど和泉たちがエレベータから降りてくる所だった。
 
「冬、御飯に行くよ」
「わあ、ちょうど良かった」
 
ということで一緒にレストランの個室に入る。今日の夕食は4人だけである。
 
「マリちゃんとのデートどうだった?」
「明日歌うことになった」
「何!?」
 
というので、言葉の流れで誘ってみたら歌うことに同意したことを話す。
 
「このフェスの運営委員さんと知り合いなんで連絡したら5分間だけ時間をもらえることになった」
「それは見なければ!」
 
「でもマリちゃんが歌ったら大騒動だろうね」
「そうでもないと思うな。マリは先月、高校のバンドで出演した軽音フェスティバルでも歌ってるよ。盗撮写真がネットに出回ってたね。速攻で全部クレーム入れて削除させたけどね」
「それ知らなかった」
 
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「今回、司会者は何も言わない。秋風コスモスちゃんが歌った後、次の川崎ゆりこちゃんが出てくる前に5分間だけ時間をもらうから、そこで唐突に出て行って何も名乗らずに1曲だけ歌って下がる。何が起きたのか理解できない観客も多いかもね」
 
「フェスは撮影禁止だから、写真も出回らないだろうね」
「うん。撮影している所見つけたらスタッフが飛んで行って即消去させるから」
 
「秋風コスモスちゃんなら、Bステージ朝11:00か」
と和泉がタイムテーブルを見ながら言う。
 
「そうそう。Bステの午前中は、満月さやか、浦和ミドリ、秋風コスモス、川崎ゆりこと§§プロのアイドルが4人連続で歌う。そこにちょっと割り込むんだよ。だから私とマリが歌うのは11:27くらいになると思う」
 
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「私たちKARIONは午後1番だったね」
「Aステージのね」
「じゃ午前中Bステージ偵察」
 

翌朝、9時すぎに政子はやってきた。紅川社長たち§§プロのグループが泊まっているホテルの前で落ち合い、連絡して、社長のもとを訪れる。
 
「社長、例の移籍問題は何とか決着が付いて良かったですね」
「いや、面目ない。あれは大変だったよ。まあ、あの子が今後もちゃんと活動していけるような形で決着できて良かった」
「ええ、あの子が歌謡界から去るのはやはり損失ですよ」
 
などと話をするが
「こちらも落ち着いたし、僕も君たちの獲得競争に名乗りを上げようかな」
などとも言われる。
 
「済みません。もうだいたい気持ち的には決まっているので。具体的な交渉は大学に入った後になりますが」
と私は言う。
 
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「まあ、そうだろうね。そちらは諦めて、裏の話に僕も一口乗ることにしたから」
「はい、多分そうだろうと想像していました」
 

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「で、コスモスとゆりこは同じ伴奏者が続けて演奏するから、君たちの伴奏もついでにしてあげられるけど」
 
「それではこのスコアでお願いします」
と言って私はプリントしておいた譜面を渡す。
 
「OK」
 
「でも秋風コスモスちゃん、可愛いですよね。あの雰囲気が好きだなあ」
などと、ここまで発言していなかった政子が言う。
 
普段はコスモスの歌をかなり馬鹿にしているが、さすがに発言のTPOは分かっているようだ。
 
「そうそう。うちはとにかくアイドルは可愛くというのが方針。冬ちゃんもかなり誘っていたんだけどなあ。一時は行けるかなと思った時期もあったんだけど」
 
「心が揺れた時期があったのは確かです。申し訳ありません」
 
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「ケイがもし、こちらからデビューしていたら、何か芸名の候補とかあったんですか?」
 
「川崎ゆりこ」
と私と紅川社長が言う。
 
「えーーーー!?」
「私が断ったんで、彼女にその芸名が行っちゃったんだよ」
 
「そういうこともあるのか」
「この世界では良くある話」
 
「でも女の子歌手だったんだ!」
「当然」
 
「ぐふふふふ」
と政子は可笑しくてたまらないような笑い方をする。
 
「アイドルはそんな笑い方したらダメだよ」
と紅川さんが注意した。
 

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いったん紅川さんとは別れて、10:40頃にBステの控室に入る。出番直前の秋風コスモスに会い、政子は
「コスモスちゃん、大好きです。お会いできて嬉しいです」
などと言っている。
 
それでコスモスがステージに行くのを見送る。政子は出番が終わって戻ってきた浦和ミドリちゃんとも色々おしゃべりしている。こんなことができるようになったのも、政子の成長かなと私は思った。政子は元々あまり人と話すのが好きではない。
 
