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■夏の日の想い出・3年生の春(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-11-18
 
「性転換手術の日程が決まりました」
 
スリファーズの春奈から、それを聞いたのはその年の3月31日だった。私はスリファーズの新曲録音のプロデュースのため、スタジオに入っていた。
 
「おめでとう!結局、どこで手術するの?」
「アメリカの病院です。青葉さんに紹介してもらったところ」
「へー。秋に伊豆の温泉に一緒に行ったのが縁だね」
「ええ。でも、青葉さんは、国内の病院に変えちゃったんですよね〜」
「あはは。春奈ちゃんは変えなくていいの?」
「国内だと病院に出入りしている所を見られて騒がれたりすると嫌だから、やはりアメリカで受けて来ます」
「それがいいかもね〜」
 
「でも、あの集まり面白いですね。1月にみなさんで温泉に行かれたのには私、参加できなかったけど」
「平日だったからね。また機会あるよ」
「彩夏と千秋も、そんな集まり見てみたかったと言ってました」
「いいよ。連れておいで。念のため和実にメールしといて。でもあの集まりも付き添いが増殖しつつあるな」
「でも天然女性と人工女性の区別が、私、つきません」
「うん。知ってないと分からないね、あのメンツは」
 
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「そうそう。結局ヴァギナは作るの?」
「作ります! そしてお嫁さんになるのを目指します」
「うん。頑張ってね」
 

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2012年4月。私たちは大学3年生になる。
 
思えば中学生の頃までは、学校生活そのものが自分の生活だった。でも高校になると、校外での活動(ハンバーガーショップでのバイト、録音スタジオでの仕事、リハーサル歌手、そしてローズ+リリー)の方がメインになってしまう。
 
考えてみると、中学の時は私は女子制服を学校で着ていたのだが、高校では校内ではほとんど着ておらず、むしろバイトに行く時に着ている感じだった。だから私の高校の女子制服姿を見ている人はひじょうに少ない。実際に女子制服を着ていた時間は高校の制服の方が圧倒的に長いのに!
 
そして大学に入ると、何だか音楽活動が生活のほとんどになってしまい、大学は「取り敢えず行ってる」という感じになってしまった。
 
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3年生にもなるとみんな就職活動をスタートさせる。同じ大学でも理学部に行ってる友人の若葉や和実などは大学院まで行くので勉強に集中している感じだが、私が行っている文学部の同級生たちは、みんな就職の情報集めに大変な様子だった。中には2年生の頃から積極的に企業に接触して既に内々々々定(?)とかを取っている子もいた。
 
そんな中で私と政子は、卒業したら歌手兼ソングライター専業になるのがもう確定だったので、音楽活動自体はますます忙しくなってきていたものの、大学の講義への出席率は、かえって他の子たちよりも高い雰囲気だった。
 
しかし・・・・一時は自分は背広とか着て就活しなきゃいけないのだろうか?などというのをマジで考えていた時期もあったので、そういう羽目にならなくて済んだのは幸運だなと思っていた。政子とか若葉とかも「背広着て就活」は絶対あり得ない。それは性別詐称だ、なんて言ってたけどね。
 
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4月14日(土)、私と政子は沖縄でローズ+リリーのシークレットライブを行った。ローズ+リリーの公式な公演としては2008年12月13日のロシアフェア以来1218日ぶりのステージとなった。
 
「久しぶりのステージどうだった?」
 
打ち上げの席で政子は近藤さんに訊かれていた。
 
「美味です」
と政子は笑顔で答えた。
 
「この勢いで全国ツアーなんてどう?」
とタカが言うが、政子の返事は
「パス」
 
「でも長くステージから遠ざかっていたにしては、ノリノリだったね。全然怖がってなかったみたい」
と鷹野さん。
 
「マリはそのステージが怖くなくなるのに3年掛かったんですよ」
と私が言うと
 
「ああ、そういうことか」
と宝珠さんが納得した様子で言った。
 
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「まあ、リハビリたくさんしたからね。でも、もう少しリハビリしたいかな」
と政子は言う。
 
「どんなリハビリしてたんですか?」と春奈は訊くが
「秘密」と言って政子は微笑んだ。
 

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打ち上げが終わってから、ホテルのスイートルームのベッドの上で、私は政子に聞いてみた。
 
「秋月さんがいたの気付いた?」
「気付いた。手を振っといたよ」
「ちゃんと会場が見えてるってのは落ち着いてるね」
「うふふ」
 
秋月さんは★★レコードの、ローズ+リリー初代担当者で、現在は退職結婚して福岡に住んでいる(現在の苗字は執行:しぎょう)。私は幕が上がってすぐに秋月さんと目が合ってしまったのだが、おそらくローズ+リリー復活ということで、町添さんが招待状を送ってあげたのだろう。
 
