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■夏の日の想い出・3年生の春(3)

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そういう訳でこの曲は、同じく演奏に30分ほど掛かる『シャドウ変装曲』と組み合わせて7月に発売され、各地の盆踊りでかなり流されることになる。そして「エンジェル・リリー」シリーズが毎年ずっと放映されるため、この音頭も毎年盆踊りで流され、ロングヒットとなるのである。(政子は毎年、新しいエンジェルのための追加歌詞を書き、それを追加した改訂版CDも毎年出続けた)
 
なお『シャドウ変装曲』の方は、形式的には変奏曲で、多数のバリエーションで繰り返されていく曲なのだが、メインメロディーを取るのが歌声9種類、楽器9種類となっている。エンジェルたちの対抗組織シャドウの怪人たちが変装していくように、音楽も変身していく。各楽器や声の特徴を活かしてメロディーや伴奏も少しずつ変えているので、この曲の作曲編曲に私は一週間ほどかかった。
 
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5月1日。連休の途中に2日間はさまった平日の初日。全国の書店とオンライン書店で『中田マリ詩集1 闇の声』が発売された。
 
マリが書いた「かなり暗い詩」を集めた詩集で、本の帯には大きな文字で「心が疲れている人は絶対に買わないでください」という注意書きが付いていた。
 
マリがひじょうに暗い詩を書くことは、以前から一部のファンには知られていた。その一端を見せたのが昨年秋のアルバム『Long Vacation』に収録された『夢物語』である。その曲をアルバムに収録するに当たっては、このまま出したら絶対に自殺者を誘発するとタカや宝珠さんが心配し、マリの許可を得て、私が詩にかなりの手を入れ、危ない単語をソフトな表現に改めてリリースしたのである。
 
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それでも「この曲怖い」という感想が結構聞かれた。
 
しかしあの曲の歌詞はまだ「生やさしい」のである。
 
怖いという感想があったとともに、この世界は凄い!という感想もあり、ぜひマリちゃんのこの傾向の曲を出してください。曲で出すのが倫理的に困難なら詩集でも出してくださいという声が多数★★レコードに送られてきた。
 
そこで私たちは心理学者なども交えて会議をして、比較的危険度の低い詩を19篇と、最後に1個だけ、救いのある詩1篇を入れた詩集を刊行することにした。(この会議をするのに、私も氷川さんもマリの詩を100篇ほど読んだが、読んだだけで、かなり鬱な気分になった)
 
ただ内容が内容だけに、詩の一部をネットで公開して注意を促すとともに帯にも注意書きを付けたし、中学生などが買いにくいように、わざと高い価格を設定した(その分良い紙を使っている)。表紙は私が描いた幻想的なイラストで、おどろおどろしい雰囲気を主張している。また買ってから後悔した人は返送してくれれば手数料を引いて返金に応じますという対応にした。実際返金を希望してきた人が数十人居たが、それでもこの詩集は最初の1ヶ月で3万部も売れたのであった(初日に売り切れたので慌てて増刷した)。
 
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ほんとに自殺者が出ないかと私たちは心配したのだが、読んだ感想を送ってきてくれた人たちの声をみると、恋愛や仕事、また人間関係のストレスなどで落ち込んでいたという人が多く、この詩を読んで強く共感した、ひとりだけで闇の中にいた気分だったのがマリちゃんと一緒にこの闇の中にいる気分になれたなどと書いている人もあった。
 
そういう状態の人に必要なのは励ましではなく共感や連帯感なのだということを私たちは改めて認識したのであったが、私たちは「疲れている人は買わないで」
という注意文句は逆効果であったことも認識した!
 

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この年の5月。私は作曲編曲や譜面の調整で多忙だった。
 
翌月前半にローズクォーツの『Rose Quarts Plays Latin』の録音、後半にはローズ+リリーの《Last Memorial Album》の録音が予定されていた。またそれと並行して、毎日夕方から21時くらいまでのスケジュールでスリファーズのアルバムの録音も設定されていた。
 
ローズクォーツの方は既存の楽曲を、ローズクォーツ用にギター・ベース・ドラムス・キーボードとツインボーカルに編曲するだけだが、聴いてくれる人が楽しんでくれるよう、色々仕掛けを作るのに結構頭を悩ませた。
 
ローズ+リリーのアルバムも曲自体はだいたいできているものの、それを魅力的なサウンドに仕上げるのに、多少Cubaseを使って打ち込んだ状態を聴いてみたりしながら調整していた。しかしスリファーズのアルバム用の曲はこの時期に政子と2人でひたすら書いていた。
 
