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■夏の日の想い出・受験生の夏(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-08-12/改訂2012-11-09
 
高3の夏休み、ボクは自動車学校に通うことにした。
「大学に入ったらバイトとかしたいし、そのためには免許取っておきたいのよね」
とボクは両親に言った。
「だけど受験勉強のほうは大丈夫?」
「うん。自動車学校の方は1日2時間だし。送迎のバスの中で受験勉強の方もするよ」
ということで、両親はボクの自動車学校通いを認めてくれた。
 
ボクは誕生日が10月なので、自動車免許を取得できるのも10月だし、誕生日が来るまでは仮免試験も受けられない。しかし第1段階の学科と実技は受講することができるので(行くことにした自動車学校では18歳の誕生日の3ヶ月前から入校を認めていた)、夏休みの間にそれを受けておこうと思ったのである。順調に進めば夏休み中に第1段階は終了してしまうが、そのあと仮免試験を受けるまでの1ヶ月ちょっとの間は、週に1度くらいのわりあいで、運転感覚を忘れないためのオプションの実技練習に通うつもりでいた。
 
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一応学校の方は成績上位の生徒については運転免許の取得を認めてくれていた。
 
普通免許取得のための時間数は第1段階が学科10時間・実技21時間、第2段階が学科16時間・実技18時間である。ボクは夏休みの間は2日に1度くらいのペースで自動車学校に行き、学科+実技の2時間または実技1時間の受講をするつもりでいた。誕生日が来て仮免を取ったあとは、毎日通って半月くらいで免許取得するつもりでいた。11月になってしまうと、大学の方の受験勉強一色になってしまう。ボクはそれまでの模試で比較的良い成績をとっていて、志望校として挙げていた都内の某私立大学の合格ラインを上回っていたので、両親も自動車学校通いを認めてくれたのであろう。
 
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初日。その日は午前中は早朝から学校で補習が行われていたのでそれに出席し、自宅に戻ってから、私服に着替えて、自動車学校の送迎バスが来るところまで行った。15分くらい単語帳を見ながら待っていたら自動車学校の名前が入ったバスが来る。
 
「えーっと、唐本冬彦さん、いますか?」
「はい、私です」
と答えた時、係の人が『え?』という感じの顔をした。「唐本さん?」
「はい、そうです」
と答えると「分かりました。バスに乗って下さい」という。
 
ボクはピンクのフレンチ袖のTシャツに七分丈のジーンズを穿いていた。髪も肩につくくらいの長さである。自分としては一応『中性的な格好』という見解にしていたが、『それでも充分女の子に見えるよ』などと、親友の政子などは言っていた。
 
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政子とボクは高2の時に「ローズ+リリー」という『女子高生歌手デュオ』として4ヶ月ほど活動した。その時はずっと女装していたのだが、4ヶ月間の女装がボクの心を確実に変化させていた。ボクはもう男の子には戻れない、という気持ちでいた。それで髪なども伸ばし始めたのだが、学校の先生は最初「おい、唐本、髪が少し長くないか?」といったものの、ボクが
「えっと三つ編みにすればいいんでしょうか?」と訊くと焦ってる様子で「あ、えーっと、ポニーテールのほうがいいかな」と答えた。
 
そこでボクはそのあと卒業までポニーテールで押し通したのであった。学校側はボクのことを性同一性障害のようだと思ってくれているようで、それで配慮してくれたようだった。なお、学校ではいつもポニーテールにしていたが、プライベートでは髪を解いてふつうのセミロング状態にしていた。自動車学校に通う時もそういう髪型だった。なお下着は常時女物の下着をブラも含めて身につけていた。
 
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自動車学校に着き、事務上の手続きをしてから写真を撮られる。最初にオリエンテーションがあり、基本的な免許取得までの流れなどが説明された。その後シミュレーターの部屋に行き、シミュレーターで運転操作をした。とはいっても、ブレーキとアクセルを間違わずに踏む練習とか、乗り込んでエンジンのキーを入れて車をスタートさせるまでの練習とか、逆に車を停めてエンジンを切り車から降りるところまでの練習とか、そんなのでシミュレーターの時間は過ぎてしまった。
 