「おまじないも効いたのかな?」
「うん、効いたよ、ありがとう」
といって政子は私にキスをした。
 
幕が開く前、私は「おまじない」と言って政子にキスした。ざわついた客席の雰囲気を前に少し緊張していた感じの政子がそれで落ち着いて歌えた感じだった。
 
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私たちはひと休みしてからシャワーを浴びて、それからベッドの中でたっぷり愛し合った。
 
少し疲れてまどろみながら、政子は私のあの付近を悪戯してる。
 
「このクリちゃんの原料って何?」
「原料って・・・・工業製品じゃないけど、元はおちんちんの先のやわらかい部分だよ。その一部を切り取ってくっつけて神経とか血管をつないでる」
「へー。一部取って残りは?」
「廃棄」
 
「捨てるのか。もったいない」
「もったいないと言っても使い道が無い」
「クリちゃんを4個くらい作るとか」
「そういう変なのは勘弁して」
 
「おちんちんの間を取っ払って、短くしたようなもんだね」
「まあそんな感じかもね」
「途中の取っ払った部分も廃棄?」
「皮とか尿道とかを使ってヴァギナを作ってるよ」
「あ、そうか」
「ヴァギナには陰嚢の皮膚も使ってるけどね」
「ああ。いろいろやりくりしてんだね。洋服のリフォームに似てるね」
「あ、趣旨は同じだと思うよ。まさにお股のリフォーム」
 
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「捨てたのは、その先っぽの所だけ?」
「海綿体も廃棄だね。おちんちんの硬くなる本体というか」
「ああ、あれは使い道無いか?」
「女の子の身体で、興奮すると硬くなる所は無いから」
「うーん。。。。何か利用法無いのかなあ・・・」
 
「家畜人ヤプーでは、伸び縮みする鞭に改造してたね」
「ああ、そんなことしてた、してた。あれは面白い本だね」
「面白いの〜!?」
「え?私、笑いながら読んでたけど」
「やっぱりマーサって変わってる」
「冬もかなり変わってるけどね」
「あ、それは自覚してる」
 
「よし!少し休んだから、もう1戦やろう」
「いいけど」
「あ・・・」
 
政子は突然発想が浮かんだようで、枕元に置いていたノートとボールペンを取ると、詩を書き始めた。私は微笑んでベッドを抜け出すと、お湯を沸かしコーヒーを入れて枕元にカップをひとつ置いた。
 
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政子は左手の指を三本立てて応える。「サンキュー」の略式サインである。詩のタイトルの所には『こぼれゆく砂』と書かれていた。
 
そんな感じで私たちの沖縄の夜は更けていった。
 

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「えー!? 小春、沖縄のライブに来てたの?」
 
沖縄から戻って横浜・東京でのキャンペーンも終えた翌日4月17日(火)、私と政子は学食で数人の友人とお昼を食べながら話していた。
 
「うん。タダで沖縄に行けるっていいじゃん!と思って応募したら当たっちゃったのよね。まさかローズ+リリーが出てくるとは思わなかったけど」
と小春は言う。
 
「誰だと予想してた?」
「★★レコード20周年で7回のシークレットライブでしょ? 当然★★レコードの看板アーティストか、あるいは期待の新人だと思ったのよね」
「うんうん」
 
「看板アーティストといえば、サウザンズ、スカイヤーズ、AYA、KARION、XANFUS、スイート・ヴァニラズ、スリファーズ、そしてローズ+リリー。でもローズ+リリーはライブやらないからと真っ先に除外した」
「まあ当然よね」
 
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「サウザンズはこの手の企画物が嫌いだから無し。スイート・ヴァニラズとスカイヤーズ、KARIONはこの日別口でライブとかキャンペーンとかの予定が入っていたから除外。となると残るは AYA, XANFUS, スリファーズ。私はAYAに期待して行ったんだけどなあ」
「あはは、ごめんねー」
 
小春はAYAの大ファンなのである。
 
「ちなみにAYAは海外に行ってたんだけどね」
「ああ、それは知らなかった。でもまさか、ローズ+リリーがスリファーズをバックコーラスに出てくるとは予想もしなかったよ。超VIPアーティストを組み合わせるなんて、とんでもない贅沢企画」
 
「まあ、嵐とキスマイの合同コンサートみたいなもんだよね」
「あ、それも絶対行きたい!」
 
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「でも今小春が言った看板アーティストって、なんかお友だちが多いね」
と政子は言う。
 