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この他、テレビアニメの関連で『Angel R-Ondo/シャドウ変装曲』の録音を5月末に予定していた(AYA,スターキッズとの共同作業になる)。
 
更に実は私は密かにKARIONの曲も書いていたが、KARIONは5月下旬にシングル、6月1ヶ月掛けてアルバムの録音を予定しており、私はそのための曲も作っていたし、当然編曲もして、更には確定したスコアに基づいて、私の担当パートであるキーボード演奏の部分を密かに知人のスタジオで収録したりもしていた。
 
(ローズクォーツの録音は新宿のUTPが借りているスタジオで行い、ローズ+リリーの録音は青山の★★レコード系のスタジオを借りて行い、スリファーズの録音は赤坂にある○○プロ系のスタジオで行い、KARIONの録音は渋谷の菊水さんが勤めているスタジオで行い、私のKARION伴奏部分の収録は郊外の山鹿さんが勤めているスタジオで行う。よく考えて行動しないと違うスタジオに行ってしまいそうだった)
 
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怒濤の連続録音作業は5月21日のKARIONの音源制作開始からスタートするので、私は5月前半はとにかく作曲・編曲の面で、後からやり直しなどが発生しないように、それぞれの曲に充分な吟味をしていた。
 

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ところで私は昨年の秋から高校時代のクラスメイト、木原正望と恋人として交際を始めたのだが、当初は結構な頻度で会っていたのが、向こうのお母さんにも会ったりして、正式な交際になった直後から、ローズ+リリーの活動が本格化したこともあり私自身が超多忙になってしまって、なかなか会えなくなってしまった。
 
結局正望がエンゲージリングを買ってくれた(買ってくれたが私は受け取っていない)日以降会えたのは、12月のマキの結婚式で顔を合わせ、12月19日にお昼を一緒に食べ、1月9日に正望の家に泊まり、2月26日にやっと1度まともなデートしただけ。半年の間にわずか4回しか会えてないし、内2回は会っただけで、セックスしてないのである。
 
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こんな状態でもし正望が占い師さんとこに行って「僕と彼女の関係はどうなっているのでしょう?」なんて訊いたら、たぶん占い師さん10人の内9人くらいは「この恋はもう終わってます」と言うだろう。
 
そんな状態に陥っていた所で、さすがに我慢出来なくなった正望が
「デートしたいよお」
と電話してきた。
 
「うーん・・・・」と私はうなる。
 
自分のダイアリーを見てみると、少なくとも7月15日までは完璧に予定が埋まっている。
 
「ごめん。7月15日まではスケジュールが詰まってる」
「じゃ7月16日にはデートできるの?」
「うーん。。。。私の予定が空いていると即、誰かが勝手にスケジュール入れてくるから、今の時点では何とも」
 
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私のスケジュール帳はネット上で町添さん・津田さん・畠山さんの3人に共有されており、この3人はしばしば勝手にそこに予定を書き入れるのである。(予定が書き込まれると、一応私の所に自動的にメールが来る)
 
「フーコ、もう僕を愛してないの?」
「愛してるよぉ、モッチー」
「じゃデートしてよぉ」
 
私は悩んだ。私だって正望とデートしたい。でも時間が無い。どうしよう?
 
「ね。モッチー、今夜時間がある?」
「今夜って何時頃?」
「えっとね。今やってる作業を12時までには終わらせて送信しないといけないのよ。その後からなら」
「夜中の0時過ぎ!? 明日はどうなの?」
「明日は朝6時前、5時半くらいまでにFM局に入らないといけない。そのあと1日スケジュールが詰まってる」
「明後日は?」
「だから、私のスケジュールは今のところ7月15日まで空き無し」
 
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「分かった。今夜0時すぎにデートしよう」
「データ送った後、少しやりとりがあると思うから、1時にマンションまで車で迎えに来てくれない?」
「行く。じゃ、明日はそのままFM局に送って行こうか?」
「うん。助かる。群馬県のFM局なんだけどいい?」
「群馬〜!?」
「うん。早朝から自分の車で行くつもりでいたんだけど」
「分かった。じゃ送ってくよ。ってか群馬へのドライブデートで」
「OK。ごめんね〜」
 

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そういう訳でその日私はその日までに送って欲しいと言われていた KARIONの新譜『金色のペンダント』『鏡の中の私』の編曲したスコアを23時半頃にやっと完成させ、和泉に送信した。(政子は夕飯のトンカツを500g食べ、その後私と2時間ほどセックスしたあと満足げにすやすやと眠っている)
 