そしてそのあとは初乗車である。控え室で待っていた時、ひとりの同年代くらいの少女から声を掛けられた。
「あの、もしかしてローズ+リリーのケイさんじゃありませんよね?」
「あ、はい。ケイです」とボクは笑顔で答える。
「わあ、ここの教習所に通っておられたなんて知らなかった」
「今日が初めてなんです」
「そうだったんですか!私は昨日から。ね、ね、サインとかもらえませんよね?」
「ごめんなさい。引退した身なので、サインはできないことになっていて。でもよかったら、お友達になりましょう」
 
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当時ボクも政子も基本的にサインは断ることにしていた。頼まれてサインに応じていたのは、小中学生とかお年寄りとかだけである。
 
「ええ、なりましょう。私は川北礼美。レミでいいです」
「じゃ、私は唐本冬子なので、冬(ふゆ)で」
 
「でもふだんから、やはりこういう感じの格好なんですね」
「自分では一応『中性的な格好』という見解なんだけど、マーサというかローズ+リリーのマリね、彼女からは『充分女の子に見える』と言われてる」
「女の子にしか見えないよ」
「でも親からはスカート穿いて外歩くなと言われてるの」
「あはは。あ、でもマリちゃんとはプライベートでも仲良しなんだ?」
 
「同じ学校だしね。志望校・志望学部も同じなんで補習とかのクラスも同じになるんで」
「どこ志望なの?」
「△△△の文学部」
「うーん。残念。私の頭では無理な学校だ」
「レミも高3?でも今からの追い込みで頑張れば?」
「うーん。頑張ってみっかなあ」
「まだ夏休み始まったばかりだもん。行ける行ける」
 
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その内、教官が生徒を呼びに来る。「唐本さん」という呼び声に返事して、私は礼美にバイバイして、車の方に行った。
 
「唐本・・・冬彦さん?」と教官が戸惑うような顔。
「はい、そうです」
とボクが明るい顔で言うと、教官は
「はい。では行きましょう」
と言い、「えっと・・134号車は・・・」などと言って車を探して行く。
 
車が見つかると「運転席に乗って」と言われる。
「はい」と言って乗り込む。
 
初めて運転する車は、ちょっとドキドキだった。何も知らない自分が運転しても大丈夫なんだろうかと思ったが、とりあえず右側アクセル、その左にブレーキ。とにかくそれをしっかり頭にたたき込む。
 
AT車だから、エンジンを掛けてシフトレバーをDに入れれば、車は勝手にクリープで動き出す。最初はその状態でハンドル操作だけで走る。それでも、その初めて乗った日には、車が凄く速く動いているように思えて、ハンドル操作も緊張する。
 
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しかしハンドルにしがみつくようにすると、ついつい車のすぐ前だけ見てしまう。教官から「視線を遠くに置いて」と注意される。結局そうしないとハンドル操作が急操作になりがちなのである。
 
細かい点はたくさん注意されたけど。この視点を遠くにやれ、と言うことばにはいろいろなことを考えさせられた。
 
少し慣れてきたところで直線を30km/hで走ってと言われる。きゃー、そんなにスピード出しても大丈夫? と思ったものの、少しずつアクセルを踏み込み速度が30km/hに到達する。この初日に経験した30km/hというのは、物凄く速い高速の世界という気がした。
 
実技が終わった後でボクはトイレに行きたくなった。ここでうーんと悩む。ローズ+リリーをやっていた時期は女装している時は当然女子トイレに入っていた。しかし学生服着て学校に行っている時は校内では(この頃までは一応)男子トイレに入っていた。こういう感じで性別曖昧な服装でプライベートな外出をした場合、女子の友人たちと一緒の時は昔からノリで女子トイレを使っていた。しかしここではどうしようか・・・・・一応登録上は戸籍名の唐本冬彦・男となっている。でも・・・・
 
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ボクは「やっぱりこっちだよなあ」と思って女子トイレに入った。小さな学校だし、個室は3つしかないので列ができている。ボクはその列に並んで自分の番が来るのを待った。その時、何か視線を感じた。見回すが知った顔は無かった。
 
礼美とは毎回顔を合わせたので、よく話した。向こうは5月生まれで誕生日をすぎているので夏休み中に免許取得するつもりで毎日通っているらしい。私は1日おきなので、向こうとしては2回に1度、私と会う形になっていた。どちらも受験生なので勉強の話もよくしたし、英単語や歴史の年数などを一緒に覚えたりもした。
 