「そうだね。なんか携帯に番号が入ってる人たちばかりだな」
と私は答える。
 
「へー。さすが」
「サウザンズとも交流があるの?」
「サウザンズは樟南さんの番号だけ入ってる。某所で知り合ったのよね〜」
「わあ。いいなあ」
 
「冬の携帯のメモリー件数、凄そう」
「そんなことないよ。せいぜい200件くらい」
「あれ〜?そんなもの?」
「メモリーに1000件登録してたら実際問題として目的の人を探せないよ」
「そうだよね!」
「冬は連絡頻度の少ない人は全部ワ行のタブに移動してるよね」
「ああ、その辺、きちんとメンテしてるんだ」
「うん。例えば田中太郎さんなら《わわたなかたろう》にしてワ行末尾に移動する」
「なるほど」
「超良く掛ける人はア行の先頭にまとめてあるし」
「あ、それ私もやってる」
 
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「だから私の名前は『ああ愛してる政子』で登録されてる」
「おお、熱いな」
「ふふふ」
「あ、私も彼の名前『愛してる』で登録して先頭に置いてる」
「けっこうやる人いるのか」
 
「政子も件数多いでしょ?」
「私は10件くらいしか入ってないな」
「えーー!?」
「父ちゃん、母ちゃん、伯母ちゃん、彼氏、社長(須藤さん)、氷川さん、ノエル。あ、10件も無いや」
 
「冬は入ってないの?」
「それは0番に入ってる」
「だよね」
「要するに自分から掛ける所しか入ってないんだな?」
「でも番号交換したりしないの?」
 
「政子は携帯を年に1度は壊しちゃうから残らないんだよ」
と私は事情を説明する。
 
「なるほど!」
とみんな納得したようであった。政子の強烈な静電体質はみんな知ってるから携帯とかMP3プレイヤーなど、絶対に触らせない。みんな政子はきっと手榴弾なんか持っただけで爆発するよ、などと言っている。
 
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「あれ、博美、何の本買ったの?」
「ああ。もしドラ。読んでみようかなと思って」
と言って、博美が本屋さんの袋から小説を取り出す。
 
「なんか長い名前ね」
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」
「寿限無みたいな名前だ」
 
「え?もしドラって、そんなのの略称だったの?」
「何の略称だと思ってたの?」
「もしもドラえもんがいたら、の略かと思ってた」
「なぜドラえもん!?」
「いや、ドラって言ったらね〜」
 
「私は『もしドラ焼きが』の略かと思ってた」と政子。
「さすが食の達人」
 
「でも、もし何とかって考えると楽しい時あるね」
「もしもボックスの世界だね」
 
「あそこまで画期的でなくていいけど。もし松潤から私に電話があったらとか」
「へー、潤担なの?」
「けっこう、そうかも。間違い電話でもいいから無いかなあ」
 
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「でも今みんな携帯のアドレス帳で掛けるから間違い電話ってまず無いよね」
「たしかに〜」
 
「やはりあれだな。もしもローズ+リリーが新宿都庁前を裸で歩いてたら、とか」
「それ捕まる〜」
「謹慎1年だな」
「じゃ、水着で」
「それでも職質されるよ」
 
「もしもローズ+リリーが新宿都庁前でいきなりキスしたら、くらいじゃない?」
「それやるなら都庁前よりアルタ前がいい」
「アルタ前だと多少奇行しても目立たないからなあ」
「とんでもない人が多すぎるよね、あそこ」
 
「でもやはりローズ+リリーには歌ってもらわなくちゃ」
「もしもローズ+リリーが新宿アルタ前で路上ライブしたら、だね」
 
そんな話になったら政子が
「ああ。路上ライブか。いいなあ」などと言い出す。
「やる?」
「いや、ローズ+リリーが路上ライブやったら、大混乱になるよ。以前郷ひろみが渋谷でやって書類送検されたでしょ」
「そうだなあ・・・・」
 
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そんな話をした日の午後、私は福岡の秋月さん(旧姓)にも電話を入れた。
 
「どうもご無沙汰しておりまして」
「町添さんから『新生ローズ+リリー』は君が育てたようなものだから、ぜひ見に来なさいって招待状と、町添さんのポケットマネーで沖縄への往復航空券までもらっちゃって」
「見てもらって嬉しかったです」
 
「町添さんが言ってたのよ。当時はそういう話まで、私は聞いてなかったんだけど。須藤さんが作ったローズ+リリーは例の事件で終わってしまったんだ。今ふたりが名乗っているローズ+リリーはあの事件の後で、マリちゃんとケイちゃんがふたりで改めて作った新生ローズ+リリーで、それを育てたのは私だって」
 
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夏の日の想い出・3年生の春(1)

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