和泉から電話が掛かってくるので、私は防音室の中で取る。和泉からアレンジに関して何点か注文が入る。私はそれを修正してまた送信する。このやりとりを何度か続けて「OK。これで行こう。じゃ、キーボード部分の収録、よろ〜」
ということで和泉にはおやすみなさいを言った。
 
時計を見ると0時40分! 私は取り敢えずシャワーを浴びると、デート用の下着を身につけ、ちょっと可愛いめのワンピースを着て、手早くメイクをして下に降りる。正望のアクセラが待っている。助手席に乗り込み
 
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「ごめんねー。待たせちゃって」
と言って、正望に熱いキスをした。
 

その夜はそのまま首都高を走って深夜のレインボーブリッジを渡った。
 
「昼の風景は豊かな大自然のある田舎が美しいけど、夜の風景はこういう大都会が美しいね」
「24時間誰かが動いている。ちょっと異常な場所だろうけどね」
 
その後、ファミレスで夜食を取ったあと
「取り敢えず群馬に移動しよう」ということで関越を北上する。正望は寝てていいよ、と言ってくれたので遠慮無く寝た。正望には悪いが徹夜明けの状態でラジオ局に出る訳にはいかない。
 
目的の市に着いたのは午前3時頃であった。車は郊外のモーテルに駐まっている。私は揺り起こされて一緒にお部屋に入り、あらためて正望にディープキスをして抱きつく。そしてそのままベッドに押し倒されて、3ヶ月ぶりのセックスを味わった。
 
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最初はほんとに久しぶりだったので正望はあっという間に逝ってしまう。その後、フェラをしてあげて、再度ふつうのセックス。最後は手で逝かせてあげた。
 
そのまま正望が眠ってしまったので、私もまどろみながら、ずっと愛撫していた。
 
中学生くらいの頃、漠然とお嫁さんになれたらな、なんて思っていた。正望は私をお嫁さんにしてくれそうだけど、私には平凡な家庭の主婦はできそうにない。結婚しても、結局は今と同じような形での付き合いになってしまいそうな気がするなあというのも思う。私が御飯作ってあげてるのは、むしろ政子にだ!
 

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私は正望を愛撫しながら、未来の自分を空想していた。
 
正望に優しくキスされたりしながら私は御飯を作っている。テーブルでは政子が赤ちゃんにお乳をあげながら、3歳くらいの女の子のおしゃべりの相手をしている。ああ、なんかこんなの幸せ・・・・なんて思ったりするけど、これって妻妾同居みたいな発想じゃんと思って、微笑んだ。
 
私と政子が実質夫婦としての関係を保ちながら、私自身は正望と、政子も和則君と恋愛関係を維持していることを、琴絵や仁恵は「大胆な二股」と呼んでいる。こういう関係を知っているのは、他には青葉や Elise、美智子や町添さんくらいであったが、当人同士の間ではお互いの関係は安定していたし、特にお互い嫉妬も感じていなかった。
 
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でも赤ちゃんか・・・・。私せっかく一度は精子を冷凍保存したのに、ちゃんと更新しなかったな、と思って悔やまれた。高校1年の秋に若葉に協力してもらって産婦人科で自分の精子を冷凍保存したのだが、更新時期の1年後、更新しますか?というハガキが来ていたものの、ローズ+リリーで超多忙な時期だったこともあり、病院に連絡しきれなかったのである。その後、その病院からの連絡は来なかったので廃棄されたのだろうなと私は思っていた。
 
その後私はローズ+リリーの活動をしていた時期にとうとう精子が精液の中に存在しないようになってしまった。活動休止後、政子の勧めで「タック休日」を作ったら、半年くらい後に精子は復活したものの、男性機能は使わないまま、翌年6月には去勢してしまった。
 
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その去勢前日に政子と1度だけ、男女間のセックスをしてしまったけど、政子が妊娠することはなかったので(妊娠してたら大変だったけど)、私は自分の遺伝子を残すことは無くなったものと考えていた。実際問題として去勢直前の頃って、夢精した時の自己顕微鏡チェックで、精子が存在することは確認していたものの、かなり活動性が悪かったので、妊娠させる能力は無かったかもという気もしていた。それは、私との子供を作ることを望んでいたふうの政子には悪くて言えなかったけど。
 
政子は自分が他の男性と結婚して産んだ子供の半分は私の子供にしてあげる、なんて言ってる。そうだよね。政子が産んだ子供なら、本当に自分の子供みたいに可愛がれるだろうしね、と思うと少しだけ心が軽くなった。
 
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夏の日の想い出・3年生の春(3)

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