広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・3年生の春(2)

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「ええ。まさにそうです。花謡子さんには、例の事件当日もマリにずっと付き添ってもらったし、1月末の秘密外出のお手伝いもしてもらったし。あの伊豆のキャンプ場で、新生ローズ+リリーが生まれたんですよ」
「うんうん、そんな気はしてた。それまでは何度かマリちゃんち訪問しても、なんか意気消沈した感じでボーっとしてたのが、あの後は元気なマリちゃんに戻ったから。やはりマリちゃんとケイちゃんの絆って大きいんだなと思ったし」
「そうですね。もっともマリはいつもボーっとしてますが」
「確かに!」
 
「でもケイちゃんも、それまでは女装歌手だったのが、あの後は本当の女性歌手になったんじゃない?」
「ふふ。そんな気もします。私にとってもマリにとっても、破壊と再生の日々だったんですよ、あれは」
 
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その日の夕方、私はいろいろ溜まっている事務的な手続きを片付けるのに、学校が終わってから、事務所には行かずにまっすぐ★★レコードに行った。(必要な書類は昨日事務所から持ち出している)
 
氷川さんと話して、請求書その他の処理をして明日から始まるローズ+リリーの新曲(恋降里など)音源制作の簡単な打ち合わせをした後、加藤課長・町添部長にも挨拶して、帰ろうとしたら、KARIONの3人がマネージャーの三島さんと一緒に入ってきたのに遭遇する。
 
取り敢えず和泉とハグした後、少し立ち話していたら、南さんが立って来て、
「次のシングルとアルバムの打ち合わせですよね。(KARION担当の)滝口が少し遅れているので代わりに少し話していてくれと頼まれています。あ、ケイさんも良かったらどうぞ。お茶とケーキ持ってこさせますから」
 
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などということで、ノリでそのまま一緒に会議室に入った。課の若い女の子がコーヒーとケーキを持ってきてくれた。
 
「そうそう。ローズ+リリー、ライブ復帰おめでとう」と和泉。
「ありがとう。本当にファンをお待たせしてしまって」と私。
「3年ぶり?」
「そうなんだよね。ローズ+リリーの公式な公演としては2008年12月13日のロシアフェアでのステージ以来、1218日ぶり。3年と123日」
 
「それだけブランクがあったら、ファンだったけど・・・って人もいるだろうね」
と和泉は遠慮しない感想を言ってくれる。
 
「そう思う。だから、これが私とマリの再出発だよ。今回は1000人の観客相手でしかも、ローズ+リリーが出るとは知らずに、無料で集まってきた人たちだから。今年中には、ちゃんと告知して有料でのライブをやりたいね。それも最初は100人とか200人からかも知れないけど、3年後くらいには3000人か5000人集めたい」
と私は言ったが
 
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「いや、いくらブランクがあってもローズ+リリーは今すぐ1万人行く」
と和泉は言う。
「そうかな?」
「僕もいづみちゃんの意見に賛成。むしろ復帰記念2万人コンサートとか企画したい」
と南さん。
 
「済みません。マリがまだそこまでの大会場には対応できないみたいで」
「うん、そうみたいね。でも3000人くらいは大丈夫でしょ?」
「微妙な線ですね」
 
「あ、そうそう。土曜日のライブ、私たちも見たからね」と和泉。
「えーーー!?」
「2階席の後ろの方で、目が合わないように気をつけてた」
 
「だって、あの日、KARIONもライブやったでしょ?」
と私は戸惑いながら訊く。
 
「そそ。夕方からね。でもそちらが那覇市で、こちらが宜野湾市で、すぐ近くだから。南さんからシークレットライブの話を聞いて、それは敵情視察に行こうよと言って、午前中にリハやって午後は会場を抜け出して見に行ってきた」
と和泉。
 
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「凄っ!」
「私たち3人とTAKAOさんの4人で。TAKAOさんが運転手役もしてくれたんだけどね」
「なるほど」
 
「見てたら凄い盛り上がってるし、ケイもマリちゃんも乗ってるし、これは絶対負けられないってんで、こちらも気合い入ったよ」
と和泉。
 
「特に、和泉とマリは凄いライバル意識あるみたいだしね」
と私が言うと
「ケイちゃんを巡る三角関係だよね」
と美空。
「また、そういう変な噂立てないでよね〜」
 

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「ケイちゃんたちは、翌日はどこか行ったの?」と美空が訊く。
 
「朝の便で東京にトンボ返り。横浜でキャンペーン」
「慌ただしいね」
「そちらはどこか行った?」
 
「日曜の午後の便で東京に戻るからというので、午前中に玉泉洞に行ってきたよ」
と和泉が答える。
 
「ああ、名前だけは聞いたことある」
「近くには珍珍洞ってのもあるらしいね」と美空が言うと
「その近くには満満洞というのもあるんだよ」と小風。
「ちょっと、ちょっと、何よ?そのネーミング」と私は笑って言う。
「実際に洞内にそんな形の鍾乳石があるんですよ」と南さん。
「へー!」
 