政子がじっとコスモスのステージを見ていた。自分がそこに立つ姿に重ね合せているのだろうか。
 
やがてコスモスの最後の歌になる。私たちはミドリや次の出番の川崎ゆりこに一礼してから控室を出る。ステージのすぐそばでスタンバイする。やがてコスモスが歌い終わり、歓声に手を振って応えて上手に退場する。
 
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私たちは下手から登場する。司会者の案内も無かったし、多くの観客はスタッフでも出てきたのだろうと思ったであろう。そもそも私たちってテレビに出たのは12月の記者会見くらいだし、雑誌とかにも写真は出してないから、私たちの顔を認識できる人はひじょうに少ないはずである。
 
バンドの人たちが『夜宴』の伴奏を演奏してくれる。それで私たちは一緒に歌い出した。
 
突然見たことのない女の子が2人歌い出したので、観客は大いに戸惑ったようだが、すぐに手拍子をしてくれる。何ともありがたいことである。ほんの6日前に書いた曲だ。ロックフェスの会場で歌った感動を歌にしたものだが、あの時は無人のフェス会場で歌った。今日は400人くらいの観客を前に歌う。
 
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歌いながら政子の顔を見るが、緊張した様子は無い。伸び伸びと歌っている。やはりこの子は元々スターなんだ。私はあらためてそう思った。
 
観客の中に私たちの素性に気付いた人がいたかどうかは定かではない。それでも私たちは、しっかりと約4分30秒ほどの歌を歌い、拍手をしてくれる観客にお辞儀をし、伴奏してくれたバンドの人たちにもお辞儀をして上手に下がる。すると司会者が「次は川崎ゆりこちゃんです」と案内し、下手から、ゆりこが登場する。彼女が「こんにちは! 川崎ゆりこです」と挨拶をして歌い始めたのを見て、私たちは控室に戻った。秋風コスモスが握手を求めてきたので、ふたりで握手する。
 
「マリちゃん、物凄く上手くなってる」
とコスモスに言われる。
 
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「いや正直、マリちゃんって私やミドリとかのお仲間と思ってたのに、ずるいよお、こんなに上手くなって」
とコスモス。
 
「えへへ、毎日カラオケ2時間くらい歌ってる」
と政子。
 
「うーん。私は努力するのは苦手だな」
などとコスモスは言う。それでこそコスモスだ!
 

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紅川社長はその付近に居ない感じであったので、後日また御礼にお伺いしますと告げてBステージを後にした。政子の伯母さんと落ち合い、軽くお茶を飲んでから別れた。
 
時刻は12:30である。そのままAステの控室に入った。
 
「遅い」
「ごめーん」
 
「マリちゃんの歌、見たよ」
と言ったのは小風であった。何だか顔がマジだ。
 
「ありがとう」
「マリちゃん、サウンドカフェ入れて受験勉強しながら歌っていると言ってたね?」
「うん」
 
「私もそれ入れる。何を用意すればいいか教えて」
と小風は言った。
「うん。必要なものメールするね」
 
その会話だけで、小風がマリの歌をどう感じたのか、良く分かった。
 

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このフェスでは、横須賀のフェスほど大規模なものではないので隠しステージのような設備まではないが、いちばん後ろの幕の後ろに結構なスペースがあり、楽器などを置けるようになっている。そこで私は今回演奏することになっていた。
 
前の演奏者が下がり、機材の入れ替えをする。私は自分が弾く MOTIF XS8 を自分で持って、幕裏のキーボード台に乗せケーブルをつなぐ。スタッフの指示で音の確認をする。
 
照明の関係で表側からこの幕裏は見えないが、こちらから表側は結構見える。
 
それでTAKAOさんの合図を見て、一斉に演奏を始める。
 
最初は華やかに『コスモデート』から始める。2日前に発売したばかりのアルバムのラストを飾る曲である。その後、『銀河ブラブラ』を演奏したら客席が異様な盛り上がりを見せた。これは今日の観客の中からKARIONファンがかなり生まれたなと私は思った。
 
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その後、『優視線』と『遠くに居る君に』、更に『スノーファンタジー』と、私の超絶プレイの入る曲を3曲連続で演奏する。これでまた別の方面のファンが生まれたであろう。そして最後は夏らしく『渚の恋人たち』を演奏してステージを終えた。
 