3回目に行った時はちょうど礼美は帰る所だった。
「あ、今から?」
「そうなの。今日は受講する講義の時間の都合で」
「そっかー。けっこうスケジュールの組み合わせ悩んだりするもんね」
「うんうん」
「あ、トイレ一緒行こう」
「いいよ」
といいながら、ボクたちは本館1Fのトイレの方に行く。
 
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「あれ?冬はどっち入るんだっけ?トイレ」
「もちろん女子トイレ」
「そっかー。でも冬なら構わないよね」
などといいながら一緒に中に入り、列に並んでボクたちはおしゃべりを続けた。
 
5回目に行った時のことだった。学科が始まるまで少し時間があったのでロビーで礼美とおしゃべりしながら教則本を読んでいたら、事務室からスタッフの女性が出てきて、「唐本さん?」というので「はい」と返事をする。
「えっと、唐本冬彦さんですね」
「そうです」
「男性の方ですよね?」
「そうですね。戸籍上はそういうことになっています」
「女性用のトイレを使われているようですが・・・・」
ああ、誰か告げ口したんだろうな。ここは開き直るしかない。ここに来て最初に自分はどちらのトイレに入るか悩んだ時に、女子トイレを選んだ以上、自分はもう男ではなく女でなければならなくなったのだ。
 
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「ふだんから私は女子トイレを使用していますし、自分では女のつもりでいます」
とボクは答えた。
「分かりました」
とスタッフの女性は頷いた。
「遠慮無く、女性用トイレを使ってください。もし何かトラブルなどありましたら、私に連絡してください」
と彼女は私に名刺をくれた。
 
そういうわけでボクは正式に女子トイレを使ってよいことになったようだった。
 
「なんかよく分からないけど、冬は女の子だもん。当然女子トイレ使うよね。むしろ冬が男子トイレにいたら、男の人がびっくりしちゃうよ」
と礼美が言った。
「女子トイレが混んでたんで男子トイレに侵入してきたのかと思われるかもね」
とボクは笑って答えた。
 
これは自分が女であることを主張した最初でもあった。この時期、ボク自身としては自分の性別認識はほぼ女であるということで固まっていたものの、社会とのインターフェースの部分では結構曖昧にしている部分もあったし、学校ではその曖昧な状態を是認してくれていた。しかし、やはり自分は男か女かどちらかをきちんと主張しなければならないのだ、ということをこの問答で意識させられた。ここで女子トイレを使う選択をし、またそれを自動車学校の人に認めてもらったことで、既に自分は女という性別を選択してしまったのだとボクは認識した。
 
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まあ、どっちみち来年か再来年には性転換しちゃうだろうしなあ・・・・
 
当時のボクはほんとにまだ自分の進んでいく道の認識がぼやけていたものの、この高3の夏休みあたりから、それは少しずつ明確になっていく。
 

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ローズ+リリーの活動休止以来、ボクは一応「男子高校生」に戻ったのだけど、いくつかローズ+リリーを始める前とは変わってしまったことがあった。
 
ひとつは髪を伸ばしはじめたこと。ひとつは女物の下着を常用するようになったこと。それからヒゲを抜くようになったこと、足の毛はいつも処理しておくようになったこと。それからオナニーすることが無くなったこと。女子トイレの使用率が高くなったこと。
 
ローズ+リリーを始めた当初は、女物の服は政子の所におかせてもらっていたから、自分の家と政子の家を往復する時、それから学校に行く時などは男の子の服だったし、下着も時々は男物のブリーフやシャツを着ていることもあった。特に体育の授業がある日はできるだけ男物の下着を着けていた。
 
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しかし毎日放課後は完全に女の子として人前で行動していたことから、自分は女だという意識が強くなったし、また次第にカムフラージュするのが面倒になってきて、もう男物の下着は全く使わなくなってしまった。
 
ボクはいつもブラジャーと女物のショーツを身につけていたし、体育の授業の時も、上はグレイや濃紺のゆったりとしたTシャツを着てブラ線を隠し、下は一見トランクスにも見えるフレアパンティを穿いてショーツを隠していた。しかし物理的にブラジャーは付けているので体育の時間に柔軟体操で組んだ子に「お。目覚めたね?」などと言われてしまったが。
 
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