「で、玉泉洞なんだけど、金色の鍾乳洞なのよね。なんか凄かった」と和泉。
「へー。私も一度行ってみたいな。写真とか撮った?」
「えーっと、こんなものかな」
と言って和泉が携帯に入れている写真を開く。
 
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「ほほぉ、こんな色なのか」
「ちょっと面白いでしょ」
「鍾乳石も石筍もこの色だからさ、やはり不思議な感覚」
「なんかこれ持って帰ったら、金でも出てこないかなと思っちゃう」
「自然破壊しないように。金は入ってないと思うよ」
 
「でも、あの景色に感動しちゃって、私詩を書いちゃったよ」
と和泉。
「ふーん。ちょっと見せてくれる?」
 
「あ。これこれ」
と和泉は自分のノートパソコンを開いて、詩を見せる。和泉は詩を直接パソコンに打ち込むタイプである。いつもパナソニックの小型ノートを持ち歩いている。
 
「ふーん。。。『金色の石たち』か・・・・」
 
詩を読んでみると「金色の石」というのはモチーフに過ぎず、内容は恋歌である。ただ、あまり和泉らしくない詩だと思った。いつもの彼女の詩は平易な言葉で、淡々と純情乙女という感じの気持ちを歌っているのに、この詩は高揚感があって、しかも積極的である。よほど美しさに感動したのだろう。
 
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「気に入ったならメールしようか?」と和泉。
「うん。でもタイトル変えちゃおうよ」と私。
「どう変えるの?」
「金色のペンダント」
「へー!」
 
南さんや三島さんが不思議そうな顔をしている。
 
「ケイちゃん、和泉ちゃんの書く詩に興味があるんだ?」
「ええ。ライバルですから」
 
と言って私は微笑んだ。
 
「それなら、一度、森之和泉作詞・ケイ作曲なんてコラボ考えてもいいかもね」
と南さん。
 
「いや、それやったら、水沢歌月さんに嫉妬されちゃうから」
と私は笑顔で答えた。
 
「マリちゃんにもでしょ?」と小風。
「そうそう! 個人的にはそちらが怖い」
「拷問されちゃう?」と美空。
「なぜ、そういう私たちのプライベートなことを知ってる?」
「マリちゃん本人が結構しゃべってる」
「もう・・・」
 
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明日からゴールデンウィークという4月27日(金)の深夜。都内某駅前。近くに繁華街があるので、夜遅くというのに若い人の通行が絶えない。そこに突然
 
「こんばんはー! ローズ+リリーでーす」
という声が響く。
 
「え?」という感じでそちらを見る人が多数。しかしそこには紙で作った、ケイとマリの顔写真を印刷したお面を頭にかぶった、女の子2人(小春と博美)が立っていて、ひとりはアコスティックギターを首から提げている。ふたりのそばに白木の箱のようなものが置かれていて、その隣には小型のスピーカーもある。
 
そちらを見てしまった通行人から一瞬笑いが漏れるが、小春は
「それでは『影たちの夜』行きまーす」
と言ってギターを弾き始める。博美はそばにあった白木の箱に座って側面を打ち始めた。ドラムスのような音が出る。「ああ、カホンか」という声が通行人から漏れた。そして前奏が終わった所で・・・・
 
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通行人の中に紛れていた私は政子の手を握って合図し、帽子で隠したヘッドセットのマイクに向かって少し小さな声で『影たちの夜』を歌い始めた。
 
小春の案だった。
「1年前のクリスマスの時、冬たちXANFUSと二人羽織したじゃん。あれやろうよ」
 
ということでギターとカホンで演奏しているのは小春と博美なのだが、歌は口パクで、実際に歌っているのは、私とマリなのである。
 
聴衆は、まがい物と思ったら意外に歌がうまいので、へー!という感じで見てくれている雰囲気である。1曲終わった所で拍手が来る。
 
「ありがとうございます。次は『神様お願い』」
と言って2曲目を歌い出す。
 
政子は1曲目終了で拍手が来たことで、何だかとても嬉しそうにしていた。私と政子は実は震災の後、東北でかなりの数のゲリラライブをしてたのだが、だいたい小さな町とか、都市でも周辺部とかでばかりしていたので聴衆は30〜40人くらいということが多かった。ここは深夜なのにあっという間に50〜60人を超えてしまった。さすが東京である。
 
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小春たちの演奏に合わせて、私たちは超ヒット曲『神様お願い』を歌う。聴衆が手拍子を打ってくれる。聴衆がますます膨らみ始める。私はちょっとヤバいかなというのを感じ始めた。
 