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ステージが終わると、私と和泉・美空・小風の4人は望月さんの車で三島駅まで行った。14:22の《こだま》に乗り東京に戻る。(車は駅に置き去りにして後で事務所の他の人が回収する)
 
東京駅までレンタカー屋さんが持って来てくれていた車に乗り、16:00頃、会場に入った。伴奏陣やコーラス隊の子はワゴン車やマイクロバスで移動するので1時間後くらいに到着するはずである。夢美と響美は別途タクシーと新幹線で移動中である。
 
「あ、そうそう。和泉、誕生日おめでとう」
と言って私は小さな箱を渡した。
 
「あ、忘れてた」
などと小風が言う。
「私、みんなの誕生日覚えてなーい」
と美空。
 
「みーちゃん、自分の誕生日も覚えてない気がする」
「え? 私の誕生日は9月20日だけど」
「10日!」
と私・和泉・小風は声を揃えて言った。
 
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その日。今回のツアーの打ち上げとなる東京公演では、最初に和泉・美空・小風の3人が浴衣姿でステージに登場した。後ろの幕に花火の動画が投影され、花火の音も効果音で鳴り響く。そして
 
「こんばんは! KARIONです」
と挨拶すると、客席から
「いづみちゃん、誕生日おめでとう」
という声が多数掛かり、和泉はそれに応えていた。
 
『渚の恋人たち』を歌った後、浴衣を脱ぐと、宇宙軍の将校の服を着ている。それで『スターボウ』を歌い、その後は今回のツアーの他での演奏と同じパターンで進行した。
 
東京公演の後、いったん事務所に行き、休養中の過ごし方について少し注意がある。それで
 
「お互い受験勉強頑張ろう」
「みんな良い報せを持って春にまた集まろう」
 
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「小風はひとりだけ他の大学にならないよう頑張ってね」
「和泉は安全運転で」
「美空は食べ過ぎで体重増えすぎないように」
「蘭子は春までに性転換済ませておいてね」
 
などといって、解散して打ち上げに行った。私たちは望月さんにだけ付き添ってもらい4人で焼肉屋さんに行き思いっきり食べた(特に美空が)。
 

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模試も終わって8月26日。私は政子を花火大会見に行こうと言って誘い出した。
 
私が浴衣姿で政子の家を訪問したので
 
「おお、女の子浴衣姿の冬、可愛い!」
と喜び、政子も浴衣を着せてもらって一緒に出かける。
 
「でも花火大会は18時からだよ。それまで何するの?」
「歌を歌おうよ」
「どこで?」
「今日はスタジオ」
「おっ」
 

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いつもの山鹿さんが勤めているスタジオに行く。ここ2日ほど掛けて作っておいた伴奏音源を聴かせる。
 
「『雪の恋人たち』と『坂道』か」
「そそ」
「この伴奏音源は打ち込み?」
「ううん。ボクが全部演奏した」
 
「ギターもドラムスも?」
「そそ。ベースもキーボードも胡弓もね」
「すごーい」
「マーサにフルート吹かない?って訊いたらパスって言うし」
「ああ、これの伴奏だったのか」
 
「歌おう」
「うん」
 
それで2時間ほど練習した上で、技術者さんに入ってもらい、数テイク録音した。
 
私たちはこの音源を11月に大手ダウンロードストア1社限定で「0円で発売」
することになる。0円にしたのは他の理由もあるが政子がまだ「ローズ+リリーの名前でお金を取って歌う」ことに心理的な抵抗を持っていたことが大きい。
 
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それで当時は「昨年作ったデモ音源の公開」という名目にしていた。ジャケ写は、この曲を書いた山形の白湯温泉と、富山市八尾に、★★レコードのスタッフが行って写真を撮ってくれた。
 

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録音が終わった後、政子はとても昂揚した顔をしていた。思いっきり歌って気持ち良かったのであろう。
 
ふたりで花火大会の会場へ移動する。
 
会場の近くまで来ると花火が打ち上がり始めた。
 
「きれいだね」
 
空には上弦に近い月が掛かっている。
 
「今日は七夕だよ」
と私は言った。
 
「あれ?そうなんだっけ」
「旧の7月7日。恋人の日だね」
「そっかー。七夕に花火ってロマンティックだね」
と政子は私を見詰める。
 
「恋人と一緒に眺めたりすると素敵だろうね」
と私は言って、浴衣姿の政子を優しく見詰め返した。
 
 
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夏の日の想い出・浴衣の君は(8)

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