歌が終わると拍手とともに歓声が上がる。観衆が興奮している。マリも隣で昂揚した顔をしている。気持ち良さそう!私も気持ちいいけど、マリにこういう感覚を体験させるのは大きい。
 
「ありがとうございます。この曲、みんなたくさんダウンロードしてくれたので、たくさん被災地に寄付することが出来ました」
と小春は私が言いたいことを代弁してくれる。
 
この曲の売上げは全額を岩手県・宮城県・福島県に寄付したのである。
 
「それでは次は『花模様』。この曲は実はフォアローゼズを飲みながら書いた曲なんです。歌う時も何か一杯やりながら歌いたいですね」
などと小春のMCは好調だ。
 
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小春のギターと博美のカホンの前奏が始まる。そして私たちが歌い始める。聴衆はどうも100人を超えた感じ。そろそろ限界かなというのを感じ始めた時、向こうから警官が2人来るのに気付く。あーあ。
 
警官は小春たちに近寄り、何か言おうとしたが、聞こえてくる曲を聴いて、その動作を停めてしまった。顔を見合わせて曲をそのまま聴いている感じである。
 
そして警官が来てから2分ほどして演奏が終了。拍手がわき上がった所で警官は「ちょっと君たち」と声を掛ける。
 
「はい」
「道路使用許可は取ってる?」
「あ、済みません。取ってません」
「じゃ、ここで演奏はできないよ」
「ごめんなさい。退散します。聴いてくださったみなさん、ありがとうございました!」
 
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聴衆から暖かい拍手が来た。小春はギターをギターケースに入れ、博美もスピーカー(約1kg)をバッグに入れて肩に掛け、カホン(約3kg)もケースに入れて手に持ち、駅の方に向かう。警官がふたりに何か言ったようだった。
 
政子は物凄く満足そうな顔をしていた。私は政子の唇にキスをしてからふたりの後を追った。カホンは私が持つ。
 
「ありがとう。結構楽しめた」と私。
「ううん。こちらも面白かったよ」
と言いながら、小春は頭の上に乗っけていたお面を取る。
「せっかく練習した『恋座流星群』まで演奏できなかったのは残念だけどね」
 
ふたりはこのパフォーマンスのために、二週間近く一所懸命練習してくれたのである。
 
「警官が最後に何か言ってたけど、何言われたの?」
「お疲れ様。君たちうまいね、だって」
「へー」
「警察も仕事だから止めさせるけど、結構優しいんだね」
「たぶんあまり繰り返してると誓約書とか書かされるのかも」
 
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「でも道路使用許可って、申請すれば取れるもの?」
「まず無理」
「じゃゲリラでやるしか無いのか」
「そうなっちゃうね」
 

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翌日。私と政子は東京近郊の遊園地に来ていた。ここでアニメ番組「エンジェル・リリー」のイベントが行われるのである。そのテーマ曲を歌っている関係で、私たちとAYA、それに伴奏のスターキッズのメンバーがこの遊園地に集まった。
 
イベントはアニメキャラのかぶり物をした俳優さんたちが、ミニ劇を繰り広げるのだが、その劇の幕間に、私たちは出て行き、このゴールデンウィークのイベントのために作った曲「Angle R-Ondo」を初披露した。
 
この曲は「ロンド形式の音頭」である。
 
ロンド形式なので、Aメロ、Bメロ、Aメロ、Cメロ、Aメロ、Bメロ、Aメロ、という形で作られていて、そのAメロ自体が音頭の様式で作られている。
 
最初のAメロはAYAが「音頭取り」になって「はぁ〜、エンジェル可愛いや」
などと歌い出す。そしてそれに、私とマリ、宝珠さんの3人で唱和していく。
 
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Bメロはみんなで一緒に歌う。歌い方自体をAメロとは変える感じだ。
 
Bメロが終わると今度は私が音頭取りになって先にAメロを歌い、それにAYA,マリ,宝珠さんが唱和する。
 
こんな感じで、3回目のAメロは宝珠さんが音頭を取り、最後のAメロはマリが音頭を取って歌った。
 
覚えやすいメロディーなので、2回目からは一緒に歌い出す子供たちがいて、4回目の頃はかなりの子供たちが一緒に歌ってくれた。
 
その後、今度は『天使に逢えたら』の4ボーカル版を歌って、私たちは下がった。
 

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「なんか楽しい音頭ですね。このまま盆踊りに使いたいくらい」
と◇◇テレビの諸橋さんが言う。
 
「この曲全曲演奏すると30分くらい掛かりますから、たくさん踊れますよ」
「えー!?」
 
「歴代のエンジェル30人分の歌詞をマリが張り切って書きましたから。今日披露したのは今年出てきた4人のエンジェルの分ですけどね」
 
「ひゃー。これぜひCD出しましょう。ゴールデンウィークだけの限定はもったいないです」
「いいですね。せっかく書いたし」
 
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夏の日の想い出・3年生の春(2)

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